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第8話 主催者様の考え
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私は朝早く起きた。体が覚えてるのか、まだ日が昇る前くらいにスッと目覚めた。
そのことに少し感動を覚えながら、服を着替える。
「レミーウィル様、朝起きたら私をお呼びください。お召し物は私が選びますので。」
「あー、アリンさん!すみません!」
そうだ、私は令嬢になったんだ(忘れてたなんて口が裂けても言えないね)。やっぱりメイドがなんでもこなすのかな?少し恥ずかしいけどそれが常識なんだもんなぁ……。
「いえ、大丈夫ですよ。ですがもう少しご令嬢として威厳を持っても良いと思います。」
「威厳ですか?」
嘘でしょ、威厳なんてあるの?いやだって身の回りを全てメイドに任せてるなら威厳もプライドもないよね?
「平民のように全て自身でやろうとしているように見えるので、もう少しメイドを頼っても良いのですよ、という意味です。」
「なるほど……これからは少し意識しますね」
威厳ていうか……なんだろう。目上の立場にいることを意識しろってことだよね。やっぱりそういうの必要だよねー。人を使いパシリにするのは好きじゃないんだけど、仕方ないのかなー。基本受け身なタイプだからなー、私。
「それがよろしいかと。」
「なるほど……。」
と、こんなことを話しているうちに着替え終わった。やっぱり手慣れてるね。私はまだ慣れないから恥ずかからけどね。
__コンコン
「はい、どうぞ」
誰か来た様子。丁度着替え終わったし、大丈夫だから返事をした。
「私だ。パリシュが来ている。出来る限り早く……いや、もう準備は出来ているようだな。」
「はい。お父様。」
どうやらお父様だったね。威厳ある面持ちで部屋のドアを開けた。なるほど、ラギット様が来てるのね。たしかあの会の主催者のパリシュ・ラギット様だったはず。
そういえば帰る少し前に連絡してください的なことを言ったような……絶対それが原因じゃん!それについて話すよね!!うわぁ緊張する!
「……緊張するな。いつも通りでいい。」
「そうでしょうか……。お気遣い痛み入ります」
あれ、敬語ってこれで合ってる?なんか違くない?大丈夫?普段敬語なんて使わないからなんかおかしいよね!?
お父様の少し後ろで歩く。はぁー、気が重い。 あの事件のことで、私は特に何も気にしない。ただそうするとなんでもしていい無法地帯だと勘違いする輩が出るから、何かしらの処罰は与えなければいけない。それが軽すぎるても意味はないし、逆に重すぎても彼女たちにトラウマを植え付けることになる。つまり、ちょうどいい程度を知らなければならない。
ラギット様はどうしたいんだろう。
私は、彼女たちが傷を負わない程度に処罰したい。主催者であるラギット様は、きっとあの事件について良くないと思っているだろう。だから帳消しにするか処罰するか……そこはあちらの判断に委ねよう。
「着いた。客室にいるから、話してこい」
「わかりました」
ええ、一人でですか?そんな疑問を口には出さないで、なんとなく睨んでおいた。多分気付いてないけどね!
___コンコン
まず、ノックは二回。それからドアを開けて。
「失礼します。お待たせいたしました。レミーウィル・カンザキです。」
「ああ、ご機嫌麗しゅう、綺麗なご令嬢様?」
「お褒めいただきありがとうございます」
さすがラギット様。口が上手いなぁ、と思いつつ、少しだけ自己紹介をし、礼をする。それでドアを閉め、ソファーに座る。うわぁふっかふか!すごい沈む!
「今日はどのような用件で?」
「まずは、昨日あった事を謝らせてほしい。すまなかった。」
「……あ、いえ、大丈夫です。」
驚いた、まさかラギット様が謝罪するなんて。謝らないって言ってもミスを認めないとかじゃなくて、ラギット様には何も悪くないのに……いやでも、主催者なら責任があるのか。ごめんなさい、謝らせてしまって……。
「気にしないでください。本題はそれだけですか?」
「いや、どう処理するかについても話したい」
「……なるほど。処理の仕方……ですか。」
「あぁ。」
もちろんわかってはいたが、少し緊張する。途端に空気が張り詰めた。私の選択で、もしかしたらリナフィーのこれからを左右させるかもしれないから。
「主催者の立場とかは考えなくていい。貴女ならどうする?どうするのが正解だ?」
「…………!」
う そ だ ろ ?
