エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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六章 ハインリヒ殿下たちとの交流

11.わたくしの小さな頃

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 エクムント様とノルベルト殿下がノエル殿下のプレゼントについて話しているのを聞いていると、足元にふーちゃんとまーちゃんがやって来ていた。二人とも争うようにしてわたくしのお膝の上に乗ろうとする。
 その手には絵本が握られていた。

「もしかして、わたくしに絵本を読んで欲しいのですか?」
「えーおねえたま、えぽん!」
「ねぇね、ねぇね!」

 お茶会の最中なのにいいのかとノルベルト殿下を見れば、ノルベルト殿下は微笑んでいる。

「フランツ殿もマリア嬢もお茶をしに来たのでしょう。絵本を読んでも構いませんよ」
「ありがとうございます。でも、わたくし、二人共を抱っこはできませんわ……」

 困っているとエクムント様がふーちゃんの脇の下に手を入れて抱き上げて膝の上に抱っこする。まーちゃんは絵本をわたくしのお膝において、膝の上によじ登って来た。
 ミルクティーを給仕に頼むと、エクムント様がふーちゃんに飲ませてくれる。わたくしはまーちゃんに飲ませてから、絵本を読み始めた。

 まーちゃんが持ってきたのはクリスタちゃんが小さい頃に何度も何度も読んだ灰被りの物語だった。
 読んでいるとふーちゃんも身を乗り出して聞いている。
 最後の一ページまで読むと、まーちゃんが人差し指を立てる。

「もいっちょ!」
「マリア、待ってくださいね。フランツの分も読まなければいけませんから。その後で読みましょうね。いいですか?」
「あい」

 ふーちゃんの渡してくる絵本を受け取りながらまーちゃんを諭すと、まーちゃんは小さなお手手を上げていい子のお返事をした。
 ふーちゃんが渡してきたのは列車の絵本だった。列車の絵本を読み始めると、ふーちゃんが「ちゅっぽ! ちゅっぽ!」と一緒に読んで、まーちゃんも「ぽっぽ! ぽっぽ!」と興奮している。
 列車の本は二人とも大好きなのだ。
 列車の本を読み終わると、すかさずまーちゃんが人差し指を立てて言う。

「もいっちょ!」
「さっきの絵本ではなく、こちらの絵本を読みますか?」
「あい!」

 列車の絵本の方がまーちゃんは読んで欲しいようだ。読んであげていると、まーちゃんもふーちゃんも嬉しそうに目を輝かせていた。
 わたくしはその後列車の絵本を二回と、灰被りの絵本を二回読んだ。
 長時間ふーちゃんとまーちゃんにかけてしまったが、エクムント様もノルベルト殿下も全く気にした様子はなく、エクムント様は時々ふーちゃんとまーちゃんが欲しがるサンドイッチやケーキを食べさせたり、ミルクティーを飲ませたり、お世話をしてくれていた。

「エクムント様、本当にありがとうございます。ノルベルト殿下も絵本を読むようなことになってすみません」
「いいのですよ。エリザベート嬢が小さな頃を思い出しました」
「エリザベート嬢が小さな頃は可愛かったのでしょうね。今もとてもお可愛らしいですが」
「本当に可愛かったのです。私は兄が二人いるだけで、下に弟妹がおらず、男ばかりの兄弟で育ったので、エリザベート嬢を抱っこしたときに、女の子とはこんなに小さく柔らかく可愛いものなのだと驚いたのですよ」

 熱く語るエクムント様に少し驚いてしまう。
 エクムント様もわたくしと初めて出会った頃は十一歳くらいだったはずなのに、そんなことを考えていたなんて全く知らなかった。エクムント様がどれだけ小さなわたくしを可愛がってくれたのかを知ると、嬉しさと共に気恥ずかしさが胸に生まれる。

「わたち、おりう」
「まー、いくぅー!」

 ふーちゃんもまーちゃんもエクムント様とわたくしの膝から降りておもちゃを置いているところに戻って行ってしまった。
 わたくしは小さく咳払いをする。

「何のお話でしたでしょう?」
「ノエル殿下に差し上げるプレゼントを相談していたのですがその話は解決しました」
「フランツ様とマリアお嬢様が可愛かったですね」
「二人共わたくしの可愛い弟妹なのです。甘やかしてしまって、すみません」
「いいのですよ。僕もユリアーナが絵本を読んで欲しいと言って来る年になったら、あんな風に可愛がれるのでしょうか」
「きっとノルベルト殿下はいいお兄様になりますわ。今もハインリヒ殿下のいいお兄様ですもの」

