オーバー・ターン!

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2,賢くなりたい子犬たち

2-6

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 俺達は道場を後にした。 
 「うーーーーーーーーーーー」
 マリネルがぼろ雑巾の様な状態で俺の背中で唸り声を上げている。体力の限界以上の力を出した結果であった。
 「だらしがないな、この程度で動けなくなるなど」
 先に歩いていたエスターが、ばっさりと切り落とした。
 「こんなになるの、初めてだよー、流石だねぇ友弥って武道をやっているだけあるねぇ」
 言い訳も出来ずにマリネルが呻く。いや武道じゃないんだけどねとは言わずにおいた。
 「後で筋肉痛の薬を茜さんに貰ってくるから、ちゃんと塗っとけよ」
 「うーーーん」
 完全にグロッキー状態である。
 「アジス先生?」
 屋敷の門に差し掛かった辺りでエスターの声に視線を向けると、ちょうどスーツ姿が門をくぐったところである。
 「・・・・・・・・・アミアミ姉ちゃん?」
 「なにぃ?なんていったの?」
 背中でマリネルが俺の呟きに反応した。
 肩口で切り揃えた黒髪、刺すような切れ長の目、
紺のスーツに白いブラウス、タイトスカートから伸びたすらりとした足は黒っぽいストッキングに覆われている。
 「エスター・・・・」
 「なんだ?」
 「悪いが、ちょいと一発、俺を殴ってくれないか?」
 鋭い衝撃か右頬に炸裂し、俺の首は左側にがくりと傾くと星が飛び散った。
 「ぐーーーで殴るか、ぐーーで」
 「はたけと言われたのならば、平手だが、殴れと来れば、ぐーではないか?」
 いや、まぁ、そうかもしれないが、もう少し手加減というものをしても良いだろうが。意識が飛びそうになるほどのパンチってどうよ。
 「ああ、お前達か」
 アジス先生が俺達に気が付いた。
 幻覚は消え去り、アジス先生はいつもの通りの七三に分けた髪で、ちゃんとスーツのスラックスをはいている。
 「どうなりました?」
 エスターが聞いた。
 「無駄な時間を過ごした。くその役にも立たん誇りなどを持ち出し、言い訳を吐きまくる馬鹿のおかげでな」
 おお、いつもに比べて饒舌なのは、相当頭に来ているためか?
 「では、友弥と先生の処遇は?」
 アジス先生が、俺に視線を向けたが、直ぐに視線を外す。
 「教職員の意見はまとまった、後は理事会の回答待ちだ」
 なるほどとエスターが答えた。
 「先生、ちょっと聞いて良いですか?」
 「なんだ」
 俺の言葉にアジス先生が振り向いた。
 「アミアミ姉ちゃんと親戚ですか?」
 アジス先生が躓いた。
 「な、何を言い出す」
 「あー俺の小さい頃に、家に時々来ていた女の人なんですが、いつも網タイツを履いていた格好いいお姉ちゃんで、俺、凄く可愛がって貰ったんです。名前も教えて貰ったはずなんですけど、網タイツのアミアミ姉ちゃんというのが凄く印象が強くて、本名忘れてしまいまして・・・・・何となく先生と雰囲気が似ているので、親戚かなと」
 「・・・・・私の親戚に、網タイツを履き、人様の家に伺うなどという恥知らずはいない」
 俺は懐かしい女の人を思い出していた。俺が小さいときに、時々我が家に遊びに来ていた母の知人のお姉さんの呼び名である。ミリミリ姉ちゃんとアミアミ姉ちゃん。特に可愛がってくれたのはアミアミ姉ちゃんで、黒髪の真ん中に入った赤のメッシュと、歌舞伎役者の様に黒く縁取った目の回りと、紫色の唇、それにいつも履いていた網タイツ姿が当時の俺には凄く格好良く見えて、アミアミ姉ちゃんの後を追いかけていた。実はあれが初恋ではないのだろうかなどと思っていたりもする。
 二人とも、俺が中学に入る前の年辺りからぱったりと見かけなくなってしまった。なんでも仕事が忙しくなったと母が言っていた。年賀状や暑中見舞いは未だに毎年貰っているから、元気にしているとは思うのだが。
 ちなみに郵便物の差出人はアミアミ姉ちゃんよりとなっているおかげで、いまだに本名が分からない。
 「本名を知りたいの?」
 マリネルが聞いてきた。
 「ああ」
 「だったら、友弥のお母さんかお父さんに聞けば良いんじゃない?」
 その手があったか。
 「天然だね」
 「天然だな」
 アジス先生まで同意する顔をしていたのがショックであった。


 離れは酷い有様であった。