いや、まさかこう来るとは思わなかった。全ての判断をまだ幼い私に煽るのは、私を試している?それとも、お前には何もできまいという自信?どっちだ?……わからない。これには、どう答えるのが『レミーウィル』にとっての正解なんだ…!?
無駄に思考して変な答えになるのは避けたい。それは勘ぐってるのがバレてしまう。至って自然に、さも私がそう考えてるように答えなきゃ…………いや、これは思ったことを直球に言えばいいの?子供らしくないとか年齢不相応に思われるかもしれないけど、背に腹はかえられない……!
「私は、取り巻きの責任としてリーダーのリネットを含めたグループを処罰するべきかと思います。ただ初犯ですし、あまりに重いとトラウマに、しかし軽いと無法地帯だと思う方が出てきますので、ちょうどいい具合に対処すべきだと。」
「…………なるほど。粗方私と考えは同じようだな」
よかった、正解だったようだね。
「実は、対処について、もう考えてある。厳重注意で済まそうかと思うのだが、どうだ?」
「なるほど。良いと思います。しかしそれだと周りの方が納得しないと思うので、出来るだけ見せつけるようにした方が良いかと。」
一人の令嬢に水をぶっかけて何もなしだと思われるより、それなりの対処をした、と思わせなければならないからね。だから見えないところで処罰しても無駄になる。
今はまだ日も浅いから、きっとリナフィーに話しかける人は少なかったはず。その上であの事件だから、もういないんじゃないかな。それで罰を受けたかを聞くこともできないだろうし、何もせず済まされたって勘違いされたままだと反感を買う。今回は観客のための処罰になるね。
「ふむ……では集会で取り締まるようにするのはどうだろうか」
「なるほど、いいと思います。ですが立場上言い方に注意しなければなりませんね。誤解を招くとタダでは済まされなくなりますし」
「あぁ、勿論だ。」
流石、立場が上にあるからか話し方が丁寧だし考えも良識的。そこに私が口を出して意見を変えるように言ってるのが不思議だけどね。
確かに私も後日話をしたいとは言ったけど、ここまで信頼していただけるのはなんでだろう……?何か裏がある?と勘ぐりたくなるけど、やっぱり経験上の勘?前世を含めても年齢がまだ幼い私には到底追いつけないなぁ、と少しため息をつきたくなった。
___コンコン
「失礼します。ティーをお持ちいたしました。」
「あぁ、ありがとう」
「ありがとうございます。」
あ、アリンさんがお茶を持って来てくれた。ストレートティーと……レモンティーかな?
アリンさんは綺麗に私とラギット様の前にお茶をおいて部屋から出て行った。少し緊張の糸がほぐれた気がする。きっとそれを見越してのこのタイミングだったのかな?そう思うと、やはりメイドはすごいなぁと少し尊敬した。私より私のことを知ってるかもね。
「…………ふぅ、少し休憩がてら雑談をしようか」
「そうですね。何をお話しますか?」
「そうだな、じゃあ、やはり年頃だろうし、恋焦がれる人はいるのか?」
「好きな人、ですか」
悪戯っぽく笑うラギット様を見て、少し親近感を感じた。やっぱり年や権力が私なんかよりかなり上だから、無意識に遠い存在だと思っていたのかもしれない。
そんなラギット様に悪いが、今はいない。前世?現世?ではいたんだけど、今の男子達はあまりに関係が薄すぎて人物像ですらつかめそうにない。ごめんよ。
「あぁ。やはり“いけめん”がいるのか?」
「イケメン…どうでしょう。私にはまだわからないですけど、世間的にイケメンだと思われてるからなら、いますね」
いけめん、がなんか平仮名な感じがしたけど、年齢的におじさんだから馴染みがないのかな?だから言い慣れないと……なんか、うん、可愛いなおじさん。
でもまぁ、チェリスとかミュディーとかイケメンだよね。あとサファ。あ、サファは年下すぎて攻略対象外だけどねー…残念。
「ほう、それは誰だ?」
「やはりチェリス様やミュディー様でしょうか。あのお二人方は人の目を惹く魅了があります。」
「なるほど。で、どちらが良いんだ?」
「そ、それは…答えかねますね」
いやいや、流石に答えられないよ!
