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7.前世の事実発覚
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スリーズが二歳になる直前のことだった。
スリーズがラーイのことを呼んだ。
「リクにぃに」
「え?」
ラーイはとても驚いているようだった。
リラにはよく分からないが、ラーイは「リク」と呼ばれていたことがあるのだろうか。
「嘘……!? スリーズちゃんが、ライラ!?」
驚愕するラーイがリラに話しかける。
「リラ! リラは前世の僕の妹だよね?」
「前世? ぜんざいの仲間?」
「えーっと、生まれて来る前」
「お母さんのお腹の中にいたときは、お兄ちゃんと一緒だったわよ」
前世の話などリラは一度もラーイにしたことはない。リラは前世など全く覚えていなかった。
ラーイと話がかみ合わないでいると、スリーズがラーイのズボンの裾を引っ張っている。
「リクにぃに、ちやう。すー、らー」
「え!? えぇぇ!?」
何が何だか分からないが、ラーイは妙な勘違いをしていたようだ。
ラーイは賢いのに思い込みが激しい。
きっとその思い込みの激しさでリラのことを前世の妹と思っていたのだろう。
後日、スリーズの誕生日にラーイはリラに打ち明けてくれた。
「僕は生まれて来る前に、魔女の男の子で、十歳まで生きた記憶があるんだ」
「お兄ちゃん、それ、どういうこと?」
前世というものがどういうものなのかレイリから話してもらって知ってはいたが、実際に前世をラーイが覚えているという話になるとリラは驚いてしまう。驚きつつも、やはりという気持ちがなかったわけではない。
「僕が生まれ変わったってことだよ」
「生まれ変わったって、生まれる前にもお兄ちゃんがいたってこと」
「そう。生まれる前にも僕がいたんだ」
説明されてリラは理解はしつつも、それまでどうしてラーイがそのことを打ち明けてくれなかったのか理不尽に感じていた。リラとラーイは双子で隠し事はないはずだったのだ。
「どうして話してくれなかったの? 双子でしょう?」
「僕はリラのことを前世の双子の妹だと思い込んでいたんだ。リラが何も覚えていないみたいだから、思い出させたら悪いと思って言わなかった」
「生まれ変わる前は大変だったの?」
「魔女の森の追手に追われていたし、魔力が足りなくていつも熱を出したり寝込んだりしていたし、最後は魔女族の長に殺された悲惨な人生だったよ」
ラーイは生まれる前の前世も魔女族の男の子で、魔女の森の追手に追われて、最後は魔女族の長に殺されたと話してくれた。そんな凄惨な記憶を持って生まれたのならば、尚更リラに相談してほしかった。
「お兄ちゃん、そんな記憶を持って生まれてきたのね」
「そうなんだ。それで、スリーズちゃんが前世の妹だということも分かったんだ。スリーズちゃんは僕を前世の名前で呼んだ。自分のことも前世の名前で呼んでいた」
しかもスリーズが前世のラーイの妹だった。
それまでラーイはリラを前世の妹と思い込んでいたようだが、リラは一度として前世のことなど口にしていない。何を根拠に思い込んだのか、リラはちょっと呆れてしまう。
「ってことは、スリーズちゃんは十歳なのね! お兄ちゃんと同じで、今は二歳だけど十歳の記憶がある……ややこしくて分からなくなって来たわ」
「リラの言う通りだよ。スリーズちゃんは十歳の記憶を持って生まれ変わって来ているんだ」
二歳の体で十歳の記憶があるというのは大変なのだろう。ラーイも生まれてからずっと十歳の記憶があったならば、賢くてもおかしくはないし、幼い頃からラーイの喋り方がリラと全く違っていたのはそういう理由だったようだ。
薄々勘付いてはいたが、ラーイから話してもらえてリラはすっきりとしていた。
「リラは覚えてる? お母さんが戦った、前の魔女族の長に成り代わった魔女のこと」
「なんとなく覚えているわ」
「あのひとが僕とスリーズちゃんの前世の母親なんだ」
「え!? そうなの!?」
「セイラン様と二人きりで出かけていたのは、あのひとに会うためだったんだよ。大陸にもあのひとと一緒に行った。前世の父親に会うためにね」
