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第三章 刺激的なスローライフ

31.絶望的につまらない話

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「それが……ローザとの結婚の話なんだけどさ」

作戦失敗だなと思いつつ、単刀直入に言えば、

「ハクタカ、キミ、ローザと結婚するのか?!!」

トレーユがそんな酷く驚いたような声を出した。
そうして、何を思ったのか不憫そうな顔をしてアリアを見た後、『見損なったぞ』とばかりの厳しい視線を俺に向けてくる。

「……いや、俺じゃなくて。結婚話が出ているのはトレーユだろう?」

そう言えば、今度はトレーユが目を丸くして俺を見た。

うん。
どうやら今回の結婚騒動について、可哀そうにトレーユ自身は何も知らされていなかったらしい。




「迷惑かけてすまなかった!!」

遠路はるばるこんなところまで呼び出された経緯を知り、そう深く深く頭を下げるトレーユに

「そういう訳で。出来るだけ早く穏便にこの話を無かったことにする為にも、トレーユの思い人を教えてくれないか?」

ローザが引きつった笑いを浮かべながら、

「そうすれば私達がその人を探してこよう。そうして、トレーユの結婚が無事決まれば、私は晴れてお役御免だ」

そう言ったのだが?

悪い話ではないだろうに。
しかしトレーユはグッと口を噤むと頑なに、自らの初恋の相手とやらについて一切語ろうとはしなかった。


こうなったら、仕方ない。
無理に人の秘密を暴くのは好きじゃないが、今回はローザの為でもある被害者がいるからな

「なぁカルル、トレーユの初恋の相手って、誰なんだ?」

奥の手とばかりにカルルにそう聞けば、

「残念ながら、私も聞いたことないんだよね」

カルルが小さく肩をすくめた。

なんだ。
付き合いの長いカルルなら何か知ってるんじゃないかと期待したのに。

さて、どうしたものか。


皆でトレーユの想い人にの見目について、

『いったいどんな美人なのだろう』

トレーユが貝のように口をつぐんだのをいいことに、各々好き勝手予想を話始めた時だった。

俺たちの勝手かつ的外れな推論に耐えかねたのだろうか、それとも動揺を誤魔化すために水のように煽っていた酒が毒耐性の許容量を超えてイイ感じに酔っぱらってきたのだろうか?

「まったく、こうやって詮索されるのが嫌だから俗世を離れ神殿にいたというのに。そもそも伴侶というのはその見目だけで選ぶものではないだろう? 伴侶というものは互いを敬愛し……」

珍しくトレーユのありがたくも長い説法切望的に詰まらない話が始まってしまった。
ちなみに、トレーユはよく誤解されるが断じて男色家ではないそうだ。

トレーユが語った、その高い高い天よりも高い理想に

「うん、よく分かった。それでローザに白羽の矢が立ったわけだ」

と言えば、ローザが本当に勘弁してくれと顔をまた青くした。

ローザも伴侶は見目だけで選ぶものではないと思っているらしい。
惜しいな。
価値観もピッタリなのに。


トレーユの理想に当てはまる程高潔で、それでいて第四王子の伴侶として恥ずかしくない家柄かつ、堅物なくせに意外とフットワーク軽いトレーユと一緒にいて生涯苦にならない人物……。

あともうちょっとで、何か閃きそうな予感がしで背中のあたりがムズムズした時だった。

アリアがとなりでふわぁぁぁと大きなあくびをした。
ふと日暮れ前に灯した蝋燭を見れば、すっかり短くなってしまっている。

俺も急に疲れを感じて、とりあえず食器を片付けて横になることにした。

寝ながらでも話が出来る所が、お泊まり会の素晴らしいところだ。




「じゃあ野郎が下って事で」

そう言えば、王子であるにも関わらず、トレーユが床で雑魚寝することに何の不満も漏らさず頷いた。

うん、やっぱりトレーユはいいやつだな。
そう思った時だった。

長旅の疲れもあったのだろう。
誰よりも早くふかふかのベッドにダイブしたカルルを、

「お前はこっちだろう!!」

ニコラがベッドから引きずり下ろそうとし、カルルが本当に一瞬『しまった』という顔をした。


「なんだ。やっぱりカルルは女の人だったんだな」

俺が悪気無くそう言った瞬間だった。
トレーユが飲んでいた酒を噴き出し激しくむせた。
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