神と従者

彩茸

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第二部

異常

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―――夕飯を食べようと、リビングへ向かう。

「ただいま」

 そう言った俺には目もくれず、両親は何処か悩んだ様子で話をしていた。

「蒼ちゃん、帰ってこないね・・・」

「夕方には帰ってくるって言ってたけどなあ・・・」

 その言葉に、俺は足を止める。・・・俺、ここに居るぞ?

「ただいま!」

 さっきよりも、大きな声でそう言ってみる。両親は驚いた顔をすると、俺を見て
 言った。

「わっ、蒼ちゃんいつからそこに?!!」

「おかえり、帰ってたんだな」

 俺ってそんなに影薄かったっけ?なんて若干傷付きつつ、もう一度ただいまと
 言って席に着く。

「あのな蒼汰、急な話なんだが・・・」

 俺の前に母親の作った夕飯が置かれるのを見て、父親は何処か言い辛そうに話を
 切り出した。

「何?」

 何となく予想は付きつつも、俺は首を傾げる。
 両親は顔を見合わせると、困ったような顔で口を開いた。

「あのね、蒼ちゃん。急に急ぎの仕事が入っちゃって、お母さん達明日の朝には
 帰らなきゃいけなくなっちゃったの」

「もう少し居るつもりだったんだが・・・ごめんな、蒼汰」

 やっぱりかと思いつつ、分かったと頷く。

「じゃあ明日の朝食は俺が作るから、父さんと母さんは帰る支度しておきなよ」

 笑顔を作って、俺は言う。両親は優しい笑みを浮かべありがとうと言うと、静かに
 箸を手に取った。

「いただきます」

 三人の声が食卓に響く。視界の端に、ちらりと御鈴と令の姿が見えた気がした。



―――次の日の朝、朝食を作り両親の前に置く。

「わあ、美味しそう!」

「凄いな蒼汰、こんなのも作れるようになったのか」

 いつもは作らないメニューを出し、両親の反応を楽しむ。

「いただきます」

 声を揃え、朝食を食べ始める。
 ・・・食事を口に運んでいると、ふと目に違和感を覚えた。あれ?と思った途端、
 目の前が霞む。

「蒼ちゃん?大丈夫?」

 母親が俺の様子に気付き、心配そうに聞いてくる。

「ああごめん、大丈夫。昨日中々眠れなくて、ちょっと寝不足なだけだから」

 咄嗟に嘘を吐き、笑みを浮かべる。
 目の前は相変わらず霞んだままで、両親の輪郭がぼやけて見える。

「無理はするなよ?」

 父親が言う。俺はうんと頷き、食事を口に運ぶ。
 ・・・大丈夫、ぼやけているが見えてはいる。帰るその日まで両親に心配させる
 訳にはいかない、そう思いながら俺は朝食を食べ進めるのだった。



―――両親が、キャリーバッグを持って玄関に立つ。

「蒼汰、行ってくるな」

「蒼ちゃん、元気でね」

 そう言った両親に、俺は霞んだ視界のまま頷く。

「行ってらっしゃい」

 ・・・俺は、ちゃんと笑顔で送り出せていただろうか。
 両親の表情が分からないまま、扉が閉まる。キャリーバッグの音が遠ざかり聞こえ
 なくなった後、目に激痛が走った。

「っ!!」

 目を押さえ、その場に蹲る。痛みで涙がボロボロと零れ落ちる。

「蒼汰?!!」

 御鈴が驚いたような声を上げ近付いてくる音がする。

「どうした、痛いのか?!」

 慌てたような御鈴の声に、コクコクと頷く。

『消えよ』

 御鈴がそう言うが、痛みが消える様子はない。
 何なんだと思いながら、まだ痛いという意思表示をするために首を横に振る。

「痛みが消えぬのか?妾の力で無理となると・・・」

 御鈴は何かに気付いたのか、目を押さえている俺の手を退ける。
 ・・・そして、息を呑んだ。

「蒼汰・・・?ってお前、目が!!」

 そう言いながら駆け寄ってくる令の姿がぼんやりと見える。

「目・・・?」

 俺が朦朧とし始めた頭でそう呟くと、全身の力が抜けその場に倒れてしまった。
 視界が段々と暗くなる。何も考えられないまま、俺は意識を手放した。
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