うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第42話

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 上まで登りきると、久賀が脚立が揺れないように押さえてくれていた事が分かって、単純に嬉しくなった。

 うっかり寝てしまった時に見捨てて帰れたはず。

 さっき木から滑った時もわざわざ降りてきてくれて、今だって俺が登るまで待っていてくれて……どうしよう。
 理由はもう聞いたのに。
『お仕事だから』が正解なのに、それ以外の答えを切望している自分がいる。

 ちょっとでも、カケラくらいでも良いよ。
 ほんの少しだけでいいから、俺のことを……。

「おぃ。ぼけっとしてないで手伝って」

 久賀に言われてはっとする。
 一瞬、トリップしてました。
 久賀が側にいると、意識がもってかれる回数が確実に多いぞ。
 つか、妄想の扉を開きすぎだ俺、自重しろ。

「えっと、何をするの?」

「見てわかれ。脚立引っ張り上げて今度は下り階段にするんだよ」

 登ったのだから降りなきゃいけない。そりゃそうだ。「飛び降りたら?」なんて、間抜けな質問をして呆れられた。

「あのさ、当然俺はコレくらいの高さなら何とかなりますが、お前は無理でしょ」

「むっかぁ、バカにすんな。飛び降りるのは重力が味方だから余裕だ」

「怪我されたら面倒だからマジで止めて。お前を背負って帰る自信はない。重い」

 このひょろ男め。
 俺は気絶したお前を運んでやったのに!
 保健室行きだったが、途中下車されたけどな。
 そもそも、何で重いって決めつけるっ。

「ヒトを太ってるみたいに言うな。普通なの俺はっ。つか、平均よりも軽い方なの!」

「まじか。高校男子の平均体重侮り難し。腹に馬乗りされたときは、骨が折れるかと思いましたが」

 う、うううまのりぃぃいいぃ?何のハナシ……って、携帯奪い合った時の事か。
 それって馬乗りの所為ってゆーかお前が無理な体勢でキスしてきたからじゃね?

(っ……しまった思い出しちまった)

 連鎖して、アレとかコレとかソレの感覚も蘇り、顔が熱くなった。
「ボケてないで早く降りて」と、久賀に指示されるまでぼけっとしてた。

 地に足がついた後、脚立は引き上げられ雑な扱いで学校の敷地内に落とされる。
 ガシャンと音がなった後に、久賀が地面に着地する軽やかな音が続いた。
 うーん、憎らしいくらいに格好いい。

 俺のボキャブラリーが乏しすぎて、久賀龍二という男のカッコ良さは半分も伝わらない。が、同時に最低さも六割くらいしか伝わらないから、そこそこバランスはとれているので良しとしよう。

 ほら帰るぞ、と顔や目の動きだけで話す所も良いな。

 嫌いなところなんて……無いと言えば嘘だが、明らかに好きの数が上回る。ドキドキはいつもうるさいくらい。
 だけど、友情を演じなきゃ。側にいたければ友人のフリをしなきゃ。

 俺に出来るかな。

 そんな不安を抱えながら、好きなヤツと一緒に帰路へつく。

 まさか、ガチで家まで送ってくれるとは思わなかったので、心は舞い上がったが、ビジネスだからと自分の気持ちを必死に宥めた。

 玄関前。また明日と言おうとして、バイト代を払っていないことに気づき財布を探して……カバンを学校に置き忘れたことに愕然となった。財布ももちろんカバンの中だ。

「ご、ごめん久賀っ。金は明日で良い?」

「は?何の金」

「バイト代。財布、鞄ごと学校に置いてきた」

 恥ずかしさに俯き加減。
 無言攻撃が胸に痛いです。
 くるりと向きを変え。何もいわずに久賀が歩き出した。その背中に、思いっきり叫ぶ。

「ご、ごめんな久賀!!送ってくれてありがとー」

 精一杯だ。力の限りのごめんなさいとありがとう。

「夜にでかい声だすなよ」

 顔だけ半分振り返り、呆れた声音で言って、久賀は後ろ手に手を振った。

「初回サービスにしてやる、じゃぁな」

 ひらひら手を振って、歩いていく姿を見つめた。
 夢で見たシーンを彷彿とさせて懲りもせずに再び叫んだ。

「ちゃんと家帰って寝ろよー!また明日、学校でな!おやすみぃぃ」

 近所迷惑この上ない。
 久賀は振り返りもせず、ただ手を振るだけで何もこたえてはくれなかったけど、俺の心は喜びと痛みで一杯だった。


 またあしたな、久賀。

 小さく呟いて、久賀の背中を見送った。角を曲がって姿が見えなくなるまで見送った。


 走ろう。お前に追いつくまで。
 走ろう。

 ぐっと拳をつくり、一人静かに決意を胸にする。

 傷ついて悲しくて、立ちすくんで泣いたとしても、アイツをひとりぼっちにしている方がずっとツライ。

 愛されないことが、愛せない理由にはならない。
 そんなの関係ない。
 俺が、どうしようもなくアイツを好きで、俺が身勝手に願ってる。それだけだ。
 だから、勝手に努力して、アイツの側までひたすら走ろう。

「輝くん何を騒いでいるの」

 ご近所さんに迷惑でしょ、と母親が玄関のドアを開けるまで、俺は好きな人が去っていった方向を見つめ続けたのだった。

 
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