うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第41話

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 立ち上がって、尻についた汚れを払いのけると、はぁと深く息を吐き出した。
 仕方がない、反省文書くか……と諦めて、俺は守衛宿舎に向かうことにした。

「先帰れよ、反省文書きに行ってくる」

 どうせ、お前みたいなカッコイイ芸当は俺には無理ですよ。ばぁか、ばぁか。と、心の中で八つ当たりです。

 ちょっと調子に乗った。
 手を差し出されて、舞い上がった。
 やる気になれば出来ると信じてみたけど、現実はそんなに甘くないよな。頑張っても無理なことだってあるよね。
 打ち付けた場所を押さえながら、唯一の取り柄の運動能力さえ発揮できない自分にげんなりする。
 なんか、無様だよな。
 好きなヤツの前でくらいカッコイイ自分でいたいのに、空回りばかりするのは何故でしょう。
 俺だって男なので、見栄の一つぐらい、張りたいわけだよ。
 まぁ、久賀相手じゃ無意味だけどな。

「……ったく、世話が焼ける」

 やれやれってカンジの声音と、スタトンという軽やかな音が背後から聞こえてきて振り返った。
 あきれた顔の久賀を見て、なんで?と疑問を抱く。

 飛び降りたの?
 なんで?

 すたすたと早歩きで近づいてきた相手に付いて来いと目で示された。

 いや、なんで?
 俺なんか放って帰るのが、お前だろ?
 やっぱりこれは夢……じゃないのは、ケツの痛みが証明する。が、どうにも、調子が狂います。

 宿舎とは違う方へ向かう背中を、数秒凝視した。
 立ち止まらなくて、振り返らなくて、夢でも現実でもそこはおんなじで、だけど、夢と違って爽やかに笑ったりしない。

 冷たい。
 あたたかい。
 優しい。
 残酷。
 どれが本当。
 誰が本物?

『絶対に、追いついてやる』

 夢の中で叫んだセリフが蘇り、冷たい背中を追って駆け出した。
 夢だろうが現実だろうが、俺は久賀の背中を追いかけてる。
 バカみたいにひたすらに、振り返らない背中を追いかけていた。


「なぁ。宿舎は向こうだぞ」

「知ってる」

「じゃぁ、どこに向かってんの?」

「別棟2。物置部屋」

「は?別棟。ちょっ、校舎内に侵入する気か?無理だろ」

 なに考えてるの。捕まりたいのか?
 普通に反省文書けば良いじゃんっ。
 出来れば書きたくないけどさ……。

 頭上に?マークを浮かべる俺がうざかったのか、面倒くさそうに久賀が唇を開く。

「あのね、オガミン。今日は日が悪い」

「は?」

「反省文なんざ、ぶっちゃけ守衛の心一つでさ、気の良いヒトなら“おめこぼし”も期待できるが、今日の担当は“補習”がおまけでついてくるんだよね」

「補習?それは鬼補修のことか……鬼補修のことかぁぁぁ!」

 動揺した俺は、DBの孫さん口調で怒りを表現してみたりとか、みなかったりとか。意味がわからなかったらしく、久賀には思いっきり変な顔をされた。

 あー。うん、使い方を間違った自覚はある。
 ファンのみなさんにはゴメンナサイ。
 あと、オガミン言うな。


 呆れた様子の久賀に「やっぱりお前、なんか悪いものでも食ったんじゃないの?」と言われて「誰かさんが予想外の動きをする所為ですよーだ」と舌を出すと「意味が分かりません」と返された。

 分からないだろうな。

 好きなヤツに優しくされて、浮かれてんだよ。わかんないだろうな。
 どうせまた、傷つくだけだって分かってんのに、浮かれてんだよ。わかんないでしょーよ。

「なぁ、なんで先に帰らなかったんだ?」

 ばか。なに聞いちゃってんだよ俺っ。
 傷つく答えが待ってるだけなのにさ……。

「そりゃぁ……あれだ。家に送るまでがお仕事ですよ、お客さん」

 あー。ですよね。
 やっぱり余計な質問なんかしなきゃ良かった。

 後悔している間に、別棟についた。
 久賀は躊躇無く建物の方に近づき……ガラッと窓をスライドさせた。

 戸締まり……どうなのそれ。責任者誰だよ?

 叫ぶ間もなく、久賀さんは窓から廊下へ進入した。
 土足で。そっちは流石に声をあげましたさ、ええ。

「ちょっま!く、久賀っ。なにする気だっ」

「不法侵入」

 不法だとは分かっていらっしゃったらしい。が、平然としすぎて俺の方が死ぬ。平凡男子のキャパじゃ死ぬ。

「捕まるっ。捕まるってば!警備のヒト来ちゃうよ!」

「大丈夫だろ。この階、防犯システムねぇから」

 防犯っっっ!しっかりしろよ、フツーはブザーとかなって、警備が駆けつけるとかそんな展開だろう。
 いや、待て、そもそも、何でそんな内部事情に詳しいの久賀くんってば。ちょっと怖いんだけど?

 久賀はすたすたと階段下のドアまで歩いて行って中に入り(そんな所に部屋があったことすら、俺は知らなかった)脚立を抱えて戻ってきた。
 
 窓から脚立を外へと出して、久賀も出て来て、窓を閉めたらおしまい。

 ほら行くぞ、と脚立を押し付けられました。ほんと待ってください。色々と信じがたい事が数秒の間に起きて、俺の脳みそが現実に追い付けないから。
 平然と歩き出した背中を、慌てて追いかける。

「何で鍵が開いてるって知ってんだよ」

「鍵壊れてんの、あの窓。内側から見ると施錠されてるように見えるけど、ちょっとしたコツで開いちゃうんですよねー」

「こ、この学校、防犯大丈夫なのか」

 小心者の俺はビビってちらちら背後を振り返りながら歩いた。隣を歩く久賀は平然と「大丈夫でしょ。ホントに大事な場所には、堅牢な守りを築くものですから」なんて言って笑った。
 屋根から飛び降りる男の思考は、俺には理解できません。

 それから、ひたすら真っ直ぐに進んで、突き当たった壁に脚立を立てかけた。
 次は落ちるなよ、とイヤミを残して久賀がすいすいと脚立を登っていく。
 脚立は十分な高さだったので、ぐらついて倒れないように注意しながら、俺も久賀に続いた。

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