神と従者

第一部

双子

―――御鈴の従者になってから、一週間が過ぎた。家でアイスを食べて寛ぐ御鈴を
横目に、携帯を手に取る。
電話しようかずっと悩んでいたが、決めた。ダメ元であいつらに電話して、見える
ようになった変なものについて聞いてみよう。

「あー・・・もしもし？」

　数コールの後に聞こえた久々の声に、話をどう切り出そうかと悩む。

「ちょっと、相談したいことがあって。・・・あのさ、妖って知ってるか？」

　俺がそう言った瞬間、電話越しの声が消える。相手が黙っただけなのだろうが、
　時間が止まってしまったように感じられた。
　少しの沈黙の後、知ってるという言葉だけが返ってくる。

「その・・・・・・ちょっと色々あって、最近変なのが見えるんだけど・・・。
　何か、詳しく知らねえかなって」

「蒼汰ー？誰と話しておるんじゃ？」

　御鈴がそう言って近付いてくる。すると、電話が切れた。

「あれ、おーい、もしもーし？」

　何で切られたんだと思いつつ、携帯の画面を見る。
　すると、一通のメールが届いた。

　《知りたいことがあるなら家に来て》

　それだけ書かれたメールの下に、画像が添付されていた。どうやら、あいつらの
　家らしい。
　そういえば小学校の頃からの友達なのに、遊びに行ったことはなかったなと思い
　つつ、俺は外へ出る準備を進める。

「出掛けるのか？妾も一緒に連れて行け！」

「・・・まあ、良いけど」

　御鈴の言葉にそう答え、玄関で靴を履く。ついでに神についても聞いてみよう。
　そんなことを考えながら、俺は扉を開けた。



―――森を抜けた先、ぽつんと佇む一軒家。そこが、あいつらの家だった。
《山霧やまぎり》と書かれた表札をちらりと見つつ、コンコンと扉をノックする。少しすると
扉が開いて、男性が顔を覗かせた。

「こんにちは、岸戸です。えっと・・・楓華ふうかと圭梧けいごいますか？」

「ちょっと待ってね、呼んでくるから」

　そう言って男性が家の奥へと消えていく。
　少しして廊下を走る音が聞こえたかと思うと、双子の姉弟きょうだいがひょっこりと顔を
　出した。

「久しぶり」

「うわ、本当に来た」

　双子・・・姉の楓華と、弟の圭梧が言う。そして俺の後ろをちらりと見ると、
　それ？と圭梧が聞いてきた。

「いや、これもだけど・・・違うのも、ちらほら」

　俺がそう言うと、俺の後ろに居た御鈴が不機嫌そうに言った。

「妾をそれじゃのこれじゃのと呼びおって・・・。妾は御鈴、神じゃ！偉いん
　じゃぞ！！」

「なるほど、神様」

　楓華がそう言って御鈴の頭を撫でる。

「まあ取り敢えず入って」

　圭梧がそう言って中に入るよう促す。楓華に頭を撫でられて少し嬉しそうな御鈴を
　連れ、俺は山霧家の敷居を跨いだ。



―――居間で双子に状況を説明をしていると、女性がお茶を持って入ってくる。

「ありがとう、お母さん」

　楓華がそう言ってお茶を受け取り、皆の前に置く。
　そういえば授業参観で見たことあるかもと思っていると、男性が顔をちらりと
　覗かせて言った。

「優花ゆうか、お昼何が良い？」

　女性・・・優花さんが悩んでいると、圭梧が元気よく言った。

「父さん、俺オムライスが食べたい！」

「圭梧のリクエストは昨日聞いたでしょ？今日はお母さんの番」

　男性がそう言うと、圭梧はちぇーと言いながら大人しくお茶を飲む。
　それを見ていた優花さんはクスクスと笑うと、男性に言った。

「じゃあ私、晴樹はるきくんの作ったオムライスが食べたいな」

　ニコニコと笑う優花さんに、男性・・・晴樹さんは困ったように笑う。

「君も食べていく？」

　晴樹さんがそう言って俺を見たので、ありがとうございますと頷く。
　すると、御鈴が言った。

「妾も食べたい！！」

　ちらりと御鈴を見る。晴樹さんは小さく笑うと、分かったと頷いて言った。

「じゃあ、六人前ね」

　驚いて晴樹さんを見る。すると、楓華が言った。

「・・・うちの家族、お母さん以外見えるよ」

「神様は私でも見えるよ」

　優花さんがそう言って笑う。
　自分とは住む世界の違う家族に驚きつつも、話が通じることに安心感を覚えるの
　だった。