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十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約

26.まーちゃんとユリアーナ殿下の交流

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 国王陛下の別荘に行くと、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下が出迎えてくれた。
 ノエル殿下は今年で十八歳になって成人される。プラチナブロンドの髪も結い上げていて大人っぽく、美しい。

「ようこそいらっしゃいました、ディッペル家の方々」
「お待ちしておりました」
「わたくしも先ほど国王陛下の別荘に着いたところです」

 夏休みは隣国に帰国しているノエル殿下も、わたくしたちが国王陛下の別荘に滞在するのに合わせて、オルヒデー帝国に戻って来てくださっていて、先に国王陛下の別荘に来ていらっしゃった。
 玄関を抜けた吹き抜けのロビーで挨拶を交わしていると、リリエンタール家からレーニちゃんと、辺境伯家からエクムント様の到着が告げられる。
 レーニちゃんがロビーに入ってくると、ふーちゃんがすぐに駆け寄っていた。

「レーニ嬢、こんにちは。またお会いできて嬉しいです」
「お別れしてから数日しか経っていないのに、そんな風に言っていただけるなんて嬉しいですわ」

 ふーちゃんが手を差し伸べると、レーニちゃんはその手に手を重ねて歩いてくる。エクムント様は辺境伯領ではずっと軍服だったのだが、今回はスーツを着ていらっしゃった。青みがかったグレイのスーツに黒いシャツ、青いタイがとても格好いい。
 軍服も素敵なのだが、スーツとなるとやはりものすごく格好よくてわたくしは胸の高鳴りを抑えきれなかった。

「この度はお招きいただきありがとうございます」
「ノルベルトにはノエル殿下がいて、ハインリヒにはクリスタがいて、フランツにはレーニがいる。それなのに、エリザベートだけ婚約者がいないのも寂しいだろうと思ったのだ」
「お誘いいただけて光栄です。辺境伯領もオルヒデー帝国にとって重要な領地だということを、今、私は領民に知らしめているところです。国王陛下との交流があれば、それを後押しすることでしょう」
「エクムントの力になれるならばよかった」

 真っすぐに国王陛下のところに行って挨拶をしているエクムント様に見惚れてしまう。
 エクムント様は本当に背が高くて、足が身長の三分の二くらいあるのではないかと思ってしまう。この世界ではメートル法は使わないようなのだが、前世の感覚で言えばエクムント様の身長は二メートルに近いのではないかと感じられた。
 小さい頃はわたくしが小さいからエクムント様が大きく見えるのだと思っていたが、母と同じくらいの身長になったわたくしにとってもエクムント様はとても背が高かった。
 背は高いのだが無駄のない筋肉がついていて、全然厳つくはないので、威圧感はない。
 見上げているわたくしにエクムント様が気付いてにこりと微笑む。

「エリザベート嬢、こちらでも一緒に過ごせて嬉しいです」
「わ、わたくしも、エクムント様と一緒に過ごせて嬉しいです」

 声をかけてくださって嬉しかったのだが、あまりにエクムント様が格好よくて声が裏返ってしまった。恥ずかしさに熱くなる頬を押さえていると、エクムント様がわたくしの手を見ている。

「マニキュアを塗ったのですね。とても綺麗です」
「ありがとうございます」

 そういう細かいところまで気付くなんて、エクムント様、反則です!
 格好いいのに気が利く男性なんて、あまりにも大人すぎてわたくしはドキドキしっぱなしで困ってしまう。

「ノエル殿下の頼みで、エリザベート嬢とクリスタ嬢とレーニ嬢は別荘のノエル殿下のために用意された部屋にベッドを入れて同室にしてあります」
「ノエル殿下、よろしいのですか!?」
「わたくしがエリザベート嬢とクリスタ嬢とレーニ嬢と一緒に過ごしたいのです。たまには身分を忘れて楽しみましょう」