大陸に行った理由も分かった。ラーイは前世の母親と一緒に、前世の父親に会いに行っていたのだ。
それも全部聞くと納得はできる。
「お兄ちゃんは、私を生まれ変わる前の妹と思っていたから、私の記憶が戻らないように前のお母さんやお父さんに会わせないようにしたのね」
「そうなんだよ。でも、僕の完全な勘違いだった」
頭を抱えるラーイにリラは止めを刺した。
「私、言ったわよね。生まれる前の記憶は、お母さんのお腹の中にいた記憶しかないって」
「そうなんだよ! リラもそう言っていたのに、僕は思い込んでしまって」
「私、一度も生まれ変わったとか言ってないわよね?」
「そうなんだよー!」
本気で恥ずかしがっているラーイにリラが半眼で告げる。
「お兄ちゃん、今後はひとの話をちゃんと聞いてよね」
「はい、反省してます」
「それに、大事なことはちゃんと私に話してよね!」
「はい、今度から話します」
約束をして詰め寄るリラに、セイランが苦笑している。
「リラ、そう言ってやるな。ラーイも前世は十歳で、今世でも十一歳なのだ。子どもの万能感で思い込んでしまったのだろう」
「いつも賢いお兄ちゃんがこういうときだけポンコツになっちゃうとは思わなかったわ」
「そこまで言うー!?」
リラも呆れた表情をおさめて、半泣きになってセイランに抱き付いているラーイに言った。
「思い込みが激しいところがあるもんね、お兄ちゃんは。今度からは気をつけるのよ」
「はい……」
これでラーイの思い込み事件は解決したのだった。
その後、リラはラーイとスリーズと一緒に、ラーイとスリーズの前世の母親に会いに行った。
「お兄ちゃんとスリーズちゃんの生まれる前のお母さんなのよね?」
スリーズと前世の母親が感動の再会を果たした後で、リラはラーイとスリーズの前世の母に確認した。
「そうよ。生まれ変わる前の母親よ」
「私はリラ。ラーイお兄ちゃんの妹で、スリーズちゃんのお姉ちゃんなの。お兄ちゃんとスリーズちゃんのお母さんってことは、私にとってもお母さんみたいなものじゃない?」
「そんなことを考えていいの?」
「私だけ仲間外れは嫌なのよ。お兄ちゃんとスリーズちゃんがここに来るときには、私も連れて来て欲しい」
ラーイとスリーズにだけ共通する前世の記憶があって、リラにはない。リラもラーイとスリーズの姉妹として、同じ感覚を共有したかった。
「私もお兄ちゃんとスリーズちゃんが来るときには来てもいいですか?」
リラのお願いにラーイとスリーズの前世の母親は力強く頷いてくれた。
「もちろんよ。私はあなたたちを引き離すつもりは全くないのよ」
許可を得てリラはラーイとスリーズが前世の母親に会いに来るときには同行する約束をした。
「お兄ちゃんったら、ずっと生まれる前のことを内緒にしてたのよ。私のことを考えてだったんだけど、ちゃんと話してくれていたら、私が生まれる前の妹じゃないってことが分かったのに」
「それは、ごめん。リラには怖い記憶を思い出させたくなかったんだ」
「そんなに怖かったの?」
ラーイはずっとリラを前世の妹と勘違いしていたようだが、その勘違いを加速させたのはちゃんとリラに話してくれなかったからだ。リラはそう主張するが、ラーイにはラーイの気遣いがあった。
恐ろしい前世の記憶をリラが失っているのならば思い出させたくなかったようなのだ。
「死の記憶ははっきりしてないんだけど、ものすごく痛くて苦しくて怖かったのは覚えてる。そんなことをリラには思い出させたくなかった」
「お兄ちゃんはその記憶をずっと一人で抱えていたのね」
「そうだね。スリーズちゃんが今はいるけど」
「もっと早く話してくれてたら、私、お兄ちゃんに『大丈夫よ、全部終わったことだから』って言ってあげられたのに」
そんなことでリラが怖がるはずはなかったし、ラーイの方が怖がりなのだから、ちゃんと話してくれていたら、リラがラーイを慰めることもできた。それができなかったのがリラには一番の不満だった。
「リラ、ありがとう」
「いいのよ。私たち、生まれたときからずっと一緒の双子じゃない」
お礼を言われてリラはラーイに笑顔で返していた。
「りーねぇね、すーのねぇね。だいすち」
