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番外編・peaceful sleep
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(36話くらい、久賀さんのターン)
バカだろうかと思う。
バカだな。バカに決まっている。
バカじゃなければ、一体なんだコイツは。
「……マジかよ。信じらんねぇ」
傍らの相手を心底呆れながら見下ろすと、そいつは警戒心のけの字も感じられないバカ面を晒して、すやすやと規則正しい寝息を繰り返していた。
思わず、お前が寝るのかよ。と心の中で突っ込んでしまった。
時は遡ることおおよそ一時間前。
ドS相手のバイトでちょっぴり疲れていた俺を捕まえて、そのままじゃ倒れるだの、怪しいバイトなんか止めろだのと散々騒ぎ立て、挙げ句の果てに「久賀の時間を俺が買うよ!」なんて、神様もお釈迦様もビックリなオガミンワールドを展開させたバカが一匹。
まぁ、俺は他人の側でなんざ一秒だって安眠出来るわけがねぇーので、最初から狸寝入りを決め込んで、時間が過ぎるのを待っていたんだけどね。
退屈な時間だけど、寝たフリで金が貰えるならまぁいい、か……なんて思いながら、頭痛と格闘してる間に、誰かさんは俺より先に爆睡しやがった。
こんな信じがたい話があるか?
信じられないが現実だよ、おぃ。
「なんでそんな無防備に寝れるわけ?」
あんな事(トイレでごにゃごにゃ)があったにも関わらず、だ。肝が座ってんのか、バカなのか。あー、間違いなく後者だな。
確かになにもしないとは言ったが、信用するかよ、普通。所詮は口約束だろ?よく知りもしねぇ他人の側でバカ面晒して寝こけるなんざ、ホント愚かしいとしか言いようがない。
なにされっか、わからねぇのにさ。
(んん?この言い方だと、俺がなにかをしたがってるみたいじゃない?イヤイヤ、ないから。美女ならまだしも、こんなちんくしゃが相手じゃなぁ)
誰が聞いてるわけでもないのに、心の中で全力否定。
ふるっと頭を軽く振って、時間を確認すると約束の一時間(俺が勝手に決めたわけだが)まであと少し。
時間が過ぎて先に俺が帰ったとしても、約束を違えたことにはならないだろう。
(尾上の買った時間分、カラダを休めることが契約内容だしな)
そんな条件を提示したのは、このバカが始めてだった。
体位とか、手順とか、行為中に喋る台詞とか、名前の呼び方とか、ソフトなやつからハードなものまで、気紛れに特殊なプレイを要求するやつもいたけれど、商品のカラダを心配して金を払ったヤツはいない。
呆れを通り越す。未知の生物に出会ってしまったようだ。
もう一度時間を確認する。
雇われた時間は残り三秒、二、一、ゼロ。
「俺、帰ってもいいか」
いいよな。起こして下さいと言いはしたが、言われてはいない。
いくらここが平和ボケした国であっても、外でバカ面さらして寝ることが危険だってことくらい、身をもって学べばいい。
(ま、学校の敷地内だし。どんなに寝過ぎても、門限が過ぎたら見廻りの看守に見つけて貰えるだろう。地獄補修が待ってるけど)
自業自得だ。
これでもう、しつこくされなくなれば万々歳なんだけどね。
ふっと、唇の端にムリヤリ笑みを乗っけて、帰るために立ち上がろうとして。
「…………?」
妙な抵抗を感じ、視線を落とした。
服の端っこを掴まれていたらしい。
子どもかよ、と呆れた。
