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第2章 出会いの街 編
081 なんという良ゲー・・・このオレも間違いなく伸びる ^o^ <04/05(金)PM 08:52>
しおりを挟む出会いの街[ヘアルツ]の『南口2方面』、その南西にある石橋『安全地帯』で、凶悪な『初見殺し』、身長15mの巨大な『シーシュボッチ』LV42君を発見する。
ゲーム時代の美味しいイベントを知っているため心惹かれたのだが、当然その≪致死率100%≫とも言える苛烈さも身に染みて知っているので、俺は特に何の手出しもせず退散する。
そして予定通りに北へ向かい、『岩山』~[夢の洞窟]を経由して『南口2の門』から街へと帰りついたのだった。
時間をずらしてみたのだが、コレと言って宝箱も恐らく目ぼしい素材も入手出来なかった(もちろん鑑定してみないとまだわからないが)感じだったのと時間も遅いため、そのまま『ミスターチキン』に直行し手早く晩飯を済ませ、宿へと戻った。
受け付けの量産型おばちゃんから鍵を受け取り部屋へ入ると、ミケネコさんが「もう我慢出来ない!」とばかりに走っていき、ピョン、ピョンっと椅子から机の上に飛び乗り、ピシッとおすわりの格好をして俺に目で訴えてきた。
ミケネコさん… バリ好きー欠乏性にかかって……
ともかく≪色々と限界≫の様なので俺も椅子に座って、『インベントリ』から バリ好きー(お得用)の袋を取り出し、いつもの様に袋に手を入れて掌に小盛りにして、やけに姿勢の良いミケネコさんの前に差し出す。
「ほら、遅くなって悪かったな」
「やった♪」
カリカリカリポリ、カリカリカリポリ、カリカリカリポリ
…脇目も振らずミケネコが”バリ好きー”を噛み砕いていく。あれよあれよという間に俺の掌の上のバリ好きーは消えてなくなった。
ミケネコはかなり不満そうに俺の顔を見上げている。う~む、一食分浮いた気がしていたが、そんな事は無かった様だぜ?
「わかったわかった」
再度袋に手を入れ掌に小盛りにして、バリ好きーをミケネコの前に差し出す。
「はい」
「やった♪」
カリポリポリポリ……、カリポリポリポリ……
ミケネコは嬉しそうに≪おかわり≫をゆっくりと味わって堪能しはじめた。俺は”バリ好きー(お得用)”を『インベントリ』に放り込む。『シーシュボッチ』か……
「…入り入り降れ、入り法~、入り入り降れっ方法~ オオキクナレヨ~」
「ん~?」
突然食事中に歌いだした俺を、ミケネコが一瞬不審そうに振り返り、またバリ好きーに夢中になる。
カリポリポリポリ……、カリポリポリポリ……
「……わんぱくでもいい。たくま…しく…… 育って… 育……」
「? ご主人さま~?」
珍妙な歌を歌い出したかと思えば様子のおかしくなった俺を、ミケネコさんが「あぁ…… とうとう……」といった感じで見上げていた。
「……そうかっ! 『成長期』か!」
「せいちょーき~?」
「あぁ、個人差もあるが少年、青年期等に一時期、急激に身体や能力等が伸びる事がある。TJOでは≪それ≫を再現するかの様に、各プレイヤー毎に≪ある一定のランダムな時期≫に、LVUPまでの必要経験値が緩和され、LVUPしやすくなる」
「かんわ~?」
「………」と言っても、TJOでは『LV50までの間』に全てのプレイヤーに訪れる… という一種の「フィーバータイム」、「ボーナスタイム」みたいなものだ。
早く『成長期』が来た方が早くLVが上がるが、「低LVではどのみち皆LVUPは早い」ため、LVUPが停滞しがちなLV帯、つまり「LV50間際に訪れる方がラッキー」とされていた。不公平にならない様にしっかり調整されているらしく、結局は「気分的なもの」に過ぎないが。
要するに「早熟」とか「大器晩成」とか、そういった個性みたいなモノを、TJOではこの『成長期』という仕様で表現しているわけだ。
本来は『橋』を渡ってLV10になってからは、≪LVが上がり辛くなるもの≫なのだが、俺はLV10以降も、俺の≪予想した以上に≫トントン拍子でLVUPしてきた。「LVUPのタイミングとかなのだろう」などと納得していたが、今回ので『成長期』だ(だった?)と確信した。
