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十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
17.ハインリヒ殿下の見舞い
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彼の国に国王陛下が手紙を送ったところ、姉の孫の顔が見たいとお願いをされたらしい。
その話が次のお茶会で持ち上がっていた。
「私とノルベルト兄上は彼の国の国王陛下の姉の孫なのですが……」
「彼の国は庶子をよく思っていないので僕はいけないのですよね」
「私はノルベルト兄上のことをそのようには思っていません。私の大事な兄です」
「ハインリヒ、ありがとう。でも、僕が庶子であることは間違いないから、気にしないでいいよ」
ノルベルト殿下が国王陛下と王妃殿下が結婚する前にできた庶子であることはこの国の誰もが知っていた。それを口に出さないのは王妃殿下がノルベルト殿下を認め、我が子であるハインリヒ殿下と変わりなく育てているからだ。
ノルベルト殿下の方も部を弁えていらっしゃるのは、王妃殿下の温情あってのことだろう。
ハインリヒ殿下と護衛たちだけで彼の国を訪問するとなると、心配事も出て来る。ハインリヒ殿下がしっかりと守られるかどうかは大事な問題だった。まだ五歳のユリアーナ殿下を行かせるわけにはいかないので、ハインリヒ殿下が行って来るほかはないのだ。
彼の国の国王陛下はわたくしは脚気ではないかと考えていた。
偏食で、彼の国では宗教上の理由で豚肉が食べられていないというのもオリヴァー殿から聞いた。ビタミンB1が足りていないのは確かなようだ。
「わたくし、彼の国の国王陛下と同じような症状の方を見たことがあります」
「エリザベート嬢、それは本当ですか?」
「はい。小さな頃だったでしょうか、辺境伯領で市に行ったときに平民の方と触れ合う機会がありました。そのときに同じ症状の方を見ました」
嘘であるがハインリヒ殿下はわたくしが壊血病の予防策を思い付いたということも知っている。わたくしの言葉に必死に耳を傾けているのが分かる。
「確信はないのですが、赤身の肉や、ナッツ類、全粒穀物を食べていたら治ったと言っていました」
「赤身の肉やナッツ類や全粒穀物を! それを彼の国の国王陛下に伝えなければ!」
気合を入れるハインリヒ殿下にわたくしは声を潜める。
「正面から伝えるのはよい方法とは思いません」
「何故ですか?」
「万が一国王陛下に何かあった場合、我が国がユリアーナ殿下を後継に立てて国の乗っ取りを考えていると思われるかもしれないからです」
「なんと!?」
その可能性を考えていなかったようでハインリヒ殿下がノルベルト殿下を見つめる。ノルベルト殿下は重々しく頷いている。
「同じ病気で治った場合はいいが、もしも間違っていて悪化した場合に勘繰られるのはよくない」
「ノルベルト兄上……」
「側仕えの従者にそれとなく話して、国王陛下に伝わるようにした方がいいね」
「分かりました、ノルベルト兄上」
深く頷いたハインリヒ殿下がわたくしの言葉を繰り返す。
「赤身の肉やナッツ類、全粒穀物を食べるとよいのですね。あくまでもそれとなく聞いた話として話しますが、その方が辺境伯領で流行っていた壊血病の予防策を見つけ出した方だというのは付け加えておきましょう」
わたくしの言葉がどれだけ役に立つのか分からないが、彼の国も国王陛下さえ体調が戻れば、落ち着いて養子を探すこともできるだろうし、後継者争いも一度は落ち着くだろう。
わたくしの助言を持ってハインリヒ殿下は彼の国へと旅立って行った。
ハインリヒ殿下不在の中でレーニちゃんのお誕生日は祝われることになった。
リリエンタール家にわたくしとクリスタちゃんと両親とふーちゃんとまーちゃんが行くと、デニスくんが駆けて来る。
「リリエンタールけにはとまらないのですね。リリエンタールけのにわもうつくしいのですが」
「今回は泊まりませんが、機会があったら泊まりたいと思います。わたくしとクリスタとフランツとマリアは何度かリリエンタール家に泊まっているのですよ」
「そうなのですね。わたしはちいさいからおぼえていませんでした」
デニスくんはまーちゃんと同じ年だが、生まれはまーちゃんよりも遅い。今年で六歳になったまーちゃんは早い時期からお茶会に出席しているが、デニスくんも同じように早い時期からお茶会に出席している。
デニスくんはリリエンタール家の後継者としてお茶会への出席を早くしたのだろう。
「エリザベート嬢、クリスタ嬢、わたくし、社交界にデビューする年齢になりましたわ」
誇らしげにレーニちゃんが言うのに、わたくしもクリスタちゃんも手を取って喜び合う。
「これからは昼食会も晩餐会も一緒に出られますね」
「おめでとうございます、レーニ嬢」
「わたくし、十五歳になりました。フランツ殿と結婚するまでにはまだ十一年ありますが、ますます素晴らしいレディになったと言われるように努力しますわ」