記憶戻ってまだ数日も経ってないんだよ?ちょっと急すぎない?
って言っても、この人はそんなこと考えてないんだろうなぁー……。いやまぁ逆に考えててもびっくりだけどさ!
「ふむ…じゃあ、話を戻そうか」
「はい。」
やっぱり戻るよね知ってたよ。でももうちょっと話してたかったな。こういう雑談みたいな。さっきはノリがいいおじさんな感じで楽しかったのにー。
「やはり、公の場で注意して誤解は解けたとして、話しかけるものがいると思うか?」
「そうですね、難しいと思います。水をかけたのが取り巻きで、その取り巻きがいないリナフィーですらすこし疎遠になるかと。」
やっぱり見た目や第一印象って大事だから、リナフィーは第一印象が最悪だし、話しかけるような物好きはいないよね。
「ふむ……やはりそうか。それなら誰かが話しかけて人物像としての誤解を解けばいいのだが、どうすればいいか……」
「なら、私が積極的に話しかけます。私には取り巻きなどいないので、自由に行動できますし」
私なら事情を知ってるし特に怖くなんかないし。それにリナフィー可愛いから個人的にはすごい好きだし。
「それはありがたいが、チェリスやミュディーが黙ってはいないだろうな」
「そうですね……忘れてました。なら説得してみます。もしダメでしたらまた考え直しましょう」
ゲーム内ではヒロインに過保護らしかったから、少なくとも自分と関わりがある女子が火に飛び込むなら止めるだろうね。一応話は通じるから大丈夫だと思うけど。
「ふむ、できるか?二人はリナフィー嬢に良い印象はないだろうし、できれば離れさせたいと思うだろうな」
「……難しいでしょうか?」
そうだね……普通は危ないところに近づけないよね。ただ私は口下手だから上手く丸め込める自信がないし、でもやらないわけにはいかないし。
「あぁ。難しいだろうな。」
「うーん……何かいい案はありますか?二人が私に関わらない、もしくは私とリナフィー様が仲良くなることに抵抗をなくすことは……」
やっぱり難しいか。せめて関わりがなくなって私とリナフィーのことに触れなければどうにかできる自信はあるけど、もしそこに割り込んで来たらリナフィーの印象がさらに悪くなるよね。
少し悩む様子で顎に手をあて思考するラギット様。あぁ、私のためにありがとうございます。
「なら、私……主催者のお願いだと言うのはどうだろうか?あの件がきっかけでいじめが起きては私の心が痛む、等言う設定で」
「なるほど!いいですね!それなら納得してくれるでしょうし、文句つけられても言い訳できますし!」
仕方なく、ってことで私にもリナフィーにも文句は行かないだろうね。さすがラギット様だなぁ……。
「そうだな……しかしリナフィー嬢がどんな反応をするか、少し不安だな」
「あぁ、そうですね……。もしかしたら『慈悲』や『同情』だと思われるかもしれませんね。」
プライド高そうだしなぁー……これから話しかける身としては私のイメージが悪くなるのは出来るだけ避けようか。
「そこはもうどうしようもないが、出来る限り善処してもらえるか?」
「ええ、もちろんです。」
「ありがたい」
そこはもう私の努力次第ってことだよね。
ラギット様はホッとした様子で目尻を下げ笑う。こう見ると中々イケメンだよね。少し渋い感じの。
「一息ついて、もう話は終わったかな?」
「うーん、そう……ですね。はい。」
「じゃあ…そうだな、もうお暇することにするよ。」
「分かりました。今日はありがとうございました」
お帰りになられるようなので、席を立ってお見送りする。礼儀正しく、裾を持って礼。さすが私、素晴らしいね!