確かにそれなりに頑張って挑戦をしたが、ゲーム時代の感覚では「ここまでLVが上がるほどでは無い」と言いきれる。[スパデズ]でLV1の時に、知らない内にLV8の『トシマ山猫』ファミリー? に遭遇していた… 等という「イレギュラー中のイレギュラー」と言っていい事態は、確認した通り今回は無い。
今回イレギュラーと言えば… 『スライム』LV32や『ミミック』LV21に遭遇した事だが、残念ながらどちらも『初回遭遇の経験値ボーナス』が無い。
もちろん討伐時の経験値は入るが『スライム』は回避したし、『ミミック』戦で、俺は1ダメージも与えて無いので≪経験値はゼロ≫だ。(逆にヒイラギLV17やケイLV15は、≪格上の『ミミック』LV21を討伐した≫事で結構な経験値が得られただろう)
「………」[夢の洞窟]に出現するモンスターは『全部で5種類』である。
『非アクティブモンスター』の『Gフライ』LV10、『G亀』LV12、『Gブラック』LV14、『G竈』LV16。そして唯一の『アクティブモンスター』である『G百足』LV18だ。よって、
『Gフライ』LV10×3体分
『G亀』LV12×3体分
『Gブラック』LV14×3体分
『G竈』LV16×3体分
『G百足』LV18×3体分
それに『蟻酸』等の鑑定ボーナス。
ケイが『狂戦士』で被ダメージ、回復頻度が高めだったので、回復による経験値もそこそこだったと思う。
しかしそれでもゲーム時代の感覚から言えば、LV12から16は≪上がり過ぎ≫だ。LV14に上がれば上出来…ぐらいに思える。
やはり『成長期』(だったの)だろう。この間は必要経験値が『ほぼ半分』くらいになるらしいから、「予想の倍近い速度でのLVUP」も納得出来る。
こうなってくると最初の「ギリギリLV12になった」という予想も、むしろ「LV12に上がった時にギリギリLV13に足りて無かった」…ぐらいだったのかもしれない。
▼▼▼ 補足、解説 ▼▼▼
主人公が忘れがちな「ダンジョン等への初侵入時のボーナス経験値」に関して
ダンジョン等の各階層毎に、25%、50%、75%MAPを踏破する毎に得られる様になっている。
踏破率25%で”設定された初侵入時のボーナス経験値”の20%
踏破率50%で”設定された初侵入時のボーナス経験値”の30%(計50%)
踏破率75%で”設定された初侵入時のボーナス経験値”の50%(計100%)
これは低LV者が「高難度ダンジョンの入り口等をうろついただけ」で経験値を得られないようにするのと、『半ランダム生成』+『月毎に新規生成される』仕様であるために、トラップ等で『100%踏破が困難』な場合が想定されるため、『75%踏破出来れば良し』とする(全踏破と認める)からである。
主人公の場合、はじまりの街[スパデズ][山の洞窟]1層は、75%以上踏破した(MAPを埋めた)為、設定された『初侵入時のボーナス経験値』が全て得られている。2層は侵入しなかった、つまり0%のため『初侵入時のボーナス経験値』もゼロである。
はじまりの街[スパデズ]
[山の洞窟]1層 踏破率75%以上 ”初侵入時のボーナス経験値”100%
[山の洞窟]2層 踏破率0% ”初侵入時のボーナス経験値”0%
もちろん『初侵入時』のボーナスなので、今後[山の洞窟]1層をどれだけ踏破しようと、月が変わり再度MAPを埋め直そうと、ボーナス経験値は無い。逆に今後[山の洞窟]2層へ行き、MAPを埋めればボーナス経験値はいつでも入手出来る。
※ただし『適正LV』を過ぎてからでは、それほど大した経験値にはならないが。
出会いの街[ヘアルツ]
[夢の洞窟]全1層 踏破率75%以上 ”初侵入時のボーナス経験値”100%
以上の様に「月が変わればオートマッピングで作製されたMAPが全て白紙になる」…とはいえ、ダンジョン探索での『MAP埋め』は全くの無駄にはならない様になっている。
また[夢の洞窟]の様に、≪人を選ぶダンジョン≫は『初侵入時のボーナス経験値』も高めに設定されていて、それも主人公の今回の大幅LVUPに繋がっている。
(そういった意味では、主人公達が語っていた様に、確かに≪今≫[夢の洞窟]を探索すると”宝箱”等が少なく見返りが減っているが、挑戦者に対し「高めの『初侵入時のボーナス経験値』」…というリターンはしっかりと存在しており、全くの徒労にはならない様になっている)
