貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

asagi

文字の大きさ
39 / 113
Ⅰ‐ⅲ.僕とあなたの交わり

39.どちらも甘い

しおりを挟む

 ジル様がスッと視線を逸らす。

「孤児院か……」

 なんか駄目っぽい。でも、どうしてだろう。
 マイルスさんを見たら苦笑された。

「殿下はフラン様を独占したいのですよ。誰かに一目惚れされでもしたら……大変なことになってしまいますからねぇ」

 最後の方はなぜか遠い目をして、マイルスさんが教えてくれる。
 これもジル様のアルファらしい欲の表れなんだろう。僕が誰かに想いを寄せられたら、どうなるのかな。

「大変なことというのは……?」
「十中八九、相手はこの領にはいられなくなりますね」
「えっ……嘘でしょう……?」

 予想以上に大変な事態を予告されてしまった。
 冗談、と言われることを願ってみたけど、マイルスさんは状況にそぐわないような慈愛の微笑みを口元に浮かべるだけだ。……その目の真剣さには気づかなかったことにしたいなぁ。

「——ジル様」
「否定しない」
「そんな横暴なことを、ジル様がお命じになるんですか……」

 呆然とする。
 ジル様は片眉を上げ肩をすくめた。

「マイルスは横暴だと思うか?」
「いいえ。好ましい振る舞いではありませんが、殿下の当然の権利でしょう。そもそも殿下の番に想いを寄せるならば、相応の報いがあることを覚悟してのことでしょうから」
「そうだな」

 高貴な身の上の方の考えは、やっぱり理解できない。でも、僕自身が気をつけるべきだということはわかった。

 想いを寄せられることすらないように、交流する相手は限定した方がいいってことだよね。笑顔で話してた相手が、次の日には領からいなくなってたら怖いもん。

「あ。でも、孤児院ならいるのは子どもでしょう? そのような危惧は必要ないと思うんですけど!」

 孤児院訪問を諦めきれなくて、突破口を探してみる。
 ジル様をじぃっとみつめてねだってみたら、「うっ……」と声を漏らして視線を逸らされた。

「……フランの潤んだ瞳は卑怯だ」
「殿下特攻で効果抜群ですね」
「マイルス。感心したように言うんじゃない」

 渋い表情でため息をつくジル様の横では、マイルスさんがにこにこと微笑んでいた。少なくとも、マイルスさんは僕の行動に賛成みたい。

 もともと、孤児院訪問を最初に提案してくれたのはマイルスさんだもんね。それならもっとジル様の説得を手伝ってほしいんだけど。

「ジル様、僕、この領を自分の目で見てみたいです。これから、僕が長く過ごすことになるんですから」

 ジル様の番になるというのは、そういうこと。
 大切な番が守り管理している領のことを、知りたいと思うのは自然な思いのはずだ。どうか僕の思いを否定しないでほしい。

 ……もっと広い範囲を自由に出歩きたい、という思いが大きいことは言葉にしないけど。ジル様には伝わっていると思うし。

「フラン……。俺との将来を考えてくれるのは嬉しいが——」
「殿下、時にはアルファとしての懐の深さを示すべきではありませんか? フラン様に愛想を尽かされますよ」

 やっと援助してくれたと思ったら、マイルスさんがとんでもないことを言い出した。

 ジル様に愛想を尽かすなんて、そんなこと全然考えもしなかったよ。
 自由な行動ができないのは窮屈だなぁって思うけど、それはそれでジル様の愛情を感じるから。執着とか独占とか、ちょっと特殊な表し方だけどね。

「愛想を、尽かされる……」

 ジル様は衝撃を受けた感じで固まっていた。
 フォローを入れる、というか僕の本心を話すべきかな? そんな心配はいらないですよ、って。

 でも、口を開こうとしたところで、マイルスさんの眼差しに制止された。咄嗟に口を噤んで首を傾げる。

 口の動きを読んでみる。
 ——たぶん『ここは嘘でも否定しないでおいてください』という感じのことを言われてると思う。

 そっかぁ。ジル様に勘違いさせて落ち込ませるのは申し訳ないけど……それは僕の自由を勝ち取るため、ってことかな。

 いつも冷たく見えるほどに静謐な表情のジル様が、ちょっと動揺している姿を窺う。なんか良心がチクチクするよ……。

「それは、あるような——」
「っ、フラン……」
「いや、ない気がしますっ!」

 大きく目を見開いて、悲しそうにされたら、もうマイルスさんの助けには乗れない。だって、ジル様を傷つけてまで自由な行動をしたいわけじゃないもん。

 ホッと息をついて表情を緩めるジル様を見て、僕は微笑むしかなかった。うん、これでいいんだ。

「フラン様はお人好しですね……」

 マイルスさんがちょっぴり呆れた感じで、でも慈しみ深い微笑みを浮かべる。

「——殿下。フラン様のお優しさに甘えすぎていいのですか?」
「いや……わかっている。そうだな。俺のわがままばかりを押し付けるわけにもいかない、か……」

 ジル様が一度目を伏せた後、僕を見据えて困ったような笑みを浮かべた。

「——フラン、孤児院への訪問を許可しよう。最初は俺も共に行けるよう予定を調整するから、少し待ってくれるか?」
「っ、もちろんです!」

 ぱぁっと表情が綻ぶのが自分でもわかる。
 外出の許可よりも、ジル様と共に過ごす時間が増えたというのが、なによりも嬉しかった。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...