ふーちゃんとレーニちゃんは年の差があるので結婚するときにはレーニちゃんが二十六歳で、ふーちゃんが十八歳になるだろう。多少年の差があっても、公爵家同士の結婚ではあるし、ふーちゃんが望んで止まなかった婚約である。
わたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんが年上であることはそんなに気にしていなかった。
「わたくしの父と母も七つ年の差があります。それでもデニスもゲオルグも生まれていますから、わたくしは心配しておりません」
レーニちゃんは前の父親とのことは忘れて、今のお父上のことを本当の父親と思っているようだが、それにしても、デニスくんもゲオルグくんも元気いっぱいで愛されているのがよく分かる。
「レーニ嬢、踊ってください」
「はい、フランツ殿」
ふーちゃんに手を差し出されてレーニちゃんは笑顔でその手を取っていた。
お茶会にはエクムント様も来られていたが、ハインリヒ殿下がいないことには気付いておられたようだ。
「ハインリヒ殿下は彼の国に行かれたのですか」
「はい。国王陛下のお見舞いに行かれました」
問いかけられたので答えたが、エクムント様の表情が優れない気がしていた。わたくしは声を潜めてエクムント様に報告する。
「わたくし、彼の国の国王陛下の病気と同じ症状の方を見た覚えがあるのです」
「本当ですか、エリザベート嬢」
「小さい頃でしたが。その方は平民で、食べるものに困っていたからその病気になったのだと。親戚の援助を得て、赤身肉やナッツ類や全粒穀物を食べるようになったら治ったと言っていました」
嘘である。
でも、こうでも言わなければわたくしが前世の記憶で脚気だと気付いて治療法を思い付いただなんて言えるはずがない。
「壊血病の予防法を思い付いたときも平民と話をしていましたね」
「そうなのです。市に行ったときだったでしょうか。その記憶が蘇って、ハインリヒ殿下に国王陛下の従者の方にそれとなくお伝えしてみるように言ってみたのです」
「危険ではないですか? 情報が間違っていたら、この国がユリアーナ殿下を立てて国の乗っ取りを考えていると思われるかもしれない」
「それは考えました。ですから、あくまでも噂話のように重大な話ではない感じでお伝えするように言いました」
「なるほど。信じて実行するもしないも、彼の国次第といったところですか」
エクムント様もわたくしと同じことを考えていたようで、わたくしはその予防策ができたことを安心する。
これで彼の国の国王陛下が治れば、後継者争いも落ち着くのではないだろうか。
ハインリヒ殿下にとっても、ノルベルト殿下にとっても、国王陛下と王妃殿下にとっても可愛い存在であるユリアーナ殿下にも事態が飛び火することはなくなる。
彼の国のことは彼の国の中で解決してほしい。
わたくしはそう思っていた。
その話が次のお茶会で持ち上がっていた。
「私とノルベルト兄上は彼の国の国王陛下の姉の孫なのですが……」
「彼の国は庶子をよく思っていないので僕はいけないのですよね」
「私はノルベルト兄上のことをそのようには思っていません。私の大事な兄です」
「ハインリヒ、ありがとう。でも、僕が庶子であることは間違いないから、気にしないでいいよ」
ノルベルト殿下が国王陛下と王妃殿下が結婚する前にできた庶子であることはこの国の誰もが知っていた。それを口に出さないのは王妃殿下がノルベルト殿下を認め、我が子であるハインリヒ殿下と変わりなく育てているからだ。
ノルベルト殿下の方も部を弁えていらっしゃるのは、王妃殿下の温情あってのことだろう。
ハインリヒ殿下と護衛たちだけで彼の国を訪問するとなると、心配事も出て来る。ハインリヒ殿下がしっかりと守られるかどうかは大事な問題だった。まだ五歳のユリアーナ殿下を行かせるわけにはいかないので、ハインリヒ殿下が行って来るほかはないのだ。
彼の国の国王陛下はわたくしは脚気ではないかと考えていた。
偏食で、彼の国では宗教上の理由で豚肉が食べられていないというのもオリヴァー殿から聞いた。ビタミンB1が足りていないのは確かなようだ。
「わたくし、彼の国の国王陛下と同じような症状の方を見たことがあります」
「エリザベート嬢、それは本当ですか?」
「はい。小さな頃だったでしょうか、辺境伯領で市に行ったときに平民の方と触れ合う機会がありました。そのときに同じ症状の方を見ました」
嘘であるがハインリヒ殿下はわたくしが壊血病の予防策を思い付いたということも知っている。わたくしの言葉に必死に耳を傾けているのが分かる。
「確信はないのですが、赤身の肉や、ナッツ類、全粒穀物を食べていたら治ったと言っていました」
「赤身の肉やナッツ類や全粒穀物を! それを彼の国の国王陛下に伝えなければ!」
気合を入れるハインリヒ殿下にわたくしは声を潜める。
「正面から伝えるのはよい方法とは思いません」
「何故ですか?」
「万が一国王陛下に何かあった場合、我が国がユリアーナ殿下を後継に立てて国の乗っ取りを考えていると思われるかもしれないからです」
「なんと!?」
その可能性を考えていなかったようでハインリヒ殿下がノルベルト殿下を見つめる。ノルベルト殿下は重々しく頷いている。
