可愛いあの子は男前

秋月真鳥

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九章 奏歌くんとの九年目

5.スキャンダルの雑誌の写真

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 真尋さんと私の写真が雑誌に載ってしまった。
 以前にも雑誌に書き立てられていたが、今回の京都旅行で写真を撮られてしまっていたようだ。私は帽子を被って顔が分かりづらくしていたし、真尋さんも帽子を被っていたが私と真尋さんだと分かる写真だった。
 奏歌くんと百合がいるところは切り取られて、私と真尋さんの関係を面白おかしく書き立てている。

「『最初にテレビで共演。その後湯浅真尋の劇団のガラコンサートに客演。二人は着実に距離を縮めていた』……海瑠ちゃん、これはどういうことでしょうか?」

 真剣な眼差しの津島さんに問い詰められて、私は素直に白状する。

「湯浅真尋さんは、奏歌くんのお兄さんだったんです。それで、奏歌くんと百合と真尋さんと私で京都の車折神社に行ったときに写真を撮られたようです」
「奏歌くんにお兄さんが?」
「奏歌くんのお父さんが、お母さんに出会う前に付き合っていた女性との子どもで、異母兄弟ってことになるのかな?」

 津島さんには隠すことはないと詳しく伝えると、津島さんは難しい顔をしていた。

「湯浅さんにとっては弟の存在の方がスキャンダルになるかもしれませんね」
「あ……そうですよね」

 真尋さんのお母様を捨てた父親が別の場所で子どもを作っていたなどということが知れれば、真尋さんにとっては大きなスキャンダルになる。

「とにかく、百合ちゃんも一緒だったということですし、百合ちゃんにも話を聞きましょう」

 劇団の運営陣との話し合いが設けられて、そこに私と百合が呼ばれたのだが、そこでは百合の独壇場だった。

「私も一緒にいました。海瑠が親戚のように可愛がっている男の子もその場にいました。海瑠が湯浅さんと二人で熱愛デートなんて、完全な嘘です」
「雑誌に書かれてしまった以上、何か劇団からも声明を出さなければ……」
「事実無根だと言ってください! なんなら、私がその声明文を書きます!」
「トップスター二人と出かけたというのも……」
「疚しいことは何もありません! 私たちは清廉潔白です! 海瑠のパートナーは私だし、私のパートナーは海瑠です! 劇団がそれを信じなくてどうするんですか!」

 詰め寄られた経営陣は百合の態度に気圧されているようだった。
 私が声明文を書いた方がいいかという点については、津島さんがはっきりと言ってくれた。

「海瑠ちゃんは被害者です。雑誌社に抗議してもいいくらいです。劇団として海瑠ちゃんを守る行動を求めます!」

 百合と津島さんという強い味方を得て、私はそれ以上追及されることはなかった。奏歌くんの件に関しては、6歳のときから私が可愛がっている甥っ子のような存在ということで劇団内では有名になっていて知らないひとはいない。
 まさか奏歌くんの方が私の大事な相手で、運命のひとだということを知っているのは津島さんと百合くらいだろうか。それも子どもの口約束の延長線上で、可愛いおままごとのように思われている気もしなくはない。
 そう思われることで奏歌くんとの仲が隠せるのならば、私はそれでいいと思っていた。
 運営陣との話し合いが終わると、楽屋に戻って百合と津島さんにお礼を言った。

「百合、私のためにありがとう。津島さんもご迷惑をおかけしました」
「海瑠のためだけじゃないわよ。真尋さんのためでもあるからね」
「海瑠ちゃんは劇団のトップスターですから、劇団もしっかりと守ってもらわないと困りますからね」

 百合は真尋さんのことも気にしていたようだ。確かに真尋さんもスキャンダルで困っているだろう。
 舞台に上がった当時から私を助けてくれている津島さんは毅然とした態度で経営陣とも話し合ってくれた。
 その後劇団から声明文が出されて、私と真尋さん二人だけで行ったわけではないこと、二人にはそういう関係は全くないことを述べて、雑誌社には記事の撤回を求めていることが分かった。真尋さんの劇団の方でも声明文が出されて、私を含めた複数で車折神社に行ったこと、真尋さんと私は恋愛関係ではなくて同じ役者として尊敬している相手というだけということが述べてあった。

