君は僕の運命、僕を殺す定め

秋月真鳥

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後編 (受け視点)

8.予想外の朝

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 気が付いたときミヒャエルは下半身に違和感を覚えていた。気を失う前はどろどろだったシーツも替えられていて、ミヒャエルの身体も洗い流されているのに、布団の中でミヒャエルは全裸で尻にアルトゥロの腰がくっ付いていて、中に何かが入っている。
 じんじんと痺れている後孔がその大きさを伝えて来ていた。散々ミヒャエルの中で達して満足して萎えたはずのそこは、それでも異物感どころではない存在感を示している。

「ん……あっ……まだはいって……」
「ミヒャエル? 目が覚めたのか?」

 目が覚めたのかではない。どうしてミヒャエルの中にアルトゥロの凶悪なブツが入ったままなのか、ミヒャエルははっきりと説明して欲しかった。アルトゥロはディーデリヒが自分のものにならない腹いせにミヒャエルで欲望を満たしたのではないか。満足すればミヒャエルは捨てられて孕んでいるかもしれない可能性を抱いたまま呆然とする未来があったはずなのに、それを覆すようなことをアルトゥロはしてくる。

「なん、で……ぬいて……」

 そんな凶悪なブツを僕の尻に寝ている間も入れているんじゃない。いい加減に抜け!
 最早ミヒャエルはアルトゥロに関して怒りすら覚えていた。満足したならさっさとミヒャエルを追い出せばいいのにどうしてそうしない。もしかしてまだ続けようというのか。
 嫌な予感がして逃げようとミヒャエルが体を動かす前に、アルトゥロはミヒャエルの両手首を掴んでシーツの上に押し付けた。昨晩と違って今度は仰向けにされる。

「もう、むりぃ! あぁぁっ!」
「ミヒャエル、俺を受け止めて」
「ひんっ! ひぁっ!」

 中に入れたまま動くなんて、死ぬかと思うだろう!
 しかも中で大きくなっているし!
 腰を回転させるな!
 切れて怒鳴り散らしたい気分なのに、ミヒャエルの掠れた喉は上手く言葉を紡いでくれない。無理だと言っているのに入れたままで横向きで抱き締められていた体勢から仰向けにされて、内壁が擦れてミヒャエルは涙を流していた。
 がつがつと腰を打ち付けられて、ミヒャエルは楽な体勢を求めて自然に足を曲げる。それをいいことに、アルトゥロはミヒャエルの膝が耳の横に来るくらいまで深く曲げさせて、後孔が天井を向くような体勢にしてくる。
 腰が死ぬ!
 それ以上曲がらない!
 無理だと訴えたいのにアルトゥロは上から押し付けるようにして後孔を抉って来る。最奥で放たれて、ミヒャエルは絶望的な気分になっていた。
 これは孕んだ。
 責任を取れと言いたいが、相手は英雄でミヒャエルは19歳で死ぬと分かっている身。それなのにこんなことをするなんて酷すぎる。

「どう、して……」
「俺の気持ちは分かっているだろう?」
「もう……むり……」

 抗議しても意味の分からないことを言うアルトゥロに、ミヒャエルは意識を失っていた。
 次に気が付いたのは湯気の中だった。バスルームのバスタブの縁にアルトゥロが腰かけて、ミヒャエルを膝に抱くようにしている。何をされるのかとぼんやりとしていると、アルトゥロがミヒャエルの後孔にシャワーヘッドを当てて来た。

「あっ……それ、だめぇ……」
「綺麗にしてるだけだ」
「ひぃ……ひぃん……」

 中で何度も放たれているような刺激をもたらすお湯にミヒャエルは翻弄されて泣いてしまう。どれだけ嫌がってふるふると頭を振ってもアルトゥロはミヒャエルの奥を洗うのをやめなかった。
 そんなところを洗う知識があるのならば、「避妊」の二文字を知って欲しい。
 これだから童貞は困るのだ。
 怒りだけは胸に渦巻いているが、動くことも喋ることも怠くてままならないミヒャエルに服を着せるアルトゥロは、召使のようだ。そんなことをしていい身分ではないはずなのに、アルトゥロは何をしているのだろう。本来ならばディーデリヒにこそこういう気遣いをするべきなのに。
 いや、ディーデリヒをあんな風に激しく抱いたらアルトゥロは嫌われてしまうかもしれない。
 練習台にされたと思うと腹が立つが、ディーデリヒとのときにはもっと気を付けるように言わなければいけない。
 色々と考えている間に、アルトゥロはミヒャエルを膝の上に抱いてソファで食事をしていた。スプーンでスープを掬って口に運んでくるアルトゥロに、食べさせられるのは不本意だが喉を潤したかったので少しだけ飲む。千切ったパンは唇に押し付けられたので、仕方なく口を開けると押し込まれる。

