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13話
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ひらひらと手を振って、窓の外に消えていく光を見送った直後、ノックもなしに山小屋の扉を開いたその人は、ここから出て行った時よりも土埃のようなもので汚れているように見えた。
「おかえりなさい。……農作業ですか? その格好で」
「そんなわけないでしょう。先ほども申し上げた通り、この森へは魔物の調査でやってきたんです。それもこんな格好でやることではないのですがね」
箔ですよ、箔。と言いながら、希が使ったたらいに張られた湯を一瞥するだけで消し、水の魔法にくぐらせたたらいを物置に押し込んだ。ありがとうございます、と礼をいいながらもシュールさを感じずにはいられない。
フロウの服装は、森歩きには適さないひらついたものだ。箔をつけるためと言っても、彼以外の姿はこの山小屋にも魔物の住む森にも見当たらなかったから、誰に対しての箔なのかは全くわからなかった。人の目はどこにでもある、ということだろうか。フロウがぱたぱたと服の汚れを払うたびにそれ以上の力できれいになっていくひらひらの服を見ながら、服をきれいにする魔法が使えるならそんな服も着てみたいな~なんて考えていると、彼がおもむろに口を開いた。
「あなた、私のパートナーになる気はありませんか?」
「はい?」
唐突なその申し出に目を白黒させていると、フロウはたたみかけるように続ける。
「国付きの魔法使いにもなれば、魔法の最も近くにいることが出来ます。あなたのステータスを明らかにすることも、元の世界に戻すことも出来るかもしれません。もちろん身分も保証されますし、給料もでます」
「え、それはすごい助かりますけど、これまたなんで急に……?」
パートナー、なんて言い方をするから一瞬どきっとしてしまったことをごまかすように、希は深刻な顔を作った。
「ノゾミがあの森で生き延びたその力を、私に貸していただきたいのです」
フロウもまた真剣な顔で答える。
「もちろん、不用意に力を明らかにしない姿勢は正しいと思います。あなたがこの世界に来たときに受けた仕打ちを考えればなおさら……ですので、ノゾミが私を信頼できると、話してもいいと思えるようになるまで待ちます。話していただけたとしても、他の誰からもあなたの秘密を守ると誓いましょう。……どちらにしてもあなたが私の保護下にあることには変わりありませんので、衣食住の心配はなさらなくて大丈夫ですよ」
胡散臭い笑顔を封印して、できるだけ真摯に対応しようと努めていることが希にもすぐに分かった。きっとフロウは希を悪いようにはしないだろうし、言葉に嘘はないのだろう。けれど、希はまだこの世界の人を信じ切ることはできなかった。
「ありがとうございます、フロウ様。少し考えさせてください……タダ飯食らいは申し訳ないので、できる仕事はやらせてください」
「はい、お待ちしていますね……ところで、体調は問題ありませんか? 実は予定が変わり、明日には研究所に戻ることになりました。ノゾミにも同行していただきたいのですが」
「あ、はい大丈夫です。よろしくお願いします」
研究所、ということはこの世界では魔法使いは研究者的な立ち位置なのだろうか、日本でも国に依頼された企業や研究所が技術開発を担っているし、シンクタンクも存在していたからそれと似たようなものなのだろう。
希の返答に、フロウは「良かった」と安堵の表情を見せる。
「では今日はもうお休みください。軽食、ここに置いておきますね。ここは結界の外なので魔物は出ませんが、何があるかわからないので小屋からは出ないようお願いします」
希が、フロウが何もないところから無地の包みを取り出したことに「本物のインベントリ……」と驚いているのを、時々出てくる魔法使いの語彙は一体何なのかとフロウは不思議そうにみつめた。
「おかえりなさい。……農作業ですか? その格好で」
「そんなわけないでしょう。先ほども申し上げた通り、この森へは魔物の調査でやってきたんです。それもこんな格好でやることではないのですがね」
箔ですよ、箔。と言いながら、希が使ったたらいに張られた湯を一瞥するだけで消し、水の魔法にくぐらせたたらいを物置に押し込んだ。ありがとうございます、と礼をいいながらもシュールさを感じずにはいられない。
フロウの服装は、森歩きには適さないひらついたものだ。箔をつけるためと言っても、彼以外の姿はこの山小屋にも魔物の住む森にも見当たらなかったから、誰に対しての箔なのかは全くわからなかった。人の目はどこにでもある、ということだろうか。フロウがぱたぱたと服の汚れを払うたびにそれ以上の力できれいになっていくひらひらの服を見ながら、服をきれいにする魔法が使えるならそんな服も着てみたいな~なんて考えていると、彼がおもむろに口を開いた。
「あなた、私のパートナーになる気はありませんか?」
「はい?」
唐突なその申し出に目を白黒させていると、フロウはたたみかけるように続ける。
「国付きの魔法使いにもなれば、魔法の最も近くにいることが出来ます。あなたのステータスを明らかにすることも、元の世界に戻すことも出来るかもしれません。もちろん身分も保証されますし、給料もでます」
「え、それはすごい助かりますけど、これまたなんで急に……?」
パートナー、なんて言い方をするから一瞬どきっとしてしまったことをごまかすように、希は深刻な顔を作った。
「ノゾミがあの森で生き延びたその力を、私に貸していただきたいのです」
フロウもまた真剣な顔で答える。
「もちろん、不用意に力を明らかにしない姿勢は正しいと思います。あなたがこの世界に来たときに受けた仕打ちを考えればなおさら……ですので、ノゾミが私を信頼できると、話してもいいと思えるようになるまで待ちます。話していただけたとしても、他の誰からもあなたの秘密を守ると誓いましょう。……どちらにしてもあなたが私の保護下にあることには変わりありませんので、衣食住の心配はなさらなくて大丈夫ですよ」
胡散臭い笑顔を封印して、できるだけ真摯に対応しようと努めていることが希にもすぐに分かった。きっとフロウは希を悪いようにはしないだろうし、言葉に嘘はないのだろう。けれど、希はまだこの世界の人を信じ切ることはできなかった。
「ありがとうございます、フロウ様。少し考えさせてください……タダ飯食らいは申し訳ないので、できる仕事はやらせてください」
「はい、お待ちしていますね……ところで、体調は問題ありませんか? 実は予定が変わり、明日には研究所に戻ることになりました。ノゾミにも同行していただきたいのですが」
「あ、はい大丈夫です。よろしくお願いします」
研究所、ということはこの世界では魔法使いは研究者的な立ち位置なのだろうか、日本でも国に依頼された企業や研究所が技術開発を担っているし、シンクタンクも存在していたからそれと似たようなものなのだろう。
希の返答に、フロウは「良かった」と安堵の表情を見せる。
「では今日はもうお休みください。軽食、ここに置いておきますね。ここは結界の外なので魔物は出ませんが、何があるかわからないので小屋からは出ないようお願いします」
希が、フロウが何もないところから無地の包みを取り出したことに「本物のインベントリ……」と驚いているのを、時々出てくる魔法使いの語彙は一体何なのかとフロウは不思議そうにみつめた。
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