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第91話
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しばらく無言で歩いて、溜め息をつきながら久賀が言った。
思わず、零れ落ちたみたいな、呟くような言葉。
「俺がお前だったら、絶対YESだなんて言わない」
ちょっと、どうすりゃいいの?
ノーって言えば良かったんでしょうか?
「……じゃあノー?」
「それは困る」
「おぃ……俺にどうしろと?」
「ん、そだね。気にしないで」
気にするなって言われても、気になるだろう。
さっきまで笑っていた相手が、沈黙してしまって見上げる横顔は遠くて、黒い目は悲しげで、零れ落ちた言葉の意味は分からない。
久賀。何を考えてるの?
辛いことや嫌な思い出して、苦しんでるのか?
足が痛くて、悲しいのか?
知りたい。
知りたいよ。
お前の心に触れてみたいよ。
何も出来ないかもしれないけど、何もしないままでなんか……。
「な、久賀。俺」
お前の為に、出来ることはないか?
そう聞きたかったのに、言葉は遮られた。
不意に、立ち止まった久賀に「帰って、尾上」と言われて、カチンと心が凍りつく。
一体、なんで。
理由を問いただそうとして、久賀の様子がおかしいことに気がついた。
いつかの、多目的ホールの屋根で見たような、知らない表情をした彼がいた。
ぞわり、と背筋に悪寒が這うのと、少し高揚した男の声が発せられたのはほぼ同時だった。
「はは、マジかよ。あのくーるびゅてぃーが野良猫くんだぁ?おぃおぃ、随分カッコ良く成長したモンだなぁ」
ぞろぞろと、どんなに欲目で見てやっても、育ちのヨロシクナイ男たちが数名、行く手を阻むように現れた。
不良さん、多数。
西河原のオトモダチ……では無いようだ。
口調から察するに、久賀の友人でもないらしい。
中心には、左側だけ青色に染めた髪をあげて、残りの黒髪で顔の半分を覆った男が立っている。
嘲るような言葉を発しているのはソイツだった。
まさに、舐めるような……という表現がしっくりくるくらい、上から下までじっくりと久賀を見た後、ククッと喉の奥で笑った。
「確かに、こりゃぁわかんねぇなぁ。ムカつくチビガキが、ムカつくイケメンに大変身ってか。あぁ?イメチェンかよ緋色ちゃーん?」
これが普通の、悪意ない挨拶だと思っているなら、彼は脳内の洗浄が必要だろう。
誰が聞いても、売り言葉を発する相手から守ろうと、久賀を背に庇うように立った。
なのに。
ぐぃっと、肩を押されて横によろける。
「お前帰れ。邪魔」
俺の方を一ミリも見ないで久賀が言った。
冷たい目と声だった。
な。
なに言ってんのお前。こんな状況で、置いてけるわけないじゃないか!
「ひゃははは。そんな冷たいこと言うなよな、緋色ちゃん。心配しなくてもオトモダチくんにもパーティーの招待状を用意してやるよ。仲良くあそぼーぜ」
ズリッと靴の底を擦りながら、男が一歩を踏み出した直後、久賀に手首を掴まれた。
「走れ」
短い命令の後、男たちに背を向けた久賀が俺を引っ張って駆け出した。
一瞬転びそうになったけれど、なんとか足を動かして、地面を蹴り、久賀の後に続く。
敵前逃亡!否!これは戦略的撤退だ!
退き際を誤ることは、則ち死あるのみ。
平々凡々な俺だけれど、足の速さはそこそこだ。今だけは神さまに感謝する。
不良たちは、大声で叫びながら追ってきた。
人と人との波間を器用に抜けていく久賀と、その背中を必死に追いかける俺の後を、時々、通行人と衝突しながら彼らが追ってくる。
なんて迷惑な奴らだろう。
聞くに耐えない罵りの言葉が後方で発せられた。
アイツラはガチで警察の御厄介になってしまえ。と、本気で思う。
入り組んだ路地を駆け抜ける。
恐怖の所為か、疾走の所為か、ドクドクと激しく脈打つ心臓の鼓動が、耳の中で反響していた。
アイツラは一体、なんだ。
ヒイロってやっぱり久賀のことなのか?
一体、どーゆー関係なんだよ?
「くそっ……肝心なときに役に立たないな、西河原のヤツ」
狭い路地の中、久賀が舌打ち混じりにそう呟いて、ようやく西河原と椎名が居ないことに気がついた。
壁に手をつき、肩で息をしながら、俺は周りを見渡した。
も、もしかして。
「ふ、二人ともアイツラに……?」
酷い目にあわされてるんじゃ、と不安になる俺に「大丈夫だろ、あいつ等は野獣だから」とスマホを操作しながら久賀が言った。
「寧ろ、ピンチなのは俺たちの方ね……やっぱ、出ないか、優雅も西河原も……さて、どうするかな」
スマホをポケットに押し込んで、久賀が振り返った。
向けられる目は黒。
キレイで怖い、闇色だった。
思わず、零れ落ちたみたいな、呟くような言葉。
「俺がお前だったら、絶対YESだなんて言わない」
ちょっと、どうすりゃいいの?
