オーバー・ターン!

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3,異星人で異性人

3-10

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 コール三回で母が出た。
 『はい、矢田貝ですけど』
 「あ、友弥だけど、母さん?ちょっと聞きたいことが有るんだけど」
 『なに?あ、わかった、草餅もっとほしいんでしょ』
 「違います・・・・って、送ってくれるなら、遠慮はしないよ、同室のエスターというのがかなり気に入ったみたいだから」
 『あら、エスターってデクル姫のこと?そうなんだ、じゃあまた送ってあげるね』
 さらりと言いましたよこの母親は。
 「な、なんで、姫様とか知ってるのさ!」
 『あら、だってミレイフュール・マリムルト・クルスト様には、お世話になったもの』
 「ミレイフュール・マリム・・・・何?」
 エスターが目を剥いた。ミレイフュール・マリムルト・クルストは私の母だと呟いた。
 『それに、昔、デクル姫とあなた、遊んだことあるじゃない』
 「お、俺が、昔エスターと遊んだ?」
 エスターの目が点になった。NGです、美少女の目は点になってはいけません。
 『そうよー、フェリスレイ姫様とデクル姫と貴方の三人で、ミルゲンフィーリアや、デイーストンで遊んだじゃない』
 「ちょ、ちょっと待って」
 俺は携帯から、耳を離した。
 眉根を揉み、全く覚えていないのだがと俺はエスターに前置きをした。
 「俺達、ペイゼルとエスターの三人、ミルゲンフィーリアや、デイーストンで遊んだことがあると言っているが」
 「あ、あの時の美少年がお前か!ペイゼルが一昨日ログミールに叱られていた一件の・・・・」
 絶句しているエスター。ああ、全く覚えていませんよ、俺ってば。
 「あーもしもし、じゃあ、マリーネスアって母さんの事?」
 『あら、もうそこまでばれちゃったんだ、そうよー、鞠音だけじゃはくが付かないと思ったからそれっぽい呼び名にしたのよ』
 俺はエスターに向かって、本人だと認めたことを伝えた。
 「じゃあ、タイキノモストリ・・・なんたらというのは?」
 『お父さんの名前も知らないの?』
 「・・・・・教えて貰った覚えがないんだけど・・・・・」
 『教えてないからね』
 うふふと楽しそうな笑い声。
 あなたー友弥にばれたみたいよー、相当驚いているみたい、という声が聞こえてきた。
 俺は頭を抱えた。この親たちは・・・・・・
 『父さんだ、友弥か?驚いたか?』
 如何にも楽しげな声で父が出た。
 「驚いたよ、驚きすぎて、脱力しているよ」
 『そうか、そうか、それは黙っていたかいがある』
 わははははと笑う声。祖父もとぼけた性格であるが、父も母も祖父以上にとぼけた性格であることを改めて再認識した俺である。
 「じゃあ聞くけど、ミリミリ姉ちゃんの名前はミリエ・オーガスでいいの」
 『ああそうだ、父さんの会社からそっちに特別講師として数回講義をするはずだが、もう合ったのか?』
 「知覚操作されていて、胡散臭いおっさんにしか見えなかった」
 そうかそうかとこれも楽しそうな父。
 「じゃあ、最後にアミアミ姉ちゃんの名前、教えてくれない?」
 『なんだ、お前、忘れたのか?』
 「覚えていたら、聞かない」
 俺はアミアミ姉ちゃんの名前となぜ経歴不明なのかその理由を聞き、携帯を切った。
 ゆっくりと俺はエスターの顔を見る。
 エスターは椅子に座り、疲れた顔で、俺を見ていた。
 「アクロがなぜ経歴不明なのか分かった」
 「なぜだ?」
 「当時、アミアミ姉ちゃんはここの学生だったらしい」
 「はぁ?」
 「母さんが抜けたメンバーの代わりに、当時学生のアミアミ姉ちゃんを騙して、引っ張り出したらしい。それが、ティケントという船だったらしい」
 「ああ、ティケントなら知っている、その前のアラムモッド事件は確かエクールシアという人が下段後部でエルタ様が上段後部だったはずだ、サンダーバーズはティケント事件からアクロが上段後部でエルタ様は下段後部に移動している」