 まだ六時前だというのに、離れに近づいただけで辺りは、甘ったるい臭いが漂い、聞いたこともないカラオケを絶叫している声と笑い声に満たされていた。
 どこの居酒屋だここはと思い、玄関の引き戸を開けると、居間では茜さんがピザを配っていた。
 俺は呆れながらも、下駄箱に靴を突っ込み、登り口に上がった。
 「あら、居酒屋【離れ】にようこそ」
 「居酒屋なんですか、ここは・・・って、未成年に酒を飲ませちゃいかんでしょう」
 「だいじょうぶよー、これアルコールじゃないから、エスター君のお国の特産品の、人体に害のない香辛料の一種なのー、とってもおいしいのよー」
 俺はエスターを振り向いた。
 「なんと言って良いのか、そうだ、うちの特産品だ。迷惑かける・・・・・」
 いや、別にお前を責めている訳では無いのだが。
 「そう言う問題ではない、酩酊状態になり、周囲の第三者に迷惑を掛けた場合の責任が取れるかと・・・・・・・・」
 「おーーーーーーーアジスーーーーーーげんきだったかーーーーーーーーーー」
 いきなりアジス先生が消えた。もとい、胡散臭いミー君に腕を引かれて、混沌の集団の中に引きずり込まれていった。
 「な、何を・・・」
 「飲め飲めーーーー」
 「お二人はお知り合いなんですかーーー」
 「おーーーー、お知り合いも何も、俺の命の恩人よーーーーー」
 うわーーーーーすごーーいぱちぱちぱち
 良いから離せ、
 良いから飲め、
 すげーーーアジス先生一気に行ったーーー
 すすめーー、どらいんざーー、ひっさつこうせんーーーー♪
 うわー、おじょうずーーーー
 「ああ、うるせえ・・・・」
 俺とエスターとマリネルは部屋に引っ込むことにした。無駄とは知りながらも、きっちりと障子を閉める。
 無駄であった。騒音はだだ漏れである。
 「あ、洗濯物、取り込まなきゃ」
 マリネルの言葉に俺達は洗濯物を取り込み始めた。
 マリネルは筋肉痛の為、畳の上で蓑虫状態になりながら俺達を見ている。
 「・・・・・・・・・」
 「何をしている?」
 「い、いや、何でも」
 エスターの言葉に、引きつった顔で俺は笑った。
 ちらりと視線を向けた手元の洗濯物。そこには女物のショーツが握られている気がしたのだが、よく見てみると男物のブリーフである。
 しかし、視界の隅に未だに取込中の下着類が見えるが、そこには明らかに男物のとは思えないカラフルで小さな下着が風に翻っている。
 「大丈夫?友弥」
 「蓑虫がなんかいっているが、俺も同感だ」
 「ひどすぎる・・・・」
 「・・・・・なんでもないぞ」
 俺が翻る下着を睨み付けると、女物の下着が男物の下着に替わった。今の内にとばかり、さっさと洗濯物を取り込む。
 「あーーー、こんなに、ぐちゃぐちゃにしちゃってー」
 マリネルが文句を言いながらたたんでいく。
 「はい、これ友弥の分ね、こっちはブラッゲで、こっちはエスター」
 エスターが俺の分も受け取り、手渡してくれた。
 「おまえ、疲れているんじゃないのか?風呂でも入ってこい」
 「ああ、そうする、マリネル、入るか?」
 「うん、入る」
 「俺も後から行く」
 俺はマリネルの首根っこを掴み、抱え上げる。
 「うーーーー、お風呂ぐらいまでは歩けるよー」
 文句を言うマリネルを抱え上げながら、風呂場に向かった。
 今日の風呂当番は見事にサボっていた。
 床をデッキブラシで洗い流し、その間にマリネルに体を洗わせた。
 掃除を終えた俺が頭を洗っていると、その頃になってようやくエスターが入ってきた。
 「あっちは凄いことになってるな」
 桶置き場から桶を手に取り、エスターが俺の隣に座る。
 「そりゃ、あのミリエ・オーガスさんだから、みんな浮かれると思うよ」
 マリネルが湯船の中から答えた。
 「アジス先生が、そのミリエ・オーガスを足蹴にしながら、カラオケを歌っていた」
 「見たいような、見たくないような感じだねぇー」
 微妙な顔のマリネル。
 「茜さんが、夕飯は、部屋に用意してくれるそうだ、あとマリネルの消炎剤も置いておいてくれるらしい」
 「ありがとう」
 エスターに礼を言うマリネルの言葉を聞きながら、俺は床にお湯をまいた。
 「ほい、お待たせ、マッサージしてやるから、ここに寝そべってくれ」
 湯船から上がったマリネルが、わーいと喜びながら、腰にタオルを巻いて床に寝そべった。
 「よろしくー」
 俺はマリネルのマッサージを始めた。
 マリネルはとろけた表情になる。
 「やっぱり、友弥は一家に一人は欲しいねぇ、このマッサージ、凄くいいよー、あとで、エスターもやって貰えば?」
