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第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?

17.傷

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幸い翌日はまた初夏の日差しが戻った為、積もった雪は直ぐに解けた。


少しして、トレーユが雪が吹き込んできた方向に調査に向かうと言い出した為、アリアと共に同行することにする。

「あれ? キミは『はずれ』スキル持ちだから一緒には行けないんじゃなかったの?」

身支度を整えていた俺に向かって、俺の姿を模したカルルが意地悪く笑った。

「もうそれすら持っていないけどな」

動じることなくそう返せば

「へぇ?」

カルルがニヤリと口角を吊り上げカルルまた挑発的に嗤う。

「『俺では無理なんだ』だろう? 『俺では、いざという時アリア達を守れないどころか、足手まといになってしまう』そう思ってカッコよく身を引いたんじゃなかったのかい??」


「……トレーユがずっとそんな恰好をしている理由をアリアから聞いたよ」

突然の話に、何の事かとトレーユとアリアが首を捻った。

「スキルで強い魔法を使うとその代償で体にクラックが残るんだってな。だからそれを隠す為暑い日も肌を見せないんだろう?」

何か言おうと口を開いたトレーユとアリアを、カルルがすっと手で制し俺に続きを促す。


「俺もさ……、自分ではずっと気づいていない振りしてたんだけどさ、王都に居る時、内心では結構傷ついてたんだと思うんだ」

最強だと誇りに思っていた親父があっけなく死んでしまって。
その悲しみを乗り越える前に母さんを看取って。
子どもの頃は自分は父さんみたいに強くなるのだと自惚れていたのに、みんなにどんどん追い抜かれて挫折して。

だからトレーユを紹介された時、勝手に劣等感を刺激されて僻んで、トレーユの事なんて何にも知らないくせに

『コイツならアリア達を守ってくれるだろう』
『きっとトレーユなら、ダークウルフ程度に苦戦したりなんかしない』

そう決めつけて苦しい事、辛い事、全て押し付け一人逃げたんだ。

どれだけ最強と謳われようと傷つかない人間なんていないと、俺は誰より知っていた筈なのに。


「でも俺の傷は、あの時アリアがとっくに直してくれたから」

馬鹿やらかしたあの時、アリアが俺がずっとずっと心の中、誰かに言って欲しいと思っていた言葉全部をくれたから。

『ハクタカはね、凄いんだよ』

『私が保証する』

そう言ってくれたから。
俺の傷はトレーユの物と違ってもうとっくに治っている。


だから、

「今度こそ俺の役割は俺が引き受けるよ。何も出来なくても、例え足手まといと言われようと一緒に行く。置いていかれたのなら石に齧りついてでも勝手に追いかける」

「そうか。……よく分かった」

俺の決心を聞いたカルルが、俺の姿をしたまま目を優しく細めた。

……あれが俺の顔なのだろうか??

王都の下町はもちろん、この村に精巧な鏡なんてない。
だから、俺は長らく俺がどんな顔をしているのかなんてよく知らなかったのだが?

穏やかに微笑むカルルは、ずっと憧れていた記憶の中にあった強い親父によく似た顔をしていた。


「ちなみに……」

カルルがまたおかしそうに笑って話を続けた。

「トレーユがこの服装なのは別に傷を隠しているからじゃない。これは昔から馬鹿の一つ覚えでこういった服ばかり着ているんだ。ハクタカ、お前が逃げた事とは何ら関係ない。単にこれはトレーユの趣味だ」






◇◆◇◆◇

旅支度を整え村を出た後、トレーユを先頭に、吹雪が吹き込んできた方角を目指して歩いた。

標高の高い山道の日陰部分は所々まだ深い雪が残っていたり凍結してしまっていた所もあった。
しかし、俺の肩に乗って勝手について来ていたシューが火炎を吐いて道を作ってくれたので、迂回を迫られる事も無く目指す方角に比較的順調に進む事が出来た。


そうしていくつかの村を過ぎた後、小さな街に着いた。

……いや、正確には街『だった』場所と言った方が正しいだろうか。
辿り着いた時、その街に人の姿は一切なかった。

かつて魔王、もしくは魔物の襲来を受け滅んだのだろう。

雨風にさらされボロボロに傷んだ近くの民家の戸をノックしするが当然ながら返事は無い。
鍵の掛かっていないドアを開ければかび臭い部屋の中には蜘蛛の巣が幾重にもかかり砂埃が厚く堆積している。

試しに他の民家や食堂だったと思しき建物の中を確認するも、結果はどこも似たようなものだった。


「ここでも何の情報も得られそうにないな」

「先にすすむか? それとも一度戻るか??」

トレーユと顔を見合わせ、そんな風に言葉を交わした時だった。

風に乗ってどこかから、子どものすすり泣くような声が聞こえて来た。
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