隣人 (BL、完結)

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第二部

お付き合い

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第二部の最終話のあとのお話



キリヤの自宅に入ると、キリヤが郁美を抱きしめた。大学からの帰り道からベタベタ触っていたキリヤを制してきたが、もう我慢の限界のようだ。
「俺、彼氏って…もう、どうしよう。めちゃくちゃ嬉しい。嬉し~♡俺達付き合ってるってことで、いいんだよね?」
「ちょ、ウザいウザいウザい。喜びすぎ…いいよ。でも、今だけ、ね?どうせそのうち別れるよ」
キリヤは郁美の頭にグリグリと頬を擦り付ける。あまりのウザさに郁美は冷たくキリヤの顔を押し返して靴を脱ぎ、廊下を歩いた。すぐさまキリヤも追いかけてくる。
「え?別れないよ?」
「わかんないじゃん。男同士だし結婚するわけじゃないし。どっちか飽きちゃうかもしんないし」
郁美が冷たく答える。浮かれるキリヤがうっとおしくて牽制の意味も込めたのだが、キリヤは嬉しそうに笑顔を浮かべたままだった。郁美は抱き上げられて、ソファでキリヤの膝の上に向かい合って座らされる。
「飽きないよ。俺が郁美に飽きるわけないじゃん」
「俺が飽きるかもしんないし、別れたくなるかもしれないでしょ?」
「別れないもん、俺。郁美が別れてって言っても。そういうのはお互いの同意がなきゃ駄目でしょ?別れないよ?」
キリヤは相変わらず楽しげで、郁美は少し言葉に詰まった。珍しくキリヤは自分の感情を隠そうとせず笑っている。いつもはどこか裏のありそうな顔しているのに、郁美とのお付き合いが嬉しくて仕方がないようだ。普段のキリヤを見ていればわかる。彼は郁美が好きで仕方なくて、郁美をいつも大切に扱ってくれる。だからこそ、この喜びようなのだろう。
しかし、なんだかちょっとひっかかる。郁美の胸はざわついた。
「ん?んっと…キリヤが、嫌になるかもしれないでしょ?俺のこと。別れよ~って、なるかも…」
「ないない。絶対ないから」
「絶対って…わかんないじゃん」
「もしも郁美に好きな人ができても浮気しても、絶対別れないから。大丈夫だよ」
ニッコリ微笑まれて、郁美はそれ以上何も言えなくなった。それは郁美にとって何一つ大丈夫ではない。好きな人ができても浮気をしても別れてくれないなら、どうしたら別れてくれるのだろうか。今は別れなんて考えたくないということなのだろうか。
それにしても、なんだか話が通じていないというか、噛み合っていない気がする。
「俺は一生郁美のもの。郁美も一生俺のものだよ。郁美がどう思ってても、絶対、手放さないから。ね?」
郁美はキリヤの胸に抱きしめられた。キリヤの顔は見えないけど、きっと彼は幸せそうに笑っている。
キリヤは郁美と別れないと言い切った。キリヤの中で郁美の意思は関係ないらしい。きっと本当に、郁美が離れたくなってもあれこれ理由をつけて手放してはくれないだろう。
郁美の通っている大学も実家の住所も知っていて、両親とも面識がある。郁美の人生に大きく食い込んできたこの男から、逃げたくても簡単には逃げられないことが容易に想像できる。
郁美の背中に冷たい汗が伝う。
(もしかして俺、けっこうやばい男と付き合ってる?)
背中に回された腕の力の強さを感じながら、郁美はじわじわと得体のしれない恐怖に包まれた。



END

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