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僕が抱かれるはずがない! ~運命に裏切られるなんて冗談じゃない~
運命に裏切られるなんて冗談じゃない 2
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まだエルドレッドは15歳で、性的な経験もない。男性として育って男性として生きてきたのだから、自分が抱く方だと思い込んでいても仕方がない。
最初は自分にそう言い聞かせていたが、エルドレッドと話をすればするほど、自分たちのすれ違いに気付かされて、ジェイムズは頭を抱えていた。デートも盛り上がらず、結局カフェで口論じみたことになってしまう。
「エルドレッド、君は僕が好きじゃないの? 譲歩して一回抱かれてみようって気もないわけ?」
「それは、僕の台詞じゃない? あなたこそ、譲歩という言葉を知らないの?」
お互いに思い合って愛し合っているはずなのに、話を重ねる度に言葉が刺々しくなって、口付けを交わすこともなくなった。
「僕には君をどうにでもしてしまえる腕力があると分かって欲しい。それでも、君と話し合いの場を持っている。それは譲歩じゃないの?」
「ジェイムズ、レイプは犯罪だよ」
例え恋人同士でも同意のない性行為は犯罪である。夫婦であってもそれは変わりない。
「抱く、抱かないの話じゃなくて、ジェイムズは僕と結婚したくないの?」
はっきりと物を言うエルドレッドの姿勢が、最初からジェイムズには好ましかった。しかし、問い詰められる立場になってみると、逃げ場がなくなってしまう。
「結婚したいと思ってた」
細い眉を吊り上げて厳しい表情だったエルドレッドが、ふとその青い瞳を潤ませる。過去形にしてしまったことが彼を傷付けたのだと分かったが、今更嘘はつけなかった。
罪悪感でチクチクと胸が痛むと同時に、きゅっとお腹の奥が疼くような気配に、ジェイムズは戸惑いながらも言葉を続ける。
「抱きたい、抱かれたいという性嗜好は、同性愛者、異性愛者のように生まれながらに決まっていることで、変えられるものじゃない。だから……」
「別れるんだね」
「もう会わない方が良いよ」
愛しくて可愛いエルドレッドといがみ合いたくはない。ましてや、自分が無理矢理にエルドレッドをねじ伏せることなど、あってはならない。
別れを告げてエルドレッドを家まで送っていく間、車の中でエルドレッドは窓の外を眺めて一言も言葉を発しなかった。もしかすると、泣いていたのかもしれない。せっかく出会えた運命を手放さなければならないジェイムズも、泣きたい気持ちだった。
「君に良い出会いがあるように」
もうこんな恋は二度としないだろうと、最後に贈る言葉に、エルドレッドが顔を上げてジェイムズの顎を掴んだ。強引に引き寄せられて、口付けられ、驚いている間に、ジェイムズの唇にエルドレッドの舌が差し込まれる。
経験などない15歳のはずなのに、口腔を舌で貪られて、じくじくと下半身に熱が集まってしまうのは、エルドレッドがジェイムズの運命だからなのだろう。運命の相手との行為は忘れられないほどに悦いと言う。
くちゅりと舌を引き抜いたエルドレッドが、赤く濡れた唇を舐めた。
「僕を忘れるなんて、許さない」
息を飲むほどに美しい青い瞳に見入っている間に、かぷりとエルドレッドの歯がジェイムズの首筋に立てられた。赤く痕を残して、エルドレッドは車から出て行く。
振り返らずに屋敷に向かうエルドレッドに、ジェイムズは車の中から動けずにいた。身体中が火照ったように熱く、心臓が高鳴っている。
愛している。
無邪気に微笑んで話しかける姿も、どきりとするくらい大人っぽく妖艶に見える瞬間も、ジェイムズに閃きを与えるような鋭い質問を繰り出す様子も、全て、愛しくてたまらない。手放すのがこんなにも苦しいだなんて、運命に出会うまでは知りもしなかった。