 わたくしが言えばノルベルト殿下は苦笑する。

「ハインリヒは優しいのですよ。一つしか年の変わらない僕を立ててくれている。ハインリヒに僕がしてやれたことはほとんどないのに」
「そんなことはありませんわ、ノルベルト殿下」
「ハインリヒ殿下はノルベルト殿下を心から信頼していると思います。信頼している相手がいつもそばにいてくれるというのは心強いことなのですよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

 エクムント様に言われてノルベルト殿下は目を伏せていた。
 ノルベルト殿下はハインリヒ殿下と母親が違う。それを気にすることなくハインリヒ殿下があんなにもノルベルト殿下を慕っているのだから、ノルベルト殿下がどれだけハインリヒ殿下にとって必要かは分かっている。

「ユリアーナにはハインリヒにしてやれなかったことを、たくさんしてあげたいと思っているのです。絵本を読んだり、遊んであげたり」
「抱っこして庭を散歩するのもいいですよ。私はエリザベート嬢を抱っこしてずっと庭を歩いていました。エリザベート嬢は花を見て楽しんでいましたよ。小さい子は視点が低いので、抱っこで歩くと視点が高くなって楽しいようなのです。是非お勧めします」
「抱っこでお散歩ですか、いいですね。それなら首が据わったらできそうですね」

 ユリアーナ殿下の話になるとノルベルト殿下は笑み崩れている。エクムント様もノルベルト殿下に的確なアドバイスをしていた。

 お茶会がお開きになるころには、ふーちゃんもまーちゃんも疲れて眠くなっていた。
 母がまーちゃんを抱っこして、父がふーちゃんを抱っこして眠れるようにしている。

 両親は国王陛下と王妃殿下とお茶をしてきたようだった。
 ハインリヒ殿下を独り占めにできたクリスタちゃんもとても満足そうな顔をしていた。

「ハインリヒ殿下、今日はとても楽しかったですわ」
「クリスタ嬢、今度は私と兄上とノエル殿下でディッペル家に遊びに行きますね」
「お待ちしております」

 別れるときも名残惜しそうにしているのが目に入る。

「ユリアーナ殿下とお会いできて光栄でした。ユリアーナ殿下のお可愛らしかったこと」
「またお会いできる日を楽しみにしております」
「今日はディッペル公爵夫妻とお茶ができてよかった」
「またおいでくださいね」

 両親は国王陛下と王妃殿下に見送られていた。

 帰りの馬車の中でふーちゃんとまーちゃんはぐっすりと眠ってしまっていた。馬車の中は窓から風が入って来るので灼熱というほど暑くはなかったが、ふーちゃんもまーちゃんも髪の毛がくしゃくしゃになるくらい汗をかいている。
 小さい子は眠ると汗をかきやすいようだ。

 ディッペル家のお屋敷に帰ると、ふーちゃんとまーちゃんは順番にシャワーを浴びて、冷たいお水を飲んで、着替えさせられた。
 涼しい格好に着替えたふーちゃんとまーちゃんはまだ少し眠そうだったが、元気に子ども部屋で遊んでいた。

 わたくしとくりすたちゃんも部屋に戻って着替える。
 髪も一度解いて、暑いので高く括って三つ編みにしてもらった。
 クリスタちゃんが着替えてわたくしの部屋に来ると、わたくしの髪型を見て目を輝かせる。

「お姉様、わたくしと同じ三つ編みだわ。お揃いですね」
「クリスタちゃんは低い位置で結んでますが、わたくしは高い位置で結んでますね」
「お姉様の三つ編み、新鮮です。とても素敵だわ」
「クリスタちゃんの三つ編みもいつも可愛いですよ」

 お互いに褒め合ってから、子ども部屋に行くとルームシューズに履き替えて、ふーちゃんとまーちゃんのところに行く。
 ふーちゃんとまーちゃんは二人で列車で遊んでいた。

「ふーちゃん、まーちゃんに列車を貸してあげているのですか?」
「まーたん、いいよー」
「にぃに、にぃに!」

 列車を貸してもらってもまーちゃんはそれがふーちゃんの大事なものだと分かっているので齧ったり乱暴に扱ったりせずに、ぎこちなくレールの上を走らせている。
 ふーちゃんはまーちゃんのために木のレールを敷いていた。

「ぽっぽ、ぽっぽ!」
「ちゅっぽ、とおりまつ! ちゅぎは、おうとー!」
「おーとー!」

 まーちゃんとふーちゃんの遊びが盛り上がっているようでわたくしはそれを微笑ましく見つめていた。
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