アルザカリア

pizzeman

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14.周回

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「お母さんがいるならお父さんはどこにいるの?」

「お父さんにあいたいの?」

「うん」

 母の顔は段々と硬くなっていく。笑顔の仮面がゆっくりと消えていくように。

「……もう少ししたら会えるかもね」

 奥に進み、鋼鉄でできた扉を軽々と開ける。これが作法と言うものなのか、扉を開ける動作でさえしなやかさがあり、光輝いて見える。
 開けた先は殺風景な部屋だった。数冊本はあるがそれだけだった。

「ここで待っていてね。お茶、入れてくるから」

 アルザを一人残して部屋を出ていこうとする。扉に手をかけた時、母は止まった。

「そうそう、ここにある本はあまり開かないほうがいいわよ」

「どうして?」

「美しいものというのは危害を加えてきたりするのよ、見た目なんかに惑わされちゃ駄目よ」

 アルザはうなずく。母がでていった瞬間からすぐさま本に飛びつく。先ほどまできちんと我慢できていたというのになぜ一人になった瞬間に欲を開放するのだろうか。

 アルザは本に近づく、そしてあることを認識する。本のタイトルがないのだ。どの本も同じような大きさをであり、見た目も同じ。この本の所有者はどれがどういう本なのかわかっているのだろうか。

「……どれも同じだよね」

 平積みになっている本の一番上を手に取り、読んでみる。

 『麝香撫子 母』と書かれていた。まるでタイトルのようだ。それ以降のページは何だろうかとすぐに開けてみる。部屋の景色が変わっていく。殺風景だった部屋に一輪の花が咲く。アルザは花の名前はよくわからなかったがそれが赤い花であることは分かった。試しにページをもう一枚開いてみる。
 またどこかで花が咲いたようだ。どうやらこの部屋は本と連動しているみたいだ。この本は花に関する本であり、開けば開くほど花は咲く。
 本を閉じてみると花は消えてしまった。本を閉じるということを現実に映し出しているみたいだ。

「すごい本だ。持ち帰ってもいいかな」

 こういった本はアルザは知らない。本という情報が詰まった文字だらけの物体とはまた違い、想像するよりも創造
する本など初めてだ。こんないいものを知ってしまってはもはや好奇心を止めることはできない。ましてやまだ母は出ていったばっかりだ。アルザを止められるものなど誰一人いない。

「この本が花の本ならこっちは何の本なんだろう」

 手に取ってまたページを開く。今度は地面からホタルの光のようなものが空中を浮遊する。こういうものは暗い部屋ととても合う。アルザは最後のページまで一気に開いた。
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