サウザンド・ジョブ・オンライン ~あるみならい僧侶の話~

アヤマチ☆ユキ

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第2章 出会いの街 編

054 ”夢”の(不確定名)装備 <04/05(金)PM 00:26>

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 ※※※ 注意 ※※※

 ただいま [夢の洞窟] 中です。


 大量だったり、黒かったり、テカってたり…そういうのが苦手な方は、しばらく読み飛ばしていただいた方が良いかと思います。ご注意下さい。

 [夢の洞窟]終了まで『目印』として、『無理矢理サブタイトルに”夢”の文字を付けていこう』と思います。よろしければ参考にして下さい。

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 出会いの街[ヘアルツ]に到着して2日目、LV12になった俺は『プレイヤーショップ巡り』に繰り出した。そして南口2広場付近にやって来たところで、[夢の洞窟]探索の募集を見つけてしまい、参加を決定する。
 南口2方面の西(←)の岩山にある[夢の洞窟]に到着し、突入した俺達は同行して初のLV15以上のモンスター『Gカマド』LV16を発見し、『狂戦士』であるケイの『ダメージ調整』をしてから一刀両断で片付ける。
 その後、通路の分岐を右へ右へと進んだ俺達は、小部屋の中で宝箱を2つも発見し、『斥候』LV17のヒイラギが右の宝箱の罠を解除、中から出てきたのは小さなビンだった。


「なんだソレは?」
 ヒイラギが宝箱から取り出した『10cmほどの小さなビン』を見て、ケイが不審そうな声を出す。あれはおそらく……

「『蟻酸』 ……ですかね?」
「こりゃぁ蟻酸? …か?」
 俺とヒイラギの意見が一致した。宝箱からでも『未鑑定』アイテムは出る。しかし当然だが俺達3人は『鑑定』が使えない。ヒイラギの持った小瓶をじっと見てみても、

《名:瓶(小)(不確定名) 所有者:ヒイラギ 〈警告〉取得すると窃盗となります》

 ……と、この様な感じだ。
すでにヒイラギが入手したので、当然ヒイラギ所有アイテムである。

 「………」『蟻酸ぎさん』… 調合、薬師くすしや錬金術師などの他に、鍛冶屋にも需要がある薬品? である。確かレザー系の生成に使う素材? とかだったと思う。専門外なので詳しくは知らない。名前の通り『アリ』系や、他に『ハチ』系のモンスターがドロップするのだが、大体は『激レア』ドロップなので あまり入手出来ない。

 しかし、この[夢の洞窟]の様な自然系、『アリの巣』の様なダンジョンの『固定箱』から出る事がある。価格は30,000G、つまりNPC売却(20%)で 6,000Gだが、幅広い需要のため普通に買取募集があるので、どんなに安くとも25,000Gはかたいだろう。
 もちろん『未鑑定』であるので、初回鑑定にNPC販売価格の1/10。つまり『3,000Gもかかる』わけだが、それはつまり『初回鑑定ボーナス経験値も良い』…という事なので、とても羨ましい。


「おめでとうございます」
「お~、なんか悪ぃな」
「俺は防具が欲しい」
 なんともバラバラだ。まぁ『狂戦士』のケイは『ダメージ調整』の関係上、現状で最高の防具を揃えるより、≪色々な防具を持っている≫方が都合が良い。
 最初のチグハグな装備から考えても、ほとんど≪拾い物≫とかじゃないだろうか。

 まぁ『狂戦士』の≪1番のネック≫はHP回復になる。一応「攻撃&HP回復速度補正(極)」補正があるので、〈通常状態〉に戻せばHP回復アイテムを節約出来るのだが、例によって〈戦闘状態〉では回復は止まる。戦闘中に回復しないわけにはいかず、ポーションが低性能&高価なので、ガンガン所持金が減ってしまう。
 反面、『回復職』がいる場合には、無限?に戦闘を続けられる強力な『壁&アタッカー』となれる。「とにかく回復してくれ」という、ケイの一貫した要求は≪このため≫だ。


「しっかし蟻酸? が出たって事は、『固定箱』だったんだな」
「みたいですねぇ」

 「………」ダンジョンには『固定箱』と呼ばれる、常に『≪一定の場所≫にPOPする宝箱』と、フィールドで俺が探していた宝箱の様に、『ランダムにPOPする宝箱』がある。
 『フィールドPOP宝箱』と違い、ダンジョンでの宝箱は、どちらも罠が仕掛けられている事があり、ミミックである事もある。

 混同を避けるために、『フィールドPOP宝箱』と、『ダンジョンPOP宝箱』、『固定箱(固定宝箱)』と分けて呼称する。『フィールド固定宝箱』は存在しない。
  ~(中略)~
(仮にピラミッドの様なダンジョンなら、やはりエジプト風のアイテムが出た方が≪らしい≫からである)それから固定箱の内容も『そのダンジョンゆかりのアイテム』である事が多い。

