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三章 バーデン家の企みを暴く
11.お茶会までに
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キルヒマン侯爵の家でのお茶会のためにわたくしはピアノと歌を練習しなければいけない。それ以上に何かしたくてわたくしは悩んでいた。
辺境伯がどんなひとか知らないけれど、四年後にはエクムント様の養母となられるお方だ。どうにかして気に入られておかなければいけない。
この恋についてわたくしは両親にも内緒にしていた。だから相談できるのはクリスタちゃんだけである。
二人きりで部屋にいるときに聞いてみる。
「クリスタちゃん、わたくし、エクムント様と将来結婚したいのです。辺境伯に気に入られるにはどうすればいいのでしょう?」
「エクムント様と結婚するには辺境伯に気に入られないといけないの?」
クリスタちゃんには貴族社会のことがまだしっかりと練習を分かっていない。クリスタちゃんにしっかりとわたくしは教育しなければいけないと感じていた。
「クリスタちゃん、貴族の結婚は家同士を繋ぐものです。ただの甘い恋愛だけでは成り立たないのです」
「好きだけじゃダメなの?」
「そうなのです。自分がその家にとってどれだけの利益になれるかを示さなければいけない! 結婚も戦いなのです!」
母はフェアレディとして有名になって、子爵家の令嬢だったがキルヒマン侯爵家に養子に行って、そこからディッペル公爵家に嫁いでいる。父が母を気に入ってキルヒマン侯爵家に手を回したというのもあるのだが、それをさせるだけの気品が母にはあったのだ。
わたくしには何があるだろう。
考えているとクリスタちゃんが声を上げる。
「折り紙を折って差し上げたら?」
「辺境伯にですか?」
「そうよ! ハインリヒ殿下はわたくしの折り紙を喜んでいたわ! 折り紙のお花をもらって嬉しくないひとはいないと思うの」
折り紙でなんとかなる話なのだろうか。
懐疑的な気持ちでいっぱいだったが、何もしないよりはマシかもしれないとわたくしは折り紙を折った。クリスタちゃんも一緒に折ってくれる。
何枚もの同じ形に折った折り紙を組み合わせて作る花手毬。
同じ形に折るのはできたのだけど、組み合わせるのが難しくてできない。折り紙の本を見ながらわたくしは苦心していると、クリスタちゃんが手を上げて発言した。
「エクムント様にお願いしましょう」
「お願いしましょうか」
エクムント様を探して庭に出ると、強い日差しが降り注いでいた。帽子を被っているが暑くて汗が吹き出してくる。この日差しの中エクムント様は門の前に立って警護をしていた。
「エクムント、大変ではありませんか?」
「これも仕事ですから」
「水分を摂って無理しないでくださいね」
「ありがとうございます」
わたくしがエクムント様の心配をしていると、クリスタちゃんが元気に言う。
「わたくしたち、難しい折り紙をしているの。難しくて、上手にできないのよ」
「もう少しで休憩時間になります。そのときにお部屋に伺いましょうか」
「お願いします、エクムント」
こんなきつい仕事をしているエクムント様をこき使うのは申し訳ないと思ってしまうが、エクムント様はクリスタちゃんのお願いに快く答えてくれている。
「休まなくて平気ですか、エクムント?」
「屋根の下に入ったら、それだけでも休めます。折り紙を教えるのも休憩のうちですよ」
心配するわたくしにエクムントは笑顔で言う。
その笑顔だけでわたくしは心が蕩けていくようだった。
部屋に戻って冷たい飲み物を飲んで汗を拭いていると、エクムント様が部屋にやってきた。長袖の上着を着ているので、かなり汗をかいているようだ。
「マルレーン、エクムントに何か飲み物を持ってきて」
「いいのですよ、エリザベートお嬢様」
「アイスティーがいいわ。わたくしが命じたのよ。よろしくね」
「分かりました、エリザベートお嬢様」
すぐにマルレーンがエクムント様にアイスティーを持ってきてくれる。水滴の付いたグラスがいかにも涼しそうだ。
「エクムント、ようこそ、授業ごっこへ。今日の授業ではエクムント先生をお呼びして、花手毬を作ります。エクムント先生、よろしくお願いします」
