うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第44話

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 明るくて、口調も穏やかで、笑顔も楽しそうで……それが全部、作り物のソトヅラだなんて、一体誰が信じてくれるんだろう。
 俺だって、全部夢だったんじゃないの?なんて思う時がある。

 すとんと椅子に腰を下ろし、机に肘をついて掌で顎を支えた。

 視線を久賀に向け、本当の感情を読み取れはしないかと、注意深く観察する。
 仕草も口調も小さな表情のひとつさえも、見落としてなるものかと凝視した。

「うー……アイツの色気は公害レベルだ。危うくヒトの尊厳を投げ捨てるところだった」

 高1であのエロ度は反則だ。と、身近でフェロモン被害にあった大山が、シャツの胸元をつまんでパタパタさせながら側にやってきた事にも気づかないくらい、じっと久賀を見ていた。

「暑い暑い。も11月なのに異常気象だよなー」

 久賀は昨日の不機嫌さなんて微塵も見せやしない。
 
 久賀を中心に男子たちが騒いでいて、彼らは当然のようにクラス中の注目を集めている。クラスのヤツらはクスクス笑ったり、指を差して騒いだり、フザケて囃したり、みんなニコニコ楽しそう。

「無視されると大山くん悲しくて泣いちゃうよー?もしもーし?聞こえてますかぃ、尾上くん」

 楽しそうに笑う輪の中に、入っていくことは出来なかった。
 何にも知らない頃の俺なら、当たり前みたいに久賀の隣にいて、今アイツのまわりにいる奴らみたいに、呑気に笑っていられたのに。
 なんにも知らなければ、笑っていられた。
 だけど、知ってしまったから、今はちょっと難しい。

(俺、アイツを追いかけるって決めたけど……出来るのか?)

「おーい、無視しないで尾上くーん…………あれれ、ガン無視ですよ、しょぼーん。ところでさ、何だか目が真剣すぎませんかぃ?輝ちゃん。見すぎ見すぎ、久賀に穴が空いちゃう」

 くっそー……やるまえから何弱気になってんだよ、俺。
 まだ、なんの努力もしていない。
 
「おーい久賀」

 誰かが騒いでいる男子たちの方に向けて声を上げ、騒ぎの中心にいる久賀を呼んだ。
 輪の中から逃げ出して来た久賀が、こっちに近づいてきてケラケラ笑う。

 ばくん、と心臓が跳ねた。

「あのさ、俺はいつの間に人妻と不倫駆け落ちした事になってんの?大山くん」

 勘弁してよなんて言葉とは裏腹に、実に楽しそうだ。
 その顔を見上げながら、思考は静止する。
 嘘の表情を張り付ける、美しい造形をただ凝視する。
 そうして、ああ、好きだなぁ、などと、どうしようもないことを思ったりするのだ。
 
「次はアイドルとデキちゃったって噂にしとくぜ」

「年上が好きだから、熟女な女優にして」

 気分を害した風でもなく、久賀は笑った。
 ストンと椅子に腰を下ろす相手の背中で、ひとつに縛った髪の毛がさらりと揺れた。

「椅子をあたためておきやしたぜ、旦那ぁ。さてと、いーかげん戻ってこいよー、尾上」

「いてっ」

 頭をぱしんと叩かれてようやく、大山の存在に気づいた。

 久賀に埋め尽くされていた視界は、リアルに戻ってくる。
 教室でトリップとか、マジで俺の脳みそは終わっている。とろけすぎの頭にげんなりした。

 突然なんだよ。つか、いつからいたよ?と問いかけながら大山を見上げたら、俺の友人は、実に腹立たしくニヤニヤ笑っていやがった。

「尾上って子犬は子犬でも頭に健気がつくワンコだったのねぇ~」

 なに、そのムカつく口調。
 大山クン、喧嘩売ってんの?

「ちょっと聞いてよ久賀さん。輝ちゃんってば、誰かさんがガッコーに来ない間、そりゃぁ落ちるに落ちて、見てられなかったのよん」

「おおおおおやまぁぁ!!!」

 何をおっしゃりやがりますかぁぁぁー!!と、言葉にならない悲鳴を上げた。
 友人思いな大山のありがた迷惑お節介から発せられたお言葉に、ノリが良い男子たちが乗っかってくる。

 だよだよ。とか、ホント仲良いよな。とか、メールくらいしてやれよ久賀。とか、もう捨て犬っぽくて可哀想で可哀想でぶふっ。とか、マジでお前ら心配してんの?
 お前ら全員をとことんまで問い詰めたい思いで一杯です。ってゆーか誰だよ吹き出したヤツ。絶対楽しんでるよなこのやろー。後で体育館裏集合しろよ!犬扱いしやがって、そんなにゆーなら噛みついてやるからな!がるるるるっ。

「へぇ……そーなの」

 ちらりと向けられた視線が、なぜだかすごく怖いです。
 そんな風にカンジたのは一瞬だった。
 久賀はにっこり笑顔で「ごめんね。スマホの調子が悪かったの、許してん」なんてフザケ口調で嘘を吐き出した。
 ああ、なんか、距離が、ちっとも、うまらない。
 むしろ、一秒ごとに離れている気さえする。
 昨日よりは確実に遠い。

(昨日、一緒に帰ったのは、夢じゃないよな)

 屋根から飛んだのも、キスも、並んで寝ちゃった事や校舎に侵入したことや、塀の上から手を差し伸べてくれた事も、共犯になったことも、俺の勝手な妄想じゃないよな?
 確かめたい、だけど、確かめることなんて出来ない。

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