「では、よろしく頼むよ」
「はい。失礼します。」
部屋を出るまで見送ってから、他のメイドさんに任せる。
……はぁー、緊張した。あんだけつらつら文句言っちゃって大丈夫だったかな?生意気な野郎だとか思われてないかな?……はぁー……。これからが不安だあー。
「お疲れ様でした。自室に戻り休みますか?」
「ええ、そうね。休ませてもらうわ……あ、ごめんなさい!私、敬語を……」
「その方がお似合いですよ。前はそのような話し方でしたし、そちらのほうがしっくりくるのではないでしょうか?」
「……そうね、ごめんなさい、そうさせてもらうわ」
スッとアリンさんが横に立ち、ねぎらってくれる。さすが優しい。
そっか、私が私になる前、本当のレミーウィルの時はタメ口だったんだ。まぁメイドに敬語っておかしいんだろうけど、なんで今タメになってたんだろう。んー、まぁいいや。そんな重要じゃないしね。
そこから無言でアリンさんと自室に戻る。
時間を見ると……もう11時くらい。
「アリンさん、ありがとう」
「いえいえ、大丈夫です。あ、アリンと呼び捨てでも構いませんよ」
「じゃあ、そうさせてもらうわ。アリン」
「えぇ。失礼します」
……なんか、今までより親密になった感じがする。アリンさん……アリンは大人びてて綺麗だから、なんとなく遠い存在だと無意識に思ってたのかな?
はぁ、とため息をついてベッドに飛び込む。相変わらずフワッフワで気持ちいいなー。
私がこの世界に来て、“本当のレミーウィル”はどうなったんだろう。もしかして、私と入れ替わりになった?そうしたら私の姿のレミーウィルがあっちの世界にいるのかな?……少し話してみたいなぁ。
あー、現世が恋しい。この世界の人も優しいしいい人なんだけど、やっぱり、私は……。
「……ねむ」
少し緊張して疲れたのか、すぐに眠くなった。だらしないけど、このままお昼まで寝させてもらおう。
おやすみー。
そのことに少し感動を覚えながら、服を着替える。
「レミーウィル様、朝起きたら私をお呼びください。お召し物は私が選びますので。」
「あー、アリンさん!すみません!」
そうだ、私は令嬢になったんだ(忘れてたなんて口が裂けても言えないね)。やっぱりメイドがなんでもこなすのかな?少し恥ずかしいけどそれが常識なんだもんなぁ……。
「いえ、大丈夫ですよ。ですがもう少しご令嬢として威厳を持っても良いと思います。」
「威厳ですか?」
嘘でしょ、威厳なんてあるの?いやだって身の回りを全てメイドに任せてるなら威厳もプライドもないよね?
「平民のように全て自身でやろうとしているように見えるので、もう少しメイドを頼っても良いのですよ、という意味です。」
「なるほど……これからは少し意識しますね」
威厳ていうか……なんだろう。目上の立場にいることを意識しろってことだよね。やっぱりそういうの必要だよねー。人を使いパシリにするのは好きじゃないんだけど、仕方ないのかなー。基本受け身なタイプだからなー、私。
「それがよろしいかと。」
「なるほど……。」
と、こんなことを話しているうちに着替え終わった。やっぱり手慣れてるね。私はまだ慣れないから恥ずかからけどね。
__コンコン
「はい、どうぞ」
誰か来た様子。丁度着替え終わったし、大丈夫だから返事をした。
「私だ。パリシュが来ている。出来る限り早く……いや、もう準備は出来ているようだな。」
「はい。お父様。」
どうやらお父様だったね。威厳ある面持ちで部屋のドアを開けた。なるほど、ラギット様が来てるのね。たしかあの会の主催者のパリシュ・ラギット様だったはず。
そういえば帰る少し前に連絡してください的なことを言ったような……絶対それが原因じゃん!それについて話すよね!!うわぁ緊張する!
