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六章 ハインリヒ殿下たちとの交流
22.雑談中の教養
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クリスタちゃんとハインリヒ殿下とノルベルト殿下と合流すると、ノルベルト殿下がエクムント様に話しかける。
「エクムント殿、お茶をご一緒しませんか?」
「エリザベート嬢と一緒ですがよろしいですか?」
「ノエル殿下にプレゼントをした話を聞いて欲しいのです」
「喜んでお聞きいたしましょう」
クリスタちゃんとハインリヒ殿下とノルベルト殿下もお茶を一緒にすることになったが、わたくしは隣りにエクムント様がいるだけで幸せだった。
エクムント様は軽食を取り分けて空いているテーブルにお皿を置いて給仕にお茶を頼む。わたくしもミルクティーを頼んだ。
「ノエル殿下に大粒の真珠のペンダントトップのついたネックレスと大粒の真珠のイヤリングをプレゼントしたのです。珍しい、淡いピンク色の真珠です」
「それは喜ばれたでしょう」
「とても喜んでくださいました。ノエル殿下は色白なので真珠が似合うと僕が思ったことを伝えたら、頬を染めて喜んでくださっていました」
報告するノルベルト殿下もとても嬉しそうだ。
ノルベルト殿下は年上の頼れる男性がいなくて、ノエル殿下のプレゼントを迷っていたのだが、それにエクムント様が相談に乗ったのだった。エクムント様のアドバイスを受けてネックレスとイヤリングのセットを贈ったノルベルト殿下は、ノエル殿下にとても喜ばれたという。
「私もエリザベート嬢のお誕生日にイヤリングを贈らせていただきました」
「今、エリザベート嬢がつけているイヤリングですね。紫色の光沢のある髪によく合って、とてもお似合いです」
「ありがとうございます、ノルベルト殿下。エクムント様のセンスがいいのですわ」
ノルベルト殿下も惚気ていたので、わたくしも存分に惚気ることにする。
エクムント様の顔を見ればわたくしを見返して、微笑んでくださっている。
「ノルベルト殿下もエクムント様も素敵ですわ。婚約者のために似合うものを探してプレゼントするなんて、わたくし、憧れます」
この場で婚約者がいないのはクリスタちゃんとハインリヒ殿下だけだ。この二人ももう少し年齢が上がれば婚約の話が持ち出されるのではないかとはわたくしは考えていた。
クリスタちゃんとハインリヒ殿下は想い合っているし、何よりこの国でハインリヒ殿下に相応しい家柄の女性といえば、この国唯一の公爵家の令嬢であるクリスタちゃんかまーちゃんくらいになってくる。まーちゃんはさすがに年齢差があるし、クリスタちゃんとハインリヒ殿下は、最初はハインリヒ殿下がクリスタちゃんに意地悪をして嫌われて、それから一生懸命好かれるように努力して、築いてきた絆がある。
ハインリヒ殿下に相応しいのはクリスタちゃんくらいしかいないとわたくしは確信していた。
ハインリヒ殿下は隣国の王女だった王妃殿下から生まれているし、もう隣国からは婚約者をもらわないだろう。隣国との繋がりは、ノルベルト殿下がノエル殿下と婚約しているのでしっかりと築けている。
「わたくしも婚約する日が来るのでしょうか」
「きっと来ると思います」
そのときに相手が私だったらいいのですが。
ハインリヒ殿下が飲み込んだ言葉がわたくしには聞こえた気がした。
王族なので自分の一存で婚約者を決めることはできないが、国王陛下も王妃殿下もハインリヒ殿下の意思をある程度は尊重してくれるだろう。
何より、クリスタちゃんはこの国唯一の公爵家の令嬢で、ハインリヒ殿下に相応しい地位を持っていた。
これも全てわたくしがクリスタちゃんをディッペル家に引き取って、両親がクリスタちゃんを養子にすると決めてくれたからだった。
『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』では子爵家の令嬢のままで皇太子殿下の婚約者になるのだが、それは無理がありすぎるし、周囲の反対もあっただろう。
ノメンゼン子爵家を叔父の娘である従姉に譲って、公爵家の令嬢となったクリスタちゃんは皇太子殿下の婚約者となる資格があった。
「いつも思うのですが、ディッペル家で出されるミルクティーは牛乳が新鮮でとても美味しいですね。紅茶が苦手だった私も、ミルクティーならば飲めるようになりましたよ」