もうおわかりの様に、TJOでは「既に『初侵入時のボーナス経験値』を取得済み」…のダンジョン、階層に何度も通うより、別の新たなダンジョン、未踏の階層(未知のモンスター)に挑む方が、LVUPへの近道となる。
TJOは挑戦を、開拓を求めている。安定と停滞とマンネリは悪なのだ。〔※1〕
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
さて俺が大幅に伸びた理由は分かった。急成長は嬉しい事は嬉しいのだが、これで俺の『成長期』、ボーナスタイムはもう終わりだ。今後はひたすら地道に苦行を重ねていく事になるだろう。
当然ながら他のプレイヤーにも平等に『成長期』は訪れる。
なんというプレッシャー、今後俺以外も間違いなく伸びる ^o^
ちなみに「LV50間際が良い」というのは、ケイのスキルにもあったように、スキル等の条件に「LV50以上の時」…というものが多いからである。
その為、『LV49以下』と『LV50のプレイヤー』では、≪たった1LV≫の差で、≪同じ職≫であっても『戦闘能力等に大きく差が付く』場合が多い。
そしてその「LV50でアンロックされる能力」が無いため、LV50直前はどの職でも足踏み状態に陥り気味で非常に≪じれったい≫のだ。「あぁLV50にさえなれば、凄い楽になるのに…」と、多くの者が≪やきもきする≫時期である。
実際に『狂戦士』のケイの場合、LV50になると以下の2つのスキルが発動する。
・虫の知らせ[プレモニション][P] LV50以上の時、半径15m範囲の戦闘状態の存在を察知する。
補足:歴戦の戦士が備える直感、警報:急襲[レイドアラート][P]の”みならい戦士”版のスキル。
・仮初の不死[ワンス・イモータル][P] LV50以上の時、致死ダメージを受けても、120分間に一度だけHP1で耐える。
補足:発動後120分間はリキャストタイムとなる。継続ダメージや連続攻撃には弱い。
そのため『狂戦士』は『LV49以下』の時と比べ、『LV50になった途端』に、奇襲、強襲に強くなり、致死ダメージに耐えられる等、格段に安定性が増し強化される。
俺が『みならい僧侶』から少しでも早く『僧侶』になろうと、深夜に『イルカモネ山猫』と地味な苦行をしていたように、TJOにおいて「LV50になる」…というのは≪1つの壁≫になっているのだ。
まぁ元々『運営開始当初のプレイヤーの最大LVが50』であり(いわゆるレベルキャップ〔※2〕等と呼ばれる時限式?の制限)、『LV50での強化』は、最大LV(当時の)になったプレイヤーへの≪ご褒美≫的な意味あいもあったようだ。
カリポリポリポリ……、カリポリポリポリ……
「………」さてこの『成長期』。≪完全に忘れ去っていた≫事についてだが… いくつか理由がある。
まずLV50以降に、こういった『救済』的なモノは存在しない。つまり初回プレイ?のLV10~LV50までの間に一度きりの単発イベント? なので、そもそも印象に残りにくい。
またゲーム時代、俺はおそらくLV45辺りで、この『成長期』だった…みたいなのだが、「後から考えてみれば、あの辺りですぐLVUPしたなぁ」ぐらいの印象だった。
低LV時みたいにドカーンと連続してLVが上がるわけじゃないので、その程度の… 言ってみればショボイ感じなのだ。(もちろん助かっていたはずなのだが)
また逆に、≪ゲーム自体に不慣れ≫な時である低LVの頃に、一気にLVが上がったプレイヤーも「低LV時は簡単にLVが上がってたなぁ」…ぐらいの感覚だったようだ。「他の人もこんな感じなのだろう」と思っていたらしい。
そしてLV50以降、というか、LVがほとんど上がらなくなるLV90付近でプレイしていた期間、時間が当然だが一番長く、必然的に「あっという間に通り過ぎた低LV時代?」の記憶はおぼろげになっている。(やり込んだゲームを別データで最初からプレイしたりすると「あ~、あったな、こんなイベント」…という事はよくあるかと思う)
え~まぁ、そのですね。それでも俺は、スレや攻略wikiを読み込んだり、攻略本等を買って読んだりしてたので、これでも覚えている方だとは思うのですよ?
