うそつきな友情(改訂版)

あきる

文字の大きさ
69 / 135

第53話

しおりを挟む
 非難めいた言葉を向けても、ケラケラと笑うだけの相手に、いっそ見捨てて帰ろうかな、と思った。思うだけで出来る訳ないんだけどな。

(あー……俺何やってんだろ)

 何一つ思い通りには動いてくれないし、本気で心配しても真面目に答えてはくれないのに、まだ、関わることを止められない。
 バカでも最低でも冷たくても言動オカシくても脳みそいっちゃってても、多分、コイツを見捨てるなんて無理。
 嫌いになるのも難しい。

「っと……ふぅ、ちょい休憩」

 数十メートルも進まぬ内に、久賀が壁にもたれて座り込んだ。
 そんな久賀を見下ろし、顔をしかめる。こんな状態で徒歩で家まで帰るなんて、明らかに無謀だよな。

「お前、やっぱ大丈夫じゃねぇーって」

「ん……そだな、ちょっと寝てから、帰ろうか……尾上、この近くに公園とかある?人気がなくて、寝られそうな……場所とか、さ」

 ないなら自販機にでも寄りかかろうか、と大きな息を吐き出して冗談を口にする。
 一言を発するのもつらそうだ。
 この近くにクリニックがあるならば、引きずってでも連れて行きたい所だが……。
 ま、仮にあっても舌噛むぞ発言しちゃうくらい拒否ってる相手を説得する自信はねぇですがね。

「お前、そんな状態なのに、外で寝るつもりかよ。バカじゃねぇの、そんなんダメに決まってんだろ」

 11月も後半にさしかかり、間もなく日も完全に落ちて、寒い夜がやってくる。
 大した防寒もしてない、そんな薄着で?何を考えている。死にたいのか。
 もし、死にたいの?と訊いて、そうだと返されたらどうしよう……。答えを聞くのが怖い、ダメだ止めておこう。

 プルプルと頭を振ると「だから、それが犬みたいなんだって」と久賀が機嫌良く笑う。

 体調悪くてヘロヘロな時の方が機嫌が良さげだとか、変なヤツ。
 椎名がコイツを自覚なしのマゾ呼ばわりしてたけど、あながち間違いでもないのかも。

「ははっ……心配性っつーか、ホントお節介だな。俺の事はいいから……お前はもう帰れよ、尾上」

 じゃぁね、と久賀はぱたぱた手を振った。
 壁にもたれて、そっと目を閉じる顔を見下ろした。

 少し震えているまぶたも、緩く開いた唇も、吐き出される熱を含んだ息も、少し歪めた眉も、ちっとも平気じゃないのに、カケラほども頼ってはくれない。

 椎名や西河原みたいに、強引に連れていく力は俺にはない。
 お前の友だちの"トモちゃん"や従兄弟の史彦くんみたいに、疲れを癒してやることも、励ますことも俺には出来ない。
 だって、俺は久賀に、信頼されていないから。
 心を、許されてないことくらい、十分わかってるよ。
 頼りないって思われてることくらい、とっくに知ってるよ。
 
 心配で、悲しくて、辛くて、どうにかしてやりたくて、助けたいと何度声をかけても、力になりたいと手を差し出しても、久賀は俺の手を取ったりしない。
 お前の助けなんて要らないよ、と言葉にしない代わりに、柔らかな笑みに乗せて語る。

 お前なんかに、何が出来るよ。

 屋根から飛んだ日に、久賀から言われたそれ。
 その答えを、いまも俺は出せないでいる。
 

 ホント、俺は何をしているんだろうな。
 
 バカだって言われても反論できない。
 反論なんて、しないさ。バカだって言われても、愚かだって貶されてもいい。お人好しだと思われたってかまわない。

「久賀、バイトしない?」

 緩やかに、まるでスローモーションのように、彼のまぶたが持ち上がるのを見ていた。
 理解できないと、変なヤツだとそう笑いたいなら笑えばいいよ。

「……バイト?」

「そ。バイト。するだろ」

 優しい言葉も案じる言葉も、コイツは必要ないってはねつける。どんな言葉も、ちっとも響かなくて、留めて置くことが出来ない。
 同じ場所に立ってはいても、ぜんぜん別の方向を見ている。

 隣に行こうとしても本当はまったく別の場所にヒトリで立っているコイツには、簡単に近づけたりしない。目をちょっと離したら、遠い場所にふらふらっと逃げていってしまう。

 いいよ。逃げたければ逃げればいい。追いかけるから。
 だけど好きだなんて言わないよ。
 恋だなんて、絶対に伝えたりしない。
 友情を演じて、ひたすらに愚かしく、トモダチを案じる俺でいるよ。

 取引がないと、ヒトを信用しない久賀。
 言葉なんて軽いものでいくら説得しても、語りかけても、心を開いてくれない。
 だから。

(同じ場所に、立つためだ)

 売春なんてクソだ。
 そう思うキモチは変わらないし、コイツのウリバイトを止めさせる事も諦めたりしない。
 だけど、俺だって共犯者だ。

 手を差し出した。
 見下ろす相手が、緩やかなに瞬く。
 呆然と見上げてくる瞳の奧に、うそつきな仮面がちょっとだけ外れて、ホントの感情が見えた気がした。

「俺がもう一回、お前を買うよ」

 それが間違いだと自覚した上で、俺は久賀に手を差し出した。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...