「ディッペル公爵領では酪農が盛んに行われていますからね。ハインリヒ殿下、ご存じですか? 牛乳とは、赤ちゃんを産んだ牛からしか出ないのですよ」
「そうなのですか!? 雌の牛ならば全部出るものだと思っていました」
「赤ちゃんを産んだ牛だけが乳牛になれます。牛乳を出させるために、酪農家は雌の牛に赤ちゃんを産ませているのです」
牛乳のことを話すクリスタちゃんは活き活きとしている。リップマン先生の授業で習ったことをここで活かせているのだ。
クリスタちゃんの言葉にハインリヒ殿下は驚き、聞き入っていた。
「牛のことなど全然知りませんでした。教えてくださってありがとうございます」
「ディッペル公爵領では酪農を含めた畜産が盛んですからね」
「酪農と畜産はどう違うのですか?」
「酪農は畜産の一部なのです。畜産は動物を飼って、そこから肉や牛乳、卵を生産する第一産業です」
「クリスタ嬢は詳しいのですね」
「ディッペル公爵家の娘ですから、領地のことはしっかりと勉強しています」
クリスタちゃんがディッペル公爵家でしっかりと教育されているのがハインリヒ殿下にも伝わっただろう。
わたくしはクリスタちゃんの様子に鼻が高かった。
「ディッペル公爵領は気候も温暖で、農業に向いた土地ですからね。辺境伯領は暑さが厳しく、領民の食料を確保するのが難しい土地です」
「辺境伯領では何を育てているのですか?」
「暑さに強い野菜が主流で、平民の主食はトウモロコシや米ですね」
「トウモロコシが主食なのですか?」
「トウモロコシを乾燥させて粉にして、薄焼きのパンを作ったりして食べているのです」
辺境伯領のことについてはわたくしよりもエクムント様の方がずっと詳しかった。話を聞いていると驚きがある。
トウモロコシの粉の薄焼きパンなど、わたくしは食べたことがない。
「貴族たちは他の領地から交易で手に入れた様々なものを食べられますが、平民の食事はいつも同じものですよ。トウモロコシの粉の薄焼きパンと豆のカレーが主ですね」
「辺境伯領は貧しいのですか?」
「貧しいかと言われれば、価値観によります。海からの恵みもあるし、交易で市は栄えているし、物は豊富にありますよ。ただ、誰もが豊かではないことは確かです」
それはどの領地も同じなのだが、将来辺境伯家に嫁ぐ身としては、辺境伯領の話は気になるものだ。
「辺境伯領を隅々まで豊かにしないと、また人身売買や動物の密輸がはびこるのではないでしょうか」
「人身売買は貧しい家が子どもを売ることが多いですからね。平民の中でも貧困層に当たるひとたちをどう援助していくかにかかっています。動物の密輸は、一部の貴族の悪行ですね」
エクムント様と話していると、カサンドラ様が近付いてくる。
カサンドラ様はまずハインリヒ殿下とノルベルト殿下に頭を下げた。
「私もご一緒してよろしいですか?」
「どうぞ、カサンドラ様」
「辺境伯をエクムント殿に譲られたのですよね。素晴らしい跡継ぎがおられて辺境伯領も安泰ですね」
「ありがとうございます。エクムント、エリザベート嬢と辺境伯領の話をしていたのかな?」
「そうです。エリザベート嬢が熱心に聞いてくださるので、私ばかり話し過ぎました」
申し訳ないと謝るエクムント様にわたくしはそんなことはないと首を振る。
「興味深いお話でしたわ。わたくしも辺境伯家の婚約者として知っておかねばならない知識でした」
「エリザベート嬢は年の割りに落ち着いているし、しっかりと教養も身に着けている。このまま育ったら、将来が楽しみですね」
「そう言っていただけると光栄です」
カサンドラ様はいつもわたくしを認めてくださるようなことを言ってくださる。
わたくしがこの年で辺境伯家の婚約者として胸を張っていられるのもカサンドラ様のおかげとしか言いようがない。
「カサンドラ様はしばらくはエクムント様と行動を共にするのですか?」
「エクムントは教育中なので、私がそばにいて立派な辺境伯に育て上げなければいけません。ディッペル家で学んできたことが役に立っていると思いますよ」
「カサンドラ様ともまたお会いできるのはとても嬉しいですわ。どうか、わたくしの両親の誕生日にもいらしてください」
「お誘いありがとうございます。喜んで参ります」
