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第74話
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他人の振りをしようと、カニ歩きで何歩か離れたけれど、ばしんっと背中を叩かれて「ほら!前に行くぞ」と強制連行されました。
いやいや、あのね、大山くん。俺は後ろでひっそりと応援できるだけで十分なんですけど。
「遠すぎて誰が誰だかわかんねぇだろ!あの女子集団に混ぜてもらおう。ほら、クラスの女の子たちじゃん」
女子集団に混ぜて貰おうとか、お前どんだけ大胆なの。
「ちょっ、俺はいいから!お前ひとりでいけよ!」
「ばぁーか。応援なんざな、周りを巻き込んでなんぼですぜぃ!おっらっぁー!とつげきー!!」
大山に連れられて応援ゾーン最前線に。
周りをぐるぐると巻き込む大山の吸引力で、騒ぎ笑い歌い、ついでにクラス内、外の男子まで巻き込んで、即席応援団が結成された。
いや、なにこの状況。
「くがちゃぁぁん!素敵よぉぉん」
「愛してるわぁぁぁ!」
「だーきーしーめーてー!」
「お前の瞳にほーりんらぁぁぁぶ!」
と、情熱的で野太い、ヤローの声援が飛び交います。いや、なにこの状態、カオス。
負けじと女子もきゃぁきゃあ叫ぶ。
「だぁぁぁりぃぃいん!!輝いてるわよー」
と、人の肩をがっしり抑えて、隣の大山が声をあげた。
確かに距離が近くなったおかげで、細やかな攻防まで見て取る事が出来た。
真剣な横顔もハッキリわかる。
ああ、もう自棄だ!周りが騒いでるのに、ひとりだけ静かだとか、逆に浮く。
意を決し、腹にぐっと力を入れて声を出す。
「くがー!!」
頑張れ!
俺が、誰よりも応援してやるから、負けんじゃねぇぞ。
「いいぞーストライカー!おおっ!!うぉおぉお!!!ついにハットトリックー!久賀ちゃんなにものー!!!」
きゃぁぁと女子陣が抱き合ってぴょんぴょん飛んだ。
試合終了のホイッスルが鳴り響く。
4-1で試合は終了。
個人で三得点をあげた久賀は、救世主あつかいだ。
余談だが、申し分ない活躍を見せた久賀に、いっそサッカー部に入部してみては?と進めてみたが『いやいや、相手チームも故障や風邪でフルメンバーじゃなかったんだよ。運が良かっただけ』と殊勝な答えを返された。
チームメイトにガシガシと頭を弄られ、髪をくしゃくしゃにされながら、久賀がフィールドを走ってくる。
ふっと、視線が動いた。
今度は勘違いなんかじゃなくて、バッチリ目があった久賀さんが、ニッと不敵に笑い、パチッと完璧なウインク……つきの、投げkissをひとつ。
き、キザ野郎~……。
様になりすぎてるのが、何とも言えない。
久賀の過剰サービスに、きゃぁぁぁ!!と鼓膜を破壊しそうなくらいの悲鳴があがった。
主に女子から。
何故か、野太い声も混ざっていたけれど、深く追求してはいけない。
『このやろー!お前ばっかりモテやがって』
『ギブギブ。あ、尻尾はやめれー』
とか、たぶんそんなカンジの会話をしながら、そう離れていない場所を走っていく。
「うっしー!!俺たちもいくぜぇぇ!勝利を祝って監督どーあげだぁあ!!」
「「「おー!!」」」
「まて、意味が分からない」
突っ込んだけど、変な方向にテンションがあがった馬鹿たちは誰一人きいちゃいねぇ。
大山を先頭に走り出し、端から見たら暴徒化しちゃってるヤロー共が監督に襲いかかり、無理矢理胴上げ。
女子陣や選手たちも巻き込んで、お祭り騒ぎ。もはや誰にも止められない。
ホント、なんなのこれ。
ぽつねん、と、一人とり残された俺はただお祭り騒ぎを見守ることしか出来ません。
どうしたらいいの?と呆れていると、主犯である大山が、こっそり輪の中から抜け出し走ってきた。
「友よー!!受け取れ」
ひゅっと弧をかき宙を舞うペットボトル。
「あわわわっ!!あぶねーなぁ」
パシッと受け取ったモノはミネラルウォーターだ。
ビシッと親指立てた大山は、良い笑顔を浮かべて言った。
「激闘を終えた戦士に必要なのは水分だ」
意味不明。
くいくい、と指でグラウンドを指し示し、くるりと背を向けて騒ぎの中へ帰って行く友人。
ハテナ、ハテナ。
何ですか一体、と大山が指で示した方に視線を動かした。
ドキリッと心臓がはねた。
視線の先に、久賀がいた。
監督胴上げには参加しなかったらしい。
(ソトヅラは、品切れ閉店か?)
