王子様と運命の恋

秋月真鳥

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帝王と妖精の恋

帝王の恋 10

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 結婚を発表する会見で、ヴァンニはダークグレイのスーツ、リュシアンは明るいブルーのスーツを着ていた。長めの髪を纏めているリュシアンは、長い睫毛を伏せて、とても可憐だった。
 同棲していることも隠していなかったし、公演でも公私共にパートナーであると公言してきた。舞踏団の主催の先生は、息子か娘を結婚させるかのように、泣いて喜んでいた。もちろん、クラレンスのときも泣いて喜んでいたので、3歳やそこらから知っているヴァンニとクラレンスは主催の先生にとっては我が子のようなものなのだろう。
 ヴァンニのファンからは、あの可憐なリュシアンならば構わないと言われていたし、リュシアンのファンはずっとヴァンニを追いかけている事を知っているので、どちらも祝福ムードだった。
 プロポーズされた日に、ヴァンニが出した条件を、あっさりとリュシアンは飲んだ。
「僕にとっては、どう認識されてても構わないんです。ヴァンニが相手であること、ヴァンニが他の相手に目を向けないこと、それだけが僕の望みですから」
「良いのか……?」
 周囲を勘違いさせたままだと、ヴァンニが妊娠するなどということは非常に難しくなる。
「子どものいない夫婦を否定するつもりですか? それに、どっちがどっちに抱かれているとか、どっちが妊娠するとか、そういう極めてプライベートでセンシティブなことは、自分たちだけが知っていれば良いことでしょう?」
 そこまでリュシアンが考えてくれていたのかと驚いたと共に、その愛の深さがヴァンニの心を打った。二人は結婚を決めて、最初に舞踏団の主催の先生に話をして、マネージャーを通して結婚を公表した。
 結婚したからといって、なにかが変わるわけでもなく、ヴァンニとリュシアンは穏やかに暮らしていた。今やっている白鳥の湖をアレンジした公演を終えたら、休みを取って新婚旅行がてら、フランスにリュシアンの故郷を訪ねようと計画している。
 怪我をして以来、腰に違和感を覚えることが多くなったヴァンニに、毎晩リュシアンがマッサージをしてくれる。人をダメにするソファなる広いベッドのようなソファにうつ伏せになって、下着一枚で肩から背中、腰までを揉み解されるのは非常に気持ちがいい。
「料理の腕より、マッサージの腕の方が上達が早いみたいだな」
「マッサージは、柔軟をするときの要領がありますからね」
 くすくすと笑いながら、リュシアンがヴァンニの裸の背中に、口付けを落とす。首の後ろから、背骨を辿るようにして舐められて、腰骨まで到達する頃には、ヴァンニは快感に蕩けていた。
「リュシアン、欲しい……」
「あ……避妊具(ゴム)……」
「一回くらい、平気だから」
 キスがしたいと仰向けになってリュシアンの背中に手を回し、口付けて舌を絡める。逃さないと細い腰に脚を絡めると、リュシアンが困ったように笑った。
「知りませんよ?」
 一度で止まると思ってるんですか?
 挑発的な言葉にずくんと胎が疼く。ほの赤い唇を舐めて、ヴァンニの脚を抱えたリュシアンが、濡れてひくつく後孔に切っ先を宛てがう。毎日のように抱かれている体は、完全にリュシアンを受け入れることに慣れきって、はくはくとそれを飲み込もうとしていた。
 みちみちと隘路を拓き、内壁を擦り上げて入ってくるリュシアンの中心に、ヴァンニの中が蠢いて悦ぶ。腰を打ち付けられるたびに、ごりごりと最奥を突かれて、ヴァンニは仰け反った。
「あぁっ! リュシアン、悦いっ!」
「可愛いひと……愛していますよ」
「俺も……愛してる」
 日常ではとても口にできない愛の言葉も、体を交わしているときならば言うことができる。普段は皮膜一枚に隔たれる接合が、それがないだけでこんなにも悦いなんて。