 「ああ、そうだな」
 「俺はマッサージ機か」
 エスターが笑った。
 マリネルの脹ら脛を揉みほぐし、太股を揉みほぐす。適当にマリネルにお湯を掛けながら背中、腕とマッサージをした。
 時折マリネルが【うにゃにゃにゃ】とか【うぴょぴょ】など訳のわからないうめき声を上げていた。かなり気持ちが良いらしい。
 「ほい、終わりだ」
 「ありがとう」
 とろけた顔のままマリネルが湯船につかった。
 俺は体を洗い終えて、湯船につかっていたエスターを手招きした。
 「だんな、空きましたぜ」
 「うむ、ご苦労」
 エスターがマリネルと同じように寝転がる。
 「あ」
 湯船の中でマリネルが気が付いた様に声を上げた。
 「どうした?」
 俺はマリネルを振り向いた。
 「ううん、なんでもない」
 どことなくもじもじしている。
 「ぼ、ぼくもう出るね、なんか体も温まったし」
 マリネルがいそいそと湯船から出た。
 「ちゃんと薬を塗っておけよ」
 「うん、わかってる」
 慌てた様にマリネルが出て行った。
 「・・・・トイレかな?」
 「その様だな」
 俺はエスターのふくらはぎを揉みほぐし始めた。
 「確かに・・・・これは・・・・いいな・・・・」
 エスターが満足そうに言った。
 右の太股、腰とマッサージをする。腰を揉みほぐしていると、エスターが気持ちよさそうなうめき声を上げた。
 「お湯、かけるぞ」
 「ああ」
 俺はエスターにお湯を掛けた。次は背中かと視線を向けた俺は固まった。
 俺が揉みほぐそうと視線を向けたそこは、とても白くて柔らかそうな曲線を描いていた。
 男の背中ではありえない曲線、視線を上に移動していくと、白い肩が見えた。腕を上げて伏せた胸元などは、ふくらみが床に押しつけられている。
 髪の毛は後頭部で纏められて、こちらも白いうなじが湯に塗れて、水滴がしたたり落ちていた。そして黒いチョーカー。
 俺はゆっくりと目を閉じて、開いた。
 白いお尻がもぞりと動く。
 「どうした?」
 顔を上げて振り向いたその顔は、幻覚の美少女であった。
 上半身を捻りこちらを見上げてきたおかげで、胸元が露わになる。白くて形の良いふたつの膨らみとその先端の桜色の突起。形の良いお臍までがこちらを向いた。
 俺は健康優良児である。身体共に健康と中学時代の内申書に書かれていた。すなわち、健康な故に、反応するモノは反応してしまうのだ。
 慌てた俺は、足を絡ませつつ、そのまま湯船に飛び込んだ。
 「ど、どうしたんだ?大丈夫か?おい友弥」
 腰にタオルを巻いただけの美少女が俺を追いかけて、湯船の中に入ってくる。
 湯船に入ると、腰のタオルがはらりと落ちて、俺の目に美少女の股間が飛び込んできた。
 「ま、まて、ちょっとまて」
 俺は美少女に背を向けた。
 心臓がばくばく言っている。
 落ち着け、俺、落ち着け、俺。
 深呼吸を三回。そして余分に三回の深呼吸を追加。良し、落ち着いた。
 振り向いた俺の目におっぱい。
 俺はまた向き直った。
 「え、えすたー?」
 俺は声を掛けてみた。多少裏返っている。
 「なんだ?」
 美少女のいる位置から声が帰ってきた。エスターの声ってこんなに高かったか?いや、これは男の声じゃない。
 「本当にエスター?」
 「そのつもりだが」
 心地よい声音で返事が返ってきた。
 「とりあえず、ちょっと、首までお湯につかってくれない?」
 「ああ、いいぞ」
 俺はちらりと振り向いた。不思議そうな表情を浮かべてこちらを見ている美少女がそこにいた。ゆらゆらと揺れる水面下に俺のごく一部を元気にする光景が見えるが、顔に集中していれば、かなりましになっている。あ、でも、凄い美少女。思わず見とれてしまいそうになる。
 「エスター、って女じゃないよな」
 「当たり前だ、私は女だ、お前と同じだ」
 「そうだよね、って俺は男だぞ」
 「ああ、分かっている、お前も女だな、それがどうした?」
 「俺はお前が女に見える」
 「当たり前だろ、女なんだからな・・・・・・・・」
 会話が噛み合っていません。
 しかしエスターが何かに気が付いたように黙り込んだ。
 「・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・」
 美少女と面と向かって入るお風呂での沈黙は地獄です。思わず本能がちらちらと水面下を覗き見ようとしています。心身供に健全な青少年というのは、ある意味犯罪に走りやすいのではないでしょうか?
