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第45話
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久賀は始業のベルが鳴るまで、まわりに集まってくるクラスメイトたちと楽しそうに談笑していた。
いつもより笑顔が2割り増しです。気のせいではなく。
普段は話しかけないような地味なヤツまで誘惑(にしか見えないのは俺の目が腐って、以下略)して、笑顔のバーゲンセール状態。
なに、これ?と首を傾げずにはいられない。
俺が入り込む隙間なんて、一ミリもなかった。
たった、斜め一個前の距離が、別世界のように遠い。
気の良いヤツらが「ほら、尾上も加われ」「ひとり安全地帯に逃げるとか許さん」なんて言いながら肩に手を回してきて、騒ぎの輪の中に入ったけれど、ちっとも気持ちが追いつかなかった。
だって明らかにおかしいだろ。
確かに久賀は冗談をいうし、軽いし、明るく笑うけど、いつもはここまで積極的じゃないよな?
女の子が相手ならわからなくもないが、誰彼かまわずのサービス精神旺盛なヤツではない。
群がる生徒たちはなんだかまるで……バリケードみたいだ。
(考え……すぎ)
胸の中にずっしりと居座り続ける違和感を知らんぷりして、目を背けて、必死に口角を上げ、笑顔をつくる。
いつもなら、話題を振ってくれるのに今日はソレがないな、とか、俺をからかって「おーがみん」なんて変な呼び方を今日はしないな、とか、視線が……ちっとも合わない。
話しかけたら笑ってくれるけど、笑顔が偽物にしか見えなくて、ああ、やっぱこれって……と気持ちが落ち込んで、いやいや、と無理矢理自分に言い聞かせる。
気のせいだ。気のせい。自意識過剰……じゃなくて、被害妄想、激し過ぎ。
一限目が始まるまでがとても長くカンジて、始業のベルが鳴る頃には、無理矢理つくっていた笑顔の所為で頬が痛かった。
「なぁ、久賀。後でハナシがあるんだけど」
皆が席に戻っていく中、こっそりと久賀にだけ話しかけたら、綺麗過ぎる笑顔のまま「んー?」と首を傾げて返された。
ゆるりと唇が開いて、優しい声音が、こぼれる。
「授業、始まるよ」
それだけ言って久賀が顔を逸らした。
視線は合わない。
綺麗な笑顔は少しも揺るがない。
なんだが、心がざわざわしたまま「後で時間くれよ」と言ったけど、曖昧に笑って「先生来たよ」と返された。
「約束な!」
一方的に言い切って席に戻った。
久賀は結局返事なんかくれなかった。
やっぱり距離が開いてる?
一限目の教科書を机の上に並べながら、際限なく落ちていく気持ちを切り替えようと、大きく息を吐いた。
くっそー。こんなことで挫けてなるものかっ。
ぎりっと奥歯を噛み締めて、斜め前の背中にじっと視線を注いだ。
決意はことごとく挫かれる。
一限が終わった後の休み時間も、朝と似たような状態になった。
次の休み時間も、その次も……。
この野郎、いい加減にしやがれ。
そんなに俺と話すのが嫌なわけ?と、怒りが頂点に到達したのは四限目の授業での事だ。
美術の時間だった。二人組になって今日からお互いをモデルに肖像画を描きましょう。なんて、実に面倒くさい課題だが、久賀と話すチャンスじゃん!と俺は浮かれました。ええ、バカみたいに、心臓をバクバクさせながら久賀に突撃をかましました。
こんな時はね、大抵久賀さんと組んでいた訳ですよ。
体育の授業を始め、アレコレと。
「久賀、組もうぜ」「いいよ」てな流れで、思えば久賀から誘われた事なんてないのですが……こんなの誘った者勝ち、声かけた者勝ちだろ。
「久賀一緒に」
「あああののの、りゅ龍二君!僕と組んでっ」
先を越されるとか、どういう事でしょうか。俺さ、たらたらなんてしてなかったよ?とゆーか、今のは割り込みではないでしょうか?
「いいよ」
久賀は、にっこりスマイル。おぃ待てやこら。
「ちょ、久賀」
「向こうに座ろうか、安田君」
久賀は割り込み男子と二人で、場所移動。
ぽつねんと残された俺。宙に浮かせた手が虚しい。
ちょっ……ガン無視とか酷くないですか久賀さんよぉ!
泣くぞ、マジ泣きするぞ。やっぱ気のせいじゃなくて、避けられてんじゃん!
「あららん。振られちったのねオガミン」
ひょいっと人の肩に顎を乗せてきた大山が「安田くんの勇気ある積極性に“意外ですねポイント”1ゲッツ」と言いながら、久賀と安田を見る。
安田はクラスでも地味な方で、休み時間はひたすら読書をしている。
大人しくて存在感が薄くて、成績が飛び抜けて良いわけでも、運動が得意なわけでもない。
オールマイティーな久賀とは対照的だ。ちっとも交わる部分なんか無くて、二人が会話をしているところを見るのもはじめてだった。
「リュージくん、安田と組むの?ずるぅーい」
私もリュージくんと組みたいな、なんて、女生徒が甘えた声を出した。
私も久賀クンがいいな。と、別の女子。
じゃ、俺も。俺も、俺もと手を挙げてノリ良く乗っかる男子が数名。
「……俺も久賀と組みたい」
多分ね、フザケてる男子たちとは違って、俺だけマジな声音だったよ。
久賀には聞こえなかったみたいだけど。でも、きっと聞こえていても、頷いてはくれなかっただろうな。
いつもより笑顔が2割り増しです。気のせいではなく。
普段は話しかけないような地味なヤツまで誘惑(にしか見えないのは俺の目が腐って、以下略)して、笑顔のバーゲンセール状態。
なに、これ?と首を傾げずにはいられない。
俺が入り込む隙間なんて、一ミリもなかった。
たった、斜め一個前の距離が、別世界のように遠い。
気の良いヤツらが「ほら、尾上も加われ」「ひとり安全地帯に逃げるとか許さん」なんて言いながら肩に手を回してきて、騒ぎの輪の中に入ったけれど、ちっとも気持ちが追いつかなかった。
だって明らかにおかしいだろ。
確かに久賀は冗談をいうし、軽いし、明るく笑うけど、いつもはここまで積極的じゃないよな?
