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第80話
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タブル久賀が互いに無言で見つめ合い、史彦さんが「近江の変わり」と俺には意味不明なだけのセリフを言った。
えーと、近江って、トモちゃんのこと?
「マジで?いやいや、唐突過ぎてビックリだ。いくら何でも無茶振り過ぎねぇ、史ちゃん」
「美波もきっと喜ぶ」
従兄弟さんの言葉に、久賀が額に小さくしわを刻む。数秒後、はぁ、と肩を落として息を吐き出した。
「尾上、この後……暇?」
「は……はい?」
とっても、面倒臭そうな声音で、久賀は言った。このあと、何か予定がありますか?と。
幻聴かな?
久賀が、俺の予定を聞くとか、そんな事ありえますかね?
「えー……っと?」
「そうだよな、忙しいよな。突然すぎだぜ、史ちゃん。さ、諦めて二人で行こうか。じゃあなワンコ、迷子にならないでお家に帰れよー」
かちん。
何だろうかこの態度。
今からバイトを探しに行こうとしていたわけですが、そんなもんどーでも良くなって「物凄く暇です!」と反射的に言い切った。
掌で目元を覆い隠す久賀を知らん振りして、従兄弟さんが「一緒においで。きっと楽しい」と仄かに微笑んだ。
うおぅっ。信者に呪殺されるレベルの近距離ですっ。
うっかり見惚れてしまった俺と従兄弟さんの間に、久賀が無理矢理割り込んで引き離された。
「距離が近いっ!ホント、いつの間に仲良くなったんだよっ」
過去のブラコン発言を思い出しながら、そんな怒らなくてもお前の従兄弟さんをとったりしねぇよ……と言ってやろうと唇を開く俺よりも先に、従兄弟さんが言葉を発した。ほんの一秒にも満たない差だった。
「そんなに妬かなくても、お前の友人をとったりはしないぞ」
淡々とした声音に、俺と久賀が揃って静止する。
妬く?ヤキモチ?いやいや、従兄弟さん。それは無いよ……。と、俺は心の中で突っ込みを入れた。
どう見ても、大好きな従兄弟の関心が他人に向けられて、気にくわないって顔ですよね?ちょっと待ってて、多分すぐに否定されっから。
『何で俺が妬かなきゃいけねぇーの?』とか『史ちゃんをとられないかって心配してんの!』とか、多分そんな感じ。
おっけぃ。いつでも来やがれ。
こちとら、伊達に天国と地獄を行き来してねぇーぜ(心が)
いちいち久賀の言葉に傷ついていたら、地面にめり込んだまま帰ってこれなさそーだから、先手を打ってしまうことにした。
きっと久賀はふんっと鼻を鳴らしながら言うだろう。
『尾上なんざ熨斗つけてくれてやるよ』と。
想像だけでも破壊力は抜群だ。
頑張れ俺、負けんな。
数秒後、はぁー……と実に深いため息を吐いた後、久賀がくるりと背を向けて歩き出した。
あれ?一言もなしですか?
従兄弟さんの言葉があまりに的を外れすぎていて、きっと呆れることすら面倒だったんだろう。
いつも通りの背中を見ながら、俺はそんな風に思った。
久賀たちについていくと、辿り着いた所は、ずいぶんと年期のいったボロアパートだった。
手摺りがサビサビの階段をのぼる。
二階の一番奥の部屋のインターフォンを押すと「はぁい」と中から可愛らしい声が聞こえてきて、がチャリと扉が開いた。
「りゅーちゃん!」
ミニミニ、ちびちびな少女……いや幼女がふっくらと柔らかそうな頬を赤く染めながら、久賀に抱きついた。
くしゃりと、久賀の手が頭を撫でる。
「よ。元気そーだな、ミナ」
きゃっきゃっと楽しげな笑い声をあげながら「みなみ元気ー」と幼女が笑う。それから、史彦さんの方を見上げてにっぱり笑った。
「フミちゃんこんにちわー。それから……えーと?ヒロくんとトモちゃん?」
「こんにちは、美波。今日は彼らは来られないんだ」
史彦さんの言葉を聞いて「そうなの?ガッカリ……」と彼女は落ち込んだが、すぐに顔を上げて俺を見上げてきた。
まんまるなおめめ。
パチパチと瞬きをする。
「おにーちゃんだぁれ?」
と、可愛らしくコトリと首を傾けながら彼女は言った。
あなたは、だぁれ?
小鳥さんのような、愛らしい声音だった。
「えっと、こんにちは」
「尾上輝くんだよ、ミナ。りゅーちゃんのトモダチな」
久賀のズボンを掴んで、はにかむように笑う幼女の頭をおっきな手が撫でる。
声音も、微笑みも、小さな子どもを見下ろす眼差しも、あたたかで柔らかだ。
いつもの軽薄さなんてカケラも感じさせず、愛情の限りを尽くした仕草で、久賀は彼女の頭を撫でている。
ビックリだ。
そんな慈愛に満ちた目で誰かを見ることがコイツに出来るなんて、ちっとも知らなかった。
愛なんていらないと、信じられないと言うコイツが、紛れもない愛を持って彼女に接していた。
まさか、この幼子は……。
「もしかして、お前の娘?」
深く考えもせず発言してしまい、一瞬、静寂があたりを支配した。
えーと、近江って、トモちゃんのこと?