 「私は、ここ数日、お前が男に見えたことがあった」
 「はえ?」
 間抜けな声になっています。それに私?
 「私が、寝ぼけた時など良くお前にダブって男がそこに見えた。環境が変化したためにストレスが溜まったのかと最初は思っていたが、実は、ブラッゲも時折見かけるそうだ、それも奴が眼ぼけている時に見かけると言っていた」
 俺の見た幻覚と状況は似ている。
 「今日の昼、不覚にも眠り込んだ私が慌てたのは、目覚めた私の前に男がいたからだ」
 あのもの凄い音を立てて、エスターが木に頭をぶつけた事を言っているらしい。
 「知覚操作だ」
 「知覚操作?」
 俺は昼に聞いた言葉を思い出していた。そう言えば、俺が保健室で受けた検査って知覚検査とか言ってなかったか?それに、知覚操作解除されるのが月曜日だとも。
 「厄介だな、友弥が見ている私と、私が見ている友弥の認識が多分一致していないのだろう。それだけではない、言語も知覚だ、私の言っている単語や言い回しと、友弥の認識するそれにも齟齬が生じている可能性がある」
 「な、なんでそんな知覚操作なんてされているんだ?」
 俺の言葉にエスターはちらりと俺を見た。言うかどうか迷っている顔である。
 「お前は私が日本語で喋っていると認識しているだろう?」
 俺は頷いた、エスターが喋っているのは、完全に日本語である。
 「そんな訳あるか、私が喋っているのは母国語だ、お前もお前の母国語を喋っている、本来は異なる言語だが、言語の目的ははっきりしている」
 「コミュニケーションの確立?」
 「そうだ、意思の伝達だ、だから言語を法則に則り知覚変換させると、互いの認識が一致する。これが色々細かい事は省いて、大雑把に解説した場合の知覚変換の基本思想だ、ここまではいいか?」
 俺は頷いた。
 もっと難しいことでもOKである、俺の暴れん坊を鎮める呪文の様なものである。
 エスターが解説してくれたことによると、聴覚、嗅覚、触覚、それに視覚、理覚と知覚変換の研究は進み、全ての知覚変換が可能になったそうである。
 理覚というのは聞き慣れないが、いわゆる第六感の様な物だったり、人を見た時に感じる威厳の様な物だったりする物らしく、エスター達にとっては当たり前の知覚機能の一種なのだそうだ。
 文化文明が遅れている地方では、科学的に証明されていない知覚の種類だとエスターは理覚について解説してくれた。
 「これらの知覚変換は実用化されたが兵器としての使用は禁止された。理由は昼に言ったとおりだ、この技術は、人間のあり方を根底から覆すほどの誤認を可能にする。しかし、言語の認識など、有用な面も多々ある。そこで限定的な使用に関してのみ、厳しい条件付きで許される場合がある」
 「それが特技科?」
 「そうだ、この星はもともと我々の恒星連合に比べて、文化文明が遅れている、このような場合、地元住民と我々の相互間の価値観などの意識合わせをする必要がある」
 「ほ、星?」
 「ああ、私達はこことは別の恒星系の住人だ」
 「異星人?」
 ああ、だめだ、話がどんどん非日常的な方向に進んでいる。
 目の前に裸の美少女がいて、その美少女と風呂に入っていることも信じられないのに、その美少女がやたらと電波を飛ばしまくっています。しかも、怖いことにその美少女が彼女にとっては、ごく当たり前の真実を語っているということが何となく理解出来てしまう俺である。
 「そうだ、この星出身のお前は不思議に思わないか?この星の技術では、未だに有人のボートをこの太陽系からも送り出すことは出来ないが、お前が習得している知識は、星雲をも縦断できる知識だ」
 「疑問には思っていたが、深く考えずに、当たり前のことだと思っていた・・」