 ……という事だった訳だが、この『固定箱(固定宝箱)』。通常は『ボス部屋』などにあるのだが、こういう『行き止まりの部屋』などにも『固定箱』が設定される場合がある。
 ご存知の様に、TJOではダンジョンは『半ランダム生成』であるので、確実に配置される『ボス部屋』と違い、どの部屋に『固定箱』が設定されるか? は運であり、『固定箱』が設定された小部屋が≪配置されない≫場合もある。また『ボス部屋』と比べ、『固定箱』のPOP(出現)率や、POP間隔が長めに設定される場合が多い。

 まぁようするに『ラッキーだった』わけだが、はじまりの街[スパデズ]のダンジョン[山の洞窟]1層で、「罠:仕込み刃、罠LV19」の≪俺達が諦めた宝箱≫や、『諦めた扉』の向こうに≪あったかも知れない宝箱≫も、「もしかしたら『固定箱』だったかも知れない」 …のであるが、まぁ仮定の話であるし「命あっての物種ものだね」だ。

 とは言え経験上「蟻酸かな?」というだけで、もしかしたら『タダの腐った水』などという可能性もある。まぁ罠LVは29だったので「それなりに価値のあるアイテム」ではあると思うが、俺達は『鑑定』出来ないので過度の期待は禁物だ。


「よしっ、それじゃ次は こいつだな。離れててくれ」
 ヒイラギは『瓶(小)(不確定名)』を『インベントリ』に放り込んで、残った宝箱に向かう。俺達も指示通りに少し離れて周囲の警戒と、回復の用意をしつつ見守った。

「それじゃ …分析:罠[トラップアナライズ]っと」
 ヒイラギがスキルを使用すると、宝箱の上面部から下底部に向けて、『光る板状のモノ』がス~っと降りていく。

「罠は『警報』で、罠LVは26だな」

 「………」『警報』。その名の通り不審者(俺達)の存在を、周囲のモンスターに知らせるという罠である。火災報知器の様に「モンスターを呼び寄せる騒音を出す」…だけで、この罠自体から受ける被害は無い。
 言ってみれば『饅頭マントウひつじ』が、悲鳴ヒメェ~をあげて『盗ゾック』パーティを呼び寄せていた様な感じなのだが、『饅頭ひつじ』が『盗ゾック』を「1パーティしか呼び寄せない」のと違い、警報は『何』を、『何体』呼ぶか? わからないので厄介なのだ。

 ゲーム時代「解除せずに宝箱を開けて、モンスター呼ぼうぜ」…などと言いだすプレイヤーも居たのだが、『ランダムに選ばれて』やってくるモンスターは、『非アクティブモンスター』であっても、〈戦闘状態〉で『中ヘイト』ぐらいでやって来る。
 俺達が『山ゾック(斧)』1体と戦闘中に、さらに2体やって来て その仮FA(最初に見たターゲット)が、ツカサさんと、シノブさんになってしまい、フォーメーションが乱れて大苦戦をした…様に、この警報を鳴らした場合、大抵『非常に危険』な状態におちいってしまう。

 また『選択されるモンスター』は、「その周辺にPOP(出現)するモンスター」らしいのだが、人気ダンジョンなどで≪狩り尽くされている場合≫も考慮されているらしく、『警報』に合わせてPOPしてやって来る様だ。
 そしてその『数』は、『警報LVにより上下する』ため…、
「鳴り響く『高LV警報』の音」 = 「終末、破滅を告げるラッパ」である。

 ……とはいえ、先ほどより罠LVが低い。今回のところは問題無いだろう。


「これも余裕だな。 ……解除」
キンッ!
 ヒイラギはそのまま解除にかかり、当然の様に解除に成功する。謎の金属音(罠解除成功音)がして、宝箱の前面の錠前が地面に落ち、霞んで消滅していく。

「ほれ、ケイの番だ」
「あぁ」
 ヒイラギが宝箱の前を譲り、ケイが宝箱をガッと開ける。そしてケイが取り出したのは…… 盾? だ。じっと見てみつめてみると、

《名:盾(不確定名) 所有者:ケイ 〈警告〉取得すると窃盗となります》


 「………」ついに始まったTJOの『品質、クオリティ』攻撃である。
 はじまりの街[スパデズ]には『初級鑑定士NPC』しか居なかった。あの『石橋』を渡るまでは、「ノーマルアイテム、0品質、白アイテムしか出ないから」…である。つまり… 『石橋』を渡り大陸に入ってからは『-9 ~ 0 ~ +9』の装備品が出る様になるのだ。

 ところで俺がこれまでに入手した …『鉄の長剣』、『鋼のナイフ』、『青銅のブーツ』などは全て『鑑定済み』、『確定名』だった。
 実は『鑑定スキル』の無いプレイヤーでも、0品質、(ノーマル、白)装備品だけ『辛うじて鑑定出来る』ため、「ノーマル装備品だけが鑑定済みの『確定名』で入手出来る」 …という設定である。
※その後『簡易鑑定』が実装されたため、この『簡易鑑定』能力によって、「鑑定している」…という事になった。