 そんなことを言われているけれども、身分を忘れることなどできない。ノエル殿下は隣国の王女であり、この国の皇子のノルベルト殿下の婚約者なのだ。

「畏れ多いことで御座います」
「ノエル殿下の望みでしたら、同室させていただきます」
「わたくしもよろしくお願いします」

 すっかりと恐縮してしまったわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんにノエル殿下は悪戯っぽく微笑んでいた。ノエル殿下は部屋ではわたくしたちを「ちゃん付け」するのだろう。そのために同室にしたとしか思えない。
 ノエル殿下のために用意された部屋ならば警護も問題ないだろう。

「ノエル殿下がご一緒だったら、お姉様たちのお部屋には行けませんね」
「おにいさま、がまんしましょう」

 ふーちゃんもまーちゃんも部を弁えている発言をしているが、ふーちゃんとまーちゃんに声をかけてきたのはユリアーナ殿下だった。

「わたくし、フランツどのとマリアじょうのおへやにあそびにいってもいいですか?」
「国王陛下と王妃殿下のお許しがあったら、いらっしゃってください」
「わたくしとおにいさまはかんげいいたします」
「わかりました。おとうさま、おかあさま、ディッペルけのおへやにあそびにいってもいいですか?」
「フランツとマリアとは年が近いから仲良く遊べるね?」
「はい、わたくし、フランツどのとマリアじょうとなかよくします」
「ディッペル公爵夫妻、よろしいですか?」
「私たちは構いません」
「どうぞいらっしゃってください」

 ふーちゃんとまーちゃんのところにはユリアーナ殿下が来ることになりそうだった。

「おききしたいのですが、ユリアーナでんかは、しはどうおもわれますか?」
「わたくし、はずかしいことに、しのいみがよくわからないのです」
「ユリアーナでんかもですか!? わたくしもです」
「わたくしがまだよんさいで、ちいさいからだとノルベルトおにいさまはなぐさめてくれるのですが、ハインリヒおにいさまは、じゅうごさいになっても、やはりしのいみがあまりよくわからないとおっしゃっているのです」

 まーちゃんの問いかけにユリアーナ殿下は正直に答えていた。
 ユリアーナ殿下はハインリヒ殿下と同じ感性の持ち主のようだった。

「ユリアーナでんか、いいおしらせがあるのです」
「なんでしょう?」
「へんきょうはくりょうの、オリヴァー・シュタールどのというかたが、しをわたくしにもわかるようにかいせつしてくださったのです」
「マリアじょうにもしがわかったのですか!?」
「はい。わたくし、ちいさなころからおにいさまのしも、クリスタおねえさまのしも、ノエルでんかのしもわからずにくるしんでいました。オリヴァーどのは、そんなわたくしにしのすばらしさをおしえてくれたのです」

 オリヴァー殿の話をしているときのまーちゃんは輝いている。まーちゃんの話を聞いてユリアーナ殿下はオリヴァー殿に興味を持ったようだ。

「おあいできないでしょうか、オリヴァーどの」
「こくおうへいかが、オリヴァーどのをおちゃかいにしょうたいしてくださっているそうなのです」
「ほんとうですか!?」
「ほんとうです。そうですよね、おとうさま、おかあさま?」

 まーちゃんの問いかけに両親が頷く。

「明日のお茶会にオリヴァー殿は来られるそうですよ」
「ユリアーナ殿下にも詩の読み解き方を教えてくれるかもしれません」
「おあいするのがたのしみです。わたくし、じょうりゅうかいきゅうのたしなみとして、しをりかいできないのははずかしいとおもっていたのです。オリヴァーどのにおしえていただきたいです」

 しっかりとオリヴァー殿の名前を売り込んでおくのもまーちゃんは抜け目がない。
 これでオリヴァー殿はユリアーナ殿下からも楽しみにされて、歓迎されるだろう。

 お茶会が詩で埋まるのは少し困るが、中央の貴族や王族と辺境伯領の貴族が交流するのはいいことだと思うので、わたくしはオリヴァー殿のお茶会参加を歓迎していた。

 オリヴァー殿がお茶会に参加するのは明日。
 それまでに、国王陛下にも王妃殿下にも、ユリアーナ殿下からオリヴァー殿の話が伝わるだろう。
 オリヴァー殿に対する期待が高まっていればいいとわたくしは思っていた。
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