カサンドラ様も辺境伯を退いた身ではあるが、まだ隠居したわけでなくエクムント様の教育係としてずっとそばにいる。カサンドラ様は軍服からスーツに着替えていたが、以前と変わりなく格好よかった。
「エクムント殿、お茶をご一緒しませんか?」
「エリザベート嬢と一緒ですがよろしいですか?」
「ノエル殿下にプレゼントをした話を聞いて欲しいのです」
「喜んでお聞きいたしましょう」
クリスタちゃんとハインリヒ殿下とノルベルト殿下もお茶を一緒にすることになったが、わたくしは隣りにエクムント様がいるだけで幸せだった。
エクムント様は軽食を取り分けて空いているテーブルにお皿を置いて給仕にお茶を頼む。わたくしもミルクティーを頼んだ。
「ノエル殿下に大粒の真珠のペンダントトップのついたネックレスと大粒の真珠のイヤリングをプレゼントしたのです。珍しい、淡いピンク色の真珠です」
「それは喜ばれたでしょう」
「とても喜んでくださいました。ノエル殿下は色白なので真珠が似合うと僕が思ったことを伝えたら、頬を染めて喜んでくださっていました」
報告するノルベルト殿下もとても嬉しそうだ。
ノルベルト殿下は年上の頼れる男性がいなくて、ノエル殿下のプレゼントを迷っていたのだが、それにエクムント様が相談に乗ったのだった。エクムント様のアドバイスを受けてネックレスとイヤリングのセットを贈ったノルベルト殿下は、ノエル殿下にとても喜ばれたという。
「私もエリザベート嬢のお誕生日にイヤリングを贈らせていただきました」
「今、エリザベート嬢がつけているイヤリングですね。紫色の光沢のある髪によく合って、とてもお似合いです」
「ありがとうございます、ノルベルト殿下。エクムント様のセンスがいいのですわ」
ノルベルト殿下も惚気ていたので、わたくしも存分に惚気ることにする。
エクムント様の顔を見ればわたくしを見返して、微笑んでくださっている。
「ノルベルト殿下もエクムント様も素敵ですわ。婚約者のために似合うものを探してプレゼントするなんて、わたくし、憧れます」
この場で婚約者がいないのはクリスタちゃんとハインリヒ殿下だけだ。この二人ももう少し年齢が上がれば婚約の話が持ち出されるのではないかとはわたくしは考えていた。
クリスタちゃんとハインリヒ殿下は想い合っているし、何よりこの国でハインリヒ殿下に相応しい家柄の女性といえば、この国唯一の公爵家の令嬢であるクリスタちゃんかまーちゃんくらいになってくる。まーちゃんはさすがに年齢差があるし、クリスタちゃんとハインリヒ殿下は、最初はハインリヒ殿下がクリスタちゃんに意地悪をして嫌われて、それから一生懸命好かれるように努力して、築いてきた絆がある。
ハインリヒ殿下に相応しいのはクリスタちゃんくらいしかいないとわたくしは確信していた。
ハインリヒ殿下は隣国の王女だった王妃殿下から生まれているし、もう隣国からは婚約者をもらわないだろう。隣国との繋がりは、ノルベルト殿下がノエル殿下と婚約しているのでしっかりと築けている。
「わたくしも婚約する日が来るのでしょうか」
「きっと来ると思います」
そのときに相手が私だったらいいのですが。
ハインリヒ殿下が飲み込んだ言葉がわたくしには聞こえた気がした。
王族なので自分の一存で婚約者を決めることはできないが、国王陛下も王妃殿下もハインリヒ殿下の意思をある程度は尊重してくれるだろう。
何より、クリスタちゃんはこの国唯一の公爵家の令嬢で、ハインリヒ殿下に相応しい地位を持っていた。
これも全てわたくしがクリスタちゃんをディッペル家に引き取って、両親がクリスタちゃんを養子にすると決めてくれたからだった。
『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』では子爵家の令嬢のままで皇太子殿下の婚約者になるのだが、それは無理がありすぎるし、周囲の反対もあっただろう。
ノメンゼン子爵家を叔父の娘である従姉に譲って、公爵家の令嬢となったクリスタちゃんは皇太子殿下の婚約者となる資格があった。
「いつも思うのですが、ディッペル家で出されるミルクティーは牛乳が新鮮でとても美味しいですね。紅茶が苦手だった私も、ミルクティーならば飲めるようになりましたよ」
「ディッペル公爵領では酪農が盛んに行われていますからね。ハインリヒ殿下、ご存じですか? 牛乳とは、赤ちゃんを産んだ牛からしか出ないのですよ」