「同じ病気で治った場合はいいが、もしも間違っていて悪化した場合に勘繰られるのはよくない」
「ノルベルト兄上……」
「側仕えの従者にそれとなく話して、国王陛下に伝わるようにした方がいいね」
「分かりました、ノルベルト兄上」
深く頷いたハインリヒ殿下がわたくしの言葉を繰り返す。
「赤身の肉やナッツ類、全粒穀物を食べるとよいのですね。あくまでもそれとなく聞いた話として話しますが、その方が辺境伯領で流行っていた壊血病の予防策を見つけ出した方だというのは付け加えておきましょう」
わたくしの言葉がどれだけ役に立つのか分からないが、彼の国も国王陛下さえ体調が戻れば、落ち着いて養子を探すこともできるだろうし、後継者争いも一度は落ち着くだろう。
わたくしの助言を持ってハインリヒ殿下は彼の国へと旅立って行った。
ハインリヒ殿下不在の中でレーニちゃんのお誕生日は祝われることになった。
リリエンタール家にわたくしとクリスタちゃんと両親とふーちゃんとまーちゃんが行くと、デニスくんが駆けて来る。
「リリエンタールけにはとまらないのですね。リリエンタールけのにわもうつくしいのですが」
「今回は泊まりませんが、機会があったら泊まりたいと思います。わたくしとクリスタとフランツとマリアは何度かリリエンタール家に泊まっているのですよ」
「そうなのですね。わたしはちいさいからおぼえていませんでした」
デニスくんはまーちゃんと同じ年だが、生まれはまーちゃんよりも遅い。今年で六歳になったまーちゃんは早い時期からお茶会に出席しているが、デニスくんも同じように早い時期からお茶会に出席している。
デニスくんはリリエンタール家の後継者としてお茶会への出席を早くしたのだろう。
「エリザベート嬢、クリスタ嬢、わたくし、社交界にデビューする年齢になりましたわ」
誇らしげにレーニちゃんが言うのに、わたくしもクリスタちゃんも手を取って喜び合う。
「これからは昼食会も晩餐会も一緒に出られますね」
「おめでとうございます、レーニ嬢」
「わたくし、十五歳になりました。フランツ殿と結婚するまでにはまだ十一年ありますが、ますます素晴らしいレディになったと言われるように努力しますわ」
ふーちゃんとレーニちゃんは年の差があるので結婚するときにはレーニちゃんが二十六歳で、ふーちゃんが十八歳になるだろう。多少年の差があっても、公爵家同士の結婚ではあるし、ふーちゃんが望んで止まなかった婚約である。
わたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんが年上であることはそんなに気にしていなかった。
「わたくしの父と母も七つ年の差があります。それでもデニスもゲオルグも生まれていますから、わたくしは心配しておりません」
レーニちゃんは前の父親とのことは忘れて、今のお父上のことを本当の父親と思っているようだが、それにしても、デニスくんもゲオルグくんも元気いっぱいで愛されているのがよく分かる。
「レーニ嬢、踊ってください」
「はい、フランツ殿」
ふーちゃんに手を差し出されてレーニちゃんは笑顔でその手を取っていた。
お茶会にはエクムント様も来られていたが、ハインリヒ殿下がいないことには気付いておられたようだ。
「ハインリヒ殿下は彼の国に行かれたのですか」
「はい。国王陛下のお見舞いに行かれました」
問いかけられたので答えたが、エクムント様の表情が優れない気がしていた。わたくしは声を潜めてエクムント様に報告する。
「わたくし、彼の国の国王陛下の病気と同じ症状の方を見た覚えがあるのです」
「本当ですか、エリザベート嬢」
「小さい頃でしたが。その方は平民で、食べるものに困っていたからその病気になったのだと。親戚の援助を得て、赤身肉やナッツ類や全粒穀物を食べるようになったら治ったと言っていました」
嘘である。
でも、こうでも言わなければわたくしが前世の記憶で脚気だと気付いて治療法を思い付いただなんて言えるはずがない。
「壊血病の予防法を思い付いたときも平民と話をしていましたね」
「そうなのです。市に行ったときだったでしょうか。その記憶が蘇って、ハインリヒ殿下に国王陛下の従者の方にそれとなくお伝えしてみるように言ってみたのです」
「危険ではないですか? 情報が間違っていたら、この国がユリアーナ殿下を立てて国の乗っ取りを考えていると思われるかもしれない」
「それは考えました。ですから、あくまでも噂話のように重大な話ではない感じでお伝えするように言いました」
「なるほど。信じて実行するもしないも、彼の国次第といったところですか」
エクムント様もわたくしと同じことを考えていたようで、わたくしはその予防策ができたことを安心する。
これで彼の国の国王陛下が治れば、後継者争いも落ち着くのではないだろうか。
ハインリヒ殿下にとっても、ノルベルト殿下にとっても、国王陛下と王妃殿下にとっても可愛い存在であるユリアーナ殿下にも事態が飛び火することはなくなる。
彼の国のことは彼の国の中で解決してほしい。
わたくしはそう思っていた。
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