雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続.雪豹くんと魔王さま

2-35.襲い来るもの⑤

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「穢れ……。魂の寄せ集め……?」

 呟きながら、ムムッと考え込む。
 穢れとは、おそらく魔物などの生き物が倒されるときに生じるものだ。それらは風化により薄れ、消えていくとされている。

「なぜ穢れが悪さをするのかと思う者もいるだろう。だが、穢れは、時に凝縮し新たな魔物を生み出す核となることがある」
「魔物の核?」
「そうだ。たとえば、ゴーストタイプの魔物だな。あれは恨みつらみなどの強い負の感情が穢れを集め、生み出されたものだ」
「あぁ……なんか、勉強した気もする……」

 スノウは自信なく呟く。
 魔物の種類は膨大で、その全てを理解するのは難しい。絶えず新種の魔物が生まれているとも言えるので。
 ゴーストタイプは魔物の中でも特殊だけれど、あまり発生することがないことでも知られていた。

「あの泥人形は、人工的に穢れを元にした魔物を生み出したようなものだ。森の中で死んだ多くの命の感情を寄せ集め、穢れと共に形をなしたもの。……あれらがこの里を目指した理由は分かるだろう?」

 アークの問いかけに、族長がため息をつく。

「……我らが狩ってきたものたちですな。糧にするためとはいえ、この周辺のものたちの多くが我らを憎んでいるのは、想像するまでもなく分かりきっていること」
「そうだ。あれらは白狼への恨みを晴らすためにやって来た。人間はその恨みを利用したんだ」

 沈黙が落ちる。
 狩りは白狼たちにとって生きるために必要なこと。そのせいで恨まれるのは仕方ないこととはいえ、なんとも言えない気持ちになるのは仕方ない。

「……報告に上がっていた、不審な者っていうのは、泥人形のこと?」
「そうだろうな。おそらく実験体だろう。そう長く保たない状態だったから、吸血鬼族が気づかなかった。泥なんてどこにでもある」
「そっか……じゃあ、人間はここにいつ来たんだろう?」

 スノウは首を傾げた。
 実験をしていたというなら、人間がいたのは間違いない。でも、その姿は誰にも確認されていない。
 不審な者との情報があってからは、詳しく調べていたはずなので、その頃には人間はこのあたりにいなかったということになる。

「いつ、とは明確には言えない。それについては、街に派遣したやつが調べているだろう」
「あ、そっか。街にいつからいるか調べたら、分かるんだ」

 頷いて納得したけれど、ふと疑問が浮かぶ。

「――でも、どうしてまだ街にいると分かったの?」
「それは人間の目的を考えれば当然のことだ」

 パチリと目を瞬かせる。白狼たちもあまり理解できていない様子で、アークを凝視していた。
 アークは眉を顰めながら説明を続ける。

「――人間は今回の計画でたくさんの人工魔珠を消費したはずだ。そうしてまで、白狼族を襲おうとしたのはなぜか。……もっとたくさんの人工魔珠を作り出すためだ」
「人工魔珠を作るには……っ!?」

 スノウは息を飲んで固まる。
 雪豹の里が襲われ、その後人間の国で何が行われたのか、スノウはすでに知っていた。

「……魔族の血が、人工魔珠の素になる」

 アークの言葉に、息を呑む音が広間のあちこちから聞こえる。白狼族が迎えようとしていた未来を理解したのだ。

「――人間が倒した白狼族から血を得ようと思うなら、この襲撃の後にやって来なければならない。だが、襲撃に紛れるのは、リスクが高い。見つかれば、白狼に倒されるからな。だから、人間はこの場を早い内に離れていたはずだ。そして、また戻ってくるために、近くの街に身を潜めていただろう」

 アークの言葉を疑う余地はなかった。

「……泥人形は、作ってためておけるの?」
「いや。おそらく、森に散らばるように、穢れの集積装置がある。それ自体はもう、先程の襲撃で使いつくされて、無力化されているだろうが。そこから穢れを放ち、泥人形を生み出すのは、遠隔でも操作可能だろう」

 アークはそれ自体を見ていなくても、その仕組みを完全に理解しているようだ。

「……陛下。その装置は、この森以外でも使えるものでしょう。他の里に、注意を促すべきではありませんか?」

 口を開いたのは吸血鬼族だ。厳しい表情をしている。
 スノウもその可能性に気づき、思わずグッと拳を握った。今この時、白狼の里と同じように襲撃されている場所があるというのか。

 でも、アークはその危惧を払拭するように首を振った。

「いや、その可能性は低い。人工魔珠は貴重だ。ここで大量に使っているのだから、余剰はないだろう。……ここでの襲撃が成功すれば、人間は新たに大量に人工魔珠を作り、多くの里を襲っていたかもしれないが」

 スノウはホッと胸を撫で下ろした。
 恐ろしい未来に繋がりかねない襲撃を防げたのだと、理解できたのだ。

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