「なんか、この写真、気になるんだよね」

 ひと段落してマンションに返ってくると奏歌くんが難しい顔をしていた。雑誌を開いて見ているのは私と真尋さんとのスキャンダルを書き立てた記事だ。帽子を被って顔が分かりづらくなっている私と真尋さんが二人で車折神社から出てくるところを写真に撮られたようだった。

「気になるってどういうこと?」
「うますぎない?」

 写真の上手下手はよく分からないが、雑誌記者も写真が撮るのが上手なひともいるのではないだろうか。写真を撮って記事を書くのが仕事なのだから、上手でもおかしくはない気がする。
 安易に考えてしまう私とは違って、奏歌くんはアングルなどを見ていた。

「帽子を被って顔が陰になるのに海瑠さんと真尋兄さんって分かるようなこの撮り方……もしかすると……」
「何を気にしてるの?」

 私が問いかけると奏歌くんは「間違いだったらいいんだけど」と付け加えながら私に説明してくれた。

「父さんが車折神社で張ってて、偶然じゃなくて狙って撮ったのかもしれない」

 そうだった。
 奏歌くんと真尋さんの父親の真里さんは写真家だった。写真家が撮った写真というのは私には分からないが、そのひと独自の癖があるのだろう。カメラも真里さんはかなり良いものを持っていたはずだ。

「真里さんがこの写真を撮ったっていうこと?」
「その可能性は大いにありうる」

 真里さんについて奏歌くんが詳しく教えてくれる。

「父さんは、僕に発信機を付けてるのかと思うくらい、僕の居場所を察知するんだよね。多分、吸血鬼の力なんだと思う。車折神社にいたとすれば、僕の写真を撮りに来たんだよ」

 奏歌くんの写真を撮るのが真里さんの趣味だった。奏歌くんのことを「僕の最高傑作」と呼んでいて偏愛しているのだ。
 奏歌くんの写真を撮るついでに偶然私と真尋さんの写真を撮ってしまって、真里さんが悪いことを考えて雑誌社にその写真を売ったというのはあり得る話だ。

「真里さんの写真だってこと、誰が見たら分かる?」
「やっちゃんなら確実だと思う」

 話し合って、奏歌くんと篠田家に向かう。篠田家では茉優ちゃんとやっちゃんがキッチンで晩ご飯の用意をしていた。

「お帰り、かなくん。いらっしゃい、みっちゃん。晩ご飯食べていくか?」
「ご馳走になりたい……じゃなくて、やっちゃんに聞きたいことがあるのよ」

 雑誌を見せてやっちゃんに説明すると、料理の下ごしらえを茉優ちゃんに頼んで、やっちゃんは雑誌の写真を確認した。

「印刷のせいで荒くはなってるけど、これはあのひとの写真っぽいな……」

 白黒のページで印刷も荒いがそれでも尚私と真尋さんだと分かる写真を撮れるのは、真里さんくらいだとやっちゃんは判断していた。やっちゃんの見解でこの写真を撮ったのは真里さんだとほぼ確定した。

「真里さんは、真尋さんに近付こうとしているの?」

 生まれてすぐに捨てられて交流のない真里さんが今更真尋さんに興味を持つとしたら、理由は一つだけな気がする。

「真尋兄さんを吸血鬼として覚醒させようと思ってるんじゃないかな」

 奏歌くんという自分の後継者と思っている吸血鬼から拒まれて、母親の美歌さんには運命のひとができてしまった真里さんは、自分の運命のひとを認められずにもがいている。そんな状況だからこそ、真尋さんという吸血鬼に覚醒できるかもしれない人材を得て、自分の仲間を増やして孤独を癒したいのではないだろうか。

「真尋兄さんは人間として幸せに暮らして欲しい。吸血鬼であることが、必ずしも真尋兄さんにとって幸せとは限らない」

 奏歌くんの言葉は切実な願いが込められていた。
 周囲で仲良くしているひとたちとも、奏歌くんはいずれ離れなければいけない運命にある。吸血鬼として老いない奏歌くんや私は、人間社会に溶け込めないのだ。
 場所を転々として生きていくのは、運命のひとが一緒ならば耐えられるのかもしれないが、孤独なまま百年以上を生きて来た真里さんは歪んでしまった。人間を餌としか考えず、同じ吸血鬼のやっちゃんや美歌さんや奏歌くんに異常な執着を見せる。
 真尋さんが吸血鬼として覚醒できるならば、真里さんは真尋さんに執着するのだろうか。

「真尋さんを守らなきゃいけないな」
「私にできることならなんでもする」

 やっちゃんの言葉に私も同意した。
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