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第一章
「ラビストリップ」って何だ?
しおりを挟む――幾千年の星霜を経て器を引き継ぎしソノ者と共に――
「ラビストリップって知ってる?」
「うん知ってるよ!っていうかめっちゃ話題になってんじゃん、知らないほうがヤバいって」
「アレよくない?絶対やってみたい!」
「えぇ?ちょっと怖いかも……事故とか無いの?」
「さぁ?どうだろうね!でもそんなこと言ってたら何も出来なくない?」
「まぁね……」
電車内、外を眺める「斗真」は聞き慣れない「単語」が耳に入り、女子高生二人が陽のオーラを放ちながら喋っている方向を見てしまう
始めは彼女達がいることさえも気が付かなかった斗真、いや気付かないようにしてたのか、その「単語」が気になりつい見てしまう
極力そういう所作は避けてきたのだが彼女達と目が合うと俯いてしまう、こういう時に爽やかな笑顔でも出せるイケメンなら何も問題ないのだが彼には無理だった
「ねぇ、なんかこっち見てなかった?」
「えっ?怖っ!向こう行こ……」
彼女達は車両を変え、行ってしまった
――「ラビストリップ」って何だよ?気になるじゃないか!……しかしアイツらちょっと目が合っただけでそんな避けないでもよくない?……まあ目が合っただけですぐに目を逸らすオレも悪いんだけど、「怖っ」でまだ良かったと思うべきか、「キモっ」だったら落ち込んで今日のバイト休むとこだったわ……極め付けに隣にはちょっと怖げな男も座ってるし、まあ知り合いなんだけど……――
隣に座っている男は「坂崎」、斗真の八つ年上の職場の先輩だ
八つ上といっても坂崎はまだ二十四歳で斗真がまだ十六歳という若さなのだ
斗真は先程の女子高生と歳は変わらないが高校には行っておらず働いてる
だから今日は作業着を着ている、いやもうなんならずっと作業着を着ている
斗真にとって「おしゃれ」なんて言葉はない、友達と言える者もいないので世間から取り残されたように毎日を過ごしている
――しかしあのJK 達のせいでスゲ~気になりだした……すみません「ラビストリップ」って何ですか?教えて下さい、えっ怖っ!キモっ!ナンパですか?そういうのいいです!……ならまだいいが完全無視でスルーされると、この時間帯の電車にも乗れなくなるからやめておこう――
「おい斗真!お前JKかぁ~とか言いながらぶつぶつ何言ってんだ?キモいからやめとけ」
「あれ?声出てました?」
――オレの妄想モードが漏れ出したか……まずいな、ロン毛で猫背でぶつぶつ言ってたらいよいよ彼女も出来ない――
「お前いい加減に髪を切れ!お前って顔のパーツは悪くないんだよなぁ、ただ暗いし猫背だしボーっとしてるし隣にいるオレの身にもなれ!」
「そうっすね~たしかにこのままだと迂闊に女子高生に声もかけられないっすね……ハハ」
斗真は肩上くらいある髪を一束に結びながら愛想笑いで誤魔化す
――まあどっちにしても声とか掛けれないけど……女子とまともに喋った事もない……ツラっ――
「オレの床屋紹介するぞ、行くか?」
「……」
「……カネないんで遠慮しときます」
坂崎は昭和さながらのリーゼントスタイルでおすすめしてくる
「ロン毛はキモいからやめとけって」
――キモいキモいってアンタ、ロン毛の人に失礼だろ?いや、オレがロン毛の人に失礼なのか?しかし、ただでさえ学校行ってないのにその髪型にしたら校則に反発して学校行ってません、みたいな感じで周りの目が気になっちゃうからおすすめしないで……――
「そういえばさっきのJKが言ってた「ラビストリップ」って知ってます?」
「あれだろ意識だけ異世界のアバターに飛ばすみたいな、ネットによく出てるぞ」
髪の毛の話を流すために話題を変える斗真
「今はもうそんな時代っすか……」
「いや、お前いい加減スマホぐらい持てよ!」
「カネ無いっす!」