 どくどくと注ぎ込まれる熱い飛沫に、ヴァンニは「もっと」と続きを強請っていた。
 体の異変に気付いたのは、一ヶ月続いた公演の千秋楽の頃だった。食欲が急になくなったり、特定のものがやたら食べたくなったり、その時点で予測はしていた。
 子どもは欲しくないと言っていたが、いざお腹にいるかもしれないとなると、絶対に手放したくない。あのリュシアンと自分の子どもなのだ。可愛くないはずがない。
 けれど、世間にはヴァンニが夫で、リュシアンが妻で、リュシアンが産む方と認知されている。
 どうすればいいのか分からないままに千秋楽を終えて、休暇の届け出を準備していたときに、リュシアンがヴァンニに穏やかに問いかけた。
「ヴァンニ、あなた、妊娠してますよね?」
 堕ろすという選択肢はなかったが、産むには全ての嘘を白状しなければいけない。答えられずにいるヴァンニの肩を抱いて、リュシアンが囁く。
「全部、僕に任せてください」
「だが……」
「僕を信じて」
 腕を引かれて舞踏団主催の先生とマネージャーの前に出たヴァンニは、死刑台に上がるような気持ちだった。嘘をついたことを舞踏団からも、世間からも、どのように受け止められるか分からない。
「妊娠しました」
 はっきりと告げるリュシアンの言葉に、ヴァンニは顔が上げられなかった。
「本当なのか?」
「公演中でしたので言えませんでしたが、これから病院に行って検査をしてきます。多分、間違いないです」
「体の方は平気なのか、リュシアン」
 そこで、ヴァンニは主催の先生とリュシアンの話が何か違う方向に行っていることに気付いた。
「今は大丈夫です……でも、やはり、心配なので、僕の故郷のフランスで産んで、育休までとらせていただけたらとお願いにきました」
「そうだな……リュシアンも初めての出産で不安だろうし、ご両親の元にいた方がいい」
「あの……ヴァンニと離れるのは不安なんです。お願いします、ヴァンニも一緒に行かせてください」
 儚げな様子で涙を浮かべてまで言うリュシアンに、主催の先生が涙ぐむ。
「もちろんだ。夫も育児をする時代だからな。ヴァンニ、しっかりリュシアンを支えるんだぞ」
「……は、はい」
 リュシアンは一言も、自分が産むとは言っていない。ただ、思い込んだ主催の先生が勘違いをしただけだった。
「フランスでだったら、僕の両親にも手を回してもらって、内密に出産ができると思います。大丈夫ですよ、ヴァンニ」
 帰りの車の中で言われて、ヴァンニは全身から力が抜けるようだった。
 妖精と呼ばれて、儚げで可憐なリュシアンは、世間も身近にいる舞踏団のメンバーも騙し通してしまうくらいに強かで逞しい。
 けれど、どこまでもヴァンニの立場を考えてくれる思慮深いところがある。
「お前で良かったよ……」
 子どもを諦めることは考えられないが、世間のイメージも壊したくない。そんなヴァンニの我儘を丸ごと受け止めて、考えを巡らせてくれるリュシアン。
「僕だって、赤ちゃんを諦めたくないですからね」
 その後、産休を育休を兼ねて二年間の休暇をもらい、ヴァンニとリュシアンはフランスで暮らすことになった。人目につかない病院を選んでヴァンニはそこに通って、定期検診を受けて、黒髪に巻き毛の可愛い男の子を出産した。
 産んだ後には子育てとダンサーとして戻れるように稽古に追われたが、自宅の稽古場にベビーベッドを持ち込んで、リュシアンと二人で赤ん坊の様子を見ながら踊るのは、少しもつらくなかった。
 ヴァンニ・ベルタッツォと、リュシアン・ファボス。
 二人は、公私共にパートナーのダンサーとして、後世に名を残すことになる。
 フランスに里帰り方式でだったら、子どもも安全に産めるということで、ヴァンニがその後、第二子、第三子の出産を躊躇う理由はなくなった。
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