すがる相手を間違ってますよ、と鼻で笑って、自由になるために尾上の手をのけようとして……手を伸ばしたのがいけない。
少々乱暴になってもいいから、何故に振り払わなかったのだろう。
全ては後の祭りだ。
「…………おぃ」
服を掴む指を解いた途端、まるで代わりとばかりに掌に絡み付いてきたソレを見下ろし、思わず寝顔をガン見した。
態とかと、疑ってしまっても仕方ないだろう。
「お前ホントは起きてるだろう?」
そう投げ掛けても、なんの返事もなければ、僅かな反応さえもない。見下ろす先では、規則正しい呼吸音が静かに繰り返されているだけだった。
演技なら大したものだが、このバカにそんな芸当が出来るとは思えない。
演技じゃないなら、それはそれで恐ろしい。身を守るすべなんかひとつも持たない弱者の癖に、警戒心はまるでない。世界にはそこかしこに、汚いものと危険なものが溢れているというのに、なんだろうかこのイキモノは。
はぁ、と息を吐き出して、浮かしかけていたカラダの力を抜き、壁にもたれかかった。
俺にとって誰かの側で眠ることは、安らぎではなく苦痛でしかない。今でも克服できない心の闇だ。
それは、生き延びるために身に付いた防衛本能だった。
嘗てはあたたかな腕の中だけが唯一安心して眠れる場所だった。それはある日、どんなに手を伸ばしても届かない場所に行ってしまって、置き去りにされた俺は、浅くて短い眠りを繰り返していた。
(やっぱ……理解不能だ)
じっと寝顔を見る。
平和を顔に張り付けて、すやすやと気持ち良さそうに眠っている。
眠っている間に、命が脅かされるような危険など一度も感じたことが無いのだろう。
「幸せそーで羨ましいーよ」
心にも無いことを言ってみる。
こいつみたいに、ただ平凡な生活や日常がアレば、俺ももう少しくらいならマトモな人間になっていただろうか、と、そんなことを考えて“ねぇな”と、鼻で笑った。
きっと“普通“の家に生まれて育っていたとしても、ここまで底抜けなバカにはなれないだろう。お人好しと書いてバカと読む。死ななきゃなおらない、本当に救いようがないな。
(救いようがないのは、俺の方か)
ま、どうでもいいや、と空を仰ぎ、鈍く続く頭痛から逃げるように目を閉じた。
繋がった掌の温もりが、遠い場所にいる誰かをほんの一瞬思い出させたけど、痛みに流されてあっけなくどこかへと消えた。
終
いつかのにゃんことワンコが、手を繋いで寝ていた理由でした。
バカだろうかと思う。
バカだな。バカに決まっている。
バカじゃなければ、一体なんだコイツは。
「……マジかよ。信じらんねぇ」
傍らの相手を心底呆れながら見下ろすと、そいつは警戒心のけの字も感じられないバカ面を晒して、すやすやと規則正しい寝息を繰り返していた。
思わず、お前が寝るのかよ。と心の中で突っ込んでしまった。
時は遡ることおおよそ一時間前。
ドS相手のバイトでちょっぴり疲れていた俺を捕まえて、そのままじゃ倒れるだの、怪しいバイトなんか止めろだのと散々騒ぎ立て、挙げ句の果てに「久賀の時間を俺が買うよ!」なんて、神様もお釈迦様もビックリなオガミンワールドを展開させたバカが一匹。
まぁ、俺は他人の側でなんざ一秒だって安眠出来るわけがねぇーので、最初から狸寝入りを決め込んで、時間が過ぎるのを待っていたんだけどね。
退屈な時間だけど、寝たフリで金が貰えるならまぁいい、か……なんて思いながら、頭痛と格闘してる間に、誰かさんは俺より先に爆睡しやがった。
こんな信じがたい話があるか?