「……緊張するな。いつも通りでいい。」
「そうでしょうか……。お気遣い痛み入ります」
あれ、敬語ってこれで合ってる?なんか違くない?大丈夫?普段敬語なんて使わないからなんかおかしいよね!?
お父様の少し後ろで歩く。はぁー、気が重い。 あの事件のことで、私は特に何も気にしない。ただそうするとなんでもしていい無法地帯だと勘違いする輩が出るから、何かしらの処罰は与えなければいけない。それが軽すぎるても意味はないし、逆に重すぎても彼女たちにトラウマを植え付けることになる。つまり、ちょうどいい程度を知らなければならない。
ラギット様はどうしたいんだろう。
私は、彼女たちが傷を負わない程度に処罰したい。主催者であるラギット様は、きっとあの事件について良くないと思っているだろう。だから帳消しにするか処罰するか……そこはあちらの判断に委ねよう。
「着いた。客室にいるから、話してこい」
「わかりました」
ええ、一人でですか?そんな疑問を口には出さないで、なんとなく睨んでおいた。多分気付いてないけどね!
___コンコン
まず、ノックは二回。それからドアを開けて。
「失礼します。お待たせいたしました。レミーウィル・カンザキです。」
「ああ、ご機嫌麗しゅう、綺麗なご令嬢様?」
「お褒めいただきありがとうございます」
さすがラギット様。口が上手いなぁ、と思いつつ、少しだけ自己紹介をし、礼をする。それでドアを閉め、ソファーに座る。うわぁふっかふか!すごい沈む!
「今日はどのような用件で?」
「まずは、昨日あった事を謝らせてほしい。すまなかった。」
「……あ、いえ、大丈夫です。」
驚いた、まさかラギット様が謝罪するなんて。謝らないって言ってもミスを認めないとかじゃなくて、ラギット様には何も悪くないのに……いやでも、主催者なら責任があるのか。ごめんなさい、謝らせてしまって……。
「気にしないでください。本題はそれだけですか?」
「いや、どう処理するかについても話したい」
「……なるほど。処理の仕方……ですか。」
「あぁ。」
もちろんわかってはいたが、少し緊張する。途端に空気が張り詰めた。私の選択で、もしかしたらリナフィーのこれからを左右させるかもしれないから。
「主催者の立場とかは考えなくていい。貴女ならどうする?どうするのが正解だ?」
「…………!」
う そ だ ろ ?
いや、まさかこう来るとは思わなかった。全ての判断をまだ幼い私に煽るのは、私を試している?それとも、お前には何もできまいという自信?どっちだ?……わからない。これには、どう答えるのが『レミーウィル』にとっての正解なんだ…!?
無駄に思考して変な答えになるのは避けたい。それは勘ぐってるのがバレてしまう。至って自然に、さも私がそう考えてるように答えなきゃ…………いや、これは思ったことを直球に言えばいいの?子供らしくないとか年齢不相応に思われるかもしれないけど、背に腹はかえられない……!
「私は、取り巻きの責任としてリーダーのリネットを含めたグループを処罰するべきかと思います。ただ初犯ですし、あまりに重いとトラウマに、しかし軽いと無法地帯だと思う方が出てきますので、ちょうどいい具合に対処すべきだと。」
「…………なるほど。粗方私と考えは同じようだな」
よかった、正解だったようだね。
「実は、対処について、もう考えてある。厳重注意で済まそうかと思うのだが、どうだ?」
「なるほど。良いと思います。しかしそれだと周りの方が納得しないと思うので、出来るだけ見せつけるようにした方が良いかと。」
一人の令嬢に水をぶっかけて何もなしだと思われるより、それなりの対処をした、と思わせなければならないからね。だから見えないところで処罰しても無駄になる。
今はまだ日も浅いから、きっとリナフィーに話しかける人は少なかったはず。その上であの事件だから、もういないんじゃないかな。それで罰を受けたかを聞くこともできないだろうし、何もせず済まされたって勘違いされたままだと反感を買う。今回は観客のための処罰になるね。
「ふむ……では集会で取り締まるようにするのはどうだろうか」
「なるほど、いいと思います。ですが立場上言い方に注意しなければなりませんね。誤解を招くとタダでは済まされなくなりますし」
「あぁ、勿論だ。」
流石、立場が上にあるからか話し方が丁寧だし考えも良識的。そこに私が口を出して意見を変えるように言ってるのが不思議だけどね。
確かに私も後日話をしたいとは言ったけど、ここまで信頼していただけるのはなんでだろう……?何か裏がある?と勘ぐりたくなるけど、やっぱり経験上の勘?前世を含めても年齢がまだ幼い私には到底追いつけないなぁ、と少しため息をつきたくなった。
___コンコン
「失礼します。ティーをお持ちいたしました。」
「あぁ、ありがとう」
「ありがとうございます。」
あ、アリンさんがお茶を持って来てくれた。ストレートティーと……レモンティーかな?