「マジで?いやいや、唐突過ぎてビックリだ。いくら何でも無茶振り過ぎねぇ、史ちゃん」
「美波もきっと喜ぶ」
従兄弟さんの言葉に、久賀が額に小さくしわを刻む。数秒後、はぁ、と肩を落として息を吐き出した。
「尾上、この後……暇?」
「は……はい?」
とっても、面倒臭そうな声音で、久賀は言った。このあと、何か予定がありますか?と。
幻聴かな?
久賀が、俺の予定を聞くとか、そんな事ありえますかね?
「えー……っと?」
「そうだよな、忙しいよな。突然すぎだぜ、史ちゃん。さ、諦めて二人で行こうか。じゃあなワンコ、迷子にならないでお家に帰れよー」
かちん。
何だろうかこの態度。
今からバイトを探しに行こうとしていたわけですが、そんなもんどーでも良くなって「物凄く暇です!」と反射的に言い切った。
掌で目元を覆い隠す久賀を知らん振りして、従兄弟さんが「一緒においで。きっと楽しい」と仄かに微笑んだ。
うおぅっ。信者に呪殺されるレベルの近距離ですっ。
うっかり見惚れてしまった俺と従兄弟さんの間に、久賀が無理矢理割り込んで引き離された。
「距離が近いっ!ホント、いつの間に仲良くなったんだよっ」
過去のブラコン発言を思い出しながら、そんな怒らなくてもお前の従兄弟さんをとったりしねぇよ……と言ってやろうと唇を開く俺よりも先に、従兄弟さんが言葉を発した。ほんの一秒にも満たない差だった。
「そんなに妬かなくても、お前の友人をとったりはしないぞ」
淡々とした声音に、俺と久賀が揃って静止する。
妬く?ヤキモチ?いやいや、従兄弟さん。それは無いよ……。と、俺は心の中で突っ込みを入れた。
どう見ても、大好きな従兄弟の関心が他人に向けられて、気にくわないって顔ですよね?ちょっと待ってて、多分すぐに否定されっから。
『何で俺が妬かなきゃいけねぇーの?』とか『史ちゃんをとられないかって心配してんの!』とか、多分そんな感じ。
おっけぃ。いつでも来やがれ。
こちとら、伊達に天国と地獄を行き来してねぇーぜ(心が)
いちいち久賀の言葉に傷ついていたら、地面にめり込んだまま帰ってこれなさそーだから、先手を打ってしまうことにした。
きっと久賀はふんっと鼻を鳴らしながら言うだろう。
『尾上なんざ熨斗つけてくれてやるよ』と。
想像だけでも破壊力は抜群だ。
頑張れ俺、負けんな。
数秒後、はぁー……と実に深いため息を吐いた後、久賀がくるりと背を向けて歩き出した。
あれ?一言もなしですか?
従兄弟さんの言葉があまりに的を外れすぎていて、きっと呆れることすら面倒だったんだろう。
いつも通りの背中を見ながら、俺はそんな風に思った。
久賀たちについていくと、辿り着いた所は、ずいぶんと年期のいったボロアパートだった。
手摺りがサビサビの階段をのぼる。
二階の一番奥の部屋のインターフォンを押すと「はぁい」と中から可愛らしい声が聞こえてきて、がチャリと扉が開いた。
「りゅーちゃん!」
ミニミニ、ちびちびな少女……いや幼女がふっくらと柔らかそうな頬を赤く染めながら、久賀に抱きついた。
くしゃりと、久賀の手が頭を撫でる。
「よ。元気そーだな、ミナ」
きゃっきゃっと楽しげな笑い声をあげながら「みなみ元気ー」と幼女が笑う。それから、史彦さんの方を見上げてにっぱり笑った。
「フミちゃんこんにちわー。それから……えーと?ヒロくんとトモちゃん?」
「こんにちは、美波。今日は彼らは来られないんだ」
史彦さんの言葉を聞いて「そうなの?ガッカリ……」と彼女は落ち込んだが、すぐに顔を上げて俺を見上げてきた。
まんまるなおめめ。
パチパチと瞬きをする。
「おにーちゃんだぁれ?」
と、可愛らしくコトリと首を傾けながら彼女は言った。
あなたは、だぁれ?
小鳥さんのような、愛らしい声音だった。
「えっと、こんにちは」
「尾上輝くんだよ、ミナ。りゅーちゃんのトモダチな」
久賀のズボンを掴んで、はにかむように笑う幼女の頭をおっきな手が撫でる。
声音も、微笑みも、小さな子どもを見下ろす眼差しも、あたたかで柔らかだ。
いつもの軽薄さなんてカケラも感じさせず、愛情の限りを尽くした仕草で、久賀は彼女の頭を撫でている。
ビックリだ。
そんな慈愛に満ちた目で誰かを見ることがコイツに出来るなんて、ちっとも知らなかった。
愛なんていらないと、信じられないと言うコイツが、紛れもない愛を持って彼女に接していた。
まさか、この幼子は……。
「もしかして、お前の娘?」
深く考えもせず発言してしまい、一瞬、静寂があたりを支配した。
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