雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-17.もう一人の

 執務を再開したアークたちの足元を、とたとた、と軽い足音を立ててルミシャンスが駆ける。

 スノウは書類の仕分けをしながら、ちらりとその様子を眺めていた。
 今のところ、ルミシャンスはアークたちにぶつかることもなく、ひとり遊びをして満足しているようだ。

(このくらいだったら、大丈夫かな? 人が来ても出ていかないように伝えておかないといけないけど)

 不安が薄れて、胸を撫で下ろした。

 騒がしく鳴いて執務の邪魔をすることになったら、早めにお暇しないといけないと思ってハラハラしていたのだ。思っていた以上に、ルミシャンスはいい子だった。
 ——すごい勢いで走り回ってはいるけれど。

「今日は人の立ち入りを制限してくれてるんだよね?」
「ああ。と言っても、緊急時には構わず来るだろうが」

 魔王の執務室は、普段から人の出入りは少ない。書類の類は、まとめて朝の内に運び込まれていることが多いし、緊急の書類がたまに届けられるくらいだ。

 今日はそうして緊急の書類も、扉番の騎士が一旦受け取ってくれることになっている。スノウたちが立ち去った後で受け取るのだろう。
 すぐさま対処が必要な事態が起きたら、その限りではないだろうけれど。

「マー!」
「なぁに?」
「にーにー!」

 ルミシャンスが何か咥えて持ってきた。スノウの足元に落としたそれは、見慣れたスライム体のボール。——のはずだったけれど、不意にぽよんぽよんと跳ね始める。

「みっ!?」
「にー!」

 親子揃って飛び跳ねてしまった。
 足に抱きついてきたルミシャンスを抱え上げる。

「これ、なに?」
「あ、申し訳ありません。そろそろ慣れて退屈になるかもしれないと思いまして、疑似スライム体にしてみたのですが」

 悪びれない表情のルイスをちらりと見てから、跳ね続けるスライム体のボールを見下ろす。
 生きているわけではないらしい。それはそれで怖い気がするけれど、そういうものだと分かれば驚くものではない。

「ルミシャンス、大丈夫?」

 尻尾を咥えながら固まっている娘を見下ろして、苦笑した。珍しく引いている。ルミシャンスとしては、このような動きをするおもちゃは駄目だったようだ。

「——ルイス、回収を」

 指示を出しかけた時、びゅんと風が動く気配があった。
 跳ねていた疑似スライム体がなくなっている。ルミシャンスがきょとんと目を瞬かせた。

 どこに行ったのだろうと視線を彷徨わせれば、疑似スライム体を咥えたブレスラウが、それをルイスの懐に押し込んでいる。

 まるでルイスに抱きついているような体勢だけれど、勢いが強すぎて少し鼻先がルイスの体に刺さっているようにも見えた。たぶんお怒りだ。

「ぐえっ……す、すみません、本当に、喜ばせようと、思っただけなんです……」
「グルル」

 ルイスは痛くはないようだけれど、反省した表情だった。ブレスラウに怒られたのが効いているらしい。
 本当にルミシャンスをおどかそうとしたわけではないようなので、スノウは苦笑しながら止めることにした。

「ブレスラウ。ルイスは遊んでくれようとしていただけだよ」
「……フンッ」

 ぷいっとルイスから顔を背けて、ブレスラウがスノウたちの方へ飛んでくる。
 肩に乗ったブレスラウがルミシャンスと、『大丈夫?』『びっくりしたのー』という感じで会話しているのを聞いて、なんだか微笑ましくなった。

「私……嫌われちゃいましたか……?」

 ルイスがしょんぼりと肩を落とす。好意が裏目に出たのだから、落ち込むのも当然だろう。

「大丈夫だよ。二人とも分かってるから。——ね?」
「にー! にぃに」
「それは兄じゃない」

 スノウはぱちりと瞬きをした。ルイスもピシッと固まる。
 やり取りを聞き流していたアークが勢いよく顔を上げたのを、視界の端に捉えた。

「……ま、まさか、ルミシャンス様は私のことを『兄』と呼んでくださったのですか!?」

 歓喜に溢れた声でルイスが叫んだ。ルミシャンスがご機嫌に「にー!」と返事をしている。間違いないらしい。

「……なんで、『パパ』の前にルイスを——」
「だから、それは、兄じゃない。兄は、おれだ」

 竜族二人はとんでもなく不機嫌になっていて、スノウはどう宥めるべきか頭を悩ませることになった。
 一番子育てを助けてくれているのはルイスだから、こうして喜べることがあるのはとても良いことだと思うのだけれど。

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