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第43話
しおりを挟む今日、人生ではじめて誰よりも早く学校に登校した。
昨日置き忘れたカバン(の中に入れっぱの財布)が気になった事も理由の一つだけど『教室に鞄だけ置いて昨日丸一日、授業をサボった不真面目くんを今日は絶対に捕縛したい』が一番の理由だった。
徐々に登校してくるクラスメイトたちにギラギラした視線を向けながら、朝の挨拶を交わす。
この数日、久賀を待ちわびてハラハラそわそわしていた事を知っている友人たちは、明るく笑って励ましの言葉をくれたりなんかする。
「よぉ、尾上……今日も燃えてるな」
「ありがと!俺は勝つよ!」
「ぶはっ!いつからバトルになったんだよ」
「なになに、おーがみん。まだ久賀ちゃんとやり合ってんの?お前らホント仲イイネ。大山が嫉妬して泣くんじゃね?」
「そうそう、久賀とばっか仲良くしてないで、たまには俺も構ってちょっ、だぁりん」
「うっせぇ、ほっとけ。あとオガミン言うな。ついでに、突然湧いて現れた大山。激しくウザイから引っ込んでろや、はにぃ」
「反抗期かしら。最近息子が冷たいわっ」
しなっと隣の男子生徒に寄りかかり、ううっと泣き真似をする大山。
周りがふざけて「奥さん俺の胸で泣けよ」「ああっ。だ、ダメよ。旦那が帰ってくるわ」なんて、昼ドラバリバリの不倫ごっこが始まった。
見えない場所でやってくれよ。つか、配役がコロコロ変わりすぎだっての統一しやがれ。
「はぁはぁ奥さん。ええ尻してまんにゃぁ」
「あ~れぇ~っ。お止めになってお代官さまぁ」
時代も統一しようか。
きゃぁきゃあ笑いながら、大山たちは教室内を駆け回る。周りの生徒もけらけら笑っている。
クラスの連中は、比較的ノリが良くて仲が良い方だ。
「うひゃははははっ!高浜っ!降参、降参っ……とっ」
あーあ、まわり見ねぇで騒いでるから、ヒトにぶつかるんだよ。
大山は、教室に入ってきた生徒とぶつかって…………久賀じゃん!
俺は入り口に視線を向けたまま、がたりっ!とイスを鳴らして立ち上がった。
(良かった、ちゃんと学校来た。あ、顔色も昨日よりマシだ。良かった)
無意識に、安堵の息が漏れた。
「何騒いでるの?大山」
ぶつかった時にバランスを崩した大山の肩を支えながら、久賀がゆるりと笑う。
それを向けられた大山がちょっぴり羨ましくて、心のなかで「ずりぃぞ大山」と少しだけ腹をたててみたり。
朝から俺はダメダメです。
大山、怪我してない?と笑う久賀に、何時もと変わった様子はない。
それどころか、笑顔が眩しすぎませんかね。
キラキラ輝いて見えるのは、俺の目が腐っているからだ。たぶん、おそらく、そうに違いない。
直視できずに、そろりと視線をはずしてみた。落ち着け、と心の中で繰り返す。
落ち着け、俺。アレは演技です。
ヤツはうそつきで最低な下半身男です。
にっこり嘘つき笑顔を崩すのが当面の目標だろ?惑わされるな!
ふぅと、息を吐き出して、そろっと視線をもどして……ああ……無理だ、これ。
無理無茶無謀だと、強敵を前に俺の心は早くも折れそうだ。
あれと、あのキラキラしてるイキモノとどうやって戦えというのでしょう?
俺は無謀な決意をしました。と、ターゲットと対峙する前から、白旗をあげて降参したくなりましたよ、ええ。
「おおうっ。久しぶりっ!寂しかったわ“らまん”」
ひしっと大山が久賀に抱きついて、ノリの良い生徒たちから歓声があがった。
黄色い悲鳴と、囃す声。
いいぞー!
もっとやれー!
お二人とも末永くお幸せにっー!
わいわいと明るく騒ぐ生徒の中で、俺はひとり複雑な気持ちになる。俺が犬なら、御主人サマに触るなと吠えまくって、まわりを威嚇したかもしんない。
犬扱いなんて冗談じゃないけど、頭の片隅でもそんな事を考えた俺は、たぶんもういろんな意味でおわってる。
「愛人?なに、大山クンは愛人志願者なの?」
するりと、大山の腰にまわされる腕。
緩く開いた唇と、甘くとろける声音。
演技だ。演技っ。騙されるな………って、うわっ!!大山がタコみたいに赤くなってる!!
ちょっ!
久賀の毒牙に友だちがやられそうです!
「お望み通り愛してあげようか?」
囁きのような声音に、シンと一瞬で教室は静寂に支配された。
生唾を飲み込む音が、ヤケに大きく、しかも至る所から聞こえてくる。
変な話だが、恋人との初エッチに勝る緊張感が漂っていた、いやマジで。
後日談だが、大山は「彼女とチューする時より胸が高鳴った」とこっそり教えてくれた。
久賀龍二のフェロモン、恐るべし。
「……あのさ、なんか反応返してくれないと、ガチムチホモ展開に突き進むしか選択肢がなくなるんだけど、誰か止めて?」
お願いっと精一杯かぁいく首を傾げて久賀がへらりと表情を崩し、次の瞬間、どっ!と教室中がわいた。
あははは!と、みんなが腹を押さえて、バシバシと机を叩いたり足を踏み鳴らして騒いだ。
「ちょ!久賀さん、エロすぎ!!視線で妊娠するっ」
「ぎゃはははは!このエロ男!!マジな口調やめろし。変な汗かいたわ!」
「いやだな、俺の本気はこんなもんじゃないよ?」
「どんだけぇ!お前はエロ星の王子かぁぁ」
バシバシと男子生徒に肩を叩かれて「やめれ」と久賀が逃げる。
あー、楽しそうだね。
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