――異世界に意識を飛ばすか……まあオレは意識をいつでも妄想の世界に飛ばせるけどね、しかし高校行けなかったからせめて異世界に行きたい……やっぱカネかかるよなぁ……――
「あんなのめっちゃカネ持ってるヤツくらいだろ、何千万とか掛かるらしいし訓練があるとか無いとか、知らんけど」
――あるのか無いのかくらい教えてくれ、スマホ持ってるんだろ?とそんな事は妄想の世界でしか言えないけど……――
「宇宙も異世界もお前には縁のねぇ話だ」
「……そうっすね」
――いやアンタもね……でも訓練するならやっぱバトルがあるんだろうな、「魔法」とか「特殊能力」とかでモンスターを倒したり……そして異世界美女との運命の出会い……夢のまた夢だな――
今の時代、宇宙旅行も異世界旅行も当たり前になりつつある、金額こそ法外だが憧れの観光である
「それよりお前明日の夜のバイトは来れるよな?前からずっと言ってたやつ…一回十万の、因みにオレも初めてだから、何故かお前も絶対連れて来いって……十万だぞ、これで稼いで女連れて遊びにでも行けよ」
――……オレに女がいたらいいですね、この人分かってて言ってるよね……坂崎さんはそのヘアスタイルでも彼女いるんだから、やっぱオレに彼女が出来ないのは俺自身に問題があるんだな……ふむ、やはりロン毛と猫背が原因か?――
斗真は身長は百七十センチくらいで顔はまあ割りと整っているほうだと言われる、性格は人並みに変態なところもあるが特筆すべきは妄想癖があること、しっかりオシャレでもすれば見栄えは良くなると思うのだが先立つものがない、因みに彼女は一回も出来たことがない
「十万っすか……」
――女がどうとかはモテないオレにはさて置き十万は欲しい――
斗真には欲しい物があるわけではない、生活するためにカネが必要なのだ
早くから両親はいない、父親は始めからいない
母親が水商売をしていてどこぞの男と関係を持って「斗真」が出来たらしく女手ひとつで育てたのだ
斗真が生まれた時には父親は消息が分からなかったらしい
小学校低学年の頃には母親を病気で亡くしている
母方の祖母に預けられ祖父はいなかったのでかなり貧しく子供時代を過ごしていた
祖母にとっては娘も夫も亡くし、残った斗真は亡くした娘に似ても似つかないカネの掛かる無気力な孫
斗真からすれば早くカネを稼いで迷惑をかけたくないのが正直なところである
カネを稼ぐといってもせいぜい日雇いで現場仕事なので生活費の足しにする程度だ
「……わかりました、十万お願いします」
「よっしゃ、よく言った」
坂崎は上機嫌に笑いながら斗真の背中を叩いた
翌日の例のバイトで、黒のワンボックスカーに乱暴に乗り込んで来たのは顔も知らない男達だ
運転手一人に男五人、うち顔見知りは坂崎だけ、何をするのか聞かされず車は走る
――これ……もう闇バイトってやつなんじゃ?……黒のワンボックスってだけで乗りたくなかったのに雰囲気ゴロツキばっかだし、まあオレもその一人だけど………――
斗真は緊張で冷や汗が出て心臓がバクバクしていた
到着したのは夜十一時、ひと気の無い神社だ
車の中で斗真と男二人には「パイプ型スタンガン収納式」を持たされ、坂崎ともう一人には「銃」が渡されていた
坂崎の顔を見ると青ざめてる、おそらく坂崎も知らなかったのだろう
「あの~犯罪はちょっと……家族に迷惑が……」
「断ったら分かってるな?」
「はい、すいません……」
運転手に銃を向けられたトーマは大人しく従った
――ふぅ頃合い見て逃げないと……ただでさえ肩身が狭いのに犯罪はやばい、坂崎さんなんて「銃」持たされてるし――
指示の内容は「ラビス人」の持っている小型の英国風スーツケースのような物を強奪しろとのこと
タイミングは「ゲート」が開いた時と指示役がそう言った
「ゲート?」
他の男達に聞いてもわからない様子だ
――「ラビストリップ」のゲート?異世界ってゲートで行けるの?――
見たら分かると指示役は言う
指示された「ラビス人」とは異世界に住んでいる人のことで、因みにこちら側は「アース人」とラビス人に呼ばれているらしい