「私が先生役なのですね。分かりました」
「先生はお茶を飲みながら授業をします。アイスティーを飲んでください」
ごっこ遊びにしてしまえばエクムント様はそれに付き合ってくれただけということになって、拒むことができない。アイスティーを飲むエクムント様の褐色の喉がごくごくと鳴っているのが分かる。相当喉が渇いていたのだろう。
「先生は上着もお脱ぎになって。暑い格好では授業ができませんわ」
クリスタちゃんも促してくれて、エクムント様は上着を脱いだ。上半身に汗でシャツがくっ付いているが、見事な筋肉に見惚れてしまいそうになる。長身で筋肉質のエクムント様は格好いい。
「この尖った先をこちらの袋のようになっているところに入れて、繋げていくのです」
「そこまではできたのだけれど、それをどうすれば丸くできるかが難しくて」
「核となる場所から五つ出して、そこから伸ばして、もう片方の核となる場所まで繋げるのです」
「手伝ってくれますか?」
「やってみてください。お手伝いすることがあればしましょう」
分からないところを教えてもらって、わたくしが一生懸命組み立てていくと、途中でうまくいかなくなってしまう。そこでエクムント様が手を添えて教えてくれる。
「お姉様、頑張れ、頑張れ!」
クリスタちゃんも応援してくれている。
エクムント様の手伝いとクリスタちゃんの応援を受けて、わたくしは花手毬を作り上げていた。
全面が花になっている丸い手毬で、何枚もの折った色紙を組み合わせたもの。
こんな複雑なものがわたくしに折れるとは思わなかった。
「エクムント先生、ありがとうございました」
「どういたしまして。また何かあればお呼びください」
本の説明と図解では分からなかった折り方が、エクムント様が実際にしてくれると分かる。そのことにわたくしは感動していた。
花手毬を作り上げて、わたくしは去年のお誕生日に両親から作ってもらったパーティバッグの中にそれを入れる。箱の作り方も書いてあったので、色紙で箱を作って箱に入れて花手毬をパーティバッグの中に入れた。
これで準備は万端だ。
「エリザベート、クリスタ、ピアノの先生がいらっしゃってますよ」
母に呼ばれてわたくしとクリスタちゃんは大広間に行く。大広間には日の当たる窓際に大きなピアノが設置してあるのだ。今は夏なので日差しを避けるためにレースのカーテンが閉められているが、風が吹くたびにレースのカーテンがひらひらと影を纏いながら揺れている。
ピアノにクリスタちゃんと並んで座って、連弾する。前回連弾したものよりも少し難しい曲に挑戦しているので、クリスタちゃんもわたくしも頑張らねばならなかった。
クリスタちゃんは主旋律を弾いて、わたくしが伴奏を弾くのだが、どちらかが間違えてしまうと音が全く合わなくなってしまう。
「もっと呼吸を合わせましょう。エリザベートお嬢様、クリスタお嬢様、お互いに音を聞き合うのです」
「はい、先生」
「わたくし、弾くのに一生懸命になってしまって……」
クリスタちゃんが珍しく弱音を吐いている。
「クリスタならできますわ。一緒に頑張りましょう」
「お姉様! わたくし頑張るわ!」
声をかけて励ますと、クリスタちゃんはやる気を取り戻していた。
ピアノの練習が終わると歌の練習をする。
伴奏は母が弾いてくれて、クリスタちゃんは主旋律を、わたくしがコーラスラインを歌う。
元気いっぱい歌うクリスタちゃんにつられてしまって音がおかしくなるわたくしに、ピアノの先生が指導をする。
「クリスタお嬢様はもっとエリザベートお嬢様の声を聞いて声を抑えてください。エリザベートお嬢様は伴奏の音を聞くのです。伴奏の中に歌う音が隠れています」
「伴奏を聞けばいいのですね」
「エリザベートお嬢様だけ歌ってみましょうか」
ピアノの先生に言われて伴奏を聞きながら歌ってみると、確かに伴奏の音の中にわたくしが歌うコーラスラインの音も隠れていた。これならばクリスタちゃんにつられないで歌えそうだ。
今度はクリスタちゃんも加減して歌ってくれる。
上手に歌い終えたときに、伴奏でピアノの椅子に座っていた母が立ち上がってわたくしとクリスタちゃんを両腕で抱きしめてくれた。
「とても上手でしたよ。感動しました」
