オーバー・ターン!

序

0-0

　違和感を最初に感じたのは、転校の初日であった。
　違和感といっても、人によってはそれぞれなのかもしれないが、俺の場合は教室の中を横切る学友や学食で食券を求めて並んでいる学生達の様子、通学の光景など、日常によく見られる光景そのものに、何層かの透明なフィルターが掛けられているかの様に感じられるのだ。
　その透明なフィルムが光の加減により、画像がぶれると言えば良いのか、それともまるでテレビでも見ている時の様に、第三者としての自分がそこにいる感じと表現すれば良いのか迷うところではあるが、とにかく、それが俺の感じる違和感である。
　ストレスにより、そのように感じるのかもしれないと思ったのは、そのストレスに心当たりがあったからだ。
　俺はこの春、全寮制の高校に転入したのだが、そもそも転入の切っ掛けが、必死の思いで勉強をしてやっとで受かった高校を一ヶ月も経たない四月のうちに退学になったためであった。
　退学になった俺を拾ってくれる学校があったのは、喜ばしい限りではあるが、それまでの生活環境が激変したのは確かである。
　生活環境が変わったためにその様に感じるのならば、その生活環境に慣れてしまえば良い。俺は自分でも言うのも何だが、結構周囲の状況に溶け込みやすいと自認している。だから、時間がたてば、この生活環境に馴染み、同時に違和感も無くなる筈である。そう自己判断していたのだが、二ヶ月経過した今でも違和感はなくならず、逆に激しくなってきているような気がする。
　いや、気がしているのではない。実際、違和感は激しくなり、ここ最近では幻覚まで見えるようになってきた。
　二週間程前のある日、夜中に目が覚めた俺を、黒髪が腰の辺りまで達した少女が見下ろしていたのだ。
　男子ばかりの寮にも女性は確かにいる。寮母の大西茜さんであるが、茜さんはほんわかとした雰囲気のお姉さんである。そんな茜さんと見間違える筈もない。そもそもその少女は、ある意味茜さんとは正反対の雰囲気を身に纏っていた。
　凛として、意志の強そうな瞳が暗い部屋で燐光を放つように薄青く光り、とても印象に残る美少女である。
　いずれにせよ、真夜中に黒髪の美少女が俺を見下ろしてくる状況はどう考えてもあり得ない。
　流石に俺はまずいと感じ始めていた。
　ストレスが原因であるとしたら、それはかなりの物かもしれない。
　違和感に幻覚。
　それでも俺はそれらに折り合いをつけながら、何とか学生生活を謳歌していたのである。