「こんなに食が細いと、体がもたないよ、ミヒャエル」
「誰のせいだと……」
「いつもはもっと食べているのか?」

 自分がこんな状態になっているのはアルトゥロのせいなのに、ミヒャエルに親切ぶって言って来るアルトゥロに腹が立つ。

「肉を付けないと抱き心地が……」
「君に抱かれるための身体じゃない」
「殺されるのはいいのに、抱かれるのは嫌なのか?」
「君が抱くべきは僕じゃない……僕じゃないはずなのに」

 英雄譚ではアルトゥロはディーデリヒと結ばれるはずだった。それが間違ってしまったのは高校の不審者グループ襲撃事件で、アルトゥロではなくミヒャエルが怪我をして、アルトゥロがディーデリヒについておかずにミヒャエルについてきたせいだった。
 あれから歯車が狂い始めた気がする。
 ここで物語を修正しなければ、アルトゥロは英雄としてミヒャエルを殺せないかもしれない。ミヒャエルが殺されなければ、隣国の大魔法使いは魔王としてこの国に降臨して、この国を滅ぼしてしまう可能性がある。英雄譚の通りにどうにかして戻さねばならない。
 喋ったせいで咳き込んだミヒャエルにアルトゥロがティーカップを口に添えてくれる。飲みながらも、こうなったのはアルトゥロのせいだからなとミヒャエルは腹の底に怒りを溜めていた。

「抱かれて俺の気持ちが分かったはずだ」
「何のことだ?」
「はぐらかさないでくれ。俺は、ミヒャエルを」

 無茶苦茶に蹂躙して性欲を満足させたかったということならば理解できるのだが、アルトゥロはなぜかそうではないと言っている気がする。言葉の先を聞く前に、離れの屋敷のインターフォンが鳴った。

「ゲオルグ様です」
「絶対に屋敷の中に入れるな」
「アルトゥロ様をお呼びです」

 英雄譚の中に書かれているゲオルグの訪問は今日だったようだ。
 別室に出て行くアルトゥロにミヒャエルはいつでも逃げられるように転移の魔法を編み始めた。術式が編めたところで、立ち上がってソファの背もたれを掴み、壁に寄りかかりながらふらふらと別室を覗く。
 アルトゥロはゲオルグとインターフォンの画面越しに話しているようだ。

「警察に連絡するんだ。フィルツ家は君がディーデリヒ王太子殿下の学友となったと知って、跡継ぎに据えようとしている。それに危機感を持ったゲオルグは、君を殺す気だ」

 英雄譚の内容を離せばアルトゥロは警察に連絡して、その間ゲオルグを引き留めるために話をしていた。警察がやってくると、ゲオルグは逃げようとしたが確保されて、下町で買った質の悪い拳銃を所持していることが明らかになった。

「この拳銃を何に使おうとしたんだ?」
「……なんでもない」
「なんでもないことはないだろう」

 職務質問されて答えられないゲオルグは、そのまま警察に連行されていった。その背中を見送ってからドアを閉めたアルトゥロが、壁に寄りかかっているミヒャエルを振り返る。

「予言通りになったな、ミヒャエル。これで満足か?」
「君はゲオルグを撃つことはなかった」
「そうだ。俺は誰も撃ってない。予言は変えられる!」

 何を嬉しそうに言っているのか訳が分からない。ミヒャエルにとってはアルトゥロに殺されることこそが救いであり、この国を守ることなのに、アルトゥロはまだ駄々っ子のようなことを言っている。

「些末なことは変えられても、一番大きな結末は誰にも変えられない」
「俺は変えてみせる! ミヒャエル、そして、あなたを手に入れる!」

 アルトゥロがミヒャエルの腕を引き寄せて抱き締める。その腕の中でアルトゥロの顔を見て、やはり英雄は顔もいいのだと思いながら、ミヒャエルは編んでいた転移の魔法の術式を開放させた。

「変えられないよ。君は、僕を殺すんだ」
「ミヒャエル!?」

 転移の魔法は無事に展開されて、ミヒャエルは離れの自分の部屋に立っていた。アルトゥロがミヒャエルがここにいるかもしれないとこの部屋に来るのは時間の問題だろう。

「くそっ! 容赦なく抱きやがって! 腰が痛いし、脚もがくがくじゃないか!」

 毒づきながらミヒャエルは身の回りのものを素早くトランクに纏めて、ルイーゼの書いた手記を全部トランクに入れて転移の魔法を編み始めた。行き先が定まらなくて迷ったが、アルトゥロが来る前にこの場所からは逃れなければいけない。
 恐らくアルトゥロとの子どもが腹には宿っているだろう。
 大学で死ぬまでの間好きな文学に触れて最後のときを過ごそうと思っていたのもこれで台無しだ。どうにかして子どもだけでも助けなければいけない。
 アルトゥロの姿を窓の外に見た気がして、ミヒャエルは転移の魔法を展開させていた。
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