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Ⅰ‐ⅱ.僕とあなたの深まり
22.環境の違い
ジル様に翻弄されながら、時折マイルスさんに守ってもらい、馬車に揺られていたら、最初の目的地に着いたようだ。
時刻は昼時。そろそろお腹が空く頃だ。
「ここは……」
車窓から見えていた街道も、美しく整えられていて目を楽しませてくれたけど、到着した先の景色も素晴らしかった。
たくさんの花々に囲まれた、瀟洒な白い城。青のとんがり屋根が特徴的で、王城ほど大きくないから可愛らしいようにも見える。
玄関前で降ろされて、ゆっくりと辺りを見渡した。
「——素敵なところですね」
「喜んでもらえて嬉しい。ここは王族の保養地なんだ。王都から適度に離れていて環境がいい」
「保養地……僕には馴染みのない言葉です」
思わず苦笑してしまう。
保養地とは避暑や避寒、行楽のための場所だ。貧乏貴族の僕はもちろん、そんなところを訪れたことなんてない。
王都から半日もかからない場所に、城まで建てた保養地があるなんて、さすが王族だと頷く。
この場所に僕がいていいのかな。ジル様と一緒なんだから、ダメだなんて誰も言わないとわかってるけど、ちょっと気が引ける。
「王都からセレネー領まで、こうした休憩所は点在している。楽しみにしてくれ」
「……すごい」
点在かぁ。それはやっぱり、セレネー領が王家にとって重要な場所だから、行き来しやすくするためなんだろうな。つまり、街道自体も相応に整備されているということ。
エストレア国北部にあるボワージア領から王都に続く道が、ガタガタしていて随分と腰に悪かったことを思い出して、ちょっとしょっぱい気分になった。
国から優遇されてる土地って、羨ましいよね。環境的に仕方ない部分はあるけど。
「ここで昼食をとる」
「……そのためだけに立ち寄ったんですか?」
「そうだが」
エスコートされながら城の玄関ホールに招き入れられる。
呆然としながら放った質問に、当然のように頷かれて返す言葉を失った。なにもかも、僕の常識とは違うことがよくわかる。
僕は王都に向かう道中、基本的に食事は馬車の中で携帯食を齧っていた。夜は宿をとって泊まることもあったけど、半分くらいは車中泊。その方がお金がかからないし。
宿をとるとなると、子爵家という立場的に、それなりに見栄を張らないといけないんだよね。
だから、こんなに優雅にお城で昼食なんて、考えたこともなかった。
でも、ジル様にとってはこれが当然で日常のことなんだろう。そして、周囲で立ち働いている人たちの顔を見ても、このような日常に慣れるべきなんだとわかる。
王族という立場にいる以上、相応の振る舞いが必要。そんなジル様の番になる以上、その常識は僕にも求められている。
「……お食事、楽しみです」
価値観の違いに不安を感じるし、これに慣れてしまったら、僕が僕でなくなってしまう気がして少し怖い。
でも、今はそんな思いを隠して微笑む。ジル様に心配を掛けたくないから。
「フランの好きなものがあるといいな。好物を教えてくれ。次からは好みに合わせて用意させる」
「好き嫌いはない方なので、ご心配なく。食べたことがないものを楽しめるのも嬉しいですから」
きっと料理もとんでもなく豪華なんだろうなと予想しながらも、気遣ってくれるジル様にニコニコとしながら答えた。
今一番心配なのは、食事のマナーがちゃんとできるか、だ。社交界デビューに向けて立食パーティーのマナーはしっかり学んだけど、テーブルマナーはあまり自信がない……。
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