「そうなのですか!? 雌の牛ならば全部出るものだと思っていました」
「赤ちゃんを産んだ牛だけが乳牛になれます。牛乳を出させるために、酪農家は雌の牛に赤ちゃんを産ませているのです」
牛乳のことを話すクリスタちゃんは活き活きとしている。リップマン先生の授業で習ったことをここで活かせているのだ。
クリスタちゃんの言葉にハインリヒ殿下は驚き、聞き入っていた。
「牛のことなど全然知りませんでした。教えてくださってありがとうございます」
「ディッペル公爵領では酪農を含めた畜産が盛んですからね」
「酪農と畜産はどう違うのですか?」
「酪農は畜産の一部なのです。畜産は動物を飼って、そこから肉や牛乳、卵を生産する第一産業です」
「クリスタ嬢は詳しいのですね」
「ディッペル公爵家の娘ですから、領地のことはしっかりと勉強しています」
クリスタちゃんがディッペル公爵家でしっかりと教育されているのがハインリヒ殿下にも伝わっただろう。
わたくしはクリスタちゃんの様子に鼻が高かった。
「ディッペル公爵領は気候も温暖で、農業に向いた土地ですからね。辺境伯領は暑さが厳しく、領民の食料を確保するのが難しい土地です」
「辺境伯領では何を育てているのですか?」
「暑さに強い野菜が主流で、平民の主食はトウモロコシや米ですね」
「トウモロコシが主食なのですか?」
「トウモロコシを乾燥させて粉にして、薄焼きのパンを作ったりして食べているのです」
辺境伯領のことについてはわたくしよりもエクムント様の方がずっと詳しかった。話を聞いていると驚きがある。
トウモロコシの粉の薄焼きパンなど、わたくしは食べたことがない。
「貴族たちは他の領地から交易で手に入れた様々なものを食べられますが、平民の食事はいつも同じものですよ。トウモロコシの粉の薄焼きパンと豆のカレーが主ですね」
「辺境伯領は貧しいのですか?」
「貧しいかと言われれば、価値観によります。海からの恵みもあるし、交易で市は栄えているし、物は豊富にありますよ。ただ、誰もが豊かではないことは確かです」
それはどの領地も同じなのだが、将来辺境伯家に嫁ぐ身としては、辺境伯領の話は気になるものだ。
「辺境伯領を隅々まで豊かにしないと、また人身売買や動物の密輸がはびこるのではないでしょうか」
「人身売買は貧しい家が子どもを売ることが多いですからね。平民の中でも貧困層に当たるひとたちをどう援助していくかにかかっています。動物の密輸は、一部の貴族の悪行ですね」
エクムント様と話していると、カサンドラ様が近付いてくる。
カサンドラ様はまずハインリヒ殿下とノルベルト殿下に頭を下げた。
「私もご一緒してよろしいですか?」
「どうぞ、カサンドラ様」
「辺境伯をエクムント殿に譲られたのですよね。素晴らしい跡継ぎがおられて辺境伯領も安泰ですね」
「ありがとうございます。エクムント、エリザベート嬢と辺境伯領の話をしていたのかな?」
「そうです。エリザベート嬢が熱心に聞いてくださるので、私ばかり話し過ぎました」
申し訳ないと謝るエクムント様にわたくしはそんなことはないと首を振る。
「興味深いお話でしたわ。わたくしも辺境伯家の婚約者として知っておかねばならない知識でした」
「エリザベート嬢は年の割りに落ち着いているし、しっかりと教養も身に着けている。このまま育ったら、将来が楽しみですね」
「そう言っていただけると光栄です」
カサンドラ様はいつもわたくしを認めてくださるようなことを言ってくださる。
わたくしがこの年で辺境伯家の婚約者として胸を張っていられるのもカサンドラ様のおかげとしか言いようがない。
「カサンドラ様はしばらくはエクムント様と行動を共にするのですか?」
「エクムントは教育中なので、私がそばにいて立派な辺境伯に育て上げなければいけません。ディッペル家で学んできたことが役に立っていると思いますよ」
「カサンドラ様ともまたお会いできるのはとても嬉しいですわ。どうか、わたくしの両親の誕生日にもいらしてください」
「お誘いありがとうございます。喜んで参ります」
カサンドラ様も辺境伯を退いた身ではあるが、まだ隠居したわけでなくエクムント様の教育係としてずっとそばにいる。カサンドラ様は軍服からスーツに着替えていたが、以前と変わりなく格好よかった。
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