「ありがとうございます、お母様」
「わたくし、とても上手って言われたわ! お姉様もとても上手よ!」
誇らしげな顔のクリスタちゃんをわたくしも母の腕の中で抱きしめていた。
辺境伯がどんなひとか知らないけれど、四年後にはエクムント様の養母となられるお方だ。どうにかして気に入られておかなければいけない。
この恋についてわたくしは両親にも内緒にしていた。だから相談できるのはクリスタちゃんだけである。
二人きりで部屋にいるときに聞いてみる。
「クリスタちゃん、わたくし、エクムント様と将来結婚したいのです。辺境伯に気に入られるにはどうすればいいのでしょう?」
「エクムント様と結婚するには辺境伯に気に入られないといけないの?」
クリスタちゃんには貴族社会のことがまだしっかりと練習を分かっていない。クリスタちゃんにしっかりとわたくしは教育しなければいけないと感じていた。
「クリスタちゃん、貴族の結婚は家同士を繋ぐものです。ただの甘い恋愛だけでは成り立たないのです」
「好きだけじゃダメなの?」
「そうなのです。自分がその家にとってどれだけの利益になれるかを示さなければいけない! 結婚も戦いなのです!」
母はフェアレディとして有名になって、子爵家の令嬢だったがキルヒマン侯爵家に養子に行って、そこからディッペル公爵家に嫁いでいる。父が母を気に入ってキルヒマン侯爵家に手を回したというのもあるのだが、それをさせるだけの気品が母にはあったのだ。
わたくしには何があるだろう。
考えているとクリスタちゃんが声を上げる。
「折り紙を折って差し上げたら?」
「辺境伯にですか?」
「そうよ! ハインリヒ殿下はわたくしの折り紙を喜んでいたわ! 折り紙のお花をもらって嬉しくないひとはいないと思うの」
折り紙でなんとかなる話なのだろうか。
懐疑的な気持ちでいっぱいだったが、何もしないよりはマシかもしれないとわたくしは折り紙を折った。クリスタちゃんも一緒に折ってくれる。
何枚もの同じ形に折った折り紙を組み合わせて作る花手毬。
同じ形に折るのはできたのだけど、組み合わせるのが難しくてできない。折り紙の本を見ながらわたくしは苦心していると、クリスタちゃんが手を上げて発言した。
「エクムント様にお願いしましょう」
「お願いしましょうか」
エクムント様を探して庭に出ると、強い日差しが降り注いでいた。帽子を被っているが暑くて汗が吹き出してくる。この日差しの中エクムント様は門の前に立って警護をしていた。
「エクムント、大変ではありませんか?」
「これも仕事ですから」
「水分を摂って無理しないでくださいね」
「ありがとうございます」
わたくしがエクムント様の心配をしていると、クリスタちゃんが元気に言う。
「わたくしたち、難しい折り紙をしているの。難しくて、上手にできないのよ」
「もう少しで休憩時間になります。そのときにお部屋に伺いましょうか」
「お願いします、エクムント」
こんなきつい仕事をしているエクムント様をこき使うのは申し訳ないと思ってしまうが、エクムント様はクリスタちゃんのお願いに快く答えてくれている。
「休まなくて平気ですか、エクムント?」
「屋根の下に入ったら、それだけでも休めます。折り紙を教えるのも休憩のうちですよ」
心配するわたくしにエクムントは笑顔で言う。
その笑顔だけでわたくしは心が蕩けていくようだった。
部屋に戻って冷たい飲み物を飲んで汗を拭いていると、エクムント様が部屋にやってきた。長袖の上着を着ているので、かなり汗をかいているようだ。
「マルレーン、エクムントに何か飲み物を持ってきて」
「いいのですよ、エリザベートお嬢様」
「アイスティーがいいわ。わたくしが命じたのよ。よろしくね」
「分かりました、エリザベートお嬢様」
すぐにマルレーンがエクムント様にアイスティーを持ってきてくれる。水滴の付いたグラスがいかにも涼しそうだ。
「エクムント、ようこそ、授業ごっこへ。今日の授業ではエクムント先生をお呼びして、花手毬を作ります。エクムント先生、よろしくお願いします」
「私が先生役なのですね。分かりました」
「先生はお茶を飲みながら授業をします。アイスティーを飲んでください」