「スリーズちゃん、私も大好きよ」
「りーねぇね!」
しがみ付いてくるスリーズをリラは抱き上げた。
スリーズがラーイのことを呼んだ。
「リクにぃに」
「え?」
ラーイはとても驚いているようだった。
リラにはよく分からないが、ラーイは「リク」と呼ばれていたことがあるのだろうか。
「嘘……!? スリーズちゃんが、ライラ!?」
驚愕するラーイがリラに話しかける。
「リラ! リラは前世の僕の妹だよね?」
「前世? ぜんざいの仲間?」
「えーっと、生まれて来る前」
「お母さんのお腹の中にいたときは、お兄ちゃんと一緒だったわよ」
前世の話などリラは一度もラーイにしたことはない。リラは前世など全く覚えていなかった。
ラーイと話がかみ合わないでいると、スリーズがラーイのズボンの裾を引っ張っている。
「リクにぃに、ちやう。すー、らー」
「え!? えぇぇ!?」
何が何だか分からないが、ラーイは妙な勘違いをしていたようだ。
ラーイは賢いのに思い込みが激しい。
きっとその思い込みの激しさでリラのことを前世の妹と思っていたのだろう。
後日、スリーズの誕生日にラーイはリラに打ち明けてくれた。
「僕は生まれて来る前に、魔女の男の子で、十歳まで生きた記憶があるんだ」
「お兄ちゃん、それ、どういうこと?」
前世というものがどういうものなのかレイリから話してもらって知ってはいたが、実際に前世をラーイが覚えているという話になるとリラは驚いてしまう。驚きつつも、やはりという気持ちがなかったわけではない。
「僕が生まれ変わったってことだよ」
「生まれ変わったって、生まれる前にもお兄ちゃんがいたってこと」
「そう。生まれる前にも僕がいたんだ」
説明されてリラは理解はしつつも、それまでどうしてラーイがそのことを打ち明けてくれなかったのか理不尽に感じていた。リラとラーイは双子で隠し事はないはずだったのだ。
「どうして話してくれなかったの? 双子でしょう?」
「僕はリラのことを前世の双子の妹だと思い込んでいたんだ。リラが何も覚えていないみたいだから、思い出させたら悪いと思って言わなかった」
「生まれ変わる前は大変だったの?」
「魔女の森の追手に追われていたし、魔力が足りなくていつも熱を出したり寝込んだりしていたし、最後は魔女族の長に殺された悲惨な人生だったよ」
ラーイは生まれる前の前世も魔女族の男の子で、魔女の森の追手に追われて、最後は魔女族の長に殺されたと話してくれた。そんな凄惨な記憶を持って生まれたのならば、尚更リラに相談してほしかった。
「お兄ちゃん、そんな記憶を持って生まれてきたのね」
「そうなんだ。それで、スリーズちゃんが前世の妹だということも分かったんだ。スリーズちゃんは僕を前世の名前で呼んだ。自分のことも前世の名前で呼んでいた」
しかもスリーズが前世のラーイの妹だった。
それまでラーイはリラを前世の妹と思い込んでいたようだが、リラは一度として前世のことなど口にしていない。何を根拠に思い込んだのか、リラはちょっと呆れてしまう。
「ってことは、スリーズちゃんは十歳なのね! お兄ちゃんと同じで、今は二歳だけど十歳の記憶がある……ややこしくて分からなくなって来たわ」
「リラの言う通りだよ。スリーズちゃんは十歳の記憶を持って生まれ変わって来ているんだ」
二歳の体で十歳の記憶があるというのは大変なのだろう。ラーイも生まれてからずっと十歳の記憶があったならば、賢くてもおかしくはないし、幼い頃からラーイの喋り方がリラと全く違っていたのはそういう理由だったようだ。
薄々勘付いてはいたが、ラーイから話してもらえてリラはすっきりとしていた。
「リラは覚えてる? お母さんが戦った、前の魔女族の長に成り代わった魔女のこと」
「なんとなく覚えているわ」
「あのひとが僕とスリーズちゃんの前世の母親なんだ」
「え!? そうなの!?」
「セイラン様と二人きりで出かけていたのは、あのひとに会うためだったんだよ。大陸にもあのひとと一緒に行った。前世の父親に会うためにね」
大陸に行った理由も分かった。ラーイは前世の母親と一緒に、前世の父親に会いに行っていたのだ。
それも全部聞くと納得はできる。