 「まさにそれだ。文化文明の異なる者達が一緒に暮らすのには、当たり前だと思わせるのが一番早い、あって当たり前、あることが常識になっていれば、誰もあえてその矛盾を疑問には思わない。私達が自国の情報をお前に言えないのは、私達の常識とお前の常識の差違が時には知覚操作の範疇外である可能性があるからだ、その様な情報からお前の知覚操作が破綻するのを恐れての措置だ」
 「この話って、地球の政治家とかは知っているの?」
 「知るわけがないだろ、子供に兵器を与えて、大げさな喧嘩をさせるわけにも行かない」
 うわ、ばっさりと切り落としましたよ、この美少女は。
 「だからこそ、知覚操作により、常識を書き換えて共生をする、まぁ、この点に関しては色々な意見があるが、共通しているのが、無用な争いは避けるということだ」
 「俺達が知覚操作されていると言うことは分かった、だけど何でお前達も操作されているんだ?地元民の俺だけじゃなくて」
 「それは逆だ。私達の常識がここでは通用しないことが多々あるそうだ。私達こそ、この惑星の常識に合わせた知覚操作が必要になるのだ」
 「お前も知覚操作されていると言うことだよな」
 「もちろんそうだ、私とて自分に知覚操作がなされていることを知りながら、お前のことを見た目通りだと信じ込んでいた。いや、実をいうと、未だにお前が見た目通りだと信じている。これも知覚操作の結果なのだが・・・・」
 ふと気が付いたようにエスターらしき美少女が呟いた。
 「だからか、いきなり月曜に解禁になったのは・・・・・互いに相互作用を及ぼす知覚操作の場合、一人の知覚操作が弱まると、ドミノ式に効果が弱まる事があるらしい」
 「もう一度かけ直すと言うことはできないのか?」
 「言っただろ、限定的な使用で管理も厳しいと。特技科の新入生にかけられるレベルの知覚操作ならば、手間と申請書類の多さを考えると、解除の時期を早めた方が現実的だ」
 そこでエスターが俺を見つめた。
 うわ、美少女に見つめられた。
 「お前、女だよな・・・・」
 「いやだから、俺は男だって」
 「あの美少年がお前の本当の姿なのか?」
 「いや、そんなこと言われたためしがない」
 「・・・・わからん・・・お前は以前のままのお前としか認識できない。確認する方法はないでもないが・・・・」
 エスターが言葉を切り、考え込んでしまった。
 エスターが黙り込んでしまったので、風呂の中はお湯が流れる音に満たされていた。
 俺の頭の中は色々な事がぐるぐると周り、正常な思考が出来ない状態であった。しかし俺も気がついたことがあった。そう、違和感。
 今の俺には普段感じている違和感がかなり弱まって感じられるのである。
 知覚操作が違和感の元凶だとしたら、何らかの原因で知覚操作が弱まっているという今の状態は、同時に違和感が弱まって感じられるのではないだろうか。
 かなり長い時間、俺達はそのまま湯につかっていた。
 「あ、あのさ、そろそろ上がらないか?」
 俺の脳味噌は色々なことで沸騰寸前です。
 「ああ、そうだな」
 俺の言葉に、エスターが答えた。
 「・・・・・」
 「・・・・・・」
 「先に出て良いのか?」
 脱衣場を指さすエスターの言葉に俺は首を縦に何回も振った。
 はい、元気いっぱいです。
 「そうか、じゃあ先に上がるぞ」
 いきなり立ち上がったエスターに、俺は後ろを向いていれば良かったと後悔しかけたが、脱衣場へと消えていくエスターの琵琶のように形の良いお尻を見て、その様なモノは跡形もなく吹き飛んだ。俺ってお尻属性なのか?
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