信じられないが現実だよ、おぃ。
「なんでそんな無防備に寝れるわけ?」
あんな事(トイレでごにゃごにゃ)があったにも関わらず、だ。肝が座ってんのか、バカなのか。あー、間違いなく後者だな。
確かになにもしないとは言ったが、信用するかよ、普通。所詮は口約束だろ?よく知りもしねぇ他人の側でバカ面晒して寝こけるなんざ、ホント愚かしいとしか言いようがない。
なにされっか、わからねぇのにさ。
(んん?この言い方だと、俺がなにかをしたがってるみたいじゃない?イヤイヤ、ないから。美女ならまだしも、こんなちんくしゃが相手じゃなぁ)
誰が聞いてるわけでもないのに、心の中で全力否定。
ふるっと頭を軽く振って、時間を確認すると約束の一時間(俺が勝手に決めたわけだが)まであと少し。
時間が過ぎて先に俺が帰ったとしても、約束を違えたことにはならないだろう。
(尾上の買った時間分、カラダを休めることが契約内容だしな)
そんな条件を提示したのは、このバカが始めてだった。
体位とか、手順とか、行為中に喋る台詞とか、名前の呼び方とか、ソフトなやつからハードなものまで、気紛れに特殊なプレイを要求するやつもいたけれど、商品のカラダを心配して金を払ったヤツはいない。
呆れを通り越す。未知の生物に出会ってしまったようだ。
もう一度時間を確認する。
雇われた時間は残り三秒、二、一、ゼロ。
「俺、帰ってもいいか」
いいよな。起こして下さいと言いはしたが、言われてはいない。
いくらここが平和ボケした国であっても、外でバカ面さらして寝ることが危険だってことくらい、身をもって学べばいい。
(ま、学校の敷地内だし。どんなに寝過ぎても、門限が過ぎたら見廻りの看守に見つけて貰えるだろう。地獄補修が待ってるけど)
自業自得だ。
これでもう、しつこくされなくなれば万々歳なんだけどね。
ふっと、唇の端にムリヤリ笑みを乗っけて、帰るために立ち上がろうとして。
「…………?」
妙な抵抗を感じ、視線を落とした。
服の端っこを掴まれていたらしい。
子どもかよ、と呆れた。
すがる相手を間違ってますよ、と鼻で笑って、自由になるために尾上の手をのけようとして……手を伸ばしたのがいけない。
少々乱暴になってもいいから、何故に振り払わなかったのだろう。
全ては後の祭りだ。
「…………おぃ」
服を掴む指を解いた途端、まるで代わりとばかりに掌に絡み付いてきたソレを見下ろし、思わず寝顔をガン見した。
態とかと、疑ってしまっても仕方ないだろう。
「お前ホントは起きてるだろう?」
そう投げ掛けても、なんの返事もなければ、僅かな反応さえもない。見下ろす先では、規則正しい呼吸音が静かに繰り返されているだけだった。
演技なら大したものだが、このバカにそんな芸当が出来るとは思えない。
演技じゃないなら、それはそれで恐ろしい。身を守るすべなんかひとつも持たない弱者の癖に、警戒心はまるでない。世界にはそこかしこに、汚いものと危険なものが溢れているというのに、なんだろうかこのイキモノは。
はぁ、と息を吐き出して、浮かしかけていたカラダの力を抜き、壁にもたれかかった。
俺にとって誰かの側で眠ることは、安らぎではなく苦痛でしかない。今でも克服できない心の闇だ。
それは、生き延びるために身に付いた防衛本能だった。
嘗てはあたたかな腕の中だけが唯一安心して眠れる場所だった。それはある日、どんなに手を伸ばしても届かない場所に行ってしまって、置き去りにされた俺は、浅くて短い眠りを繰り返していた。
(やっぱ……理解不能だ)
じっと寝顔を見る。
平和を顔に張り付けて、すやすやと気持ち良さそうに眠っている。
眠っている間に、命が脅かされるような危険など一度も感じたことが無いのだろう。
「幸せそーで羨ましいーよ」
心にも無いことを言ってみる。
こいつみたいに、ただ平凡な生活や日常がアレば、俺ももう少しくらいならマトモな人間になっていただろうか、と、そんなことを考えて“ねぇな”と、鼻で笑った。
きっと“普通“の家に生まれて育っていたとしても、ここまで底抜けなバカにはなれないだろう。お人好しと書いてバカと読む。死ななきゃなおらない、本当に救いようがないな。
(救いようがないのは、俺の方か)
ま、どうでもいいや、と空を仰ぎ、鈍く続く頭痛から逃げるように目を閉じた。
繋がった掌の温もりが、遠い場所にいる誰かをほんの一瞬思い出させたけど、痛みに流されてあっけなくどこかへと消えた。
終
いつかのにゃんことワンコが、手を繋いで寝ていた理由でした。
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