雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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三章.雪豹の青年

65.雪豹の青年と強がり

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 スノウは火照った身体をソファに投げ出し寝そべった。

「ふみゅ~……のぼせたぁ~」
「すまない、暑さに弱いことを考慮していなかった」

 アークが床に膝をついて、スノウの顔を覗き込んでくる。心配そうな顔だなぁとぼんやりと見上げながら、優しく頭を撫でる指先を受け入れる。気持ちいい。

「陛下とは違いますからね。なかなか出てこられないので心配しました」

 グラスを持ってきたルイスが、アークに苦笑している。差し出されたグラスは、スノウが受け取るよりも先にアークの手に移った。

「ほら、起きられるか」
「……うん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ?」

 背にアークの腕が回り、抱き起こされる。さすがに自分で座るくらいはできるけれど。

「起きられないなら、口移しでやれたんだがな」

 アークがニヤリと笑い、グラスをスノウの口元に近づけてくる。

 一瞬言葉の意味を理解できなかったけれど、その状況を想像して、スノウはぶわっと顔が熱くなった。
 唇を重ねるキスが特別なことくらい、スノウでも知っている。たとえそれが水を与えるためであっても、なんだかいけないことのような気がした。

「っ……アークは、えっちだ……」

 アークの手ごとグラスを掴んで、水を一気飲みする。その後、熱を冷ますように、空になったグラスを頬に押し当てた。

「ははっ、それくらいでそんなに赤くなっていたら、閨でのことを教えるのは大変そうだな」

 楽しそうな声だ。ちょっと意地悪だけど、スノウを可愛がってくれているのが分かる。

(それにしても、ねや教育はキスと関係しているの……? キスを想像して赤くなっていたら、まだお勉強できない?)

 お披露目の後に教えてくれると言っていたのだから、スノウはちゃんと心構えをしていたのだけれど。それでは足りなかったのだろうかと不安になる。

「慣れてないからだもん。アークがたくさん口にキスしたら、僕も慣れるし問題ないよ! 赤くならないよ!」

 約束を先延ばしにされないようにと、強がって訴えたら、アークがポカンと口を開けた。珍しい表情だ。
 アークの背後で、ルイスが「あちゃー……」と呟きながら、片手で顔を覆っていた。

「……ほぉー……言ったな?」

 アークが口元に笑みを浮かべ、目を細めた。とても楽しそうなのに、スノウが知らない感情を目に浮かべている。
 食べられそうなくらい強い眼差しに、スノウは『狩られる側ってこういう気持ちなのかな……?』と考えながら、現実逃避した。

 アークのことがよく分からない。じわりと腹の奥が熱くなるような、自分の身体の反応も理解できない。
 目を逸らすスノウの頬からグラスが離れた。ルイスに渡されるそれを、スノウは無言で目で追う。

「――陛下、閨のご用意はどうなさいますか?」

 眉間にシワを寄せながら、嫌そうに尋ねるルイスに、アークが呆れたように視線を流した。

「過保護な世話係だな。……心配せずとも、今日はそこまでしない。下がっていろ」

「かしこまりました」

 ホッとしたように頬を緩め、ルイスがスノウに退室の挨拶をする。いつも通り隣の部屋に控えているらしいけれど。「嫌なことをされた時は、大声を出してくださいね。すぐに駆けつけますから!」なんて言いながら、部屋から出ていく。

「……アーク、嫌なことをするの?」

 ルイスの反応が引っ掛かって、スノウはそろりとアークを見上げた。片眉を上げたアークが、スノウの背と膝裏に腕を回し抱き上げる。
 その状態で連れていかれたのはベッドだ。もう寝るのだろうか。身体がなんだかムズムズしていて、まだ眠れそうにないのだけれど。

「嫌なことはしない。……でも、スノウは口にキスしてほしいみたいだからな。慣れるまでキスしようか」
「みっ!?」

 ベッドに身を預け、見上げた先のアークの顔は逆光でよく見えなかったけれど、いつもと違う雰囲気なのはよく分かった。

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