アリンさんは綺麗に私とラギット様の前にお茶をおいて部屋から出て行った。少し緊張の糸がほぐれた気がする。きっとそれを見越してのこのタイミングだったのかな?そう思うと、やはりメイドはすごいなぁと少し尊敬した。私より私のことを知ってるかもね。
「…………ふぅ、少し休憩がてら雑談をしようか」
「そうですね。何をお話しますか?」
「そうだな、じゃあ、やはり年頃だろうし、恋焦がれる人はいるのか?」
「好きな人、ですか」
悪戯っぽく笑うラギット様を見て、少し親近感を感じた。やっぱり年や権力が私なんかよりかなり上だから、無意識に遠い存在だと思っていたのかもしれない。
そんなラギット様に悪いが、今はいない。前世?現世?ではいたんだけど、今の男子達はあまりに関係が薄すぎて人物像ですらつかめそうにない。ごめんよ。
「あぁ。やはり“いけめん”がいるのか?」
「イケメン…どうでしょう。私にはまだわからないですけど、世間的にイケメンだと思われてるからなら、いますね」
いけめん、がなんか平仮名な感じがしたけど、年齢的におじさんだから馴染みがないのかな?だから言い慣れないと……なんか、うん、可愛いなおじさん。
でもまぁ、チェリスとかミュディーとかイケメンだよね。あとサファ。あ、サファは年下すぎて攻略対象外だけどねー…残念。
「ほう、それは誰だ?」
「やはりチェリス様やミュディー様でしょうか。あのお二人方は人の目を惹く魅了があります。」
「なるほど。で、どちらが良いんだ?」
「そ、それは…答えかねますね」
いやいや、流石に答えられないよ!
記憶戻ってまだ数日も経ってないんだよ?ちょっと急すぎない?
って言っても、この人はそんなこと考えてないんだろうなぁー……。いやまぁ逆に考えててもびっくりだけどさ!
「ふむ…じゃあ、話を戻そうか」
「はい。」
やっぱり戻るよね知ってたよ。でももうちょっと話してたかったな。こういう雑談みたいな。さっきはノリがいいおじさんな感じで楽しかったのにー。
「やはり、公の場で注意して誤解は解けたとして、話しかけるものがいると思うか?」
「そうですね、難しいと思います。水をかけたのが取り巻きで、その取り巻きがいないリナフィーですらすこし疎遠になるかと。」
やっぱり見た目や第一印象って大事だから、リナフィーは第一印象が最悪だし、話しかけるような物好きはいないよね。
「ふむ……やはりそうか。それなら誰かが話しかけて人物像としての誤解を解けばいいのだが、どうすればいいか……」
「なら、私が積極的に話しかけます。私には取り巻きなどいないので、自由に行動できますし」
私なら事情を知ってるし特に怖くなんかないし。それにリナフィー可愛いから個人的にはすごい好きだし。
「それはありがたいが、チェリスやミュディーが黙ってはいないだろうな」
「そうですね……忘れてました。なら説得してみます。もしダメでしたらまた考え直しましょう」
ゲーム内ではヒロインに過保護らしかったから、少なくとも自分と関わりがある女子が火に飛び込むなら止めるだろうね。一応話は通じるから大丈夫だと思うけど。
「ふむ、できるか?二人はリナフィー嬢に良い印象はないだろうし、できれば離れさせたいと思うだろうな」
「……難しいでしょうか?」
そうだね……普通は危ないところに近づけないよね。ただ私は口下手だから上手く丸め込める自信がないし、でもやらないわけにはいかないし。
「あぁ。難しいだろうな。」
「うーん……何かいい案はありますか?二人が私に関わらない、もしくは私とリナフィー様が仲良くなることに抵抗をなくすことは……」