神社の物陰に隠れて待つこと約一時間、人影が五つほど近付いてきたザクザクと石を踏み歩く音がする
黒服のマフィア風の男達に囲まれて真ん中を歩いて来る「ラビス人」
深夜十二時近くになる神社の暗闇とは思えないほど何故かはっきり見えているのはその「ラビス人」があまりにも場違い、いや綺麗と言うべきなのか
少し灰色掛かったベージュ色の髪が肩に少し掛かる長さ
ゆるいウェーブスタイルにきめの細かい真っ白の肌
身長は百六十もないくらいだが顔が小さいから背が高く見える
薄い翠眼の目、華奢に見えるが胸はあるので女性的な色っぽさもある
服装はやはり異世界だからか英国風の胸の下で切り返しの入ったワンピースで色はグレーブルーのフリフリしたスカートにインナーはオフホワイトの袖が少し膨らんだような襟付き服を着ている
そこだけ現実離れしたような違和感すらある
しかし黒服は「ラビス人」の背中に「銃」を突き付けて周りを警戒しているようだ
――これどういう状況?女の子は黒服に脅されてる感じだし……その女の子の荷物をオレ達が奪わないといけないって…三つ巴みたいなやつ……?――
ラビス人はなにやら「リング」のような物を手に持ち祈るように目を閉じた
――こんな状況で不謹慎だがめちゃくちゃ可愛い……こんな天使に対してマフィア四人とゴロツキ四人って、マジで襲うつもり?……オレには無理――
一.天使に危害を加えることは出来ない
ニ.逃げたらいずれ殺されるかも、天使もおそらく殺される
三.そもそも天使が襲われるとわかってて逃げるのは、見殺しにするということだから天使をオレが殺すも同義ってことでそれでいて……
――何言ってるのか分からなくなってきたけど――
中央の敷地内で祈りを捧げるラビス人
それを背に囲むように黒服が立っている
ラビス人の目の前に歪みのようなものが現れる
足元にはスーツケースが置いてある、そのスーツケースを奪うのが斗真達の仕事だ
坂崎達が「行け」と手で合図を出す
右側から斗真達スタンガンチームが先に出ていく、斗真はウジウジ迷ってやや後方に遅れて出る
黒服はもちろん武装してるので「なんだお前ら」と銃を斗真達に向ける、いわば囮だ
その瞬間左側から銃チームが飛び出し先に発泡した、銃声が暗闇に響く!
黒服の男達は完全に意表を突かれ数名致命傷を負っている
まだ動ける黒服の一人が坂崎の横の男に撃たれながらも発泡!
坂崎の右足とその横の男の額に命中した
――えっ撃った?……殺した?……は?……こんな簡単に人が死ぬの?うそだろ?――
考えが甘かった
なんとなく生きていたから、このバイトもなんとなく終わるんじゃないかと
斗真は足が震えて動かないし動けない、スタンガンの二人が黒服に向かっていくと倒れていた黒服達が最後のチカラを振り絞り発泡して力尽きた
坂崎は足を引きずって銃を構えたまま「ラビス人」のほうに向かっていく
意識があるのは鬼気迫る坂崎と斗真と「ラビス人」だけだ
「ラビス人」は何が起きたか状況を把握出来ていないがスーツケースを大事そうに胸に抱いて、震えた様子で後退りしている
「待てコラ~!」
坂崎は「ラビス人」に向けて銃を構えた
――やばい!――
動かなかった足が咄嗟に動いた
――なんか熱い……焼けるような衝撃が背中と左肩に感じる……からだ痛ぇ……意味わかんねぇだろうなぁこの子……襲ってきた男達の一人に庇われるとか……ああ、でも女の子守って死ぬとか最期はめっちゃカッコ良すぎるだろ……――
「こんなことなると思ってなかったんだ……ゴメンね」
と言いたかったが声が出てたかもわからない
――時間が止まった……ように感じる……これが走馬灯ってやつ?――
「何してんだぁ斗真ぁ!」
坂崎は錯乱して追い討ちをかけるように発泡!
その瞬間、坂崎の目の前にいたはずの二人が消えた
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