242 / 244
第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第80話 ビッグ・サイクロプス
しおりを挟む
「名づけて、ビッグ・サイクロプス――!」
南柾樹のアルトラ、その第二形態。
旧来の「サイクロプス」より大きさは半分程度になったものの、その容姿はより人の形に近づいたように見える。
黒をベースに要所要所赤いパーツが輝いていて、その姿はギリシャ神話の怪物というよりもむしろ英雄のほうを想起させた。
「南、おまえもパワーアップしていたのか……!」
物見の一同はその突風のようなオーラに戦慄した。
それはより正確に言うと、「覇気」と表現するにふさわしいものだった。
「ほう、これは面白い。さながらヘラクレスのようである」
魔人・グラウコンは中空で舌をなめた。
「しかしながら南柾樹よ、その程度で俺の力を凌駕できるかな?」
アルトラ、プル・ミー・アンダーの重力がかけられる。
「……」
「なっ……」
目の前、気づいたときはそこにいた。
「がっ――」
両腕を重ねて上から振り下ろす。
勢いをつけて急降下し、そのまま地面へと叩きつけられた。
グラウコンは体勢をたてなおして口角をつりあげる
「この俺を地に這わせるとは、やるじゃあないか? 南柾樹」
「あんたこそ、グラウコン。抜け目のねぇ野郎だ」
巨人の肩のパーツにひびが入る。
攻撃を受ける瞬間、肘を見舞っていたのだ。
南柾樹は悠々と地上へ降り立つ。
「ふふっ、これはいよいよ、楽しくなってきた――っ!」
「ふん――っ!」
がっぷり四つ、二人の両手が絡み合う。
「ぬ」
「ぐ」
拮抗、両者の力はほぼ同等のようである。
パワーと衝撃で地面やアパートの広い白壁が弾けていく。
「そんなに友を傷つけられたことが憎いか?」
「……」
「たまにいるのだ、おまえのようなやつが。名誉や功名心などではなく、純粋な怒りで俺に向かってくる者が。しかしそれはどうも、邪悪な類ではない。なぜだ南柾樹? なぜ戦う? なぜここまで強くなれる?」
魔人が問いかける。
少年のまなざしは青空のように光り輝いていた。
「きっとあんたにゃ、永遠にわかんねぇよ――!」
「ぐう――っ!?」
グラウコンの拳が爆ぜた。
おびただしい鮮血が噴き出す。
数瞬遅れてのカウンター、巨人の腹に蹴りが放たれる。
「くっ――っ!」
巨体が後方へ弾かれた。
魔人が再び宙へと浮いていく。
「面白かったぞ、南柾樹?」
「てめぇ、逃げんのか!?」
「この場はな。まずは肝心要のディオティマを探さんとならん」
「やつを居場所を教えな」
「悪いが自分で見つけ出してくれ。どうも時間がないようだ」
「どういうことだよ?」
「ディオティマはいま、瀕死の重傷を負っているらしい。気配が弱くなっているのだよ」
「なんでそんなことを教える? わざわざてめぇらの不利になるようなことをよ?」
「敬意だよ、南柾樹。俺を興奮させてくれたことへの褒美だと受け取ってくれ」
「ふん、そうかよ。とにかく、いいこと聞いたぜ。すぐにあのクソッタレを見つけ出して、とっちめてやらあ」
「血の気の余っていることだ。若いとはすばらしい」
グラウコンが中空で背中を向ける。
「待ちな――っ!」
南柾樹は大地を蹴り、高く飛んだ。
「ギガンティック・デス・クランプ――!」
「があ――っ!」
ふり返りざまに頭部をガッツリつかまれ、激しいパワーを送りこまれる。
「柾樹――っ!」
星川雅が叫んだ。
巨人が体勢を崩し、落下する。
「大丈夫!?」
「雅、すまねぇ」
魔人は腕組みをして見下ろす。
「冷静さを欠くからそうなる。戦いに際してはそのまなざしから一切のくもりを払うことだ。強くなれ、柾樹。もっと、もっとだ。そしてその力で、この俺を今度こそ満足させてみせろ」
そう告げると、グラウコンは突風のように南東の方角へと飛んでいった。
「肘か――」
飛翔する魔人の額から、一筋の血が垂れる。
笑いが止まらない。
「意趣返しとはな。いいぞ柾樹、実にいい。ぜひ欲しい、俺のコレクションにな。ふふっ、はははははっ!」
