神と従者

彩茸

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第二部

限界

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―――目が覚める。誰かに目をそっと抑えられている感覚に、目を開けず誰だろうと
思う。

「・・・もう、人間とは言い張れないの」

「御鈴にどう説明するのかの」

 聞き覚えのある少年と少女の声に、ゆっくりと目を開ける。
 声の主はそれに気付いたのか、俺の目から手を離した。

「宇迦、御魂・・・」

 俺の顔を覗き込む宇迦と御魂と目が合う。宇迦と御魂は何処か悲しそうな顔を
 しながら、俺に言った。

「道に倒れていたお主を娘巫女・・・由紀が運んできての」

「我らの本殿に繋いでお主を運び込んできたときは驚いたが、目を覚ましたようで
 良かった」

 娘巫女を呼んでくると言って宇迦が扉を開けて出て行く。
 起き上がり辺りを見回すと、少し古めかしい毬や独楽くらいしか物がない木造の
 部屋の真ん中に寝かされていたことが分かった。

「本殿・・・ってことは、ここは夜宮神社なんですか?」

 俺がそう聞くと、御魂は頷く。

「生憎、神主も静也も外出中で、娘巫女しかここには居らぬがの」

 そう言った御魂は、俺の耳元に口を寄せると呟くように言った。

「蒼汰、これは我のお節介じゃが・・・従者となったこと、後悔するでないぞ」

「え?あ、はい」

 どういう事だろうと思いながらも頷くと、御魂は俺の頭を優しく撫でてきた。
 困惑しながらも暫く撫でられていると、部屋の扉が開く。

「蒼汰くん、大丈夫?」

 そう言いながら部屋に入ってきた由紀に、大丈夫と頷く。

「宇迦様から蒼汰くんが起きたって聞いて、飛んで来ちゃった」

 由紀がそう言って苦笑いを浮かべる横で、宇迦は何だか複雑そうな表情を浮かべて
 いた。



―――由紀から俺が倒れていた所を見つけ、運んできた経緯を聞かされる。
散歩感覚で工事現場の仮設トイレと自分の部屋を異能力で繋いで辺りをブラついて
いたら、偶然倒れている俺を見つけたしいが・・・そもそもどうして仮設トイレに
繋ごうと思ったんだ。

「ほら、私の能力って扉があれば何処にでも行けるから」

 えへへと笑いながら言う由紀に、宇迦と御魂が呆れたような顔をする。
 ・・・なるほど、普段からそういう事をしているのか。

「あっ、でもちゃんと人が居ない所は選んでるよ?」

「いや、それ以前の話だろ・・・」

 由紀の言葉にそう言って溜息を吐くと、ふと目の奥がズキリと痛む。
 目を押さえると、由紀が心配そうに聞いてきた。

「目、痛いの?」

「・・・ごめん、大丈夫」

 すぐに消えた痛みに目から手を離しそう言うと、なら良いんだけど・・・と由紀は
 心配そうな顔のまま言った。
 この痛みは何なんだ、俺の目に何か異常でも起こっているのか。そんなことを
 考えながら、俺は立ち上がる。

「ありがとう、助かった。そろそろ帰らないと両親が心配するから、俺帰るよ」

 そう言って部屋を出ようとすると、由紀は俺を呼び止めた。

「送るよ」

 そう言ってニッコリと笑った由紀は、扉に手を掛ける。

「そうだ私、蒼汰くんの家の住所知らないや。住所分からないと、高確率で変な所に
 飛んじゃうんだよね」

 教えてくれない?と由紀が俺を見る。
 悪用するなよと念を押しつつ住所を伝えると、ありがとう!と由紀は笑って扉を
 開いた。

「お邪魔してまーす!」

 由紀の声に扉の先を見ると、そこは俺の部屋で。部屋に居た御鈴と令は、由紀と
 俺を見て目を丸くしていた。

「あー、えっと・・・ただいま?」

 俺の部屋に入りそう言うと、御鈴がおかえりと言いながら抱き着いてくる。
 そしてハッとした顔で俺の顔を見た後、俺の後ろに立っていた宇迦、御魂、そして
 由紀を見た。

「宇迦、御魂・・・」

 震える声でそう言った御鈴に、俺も彼らを見る。困ったように小さく笑みを
 浮かべる由紀の隣で、宇迦と御魂は静かに首を横に振って言った。

「我らは

「お主らの問題じゃ、我らが口出しする訳にはいかぬ」

 何の事だと思いつつ、御鈴に視線を戻す。御鈴は何かを決意したような、
 それでいて何処か悲しそうな顔で俺を見て言った。

「蒼汰、出掛けている間に何があった・・・?お主の体が、限界を迎えておる。
 もう、お主は・・・」

 泣きそうな声で言った御鈴に、なるほどそういう事かと思う。不思議と驚くことも
 なく、ただ納得したような気持ちになっていた。
 もしかしたら、無意識に理解していたのかもしれない。・・・もう俺は、
 のだと。



―――俺は蜘蛛の大妖怪に襲われたこと、そして神通力を使ってそいつを殺した
ことを御鈴に話す。そして由紀が倒れていた俺を見つけ本殿に運んでくれたことを
話すと、御鈴はそうかと小さく呟いて由紀達を見て言った。

「すまぬの、蒼汰が世話になった」

 宇迦と御魂は頷くと、気にするなと笑みを浮かべる。

「な、何かあったら頼ってくれて良いからね?私、知識だけはあるから!」

 由紀がそう言って御鈴と俺を交互に見る。

「ありがとう」

 御鈴はそう言うと、部屋の扉をそっと閉めた。

「蒼汰・・・」

 令が俺の足に体を摺り寄せる。

「どうした?」

 俺がそう言って令を抱き上げると、令は俯いて小さな声で言った。

「・・・お前、本当に人間のニオイが消えかけてるな。殆ど御鈴様のニオイ・・・
 いや、似てるけど違う変なニオイがする」

 別の誰かになったみたいだ。そう呟いた令は、そっと俺の頬を舐めた。
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