チームメイトとじゃれ合っていたときの、にこやかな表情はカケラも残っていなかった。
疲労だけを浮かべて、静かに息を吐き出している。
いくら運動神経が万能でも、試合に出突っ張りなんて運動量が半端ない。
ぎゅっとペットボトルを握りしめて、久賀の側に近づいた。
苦しいときも、悲しいときも、楽しいときも、寂しいときも、いつだって一番近くに在れたらと願っている。
「久賀」
名前を呼んだだけで、内側が乱れる。
名前を呼ばれたら、嵐が渦巻く。
心よ、揺らぐな。
声よ、震えるな。
最後の一秒まで、友情を演じさせて。
ただ、こいつの側にいるために、全力でうそをつこう。
「お疲れ。ほれ」
「ん。気ぃきくじゃん。ありがと」
(大山。感謝)
水のボトルを渡したら、仄かに微笑んでくれた。
ボトルにくっつく唇のカタチを目で追って、ドキドキしてしまった。
心臓、暴走するな。
ほっぺた、にやけるな。
自分に命令して、平静を保つ。
好きが、勝手に暴走しないように、トモダチの仮面をつける。
アホな会話なんかして、けらけらと笑いあって、ふざけあう。そんな日常を得るために、傷ついても走ったのだから。
そうして苦労の末手に入れた友人の座を、恋心の所為で失うくらいなら、うその友情を演じようと思った。
嘘をついてでも、側にいたいと思ってしまった。浅ましい欲深さだ。
「どうせなら、美女からの差し入れが良かったな」
なんて、ヒトの親切に砂をぶっかける無礼な男。しっかり、ボトルの水は飲み干して下さった後の、この暴言。
いったいどーゆーことでしょうかねぇ、このやろー。
「てめー。吐け!吐き出しやがれ、もっかいボトリングして大山に突っ返してやる」
「きたなっ。大山が可哀想すぎる。なに?これ、大山からの差し入れなの?」
「そーだよ。やっさしぃだろー。阿呆だけど」
「気ぃきくね。アホだけど」
二人並んで、胴上げされている監督を見る。
その中心で騒ぐアホが一匹。
いやいや、あのね、大山くん。俺は後ろでひっそりと応援できるだけで十分なんですけど。
「遠すぎて誰が誰だかわかんねぇだろ!あの女子集団に混ぜてもらおう。ほら、クラスの女の子たちじゃん」
女子集団に混ぜて貰おうとか、お前どんだけ大胆なの。
「ちょっ、俺はいいから!お前ひとりでいけよ!」
「ばぁーか。応援なんざな、周りを巻き込んでなんぼですぜぃ!おっらっぁー!とつげきー!!」
大山に連れられて応援ゾーン最前線に。
周りをぐるぐると巻き込む大山の吸引力で、騒ぎ笑い歌い、ついでにクラス内、外の男子まで巻き込んで、即席応援団が結成された。
いや、なにこの状況。
「くがちゃぁぁん!素敵よぉぉん」
「愛してるわぁぁぁ!」
「だーきーしーめーてー!」
「お前の瞳にほーりんらぁぁぁぶ!」
と、情熱的で野太い、ヤローの声援が飛び交います。いや、なにこの状態、カオス。
負けじと女子もきゃぁきゃあ叫ぶ。
「だぁぁぁりぃぃいん!!輝いてるわよー」
と、人の肩をがっしり抑えて、隣の大山が声をあげた。
確かに距離が近くなったおかげで、細やかな攻防まで見て取る事が出来た。
真剣な横顔もハッキリわかる。
ああ、もう自棄だ!周りが騒いでるのに、ひとりだけ静かだとか、逆に浮く。
意を決し、腹にぐっと力を入れて声を出す。
「くがー!!」
頑張れ!