魔人の狂笑が、空をつんざくようにこだました。
南柾樹のアルトラ、その第二形態。
旧来の「サイクロプス」より大きさは半分程度になったものの、その容姿はより人の形に近づいたように見える。
黒をベースに要所要所赤いパーツが輝いていて、その姿はギリシャ神話の怪物というよりもむしろ英雄のほうを想起させた。
「南、おまえもパワーアップしていたのか……!」
物見の一同はその突風のようなオーラに戦慄した。
それはより正確に言うと、「覇気」と表現するにふさわしいものだった。
「ほう、これは面白い。さながらヘラクレスのようである」
魔人・グラウコンは中空で舌をなめた。
「しかしながら南柾樹よ、その程度で俺の力を凌駕できるかな?」
アルトラ、プル・ミー・アンダーの重力がかけられる。
「……」
「なっ……」
目の前、気づいたときはそこにいた。
「がっ――」
両腕を重ねて上から振り下ろす。
勢いをつけて急降下し、そのまま地面へと叩きつけられた。
グラウコンは体勢をたてなおして口角をつりあげる
「この俺を地に這わせるとは、やるじゃあないか? 南柾樹」
「あんたこそ、グラウコン。抜け目のねぇ野郎だ」
巨人の肩のパーツにひびが入る。
攻撃を受ける瞬間、肘を見舞っていたのだ。
南柾樹は悠々と地上へ降り立つ。
「ふふっ、これはいよいよ、楽しくなってきた――っ!」
「ふん――っ!」
がっぷり四つ、二人の両手が絡み合う。
「ぬ」
「ぐ」
拮抗、両者の力はほぼ同等のようである。
パワーと衝撃で地面やアパートの広い白壁が弾けていく。
「そんなに友を傷つけられたことが憎いか?」
「……」
「たまにいるのだ、おまえのようなやつが。名誉や功名心などではなく、純粋な怒りで俺に向かってくる者が。しかしそれはどうも、邪悪な類ではない。なぜだ南柾樹? なぜ戦う? なぜここまで強くなれる?」
魔人が問いかける。
少年のまなざしは青空のように光り輝いていた。
「きっとあんたにゃ、永遠にわかんねぇよ――!」
「ぐう――っ!?」
グラウコンの拳が爆ぜた。
おびただしい鮮血が噴き出す。
数瞬遅れてのカウンター、巨人の腹に蹴りが放たれる。
「くっ――っ!」
巨体が後方へ弾かれた。
魔人が再び宙へと浮いていく。
「面白かったぞ、南柾樹?」
「てめぇ、逃げんのか!?」
「この場はな。まずは肝心要のディオティマを探さんとならん」
「やつを居場所を教えな」
「悪いが自分で見つけ出してくれ。どうも時間がないようだ」
「どういうことだよ?」
「ディオティマはいま、瀕死の重傷を負っているらしい。気配が弱くなっているのだよ」
「なんでそんなことを教える? わざわざてめぇらの不利になるようなことをよ?」
「敬意だよ、南柾樹。俺を興奮させてくれたことへの褒美だと受け取ってくれ」
「ふん、そうかよ。とにかく、いいこと聞いたぜ。すぐにあのクソッタレを見つけ出して、とっちめてやらあ」
「血の気の余っていることだ。若いとはすばらしい」
グラウコンが中空で背中を向ける。
「待ちな――っ!」
南柾樹は大地を蹴り、高く飛んだ。
「ギガンティック・デス・クランプ――!」
「があ――っ!」
ふり返りざまに頭部をガッツリつかまれ、激しいパワーを送りこまれる。
「柾樹――っ!」
星川雅が叫んだ。
巨人が体勢を崩し、落下する。
「大丈夫!?」
「雅、すまねぇ」
魔人は腕組みをして見下ろす。
「冷静さを欠くからそうなる。戦いに際してはそのまなざしから一切のくもりを払うことだ。強くなれ、柾樹。もっと、もっとだ。そしてその力で、この俺を今度こそ満足させてみせろ」
そう告げると、グラウコンは突風のように南東の方角へと飛んでいった。
「肘か――」
飛翔する魔人の額から、一筋の血が垂れる。
笑いが止まらない。
「意趣返しとはな。いいぞ柾樹、実にいい。ぜひ欲しい、俺のコレクションにな。ふふっ、はははははっ!」
魔人の狂笑が、空をつんざくようにこだました。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる