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十二章 奏歌くんとの十二年目
7.涙のカレー
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美歌さんにはイギリスの美味しい紅茶を、海香にはイギリスの有名な王室ご用達の香水を製造している会社が作っている石鹸を、宙夢さんとさくらとかえでには焼き菓子の詰め合わせを買ってきていた。
写真を見せてお祖父様とお祖母様の話もして、お茶の時間を楽しんで、私は早めにマンションに送ってもらった。冷蔵庫が空っぽなので、途中でスーパーに寄ってもらって、荷物を持ってやっと帰り付いたマンションは、懐かしい感じがした。
奏歌くんも来ているので、寂しさは少しもない。
洗濯物を洗濯機で洗っている間に、奏歌くんは晩ご飯の準備をしてくれていた。遅いおやつを食べたのであまりお腹が空いていないかとも思ったが、スターゲイザーパイを作り替えたお魚のクリームパイは一口だけだったし、焼き菓子は宙夢さんとさくらとかえでのお土産のつもりだったから手をつけなかったので、意外とお腹は減っていた。
ご飯の炊ける匂いに、日本に帰って来たのだと実感する。キッチンからスパイシーな香りが流れて来て、奏歌くんの作っているものが私には分かってしまった。
「今日はカレーね!」
「うん、ずっと食べたかったんだ。夏野菜のカレーだよ」
お肉と人参と玉ねぎだけで煮込んだカレー。奏歌くんはフライパンでズッキーニと茄子とピーマンとカボチャとエリンギを焼いている。ご飯を深皿に盛ると、奏歌くんがカレールーをかけてくれて、その上に焼いたズッキーニと茄子とピーマンとカボチャとエリンギを並べてくれた。
見た目も綺麗で美味しそうな夏野菜のカレーが出来上がる。
「私、焼いたお野菜好きなのよね」
「海瑠さん、特に焼いたズッキーニが好きだよね?」
「知ってたの?」
「みんなでお皿に取るときに、余ってたら必ずお代わりするから、気付いてたよ」
今日のカレーに乗せる野菜も私が好きだからズッキーニを入れてくれたと聞いて、私は感激してしまう。奏歌くんはこんなにも私のことを見ていてくれる。
「カレーの味もいつもと違う気がする」
「今日はトマトを入れてみたんだ。夏野菜のカレーだからね」
トマト入りのカレーは辛さの中に甘酸っぱさもあって、焼き野菜によく合った。焼き野菜をカレーとご飯と一緒に食べるととても美味しい。
「奏歌くん、天才ね」
「天才じゃないけど、料理はもっと上手にならなきゃいけないなって、今回のイギリス行きで思ったよ」
「どうして?」
スプーンで掬ったカレーを口に入れる前に首を傾げると、奏歌くんが冷たい麦茶を飲んで答える。
「イギリスで日本の食材もあるってやっちゃん言ってたけど、種類はやっぱり限られてた。他の国の食材やスパイスも使えるようになっておかないと、海外に行ったときには困るなって思ったよ」
「スーパーで奏歌くんはそんなこと考えてたのね」
「スーパーに連れて行ってもらいたかったのも、その辺を下見しておきたかったからだしね」
奏歌くんにそこまで深い考えがあってスーパーに行ったとは知らなくて、私は感心してしまった。二年後には私たちは結婚して日本を離れているだろう。そのときのために奏歌くんは今から準備を始めている。
イギリス行きは私にとっても奏歌くんにとっても、お祖父様とお祖母様と会えたこと以外にも、とても有意義な旅行で、行ってよかったと思った。
洗濯物を干している間に奏歌くんが晩ご飯の片付けをしてくれる。余ったカレーは火を入れてタッパーにラップを敷いて入れていた。
「海瑠さん、カレーの粗熱が取れたら冷蔵庫に入れてね」
「うん、ありがとう」
「早めに食べちゃって」
「明日の朝ご飯にするわ」
私が明日の朝ご飯にカレーを食べる気でいると告げると、奏歌くんは焼き野菜のセットも作ってタッパーに入れておいてくれた。
帰る前に奏歌くんが私をソファに座らせて私の前に立つ。
「血を吸ってもいい?」
「うん、奏歌くんが満足するまで吸って」
昨日は篠田家に泊ったので当然首筋から血を吸われることがなく、奏歌くんが私の首筋から血を吸うのは一週間ぶり以上になっている。そっと私の肩に手を置いて首筋に歯を立てた奏歌くんに、私は目を閉じる。
酩酊感のようなものが走って、恍惚とした気分になる。血を吸われるのが気持ちいいだなんて、私はおかしくなってしまったのだろうか。奏歌くんに血を分けてもらって伴侶になってから、私は明らかに体質が変わったように感じていた。
首筋から唇を離した奏歌くんが、唇についた血を舐め取っている。じっと唇を見ていると、いたずらに微笑んだ奏歌くんにキスをされた。
触れるだけのキスだけど、胸がドキドキと高鳴る。
「海瑠さん、油断しちゃダメだよ」
「奏歌くんの前では油断しまくってるわよ」
「もう、僕だって男なんだからね」
何故怒られたのか分からないけれど、唇を尖らせる奏歌くんも可愛いので私は眼福と思って見ておく。
玄関まで奏歌くんを送って行ってから、私はシャワーを浴びてゆっくりと休んだ。時差ボケなのかやたらと眠くて、朝まで起きずにぐっすりと眠った。
翌朝になって私は自分の行動を酷く後悔した。
粗熱が取れたら冷蔵庫に入れておいてと言われていたカレーと焼き野菜をすっかり忘れていたのだ。真夏なので常温で一晩置いておいたカレーと焼き野菜が無事なはずがない。
「奏歌くんがせっかく作ってくれたのに……焼き野菜まで用意してくれたのに……」
自分の不甲斐なさに涙が出てきそうになる。
食べ物を粗末にしてしまったことと、奏歌くんの優しさを無碍にしてしまったことを深く反省して、私は朝ご飯を抜こうかと考えた。
こういうときに奏歌くんはタイミングがよすぎる。
「海瑠さん、おはよう! お弁当を持って来たよ。早く起きたから、来ちゃった」
「か、奏歌くん……」
インターフォンを押して、玄関のドアを開けて入ってきた奏歌くんに私は縋り付いて泣き出していた。ぼろぼろと涙を零す私に奏歌くんは驚いている。
「どうしたのかな? 落ち着いて話してみて」
「か、カレー……冷蔵庫……忘れちゃった……」
ひっくひっくと嗚咽を堪えながら言えたのはそれだけだった。奏歌くんは全てを察して、食べられなくなったカレーと焼き野菜はビニールに包んで生ごみのゴミ箱に入れる。何事もなかったかのように、奏歌くんは手早く昨日の残りのご飯を冷蔵庫から出してハムと一緒にバターで炒めて、卵を焼いて、ふわふわのオムライスを作ってくれた。
「海瑠さん、泣いてないで朝ご飯を食べよう」
「奏歌くんが、せっかく、作ってくれた、カレーと焼き野菜……」
「イギリス行きで疲れてたんだよ。気にしないで」
涙を拭いて鼻もかんで、食べたふわふわのオムライスはご飯がバターの香りがしてとても美味しかった。
「うちのオムライスはケチャップじゃなくて、バターライスなんだ」
「そうなんだ。初めて食べた気がする」
「オムライスは作ったことなかったかもね」
奏歌くんが来てくれたおかげで、私は食べられなくなったカレーに泣いていた気持ちをふわふわのオムライスで浮上させて、稽古に行くことができた。
稽古場で遅れた分もしっかりと演出家の先生の指導を受けて、私は百合と美鳥さんと真月さんに追い付くことができていた。ベテランの私たちに対して、雪乃ちゃんもしっかりと演技をしている。
「海瑠さんと百合さんがお弁当だから、私もお弁当を作って来てみました」
お昼の休憩に雪乃ちゃんが取り出したお弁当は、私と百合のお弁当よりも一回り以上小さかった。お弁当箱を開けると、おかずの量も少なく、おにぎりのサイズも全然違う。
「私って、いっぱい食べる方なの!?」
「海瑠、気付いてなかったの?」
「百合とお弁当の量変わらないから」
「私は食べても動いて消費してるからいいのよ」
百合のお弁当が大きかったから、私は自分が女性にしては食べる方だと気付いていなかった。百合は食べるのが大好きだからお弁当の量も納得なのだが、自分のお弁当が多いなんて考えたこともない。
奏歌くんと出会うまでは食べなくても生きていけたらいいと思うくらいに食事に関心がなく、男性関係で悩んで遂に食事が食べられなくなって点滴で命を繋いでいた。あの頃の私を考えると、今は奏歌くんが作ってくれたものをたっぷり食べて、お弁当も食べて、健康的なのだが、私が食べる量が多かったなんて思いもしなかった。
「普通はご飯をお代わりしたりしないの?」
「私はそんなに食べられません」
「お代わりはしないけど、ご飯が結構大盛でも私は食べられますよ」
「私もご飯結構食べますね」
雪乃ちゃんは小食のようだが、美鳥さんと真月さんの男役コンビは私ほどではないが結構食べるようだった。他人の食べる量なんて気にしていなかったが、雪乃ちゃんと食事をするようになって気付くこともある。
私にとっては衝撃の事実だったが、百合はあまり気にしていないようだった。
「海瑠さんのお弁当、いつも美味しそうですよね。手作りですか?」
聞かれて、雪乃ちゃんは知らないのだと私は気付く。百合は奏歌くんが6歳のときから知っているし、美鳥さんも真月さんも百合から聞いたり、奏歌くんの手作りのお菓子をもらったりして奏歌くんのことを知っている。
「前に広報のトップだった篠田さんを知ってる?」
「はい。とても素晴らしいポスターを作るって有名でしたよね」
「篠田さんの甥っ子くんと6歳のときからお知り合いなんだけど、今でも親戚みたいに懐いてくれてて、私のお弁当を作ってくれてるのよ」
劇団の規則では恋愛が禁止なので、雪乃ちゃんには隠し事をする形になるが、こういう説明しかできない。
「6歳のときからすごく男前のダーリンで、食べ物に興味のなかった海瑠を変えてくれたのよね」
「おかげで、私は毎日ご飯を美味しく食べられてるし、健康でいられるの」
説明すると雪乃ちゃんは感心した様子で聞いていた。
「思春期の男の子がお弁当を作ってくれたりするんですね」
「お料理が好きみたいなのよ。私のお弁当を羨ましがって、百合もお弁当を作るようになったもんね」
「そ、そうよ。私もちゃんと作ってるんだからね!」
強調しなくても分かっているのだが、百合はその点に関しては強調したいようだった。
奏歌くんのおかげで今日も稽古ができているのだと感謝して、私はお弁当を完食した。
写真を見せてお祖父様とお祖母様の話もして、お茶の時間を楽しんで、私は早めにマンションに送ってもらった。冷蔵庫が空っぽなので、途中でスーパーに寄ってもらって、荷物を持ってやっと帰り付いたマンションは、懐かしい感じがした。
奏歌くんも来ているので、寂しさは少しもない。
洗濯物を洗濯機で洗っている間に、奏歌くんは晩ご飯の準備をしてくれていた。遅いおやつを食べたのであまりお腹が空いていないかとも思ったが、スターゲイザーパイを作り替えたお魚のクリームパイは一口だけだったし、焼き菓子は宙夢さんとさくらとかえでのお土産のつもりだったから手をつけなかったので、意外とお腹は減っていた。
ご飯の炊ける匂いに、日本に帰って来たのだと実感する。キッチンからスパイシーな香りが流れて来て、奏歌くんの作っているものが私には分かってしまった。
「今日はカレーね!」
「うん、ずっと食べたかったんだ。夏野菜のカレーだよ」
お肉と人参と玉ねぎだけで煮込んだカレー。奏歌くんはフライパンでズッキーニと茄子とピーマンとカボチャとエリンギを焼いている。ご飯を深皿に盛ると、奏歌くんがカレールーをかけてくれて、その上に焼いたズッキーニと茄子とピーマンとカボチャとエリンギを並べてくれた。
見た目も綺麗で美味しそうな夏野菜のカレーが出来上がる。
「私、焼いたお野菜好きなのよね」
「海瑠さん、特に焼いたズッキーニが好きだよね?」
「知ってたの?」
「みんなでお皿に取るときに、余ってたら必ずお代わりするから、気付いてたよ」
今日のカレーに乗せる野菜も私が好きだからズッキーニを入れてくれたと聞いて、私は感激してしまう。奏歌くんはこんなにも私のことを見ていてくれる。
「カレーの味もいつもと違う気がする」
「今日はトマトを入れてみたんだ。夏野菜のカレーだからね」
トマト入りのカレーは辛さの中に甘酸っぱさもあって、焼き野菜によく合った。焼き野菜をカレーとご飯と一緒に食べるととても美味しい。
「奏歌くん、天才ね」
「天才じゃないけど、料理はもっと上手にならなきゃいけないなって、今回のイギリス行きで思ったよ」
「どうして?」
スプーンで掬ったカレーを口に入れる前に首を傾げると、奏歌くんが冷たい麦茶を飲んで答える。
「イギリスで日本の食材もあるってやっちゃん言ってたけど、種類はやっぱり限られてた。他の国の食材やスパイスも使えるようになっておかないと、海外に行ったときには困るなって思ったよ」
「スーパーで奏歌くんはそんなこと考えてたのね」
「スーパーに連れて行ってもらいたかったのも、その辺を下見しておきたかったからだしね」
奏歌くんにそこまで深い考えがあってスーパーに行ったとは知らなくて、私は感心してしまった。二年後には私たちは結婚して日本を離れているだろう。そのときのために奏歌くんは今から準備を始めている。
イギリス行きは私にとっても奏歌くんにとっても、お祖父様とお祖母様と会えたこと以外にも、とても有意義な旅行で、行ってよかったと思った。
洗濯物を干している間に奏歌くんが晩ご飯の片付けをしてくれる。余ったカレーは火を入れてタッパーにラップを敷いて入れていた。
「海瑠さん、カレーの粗熱が取れたら冷蔵庫に入れてね」
「うん、ありがとう」
「早めに食べちゃって」
「明日の朝ご飯にするわ」
私が明日の朝ご飯にカレーを食べる気でいると告げると、奏歌くんは焼き野菜のセットも作ってタッパーに入れておいてくれた。
帰る前に奏歌くんが私をソファに座らせて私の前に立つ。
「血を吸ってもいい?」
「うん、奏歌くんが満足するまで吸って」
昨日は篠田家に泊ったので当然首筋から血を吸われることがなく、奏歌くんが私の首筋から血を吸うのは一週間ぶり以上になっている。そっと私の肩に手を置いて首筋に歯を立てた奏歌くんに、私は目を閉じる。
酩酊感のようなものが走って、恍惚とした気分になる。血を吸われるのが気持ちいいだなんて、私はおかしくなってしまったのだろうか。奏歌くんに血を分けてもらって伴侶になってから、私は明らかに体質が変わったように感じていた。
首筋から唇を離した奏歌くんが、唇についた血を舐め取っている。じっと唇を見ていると、いたずらに微笑んだ奏歌くんにキスをされた。
触れるだけのキスだけど、胸がドキドキと高鳴る。
「海瑠さん、油断しちゃダメだよ」
「奏歌くんの前では油断しまくってるわよ」
「もう、僕だって男なんだからね」
何故怒られたのか分からないけれど、唇を尖らせる奏歌くんも可愛いので私は眼福と思って見ておく。
玄関まで奏歌くんを送って行ってから、私はシャワーを浴びてゆっくりと休んだ。時差ボケなのかやたらと眠くて、朝まで起きずにぐっすりと眠った。
翌朝になって私は自分の行動を酷く後悔した。
粗熱が取れたら冷蔵庫に入れておいてと言われていたカレーと焼き野菜をすっかり忘れていたのだ。真夏なので常温で一晩置いておいたカレーと焼き野菜が無事なはずがない。
「奏歌くんがせっかく作ってくれたのに……焼き野菜まで用意してくれたのに……」
自分の不甲斐なさに涙が出てきそうになる。
食べ物を粗末にしてしまったことと、奏歌くんの優しさを無碍にしてしまったことを深く反省して、私は朝ご飯を抜こうかと考えた。
こういうときに奏歌くんはタイミングがよすぎる。
「海瑠さん、おはよう! お弁当を持って来たよ。早く起きたから、来ちゃった」
「か、奏歌くん……」
インターフォンを押して、玄関のドアを開けて入ってきた奏歌くんに私は縋り付いて泣き出していた。ぼろぼろと涙を零す私に奏歌くんは驚いている。
「どうしたのかな? 落ち着いて話してみて」
「か、カレー……冷蔵庫……忘れちゃった……」
ひっくひっくと嗚咽を堪えながら言えたのはそれだけだった。奏歌くんは全てを察して、食べられなくなったカレーと焼き野菜はビニールに包んで生ごみのゴミ箱に入れる。何事もなかったかのように、奏歌くんは手早く昨日の残りのご飯を冷蔵庫から出してハムと一緒にバターで炒めて、卵を焼いて、ふわふわのオムライスを作ってくれた。
「海瑠さん、泣いてないで朝ご飯を食べよう」
「奏歌くんが、せっかく、作ってくれた、カレーと焼き野菜……」
「イギリス行きで疲れてたんだよ。気にしないで」
涙を拭いて鼻もかんで、食べたふわふわのオムライスはご飯がバターの香りがしてとても美味しかった。
「うちのオムライスはケチャップじゃなくて、バターライスなんだ」
「そうなんだ。初めて食べた気がする」
「オムライスは作ったことなかったかもね」
奏歌くんが来てくれたおかげで、私は食べられなくなったカレーに泣いていた気持ちをふわふわのオムライスで浮上させて、稽古に行くことができた。
稽古場で遅れた分もしっかりと演出家の先生の指導を受けて、私は百合と美鳥さんと真月さんに追い付くことができていた。ベテランの私たちに対して、雪乃ちゃんもしっかりと演技をしている。
「海瑠さんと百合さんがお弁当だから、私もお弁当を作って来てみました」
お昼の休憩に雪乃ちゃんが取り出したお弁当は、私と百合のお弁当よりも一回り以上小さかった。お弁当箱を開けると、おかずの量も少なく、おにぎりのサイズも全然違う。
「私って、いっぱい食べる方なの!?」
「海瑠、気付いてなかったの?」
「百合とお弁当の量変わらないから」
「私は食べても動いて消費してるからいいのよ」
百合のお弁当が大きかったから、私は自分が女性にしては食べる方だと気付いていなかった。百合は食べるのが大好きだからお弁当の量も納得なのだが、自分のお弁当が多いなんて考えたこともない。
奏歌くんと出会うまでは食べなくても生きていけたらいいと思うくらいに食事に関心がなく、男性関係で悩んで遂に食事が食べられなくなって点滴で命を繋いでいた。あの頃の私を考えると、今は奏歌くんが作ってくれたものをたっぷり食べて、お弁当も食べて、健康的なのだが、私が食べる量が多かったなんて思いもしなかった。
「普通はご飯をお代わりしたりしないの?」
「私はそんなに食べられません」
「お代わりはしないけど、ご飯が結構大盛でも私は食べられますよ」
「私もご飯結構食べますね」
雪乃ちゃんは小食のようだが、美鳥さんと真月さんの男役コンビは私ほどではないが結構食べるようだった。他人の食べる量なんて気にしていなかったが、雪乃ちゃんと食事をするようになって気付くこともある。
私にとっては衝撃の事実だったが、百合はあまり気にしていないようだった。
「海瑠さんのお弁当、いつも美味しそうですよね。手作りですか?」
聞かれて、雪乃ちゃんは知らないのだと私は気付く。百合は奏歌くんが6歳のときから知っているし、美鳥さんも真月さんも百合から聞いたり、奏歌くんの手作りのお菓子をもらったりして奏歌くんのことを知っている。
「前に広報のトップだった篠田さんを知ってる?」
「はい。とても素晴らしいポスターを作るって有名でしたよね」
「篠田さんの甥っ子くんと6歳のときからお知り合いなんだけど、今でも親戚みたいに懐いてくれてて、私のお弁当を作ってくれてるのよ」
劇団の規則では恋愛が禁止なので、雪乃ちゃんには隠し事をする形になるが、こういう説明しかできない。
「6歳のときからすごく男前のダーリンで、食べ物に興味のなかった海瑠を変えてくれたのよね」
「おかげで、私は毎日ご飯を美味しく食べられてるし、健康でいられるの」
説明すると雪乃ちゃんは感心した様子で聞いていた。
「思春期の男の子がお弁当を作ってくれたりするんですね」
「お料理が好きみたいなのよ。私のお弁当を羨ましがって、百合もお弁当を作るようになったもんね」
「そ、そうよ。私もちゃんと作ってるんだからね!」
強調しなくても分かっているのだが、百合はその点に関しては強調したいようだった。
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