やっぱり難しいか。せめて関わりがなくなって私とリナフィーのことに触れなければどうにかできる自信はあるけど、もしそこに割り込んで来たらリナフィーの印象がさらに悪くなるよね。
少し悩む様子で顎に手をあて思考するラギット様。あぁ、私のためにありがとうございます。
「なら、私……主催者のお願いだと言うのはどうだろうか?あの件がきっかけでいじめが起きては私の心が痛む、等言う設定で」
「なるほど!いいですね!それなら納得してくれるでしょうし、文句つけられても言い訳できますし!」
仕方なく、ってことで私にもリナフィーにも文句は行かないだろうね。さすがラギット様だなぁ……。
「そうだな……しかしリナフィー嬢がどんな反応をするか、少し不安だな」
「あぁ、そうですね……。もしかしたら『慈悲』や『同情』だと思われるかもしれませんね。」
プライド高そうだしなぁー……これから話しかける身としては私のイメージが悪くなるのは出来るだけ避けようか。
「そこはもうどうしようもないが、出来る限り善処してもらえるか?」
「ええ、もちろんです。」
「ありがたい」
そこはもう私の努力次第ってことだよね。
ラギット様はホッとした様子で目尻を下げ笑う。こう見ると中々イケメンだよね。少し渋い感じの。
「一息ついて、もう話は終わったかな?」
「うーん、そう……ですね。はい。」
「じゃあ…そうだな、もうお暇することにするよ。」
「分かりました。今日はありがとうございました」
お帰りになられるようなので、席を立ってお見送りする。礼儀正しく、裾を持って礼。さすが私、素晴らしいね!
「では、よろしく頼むよ」
「はい。失礼します。」
部屋を出るまで見送ってから、他のメイドさんに任せる。
……はぁー、緊張した。あんだけつらつら文句言っちゃって大丈夫だったかな?生意気な野郎だとか思われてないかな?……はぁー……。これからが不安だあー。
「お疲れ様でした。自室に戻り休みますか?」
「ええ、そうね。休ませてもらうわ……あ、ごめんなさい!私、敬語を……」
「その方がお似合いですよ。前はそのような話し方でしたし、そちらのほうがしっくりくるのではないでしょうか?」
「……そうね、ごめんなさい、そうさせてもらうわ」
スッとアリンさんが横に立ち、ねぎらってくれる。さすが優しい。
そっか、私が私になる前、本当のレミーウィルの時はタメ口だったんだ。まぁメイドに敬語っておかしいんだろうけど、なんで今タメになってたんだろう。んー、まぁいいや。そんな重要じゃないしね。
そこから無言でアリンさんと自室に戻る。
時間を見ると……もう11時くらい。
「アリンさん、ありがとう」
「いえいえ、大丈夫です。あ、アリンと呼び捨てでも構いませんよ」
「じゃあ、そうさせてもらうわ。アリン」
「えぇ。失礼します」
……なんか、今までより親密になった感じがする。アリンさん……アリンは大人びてて綺麗だから、なんとなく遠い存在だと無意識に思ってたのかな?
はぁ、とため息をついてベッドに飛び込む。相変わらずフワッフワで気持ちいいなー。
私がこの世界に来て、“本当のレミーウィル”はどうなったんだろう。もしかして、私と入れ替わりになった?そうしたら私の姿のレミーウィルがあっちの世界にいるのかな?……少し話してみたいなぁ。
あー、現世が恋しい。この世界の人も優しいしいい人なんだけど、やっぱり、私は……。
「……ねむ」
少し緊張して疲れたのか、すぐに眠くなった。だらしないけど、このままお昼まで寝させてもらおう。
おやすみー。
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