「お兄ちゃんは、私を生まれ変わる前の妹と思っていたから、私の記憶が戻らないように前のお母さんやお父さんに会わせないようにしたのね」
「そうなんだよ。でも、僕の完全な勘違いだった」
頭を抱えるラーイにリラは止めを刺した。
「私、言ったわよね。生まれる前の記憶は、お母さんのお腹の中にいた記憶しかないって」
「そうなんだよ! リラもそう言っていたのに、僕は思い込んでしまって」
「私、一度も生まれ変わったとか言ってないわよね?」
「そうなんだよー!」
本気で恥ずかしがっているラーイにリラが半眼で告げる。
「お兄ちゃん、今後はひとの話をちゃんと聞いてよね」
「はい、反省してます」
「それに、大事なことはちゃんと私に話してよね!」
「はい、今度から話します」
約束をして詰め寄るリラに、セイランが苦笑している。
「リラ、そう言ってやるな。ラーイも前世は十歳で、今世でも十一歳なのだ。子どもの万能感で思い込んでしまったのだろう」
「いつも賢いお兄ちゃんがこういうときだけポンコツになっちゃうとは思わなかったわ」
「そこまで言うー!?」
リラも呆れた表情をおさめて、半泣きになってセイランに抱き付いているラーイに言った。
「思い込みが激しいところがあるもんね、お兄ちゃんは。今度からは気をつけるのよ」
「はい……」
これでラーイの思い込み事件は解決したのだった。
その後、リラはラーイとスリーズと一緒に、ラーイとスリーズの前世の母親に会いに行った。
「お兄ちゃんとスリーズちゃんの生まれる前のお母さんなのよね?」
スリーズと前世の母親が感動の再会を果たした後で、リラはラーイとスリーズの前世の母に確認した。
「そうよ。生まれ変わる前の母親よ」
「私はリラ。ラーイお兄ちゃんの妹で、スリーズちゃんのお姉ちゃんなの。お兄ちゃんとスリーズちゃんのお母さんってことは、私にとってもお母さんみたいなものじゃない?」
「そんなことを考えていいの?」
「私だけ仲間外れは嫌なのよ。お兄ちゃんとスリーズちゃんがここに来るときには、私も連れて来て欲しい」
ラーイとスリーズにだけ共通する前世の記憶があって、リラにはない。リラもラーイとスリーズの姉妹として、同じ感覚を共有したかった。
「私もお兄ちゃんとスリーズちゃんが来るときには来てもいいですか?」
リラのお願いにラーイとスリーズの前世の母親は力強く頷いてくれた。
「もちろんよ。私はあなたたちを引き離すつもりは全くないのよ」
許可を得てリラはラーイとスリーズが前世の母親に会いに来るときには同行する約束をした。
「お兄ちゃんったら、ずっと生まれる前のことを内緒にしてたのよ。私のことを考えてだったんだけど、ちゃんと話してくれていたら、私が生まれる前の妹じゃないってことが分かったのに」
「それは、ごめん。リラには怖い記憶を思い出させたくなかったんだ」
「そんなに怖かったの?」
ラーイはずっとリラを前世の妹と勘違いしていたようだが、その勘違いを加速させたのはちゃんとリラに話してくれなかったからだ。リラはそう主張するが、ラーイにはラーイの気遣いがあった。
恐ろしい前世の記憶をリラが失っているのならば思い出させたくなかったようなのだ。
「死の記憶ははっきりしてないんだけど、ものすごく痛くて苦しくて怖かったのは覚えてる。そんなことをリラには思い出させたくなかった」
「お兄ちゃんはその記憶をずっと一人で抱えていたのね」
「そうだね。スリーズちゃんが今はいるけど」
「もっと早く話してくれてたら、私、お兄ちゃんに『大丈夫よ、全部終わったことだから』って言ってあげられたのに」
そんなことでリラが怖がるはずはなかったし、ラーイの方が怖がりなのだから、ちゃんと話してくれていたら、リラがラーイを慰めることもできた。それができなかったのがリラには一番の不満だった。
「リラ、ありがとう」
「いいのよ。私たち、生まれたときからずっと一緒の双子じゃない」
お礼を言われてリラはラーイに笑顔で返していた。
「りーねぇね、すーのねぇね。だいすち」
「スリーズちゃん、私も大好きよ」
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