ごっこ遊びにしてしまえばエクムント様はそれに付き合ってくれただけということになって、拒むことができない。アイスティーを飲むエクムント様の褐色の喉がごくごくと鳴っているのが分かる。相当喉が渇いていたのだろう。
「先生は上着もお脱ぎになって。暑い格好では授業ができませんわ」
クリスタちゃんも促してくれて、エクムント様は上着を脱いだ。上半身に汗でシャツがくっ付いているが、見事な筋肉に見惚れてしまいそうになる。長身で筋肉質のエクムント様は格好いい。
「この尖った先をこちらの袋のようになっているところに入れて、繋げていくのです」
「そこまではできたのだけれど、それをどうすれば丸くできるかが難しくて」
「核となる場所から五つ出して、そこから伸ばして、もう片方の核となる場所まで繋げるのです」
「手伝ってくれますか?」
「やってみてください。お手伝いすることがあればしましょう」
分からないところを教えてもらって、わたくしが一生懸命組み立てていくと、途中でうまくいかなくなってしまう。そこでエクムント様が手を添えて教えてくれる。
「お姉様、頑張れ、頑張れ!」
クリスタちゃんも応援してくれている。
エクムント様の手伝いとクリスタちゃんの応援を受けて、わたくしは花手毬を作り上げていた。
全面が花になっている丸い手毬で、何枚もの折った色紙を組み合わせたもの。
こんな複雑なものがわたくしに折れるとは思わなかった。
「エクムント先生、ありがとうございました」
「どういたしまして。また何かあればお呼びください」
本の説明と図解では分からなかった折り方が、エクムント様が実際にしてくれると分かる。そのことにわたくしは感動していた。
花手毬を作り上げて、わたくしは去年のお誕生日に両親から作ってもらったパーティバッグの中にそれを入れる。箱の作り方も書いてあったので、色紙で箱を作って箱に入れて花手毬をパーティバッグの中に入れた。
これで準備は万端だ。
「エリザベート、クリスタ、ピアノの先生がいらっしゃってますよ」
母に呼ばれてわたくしとクリスタちゃんは大広間に行く。大広間には日の当たる窓際に大きなピアノが設置してあるのだ。今は夏なので日差しを避けるためにレースのカーテンが閉められているが、風が吹くたびにレースのカーテンがひらひらと影を纏いながら揺れている。
ピアノにクリスタちゃんと並んで座って、連弾する。前回連弾したものよりも少し難しい曲に挑戦しているので、クリスタちゃんもわたくしも頑張らねばならなかった。
クリスタちゃんは主旋律を弾いて、わたくしが伴奏を弾くのだが、どちらかが間違えてしまうと音が全く合わなくなってしまう。
「もっと呼吸を合わせましょう。エリザベートお嬢様、クリスタお嬢様、お互いに音を聞き合うのです」
「はい、先生」
「わたくし、弾くのに一生懸命になってしまって……」
クリスタちゃんが珍しく弱音を吐いている。
「クリスタならできますわ。一緒に頑張りましょう」
「お姉様! わたくし頑張るわ!」
声をかけて励ますと、クリスタちゃんはやる気を取り戻していた。
ピアノの練習が終わると歌の練習をする。
伴奏は母が弾いてくれて、クリスタちゃんは主旋律を、わたくしがコーラスラインを歌う。
元気いっぱい歌うクリスタちゃんにつられてしまって音がおかしくなるわたくしに、ピアノの先生が指導をする。
「クリスタお嬢様はもっとエリザベートお嬢様の声を聞いて声を抑えてください。エリザベートお嬢様は伴奏の音を聞くのです。伴奏の中に歌う音が隠れています」
「伴奏を聞けばいいのですね」
「エリザベートお嬢様だけ歌ってみましょうか」
ピアノの先生に言われて伴奏を聞きながら歌ってみると、確かに伴奏の音の中にわたくしが歌うコーラスラインの音も隠れていた。これならばクリスタちゃんにつられないで歌えそうだ。
今度はクリスタちゃんも加減して歌ってくれる。
上手に歌い終えたときに、伴奏でピアノの椅子に座っていた母が立ち上がってわたくしとクリスタちゃんを両腕で抱きしめてくれた。
「とても上手でしたよ。感動しました」
「ありがとうございます、お母様」
「わたくし、とても上手って言われたわ! お姉様もとても上手よ!」
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