187 / 224
続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-17.もう一人の
執務を再開したアークたちの足元を、とたとた、と軽い足音を立ててルミシャンスが駆ける。
スノウは書類の仕分けをしながら、ちらりとその様子を眺めていた。
今のところ、ルミシャンスはアークたちにぶつかることもなく、ひとり遊びをして満足しているようだ。
(このくらいだったら、大丈夫かな? 人が来ても出ていかないように伝えておかないといけないけど)
不安が薄れて、胸を撫で下ろした。
騒がしく鳴いて執務の邪魔をすることになったら、早めにお暇しないといけないと思ってハラハラしていたのだ。思っていた以上に、ルミシャンスはいい子だった。
——すごい勢いで走り回ってはいるけれど。
「今日は人の立ち入りを制限してくれてるんだよね?」
「ああ。と言っても、緊急時には構わず来るだろうが」
魔王の執務室は、普段から人の出入りは少ない。書類の類は、まとめて朝の内に運び込まれていることが多いし、緊急の書類がたまに届けられるくらいだ。
今日はそうして緊急の書類も、扉番の騎士が一旦受け取ってくれることになっている。スノウたちが立ち去った後で受け取るのだろう。
すぐさま対処が必要な事態が起きたら、その限りではないだろうけれど。
「マー!」
「なぁに?」
「にーにー!」
ルミシャンスが何か咥えて持ってきた。スノウの足元に落としたそれは、見慣れたスライム体のボール。——のはずだったけれど、不意にぽよんぽよんと跳ね始める。
「みっ!?」
「にー!」
親子揃って飛び跳ねてしまった。
足に抱きついてきたルミシャンスを抱え上げる。
「これ、なに?」
「あ、申し訳ありません。そろそろ慣れて退屈になるかもしれないと思いまして、疑似スライム体にしてみたのですが」
悪びれない表情のルイスをちらりと見てから、跳ね続けるスライム体のボールを見下ろす。
生きているわけではないらしい。それはそれで怖い気がするけれど、そういうものだと分かれば驚くものではない。
「ルミシャンス、大丈夫?」
尻尾を咥えながら固まっている娘を見下ろして、苦笑した。珍しく引いている。ルミシャンスとしては、このような動きをするおもちゃは駄目だったようだ。
「——ルイス、回収を」
指示を出しかけた時、びゅんと風が動く気配があった。
跳ねていた疑似スライム体がなくなっている。ルミシャンスがきょとんと目を瞬かせた。
どこに行ったのだろうと視線を彷徨わせれば、疑似スライム体を咥えたブレスラウが、それをルイスの懐に押し込んでいる。
まるでルイスに抱きついているような体勢だけれど、勢いが強すぎて少し鼻先がルイスの体に刺さっているようにも見えた。たぶんお怒りだ。
「ぐえっ……す、すみません、本当に、喜ばせようと、思っただけなんです……」
「グルル」
ルイスは痛くはないようだけれど、反省した表情だった。ブレスラウに怒られたのが効いているらしい。
本当にルミシャンスをおどかそうとしたわけではないようなので、スノウは苦笑しながら止めることにした。
「ブレスラウ。ルイスは遊んでくれようとしていただけだよ」
「……フンッ」
ぷいっとルイスから顔を背けて、ブレスラウがスノウたちの方へ飛んでくる。
肩に乗ったブレスラウがルミシャンスと、『大丈夫?』『びっくりしたのー』という感じで会話しているのを聞いて、なんだか微笑ましくなった。
「私……嫌われちゃいましたか……?」
ルイスがしょんぼりと肩を落とす。好意が裏目に出たのだから、落ち込むのも当然だろう。
「大丈夫だよ。二人とも分かってるから。——ね?」
「にー! にぃに」
「それは兄じゃない」
スノウはぱちりと瞬きをした。ルイスもピシッと固まる。
やり取りを聞き流していたアークが勢いよく顔を上げたのを、視界の端に捉えた。
「……ま、まさか、ルミシャンス様は私のことを『兄』と呼んでくださったのですか!?」
歓喜に溢れた声でルイスが叫んだ。ルミシャンスがご機嫌に「にー!」と返事をしている。間違いないらしい。
「……なんで、『パパ』の前にルイスを——」
「だから、それは、兄じゃない。兄は、おれだ」
竜族二人はとんでもなく不機嫌になっていて、スノウはどう宥めるべきか頭を悩ませることになった。