 「で、この高校ではバイトは禁止だから、経歴は伏せられたみたい」
 「そ、それはまた・・・・・ばかばかしい理由だな、英雄だぞ、何回も映画が作られる程のステイン星系全体が認める英雄だぞ?」
 「本人は、そんな意識は無かったみたいだよ」
 「馬鹿を言うな、アクロはマリーネスアの次に人気で、何時いかなる時も冷静なその姿に憧れて、上段後部を目指す者が多いんだ」
 「もしかして、エスターもその口?」
 うっ、とエスターが詰まった。
 「あ、憧れたの確かだ、あの何時いかなる時も冷静な姿に、王女として学ぶものが有ると感じたのだ、悪いか!」
 最後の方は半ば切れたような声でエスターが言った。
 「でも本人は、教師になるのが夢だったんだって、俺もそう言えば聞いた覚えがある。アミアミ姉ちゃんは先生になるんだと言っていた」
 「そ、それでは今、教師をしているのか?」
 俺は頷いた。
 「A・C・R・Oつまり、アジス・セルシー・リ・オーネだって」
 またエスターがひっくり返った。ひっくり返った際に今まで握りしめていた携帯が床に落ちた。
 「そ、そ、そ、そ」
 「うん、やっぱりアジス先生がアミアミ姉ちゃんだって」
 俺はなんとなくそうじゃないのかなと思っていただけに、そんなに衝撃は受けなかったが、エスターにしてみればかなりの衝撃であったようである。
 「だ、だから、アジス先生の経歴は真っ白なのに、あんなに、知識が豊富なのか」
 「そうみたいだね」
 俺は床に落ちた携帯を拾い、手を差し伸べて、エスターを立たせた。
 改めて、携帯を渡す。
 「驚いてばかりだな、今日は」
 「俺は一昨日あたりから驚きぱなしだよ」
 「しかしそうすると、やはり例の計画には、アジス先生は必須となるわけだな」
 そうみたいだねと俺は頷いた。
 となると、と呟いたエスターは携帯をポケットに戻した。その顔が一瞬きょとんとした表情になる。
 不自然にならぬように振る舞いながら、スカートのポケットを探る。
 右、そして左。胸ポケット。
 有るはずのモノが無いことに気が付いたエスターの顔色が青ざめていく。
 分かるよその気持ち、俺も、もし女の子が先に見つけたら凹むよな。
 特に面と向かっていたら、その凹みようはほぼ無限大に近い。
 「そろそろ、俺は遅いから戻るか」
 武士の情けである。
 あからさまに安堵した表情でエスターがそうか、と言った。
 「んじゃ、明日も朝トレで」
 「ああ、明日は今朝のような無様な真似はしない」
 俺はお休みを言って、エスターの部屋を出た。


 部屋に戻った俺は風呂に入った。
 ユニットバスに、なみなみとお湯を満たして、体を洗うと、溢れ落ちるお湯の贅沢さに酔いながら湯船につかった。心持ち小さいバスタブだが、俺はいつも以上に時間をかけて十分に風呂を堪能した。
 湯を抜き、タオルを腰に巻いて、マリネルが持ってきてくれた荷物の中から着替えを取り出そうとバッグを開くと、なぜか着流しが出てきた。
 見覚えがある着流しである。
 エスターが着ていた着流しに間違いは無かった。
 そう言えば、あの時着替えたエスターはこの着流しをどこに置いた?
 とんと記憶にないが、エスターの事だから俺の座敷に置いたとは考えにくい、考えにくいが、ここに入っている事実からすると、俺とエスターの座敷の境界辺りに畳まれていたのをマリネルが俺のだと勘違いした可能性がある。
 まぁ、これは、明日にでもエスターに返せばいいかと思い、バッグに戻そうとした時、良い香りがした。今日この部屋で俺が昼寝から起きた時にしていた香りである。
 エスターの移り香であるらしい。
 俺は納得してバッグに戻そうとした。戻そうとしたが、着流しを着て寝たことがない俺はこれで寝てみるのも良いかもしれないと思いついた。
 決して、エスターの移り香に包まれて寝れば、楽しい夢が見れるかもしれないなどとは思っていない。
 うん、多分思っていないんじゃないかな?