俺が、誰よりも応援してやるから、負けんじゃねぇぞ。
「いいぞーストライカー!おおっ!!うぉおぉお!!!ついにハットトリックー!久賀ちゃんなにものー!!!」
きゃぁぁと女子陣が抱き合ってぴょんぴょん飛んだ。
試合終了のホイッスルが鳴り響く。
4-1で試合は終了。
個人で三得点をあげた久賀は、救世主あつかいだ。
余談だが、申し分ない活躍を見せた久賀に、いっそサッカー部に入部してみては?と進めてみたが『いやいや、相手チームも故障や風邪でフルメンバーじゃなかったんだよ。運が良かっただけ』と殊勝な答えを返された。
チームメイトにガシガシと頭を弄られ、髪をくしゃくしゃにされながら、久賀がフィールドを走ってくる。
ふっと、視線が動いた。
今度は勘違いなんかじゃなくて、バッチリ目があった久賀さんが、ニッと不敵に笑い、パチッと完璧なウインク……つきの、投げkissをひとつ。
き、キザ野郎~……。
様になりすぎてるのが、何とも言えない。
久賀の過剰サービスに、きゃぁぁぁ!!と鼓膜を破壊しそうなくらいの悲鳴があがった。
主に女子から。
何故か、野太い声も混ざっていたけれど、深く追求してはいけない。
『このやろー!お前ばっかりモテやがって』
『ギブギブ。あ、尻尾はやめれー』
とか、たぶんそんなカンジの会話をしながら、そう離れていない場所を走っていく。
「うっしー!!俺たちもいくぜぇぇ!勝利を祝って監督どーあげだぁあ!!」
「「「おー!!」」」
「まて、意味が分からない」
突っ込んだけど、変な方向にテンションがあがった馬鹿たちは誰一人きいちゃいねぇ。
大山を先頭に走り出し、端から見たら暴徒化しちゃってるヤロー共が監督に襲いかかり、無理矢理胴上げ。
女子陣や選手たちも巻き込んで、お祭り騒ぎ。もはや誰にも止められない。
ホント、なんなのこれ。
ぽつねん、と、一人とり残された俺はただお祭り騒ぎを見守ることしか出来ません。
どうしたらいいの?と呆れていると、主犯である大山が、こっそり輪の中から抜け出し走ってきた。
「友よー!!受け取れ」
ひゅっと弧をかき宙を舞うペットボトル。
「あわわわっ!!あぶねーなぁ」
パシッと受け取ったモノはミネラルウォーターだ。
ビシッと親指立てた大山は、良い笑顔を浮かべて言った。
「激闘を終えた戦士に必要なのは水分だ」
意味不明。
くいくい、と指でグラウンドを指し示し、くるりと背を向けて騒ぎの中へ帰って行く友人。
ハテナ、ハテナ。
何ですか一体、と大山が指で示した方に視線を動かした。
ドキリッと心臓がはねた。
視線の先に、久賀がいた。
監督胴上げには参加しなかったらしい。
(ソトヅラは、品切れ閉店か?)
チームメイトとじゃれ合っていたときの、にこやかな表情はカケラも残っていなかった。
疲労だけを浮かべて、静かに息を吐き出している。
いくら運動神経が万能でも、試合に出突っ張りなんて運動量が半端ない。
ぎゅっとペットボトルを握りしめて、久賀の側に近づいた。
苦しいときも、悲しいときも、楽しいときも、寂しいときも、いつだって一番近くに在れたらと願っている。
「久賀」
名前を呼んだだけで、内側が乱れる。
名前を呼ばれたら、嵐が渦巻く。
心よ、揺らぐな。
声よ、震えるな。
最後の一秒まで、友情を演じさせて。
ただ、こいつの側にいるために、全力でうそをつこう。
「お疲れ。ほれ」
「ん。気ぃきくじゃん。ありがと」
(大山。感謝)
水のボトルを渡したら、仄かに微笑んでくれた。
ボトルにくっつく唇のカタチを目で追って、ドキドキしてしまった。
心臓、暴走するな。
ほっぺた、にやけるな。
自分に命令して、平静を保つ。
好きが、勝手に暴走しないように、トモダチの仮面をつける。
アホな会話なんかして、けらけらと笑いあって、ふざけあう。そんな日常を得るために、傷ついても走ったのだから。
そうして苦労の末手に入れた友人の座を、恋心の所為で失うくらいなら、うその友情を演じようと思った。
嘘をついてでも、側にいたいと思ってしまった。浅ましい欲深さだ。
「どうせなら、美女からの差し入れが良かったな」
なんて、ヒトの親切に砂をぶっかける無礼な男。しっかり、ボトルの水は飲み干して下さった後の、この暴言。
いったいどーゆーことでしょうかねぇ、このやろー。
「てめー。吐け!吐き出しやがれ、もっかいボトリングして大山に突っ返してやる」
「きたなっ。大山が可哀想すぎる。なに?これ、大山からの差し入れなの?」
「そーだよ。やっさしぃだろー。阿呆だけど」
「気ぃきくね。アホだけど」
二人並んで、胴上げされている監督を見る。
その中心で騒ぐアホが一匹。
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