 ようするに今『宝箱』から出てきた『盾(不確定名)』は、≪俺達が鑑定出来ない≫時点で、「『0品質(ノーマル)以外』の装備品である」…事が『確定』。
 つまり、「『-9 ~ -1』か、『+1 ~ +9』の品である」 …という事だ。

 ちなみに『装備品の(不確定名)の品』は、鑑定しても『初回鑑定ボーナス経験値』は≪得られない≫。さらに『-9 ~ -4』の品は、鑑定(NPC販売価格の10%)してから、売る(NPC販売価格の20%)と、≪足が出る(赤字になる)≫のである。(※『白ネーム』プレイヤーの場合、『青』や『黄赤』ネームは、恩恵やペナルティにより赤字ラインが異なる)

 「それじゃリスクとリターンがつり合って無いのでは?」…と感じられるかと思うのだが、大きな、広い目で見ると、『マイナス品』が出るからこそ、高価値、高性能な『プラス品』が入手出来る『可能性がある』…のである。
 はじまりの街[スパデズ]でどれだけ粘っても、『ノーマル装備品』しか入手出来ない。これは「ローリスク、ローリターン」と言えるだろう。

 ツカサさんが[山の洞窟]でこまめにかけていた… まやかしの切れ味[フロードシャープ]〔※1〕は、その〈戦闘状態〉中に限り、武器の品質を『+1』する魔法である。
 それが『常時』 +1、+2された強力な装備が、手に入る≪かもしれない≫…という『とても大きなリターン』があるのが、大陸に入ってからの『宝箱』なのだ。 ……言うまでもなく、当然、無論、もちろん、すこぶる『ハイリスク』ですよ? ヤマコウですよ?


「ちっ 『盾』か」
「まぁ一応は、『防具』じゃねぇかw」
「いらねぇ」
 ヒイラギは不満そうなケイをからかっている。まぁ『狂戦士』に一番不要な装備だしなぁ。ケイは不機嫌そうに『盾(不確定名)』を『インベントリ』に放り込んだ。

「さっさと次に行くぞ」
「まぁ、もうこんな部屋に用は無いな。行くか」
「そうですね」
 振り返ると虫で出来た通路が見える…またSAN値が下がりそうだが、最初の小部屋で『宝箱』が2個も見つかり、『蟻酸?らしきモノ』まで出たので、現金な俺は少し『正気度』を取り戻せたようだ。(※TJOにSAN値や正気度といった概念はありません)

 そんなわけで俺達3人は、またゆっくりと歩きながら『小部屋』を出て、もう一方の『まっすぐ伸びていた通路』を進みはじめたのだった。
 視界の右下の方へ意識を向けると<04/05(金)PM 00:37>と表示されていた。


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LV:12(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:4,961G
武器:なし
防具:布の服
所持品:10/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×21、バリ好きー(お得用)90%、樽(中)90%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ、賞金首の首輪[†カムイ†]懸賞金:94,000G、鬼王丸×2


〔※1〕まやかしの切れ味[フロードシャープ]
 半径10m範囲内の〈戦闘状態〉の対象1人が装備している武器の品質を、『その戦闘中に限り+1する』(効果は重複しない、+9には効果が無い)
 魔法力により対象の武器の鋭さを増し、切れ味をあげる。あくまで切れ味だけであり属性などは付与されない。何故か切れ味の無い武器でも効果はあるので安心。

 『戦闘時の専用魔法』であるのと、『〈戦闘状態〉の相手にしか効果が無い』ため、両者が〈戦闘状態〉にならないとならず、戦闘前にあらかじめかけておく事が出来ない。
 (おそらく悪用しての交換サギなどの防止のためであろう。〈戦闘状態〉では取り引き行為は出来ない)
 低品質では+1の効果はさほどでも無いが、元が高品質であるほど効果が高くなる。また長期戦が予想される場合には、使用する、しないで総ダメージにかなりの差が出てくる。

分析:罠[トラップアナライズ] 宝箱等に仕掛けられた罠の種類と罠LVを識別し、罠LVを半減させる(小数点以下切捨て)
  補足:ミミックだった場合は、そのミミックのLVも識別する、ただしミミックのLVは半減出来ない。


「ご主人さまは、ぎさん うらやましいの?」
「そうだな。ブタスキノコのNPC販売価格は6,200G。鑑定料(10%)が620G、売却額は20%で1,240G」

「また ぶたすきのこ さがす~」
「いいぞ、その意気だ。まぁそれで『蟻酸』のNPC販売価格は30,000G。鑑定料が3,000G、売却額は6,000G」
「ん~?」
「つまり単純に、蟻酸1つで、ブタスキノコ5つ分だ」
「ぎさん すご~い」

「しかも需要があるので普通に1割引の『27,000Gでプレイヤーに売れる』だろうから、鑑定料を引いても、24,000Gの儲け… つまりブタスキノコが20個分だ」
「すごいすご~い」
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