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Ⅱ-ⅲ.あなたに満たされる
2−34.発情期が過ぎて
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ソファの柔らかいクッションに埋もれて「うぅ……」と唸る。
クスクス、と微笑む声と共に、傍のローテーブルにティーカップが置かれた。
「……イリス、どうして笑ってるの」
「フラン様がお可愛らしくて、微笑ましいのです」
「僕はこんなにつらいのに……」
「マッサージをいたしましょうか?」
「……いらない」
朝起きてから何度目かの提案を断る。
ジル様に朝まで愛され尽くした身体は、あまりに敏感になってしまった。正直、服が擦れるだけでも感じそうになるから困る。
イリスにマッサージなんてされたら、とんでもないことになってしまいそうだ。
ぐったりと横たわりながら、ふとイリスを見上げた。
「何日経った?」
「フラン様が発情期に入られてから、九日経ちました。少し長かったようですが、お身体は大丈夫ですか?」
「……うん、問題ないよ」
やはり何度も掛けられた気遣わしげな問いに、なんとも言えない思いを味わいながら答える。
筋肉痛のような痛みと、肌が敏感すぎること以外に問題はない。
それは事実だけど……九日かぁ。思ったより長かったんだなぁ。
普通、オメガの発情期は七日ほどで終わる。
九日というのは極端に長いというわけではない。でも、最中の激しい行為を思えば、よく身体が保ったな、と感心してしまった。
僕の身体は、思っていた以上に頑丈なのかもしれない。
現状のボロボロ具合から目を逸らして、そんなことを考えた。
「最後の一日は、たぶん、もう発情期が終わってた……」
無意識に呟いていた。
熱に浮かされ、途切れ途切れの記憶しかない情事の中で、一番はっきりと記憶にあるのは昨日から今日にかけてのこと。
発情期の間に部屋中に溢れてとどまっていた香りは濃かったけど、僕の状態は正常に戻っていたはずだ。
それなのに、ジル様は再び求めてきた。それに愛情を感じたから、僕は戸惑いつつも受け入れたわけだけど。
……今の状態を考えると、甘やかさない方が良かったのではないかと思わなくもない。
しっかりと目覚めてしまえば、発情期中にたくさん迷惑を掛けた、と申し訳なく思う気持ちは、ほぼなくなっていた。
だって、ジル様が心行くまで楽しんでいたことを察してしまったんだ。
食事はいらない、と駄々をこねたことも、ひたすら突かれることを望んだのも、ジル様にとっては等しく愛しい振る舞いだったということ。
その底なしの愛情が嬉しいと同時に、少し呆れてしまうのも事実。
ジル様の愛情に溺れて、僕はいつかわがまま放題をしてしまうかもしれない。少しは自制しないと。
「殿下から贈り物をいただいていますよ」
「贈り物?」
ぼんやりと考え込んでいたら、イリスが何かを持ってきた。なかなか大きい。
受け取り、包みを丁寧に剥がす。
「――抱き枕?」
「そのようですね。お使いになれば、少しはお身体が楽になるかもしれません」
微笑ましそうに促されて、微妙な気持ちになりながら、淡いピンク色の抱き枕に抱きついた。
横向きで太ももに挟むと、ちょうどいいフィット感だ。予想と違い、確かに身体が楽になったのを感じる。
「……気遣いは嬉しいけど、これを贈るくらいなら、もうちょっと行為を控えめにしてくれたら良かったと思う」
真剣に呟く。イリスがクスクスと微笑む声が聞こえてきた。
「それをアルファに求めるのは、少々酷だと思いますよ。発情期に乱されるのは、オメガだけではありませんから」
ちらりとイリスを見上げ、ふぅ、と息を吐く。
言われずとも理解はしている。ただ、ちょっぴり愚痴を言いたくなっただけなのだ。
発情期になる前に考えていたほど不安な時間ではなかったけど、予想以上に密度の濃い行為に圧倒されてしまったから。
とはいえ、それによって得られた幸福感は格別でもあって――既に次の発情期が楽しみになっている自分から、そっと目を逸らす。
こんな考えをジル様に知られたら、発情期になる前に抱き潰されそうだ。
「……少し眠るよ」
「はい。おやすみなさいませ」
柔らかなブランケットに包まれて、目を閉じた。
寝て起きたら、きっとジル様が帰ってきてくれているはずだ。
長い時間を共に過ごし、愛を確かめあったのに、もう寂しさを感じていることに気づいて、『贅沢者になっちゃったなぁ』と心の中で呟く。
ジル様なら、こんな僕も「可愛い」と言って包みこんでくれるんだろう。