 俺は左右を見回した。祐子さんは流石に今晩はいない。
 そっと袖に腕を通してみる。
 流石にエスターの体格に合っている着流しである。俺には少々寸が足りない。
 それでも何とか着られる大きさである。
 俺が着流しの帯を締めた時である。隣の部屋から微かに叫び声が聞こえてきた。この建物は防音設備が完備している筈である。それなのに、叫び声が聞こえた。しかも隣。エスターの部屋であった。
 俺はそのまま廊下に飛び出した。
 「エスターどうした」
 俺は扉を叩き、ノブを回した。
 鍵が掛かっている。
 その時俺の脳裏にとら姉さんの言葉が蘇った。
 トモ坊、姫様を頼むぞ。
 俺の腰が自然と引かれた。大地を踏みしめる。
 気合い一閃。
 俺は持てる全ての力を解放して、ドアを蹴破る。
 轟音と供に蝶番からちぎれ飛んだ扉を越えて、俺は部屋の中に飛び込んだ。
 ベッドに腰掛けたエスターがいた。
 風呂上がりなのか、髪の毛が頭に巻かれている。
 驚愕の表情でありながら、顔が真っ赤になり涙ぐんだエスター。
 半脱ぎのショーツは膝の辺りまで降ろされている。
 上半身は大きめの男物のYシャツで、前は全てボタンが外されている。
 そしてエスターの前、パルクの下から覗く避妊具。
 それとパルクのモニタに写るファイル。
 俺の名前がばっちり刻まれたログ情報を含んだのそのファイルは例の一昨日にエスターが開いたファイルである。
 状況は理解しました。
 つまり、風呂上がりに、ちょっと催した美少女が、お気に入りのファイルを開こうと思い、パルクを動かしたら、そこにこっそりと隠されていた避妊具を見つけた。消去法を使うまでもなく、隠したのは俺だと言うことが容易に推測できる。そして、その衝撃が冷めやらぬ内に、お気に入りファイルに刻まれた俺の閲覧記録に気が付いた。
 凹みすぎて思わず自己嫌悪で、叫び声を上げたエスター。
 そこに何を勘違いしたのか、今のエスターにとって一番会いたくないであろう俺が踏み込んで来てしまった。
 これは気まずい、ものすごく気まずい。
 時間が・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・止まった・・・・・・・
 マジで止まったと思った。
 考えてみれば、俺って今、エスターの着流し着ているんだよな、まさかこの状況でエスターがその事実に気が付くとは思えないが。
 思えないが、エスターの視線は心持ち下を向いていた。
 そう、ちょうど、踏み込んだ形で固まった俺の股間辺りに・・・・・・
 俺は視線を下に向けた。
 予想通り、着流しの前が開いていた。トランクスは、まだ履いてない。
 ハロー
 俺はゆっくりと着流しの前を併せる。
 エスターもゆっくりとショーツを上げて、Yシャツのボタンを留めた。パルクのパワーを落とし、改めて、パルクで避妊具を隠す。
 エスターの緩慢な一連の作業が終わったとき、俺は軽く咳払いをした。
 「えすたーのさけびごえがきこえたから、おどろいたよ、でも【なんでもない】みたいだね、あんしんした」
 棒読みの俺の台詞。
 「ああ、しょうしょうおどろいたことがあってな、おもわずさけんでしまったが、【なんのもんだいもない】」
 答えるエスターも棒読みになっている。
 俺達は棒読みの台詞を交わした後、ドアの方を振り向いた。
 俺達はかなりの時間、固まっていたようだ。
 そこには、駆けつけたテリエさんと頭を抱える祐子さんがいた。
 「あんたらがそう言うのなら、それでよしとするけどさ」
 祐子さんが、呆れたように呟く。
 「このドアどうするのよ、言っておくけど、今晩空きの部屋は無いからね」
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