一番子育てを助けてくれているのはルイスだから、こうして喜べることがあるのはとても良いことだと思うのだけれど。
スノウは書類の仕分けをしながら、ちらりとその様子を眺めていた。
今のところ、ルミシャンスはアークたちにぶつかることもなく、ひとり遊びをして満足しているようだ。
(このくらいだったら、大丈夫かな? 人が来ても出ていかないように伝えておかないといけないけど)
不安が薄れて、胸を撫で下ろした。
騒がしく鳴いて執務の邪魔をすることになったら、早めにお暇しないといけないと思ってハラハラしていたのだ。思っていた以上に、ルミシャンスはいい子だった。
——すごい勢いで走り回ってはいるけれど。
「今日は人の立ち入りを制限してくれてるんだよね?」
「ああ。と言っても、緊急時には構わず来るだろうが」
魔王の執務室は、普段から人の出入りは少ない。書類の類は、まとめて朝の内に運び込まれていることが多いし、緊急の書類がたまに届けられるくらいだ。
今日はそうして緊急の書類も、扉番の騎士が一旦受け取ってくれることになっている。スノウたちが立ち去った後で受け取るのだろう。
すぐさま対処が必要な事態が起きたら、その限りではないだろうけれど。
「マー!」
「なぁに?」
「にーにー!」
ルミシャンスが何か咥えて持ってきた。スノウの足元に落としたそれは、見慣れたスライム体のボール。——のはずだったけれど、不意にぽよんぽよんと跳ね始める。
「みっ!?」
「にー!」
親子揃って飛び跳ねてしまった。
足に抱きついてきたルミシャンスを抱え上げる。
「これ、なに?」
「あ、申し訳ありません。そろそろ慣れて退屈になるかもしれないと思いまして、疑似スライム体にしてみたのですが」
悪びれない表情のルイスをちらりと見てから、跳ね続けるスライム体のボールを見下ろす。
生きているわけではないらしい。それはそれで怖い気がするけれど、そういうものだと分かれば驚くものではない。
「ルミシャンス、大丈夫?」
尻尾を咥えながら固まっている娘を見下ろして、苦笑した。珍しく引いている。ルミシャンスとしては、このような動きをするおもちゃは駄目だったようだ。
「——ルイス、回収を」
指示を出しかけた時、びゅんと風が動く気配があった。
跳ねていた疑似スライム体がなくなっている。ルミシャンスがきょとんと目を瞬かせた。
どこに行ったのだろうと視線を彷徨わせれば、疑似スライム体を咥えたブレスラウが、それをルイスの懐に押し込んでいる。
まるでルイスに抱きついているような体勢だけれど、勢いが強すぎて少し鼻先がルイスの体に刺さっているようにも見えた。たぶんお怒りだ。
「ぐえっ……す、すみません、本当に、喜ばせようと、思っただけなんです……」
「グルル」
ルイスは痛くはないようだけれど、反省した表情だった。ブレスラウに怒られたのが効いているらしい。
本当にルミシャンスをおどかそうとしたわけではないようなので、スノウは苦笑しながら止めることにした。
「ブレスラウ。ルイスは遊んでくれようとしていただけだよ」
「……フンッ」
ぷいっとルイスから顔を背けて、ブレスラウがスノウたちの方へ飛んでくる。
肩に乗ったブレスラウがルミシャンスと、『大丈夫?』『びっくりしたのー』という感じで会話しているのを聞いて、なんだか微笑ましくなった。
「私……嫌われちゃいましたか……?」
ルイスがしょんぼりと肩を落とす。好意が裏目に出たのだから、落ち込むのも当然だろう。
「大丈夫だよ。二人とも分かってるから。——ね?」
「にー! にぃに」
「それは兄じゃない」
スノウはぱちりと瞬きをした。ルイスもピシッと固まる。
やり取りを聞き流していたアークが勢いよく顔を上げたのを、視界の端に捉えた。
「……ま、まさか、ルミシャンス様は私のことを『兄』と呼んでくださったのですか!?」
歓喜に溢れた声でルイスが叫んだ。ルミシャンスがご機嫌に「にー!」と返事をしている。間違いないらしい。
「……なんで、『パパ』の前にルイスを——」
「だから、それは、兄じゃない。兄は、おれだ」
竜族二人はとんでもなく不機嫌になっていて、スノウはどう宥めるべきか頭を悩ませることになった。
一番子育てを助けてくれているのはルイスだから、こうして喜べることがあるのはとても良いことだと思うのだけれど。
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)