そんなことを想像すると、自然と微笑みが漏れて、幸せな気分で眠りの中に沈んでいった。
クスクス、と微笑む声と共に、傍のローテーブルにティーカップが置かれた。
「……イリス、どうして笑ってるの」
「フラン様がお可愛らしくて、微笑ましいのです」
「僕はこんなにつらいのに……」
「マッサージをいたしましょうか?」
「……いらない」
朝起きてから何度目かの提案を断る。
ジル様に朝まで愛され尽くした身体は、あまりに敏感になってしまった。正直、服が擦れるだけでも感じそうになるから困る。
イリスにマッサージなんてされたら、とんでもないことになってしまいそうだ。
ぐったりと横たわりながら、ふとイリスを見上げた。
「何日経った?」
「フラン様が発情期に入られてから、九日経ちました。少し長かったようですが、お身体は大丈夫ですか?」
「……うん、問題ないよ」
やはり何度も掛けられた気遣わしげな問いに、なんとも言えない思いを味わいながら答える。
筋肉痛のような痛みと、肌が敏感すぎること以外に問題はない。
それは事実だけど……九日かぁ。思ったより長かったんだなぁ。
普通、オメガの発情期は七日ほどで終わる。
九日というのは極端に長いというわけではない。でも、最中の激しい行為を思えば、よく身体が保ったな、と感心してしまった。
僕の身体は、思っていた以上に頑丈なのかもしれない。
現状のボロボロ具合から目を逸らして、そんなことを考えた。
「最後の一日は、たぶん、もう発情期が終わってた……」
無意識に呟いていた。
熱に浮かされ、途切れ途切れの記憶しかない情事の中で、一番はっきりと記憶にあるのは昨日から今日にかけてのこと。
発情期の間に部屋中に溢れてとどまっていた香りは濃かったけど、僕の状態は正常に戻っていたはずだ。
それなのに、ジル様は再び求めてきた。それに愛情を感じたから、僕は戸惑いつつも受け入れたわけだけど。
……今の状態を考えると、甘やかさない方が良かったのではないかと思わなくもない。
しっかりと目覚めてしまえば、発情期中にたくさん迷惑を掛けた、と申し訳なく思う気持ちは、ほぼなくなっていた。
だって、ジル様が心行くまで楽しんでいたことを察してしまったんだ。
食事はいらない、と駄々をこねたことも、ひたすら突かれることを望んだのも、ジル様にとっては等しく愛しい振る舞いだったということ。
その底なしの愛情が嬉しいと同時に、少し呆れてしまうのも事実。
ジル様の愛情に溺れて、僕はいつかわがまま放題をしてしまうかもしれない。少しは自制しないと。
「殿下から贈り物をいただいていますよ」
「贈り物?」
ぼんやりと考え込んでいたら、イリスが何かを持ってきた。なかなか大きい。
受け取り、包みを丁寧に剥がす。
「――抱き枕?」
「そのようですね。お使いになれば、少しはお身体が楽になるかもしれません」
微笑ましそうに促されて、微妙な気持ちになりながら、淡いピンク色の抱き枕に抱きついた。
横向きで太ももに挟むと、ちょうどいいフィット感だ。予想と違い、確かに身体が楽になったのを感じる。
「……気遣いは嬉しいけど、これを贈るくらいなら、もうちょっと行為を控えめにしてくれたら良かったと思う」
真剣に呟く。イリスがクスクスと微笑む声が聞こえてきた。
「それをアルファに求めるのは、少々酷だと思いますよ。発情期に乱されるのは、オメガだけではありませんから」
ちらりとイリスを見上げ、ふぅ、と息を吐く。
言われずとも理解はしている。ただ、ちょっぴり愚痴を言いたくなっただけなのだ。
発情期になる前に考えていたほど不安な時間ではなかったけど、予想以上に密度の濃い行為に圧倒されてしまったから。
とはいえ、それによって得られた幸福感は格別でもあって――既に次の発情期が楽しみになっている自分から、そっと目を逸らす。
こんな考えをジル様に知られたら、発情期になる前に抱き潰されそうだ。
「……少し眠るよ」
「はい。おやすみなさいませ」
柔らかなブランケットに包まれて、目を閉じた。
寝て起きたら、きっとジル様が帰ってきてくれているはずだ。
長い時間を共に過ごし、愛を確かめあったのに、もう寂しさを感じていることに気づいて、『贅沢者になっちゃったなぁ』と心の中で呟く。
ジル様なら、こんな僕も「可愛い」と言って包みこんでくれるんだろう。
そんなことを想像すると、自然と微笑みが漏れて、幸せな気分で眠りの中に沈んでいった。
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