女の子が相手ならわからなくもないが、誰彼かまわずのサービス精神旺盛なヤツではない。
群がる生徒たちはなんだかまるで……バリケードみたいだ。
(考え……すぎ)
胸の中にずっしりと居座り続ける違和感を知らんぷりして、目を背けて、必死に口角を上げ、笑顔をつくる。
いつもなら、話題を振ってくれるのに今日はソレがないな、とか、俺をからかって「おーがみん」なんて変な呼び方を今日はしないな、とか、視線が……ちっとも合わない。
話しかけたら笑ってくれるけど、笑顔が偽物にしか見えなくて、ああ、やっぱこれって……と気持ちが落ち込んで、いやいや、と無理矢理自分に言い聞かせる。
気のせいだ。気のせい。自意識過剰……じゃなくて、被害妄想、激し過ぎ。
一限目が始まるまでがとても長くカンジて、始業のベルが鳴る頃には、無理矢理つくっていた笑顔の所為で頬が痛かった。
「なぁ、久賀。後でハナシがあるんだけど」
皆が席に戻っていく中、こっそりと久賀にだけ話しかけたら、綺麗過ぎる笑顔のまま「んー?」と首を傾げて返された。
ゆるりと唇が開いて、優しい声音が、こぼれる。
「授業、始まるよ」
それだけ言って久賀が顔を逸らした。
視線は合わない。
綺麗な笑顔は少しも揺るがない。
なんだが、心がざわざわしたまま「後で時間くれよ」と言ったけど、曖昧に笑って「先生来たよ」と返された。
「約束な!」
一方的に言い切って席に戻った。
久賀は結局返事なんかくれなかった。
やっぱり距離が開いてる?
一限目の教科書を机の上に並べながら、際限なく落ちていく気持ちを切り替えようと、大きく息を吐いた。
くっそー。こんなことで挫けてなるものかっ。
ぎりっと奥歯を噛み締めて、斜め前の背中にじっと視線を注いだ。
決意はことごとく挫かれる。
一限が終わった後の休み時間も、朝と似たような状態になった。
次の休み時間も、その次も……。
この野郎、いい加減にしやがれ。
そんなに俺と話すのが嫌なわけ?と、怒りが頂点に到達したのは四限目の授業での事だ。
美術の時間だった。二人組になって今日からお互いをモデルに肖像画を描きましょう。なんて、実に面倒くさい課題だが、久賀と話すチャンスじゃん!と俺は浮かれました。ええ、バカみたいに、心臓をバクバクさせながら久賀に突撃をかましました。
こんな時はね、大抵久賀さんと組んでいた訳ですよ。
体育の授業を始め、アレコレと。
「久賀、組もうぜ」「いいよ」てな流れで、思えば久賀から誘われた事なんてないのですが……こんなの誘った者勝ち、声かけた者勝ちだろ。
「久賀一緒に」
「あああののの、りゅ龍二君!僕と組んでっ」
先を越されるとか、どういう事でしょうか。俺さ、たらたらなんてしてなかったよ?とゆーか、今のは割り込みではないでしょうか?
「いいよ」
久賀は、にっこりスマイル。おぃ待てやこら。
「ちょ、久賀」
「向こうに座ろうか、安田君」
久賀は割り込み男子と二人で、場所移動。
ぽつねんと残された俺。宙に浮かせた手が虚しい。
ちょっ……ガン無視とか酷くないですか久賀さんよぉ!
泣くぞ、マジ泣きするぞ。やっぱ気のせいじゃなくて、避けられてんじゃん!
「あららん。振られちったのねオガミン」
ひょいっと人の肩に顎を乗せてきた大山が「安田くんの勇気ある積極性に“意外ですねポイント”1ゲッツ」と言いながら、久賀と安田を見る。
安田はクラスでも地味な方で、休み時間はひたすら読書をしている。
大人しくて存在感が薄くて、成績が飛び抜けて良いわけでも、運動が得意なわけでもない。
オールマイティーな久賀とは対照的だ。ちっとも交わる部分なんか無くて、二人が会話をしているところを見るのもはじめてだった。
「リュージくん、安田と組むの?ずるぅーい」
私もリュージくんと組みたいな、なんて、女生徒が甘えた声を出した。
私も久賀クンがいいな。と、別の女子。
じゃ、俺も。俺も、俺もと手を挙げてノリ良く乗っかる男子が数名。
「……俺も久賀と組みたい」
多分ね、フザケてる男子たちとは違って、俺だけマジな声音だったよ。
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