ノーって言えば良かったんでしょうか?
「……じゃあノー?」
「それは困る」
「おぃ……俺にどうしろと?」
「ん、そだね。気にしないで」
気にするなって言われても、気になるだろう。
さっきまで笑っていた相手が、沈黙してしまって見上げる横顔は遠くて、黒い目は悲しげで、零れ落ちた言葉の意味は分からない。
久賀。何を考えてるの?
辛いことや嫌な思い出して、苦しんでるのか?
足が痛くて、悲しいのか?
知りたい。
知りたいよ。
お前の心に触れてみたいよ。
何も出来ないかもしれないけど、何もしないままでなんか……。
「な、久賀。俺」
お前の為に、出来ることはないか?
そう聞きたかったのに、言葉は遮られた。
不意に、立ち止まった久賀に「帰って、尾上」と言われて、カチンと心が凍りつく。
一体、なんで。
理由を問いただそうとして、久賀の様子がおかしいことに気がついた。
いつかの、多目的ホールの屋根で見たような、知らない表情をした彼がいた。
ぞわり、と背筋に悪寒が這うのと、少し高揚した男の声が発せられたのはほぼ同時だった。
「はは、マジかよ。あのくーるびゅてぃーが野良猫くんだぁ?おぃおぃ、随分カッコ良く成長したモンだなぁ」
ぞろぞろと、どんなに欲目で見てやっても、育ちのヨロシクナイ男たちが数名、行く手を阻むように現れた。
不良さん、多数。
西河原のオトモダチ……では無いようだ。
口調から察するに、久賀の友人でもないらしい。
中心には、左側だけ青色に染めた髪をあげて、残りの黒髪で顔の半分を覆った男が立っている。
嘲るような言葉を発しているのはソイツだった。
まさに、舐めるような……という表現がしっくりくるくらい、上から下までじっくりと久賀を見た後、ククッと喉の奥で笑った。
「確かに、こりゃぁわかんねぇなぁ。ムカつくチビガキが、ムカつくイケメンに大変身ってか。あぁ?イメチェンかよ緋色ちゃーん?」
これが普通の、悪意ない挨拶だと思っているなら、彼は脳内の洗浄が必要だろう。
誰が聞いても、売り言葉を発する相手から守ろうと、久賀を背に庇うように立った。
なのに。
ぐぃっと、肩を押されて横によろける。
「お前帰れ。邪魔」
俺の方を一ミリも見ないで久賀が言った。
冷たい目と声だった。
な。
なに言ってんのお前。こんな状況で、置いてけるわけないじゃないか!
「ひゃははは。そんな冷たいこと言うなよな、緋色ちゃん。心配しなくてもオトモダチくんにもパーティーの招待状を用意してやるよ。仲良くあそぼーぜ」
ズリッと靴の底を擦りながら、男が一歩を踏み出した直後、久賀に手首を掴まれた。
「走れ」
短い命令の後、男たちに背を向けた久賀が俺を引っ張って駆け出した。
一瞬転びそうになったけれど、なんとか足を動かして、地面を蹴り、久賀の後に続く。
敵前逃亡!否!これは戦略的撤退だ!
退き際を誤ることは、則ち死あるのみ。
平々凡々な俺だけれど、足の速さはそこそこだ。今だけは神さまに感謝する。
不良たちは、大声で叫びながら追ってきた。
人と人との波間を器用に抜けていく久賀と、その背中を必死に追いかける俺の後を、時々、通行人と衝突しながら彼らが追ってくる。
なんて迷惑な奴らだろう。
聞くに耐えない罵りの言葉が後方で発せられた。
アイツラはガチで警察の御厄介になってしまえ。と、本気で思う。
入り組んだ路地を駆け抜ける。
恐怖の所為か、疾走の所為か、ドクドクと激しく脈打つ心臓の鼓動が、耳の中で反響していた。
アイツラは一体、なんだ。
ヒイロってやっぱり久賀のことなのか?
一体、どーゆー関係なんだよ?
「くそっ……肝心なときに役に立たないな、西河原のヤツ」
狭い路地の中、久賀が舌打ち混じりにそう呟いて、ようやく西河原と椎名が居ないことに気がついた。
壁に手をつき、肩で息をしながら、俺は周りを見渡した。
も、もしかして。
「ふ、二人ともアイツラに……?」
酷い目にあわされてるんじゃ、と不安になる俺に「大丈夫だろ、あいつ等は野獣だから」とスマホを操作しながら久賀が言った。
「寧ろ、ピンチなのは俺たちの方ね……やっぱ、出ないか、優雅も西河原も……さて、どうするかな」
スマホをポケットに押し込んで、久賀が振り返った。
向けられる目は黒。
キレイで怖い、闇色だった。
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