……なんですかミケネコさん、その目は?
-------------------------------------------------------------------------
LV:16(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:48,561G
武器:なし
防具:布の服
所持品:16/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×21、バリ好きー(お得用)80%、樽(中)90%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ、賞金首の首輪[†カムイ†]懸賞金:94,000G、鬼王丸×2、鉄のブーツ、鋼の弓-2、白銀の槍-1、リボルバー(44)-2、蟻酸
〔※1〕TJO総合統括プロデューサー 山岡 光一 ヤマコウ(通称)(CV:小山力也)
長所短所、メリットデメリット、リスクリターンといった事を重要視する。
挑戦者魂、開拓精神を評価し、停滞、安定、マンネリを嫌う。TJOの理念に大きく影響を与える人物。
彼の理念により、ただ得する、ただ損する、何のリスクも無いのに強力、苦労したのに儲けが無い…などといった『理不尽さ』が、ほぼ存在しないゲーム性となっている。強力な攻撃、効果には必ずなんらかのリスク、代償を伴う。
またゲーム内、ゲーム外を問わず、悪事、犯罪行為には厳しい。過去作でも迷惑行為、RMTチートbotなど、容赦なくBANしてきた実績を持つ。
〔※2〕レベルキャップのCapとは「フタ、制限、上限」といった意味。
簡単に言えば「仮の最大レベル」である。ネットゲーム等では数年にも渡り随時アップデート等で、ゲーム内容が追加、バージョンアップされたりするため、いきなり≪想定する最大LV≫まで自由に上げられる様にしておくと、いわゆる『廃人』と言われるプレイヤーが、あっという間にコンテンツをプレイし尽くしてしまう。
そうすると新規ユーザーは「ネタバレされる」、「PK等に晒される」、「プレイヤー間の格差が開きすぎ廃人仕様に調整されたイベントに手が出ない」等の様々な問題が出る。そのため最終的にはLV999まで考えていても、運営開始時にはLV100までしかLVが上げられない…等のようにキャップ(制限、ロック)をかけておくのが一般的となっている。
これらは突出したプレイヤーを制限し『足止め』しておく事で、他の大半のユーザーを追いつかせ、LVを平均化させてから順次解放(最大LV100→LV250→LV500→LV750→LV999)して、ユーザーに公平にゲーム、コンテンツを楽しんでもらうのが目的である。
しかし「あまりにもキャップ期間が長すぎる」と、今度は大半のユーザーが飽きてしまい、引退したり他のゲーム等に移られたりして、いざ解放しても「一度離れたユーザーは帰って来ない」事が多いので、そのタイミングは重要であり、場合によってはゲームの寿命を著しく縮めてしまう事もある。
近年では「課金する事でキャップが解放される」…というものもある(先ほどの例だとLV100までは無料でプレイ可能で、それ以降もLVを上げて遊びたければ課金して下さいね、という形。つまりLV100までは無料お試し、体験版といった扱い)
「…ご主人さま~?」
「はぁ~ヤダヤダ、人(ヤマコウ)を疑う事しか出来ないなんて… 悲しいね σ(゚ー^*) 」
「……(じー)」
「…ちゃうねん、俺だって最初からこんな疑り深い奴じゃ無かったはずやねん。アイツが、何もかもアイツが……」
「…………(じー)」
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