それでも、エルドレッドのためにも、ジェイムズのためにも、ずるずると関係を続けるわけにはいかなかった。
共同研究者のラクランと弟のエルドレッドの間には、秘密はないようだった。運命の相手だということも、エルドレッドとジェイムズが別れたということも、知られていた。
婚約者の理人の行方が分からなくなったということで、大学院を休んで実家に帰っていたラクランが、無事に理人が保護されて大学に戻ってきて、言いにくそうに切り出す。
「アタシと理人さんの結婚式、多分来年の五月の理人さんの誕生日にすると思うわ。来てくれるかしら?」
兄のラクランの結婚式にエルドレッドが出席しないわけがない。会わないと言った手前、のこのこと出ていけるはずもなかった。
「それは、申し訳ないけど無理かな。エルドレッドともう二度と会わない約束をしている」
「会いたくはないの?」
「会いたいけど、会ったら間違ってしまうかもしれない」
愛しているからこそ、気持ちが変わらないからこそ、ジェイムズは自分がエルドレッドを傷付ける可能性を恐れていた。会えばあのほの赤い唇に口付けたくなる。ほっそりとした体を抱き締めたくなる。
最後の口付けと噛まれた首筋は、まだ甘く感覚が残っていて、思い出すたびに体が熱くなる気がする。
「エルドレッドを愛しているのね」
「愛していたよ」
まだ気持ちは少しも薄れていない。それなのに過去形にしなければいけないことが、ジェイムズにはただただつらかった。
失恋の痛手を癒すには新しい恋をするのが一番だという。
これまでならば、前向きに次の相手を考えられたのだろうが、エルドレッドは他の相手とは全く違う、唯一無二の運命の相手だった。女々しいが諦めきれず、ジェイムズは研究に没頭することでエルドレッドを忘れようとした。
それはある意味成功して、論文の進みは早くなったし、研究も深まった。規則正しい方だったのに、寝食をおざなりにしてひたすら論文と向き合うジェイムズを、ラクランは心配して、食事に連れ出してくれた。
「アタシがいない間も資料あさってたんでしょ? ちゃんと寝た? ご飯は?」
「君は僕の奥方でもないんだから、世話を焼くことはないんだよ。君には大事な旦那様がいるだろう」
「皮肉を言う元気はあるのね。髭を剃ってらっしゃい、食事に出かけるわよ」
女の子が欲しかったという両親のためにフェミニンな格好と喋り方をするヘイミッシュ。その息子のラクランは、筋肉質な体を包む服は三つ揃いのかっちりとしたスーツだったが、喋り方は父親のヘイミッシュ似でフェミニンだった。
喋り方や体の大きさをからかわれたり、ジェイムズとの仲を疑われたりしているが、ラクランは理人だけを運命の相手として、堂々と婚約者として紹介してくれた。ラクランの潔さと躊躇いのなさが、ジェイムズには眩しく、羨ましい。
「共同研究者に死なれると困るのだけれど」
「僕には辛辣だな。他の相手には当たり障りなく、お上品なのに」
「長い付き合いでしょ、今更遠慮する仲でもないし」
ダイナーでコーヒーとサンドイッチのセットを頼んで食べている間、やはりラクランはエルドレッドとのことを話題にしたいようで、どう切り出すか考えあぐねているようだった。
「正式にプロポーズされたの。アタシ、五月に結婚するわ。二人のためにもっと稼がなきゃいけない」
「野心のある目をしてる。いいね。今度、アメリカの学会に誘われてるんだけど、行くだろう?」
「売り込むチャンスってことね」
結婚の話をされた後で、アメリカに行くこと迷っていると話せば、エルドレッドとのことを考え直せないかと問われる。もう終わったことだと自分に言い聞かせて、論文のことだけを考えようとして、ジェイムズはずっとエルドレッドのことが頭を離れていないことを自覚していた。
これ以上はお互いのためにもならない。
「……結婚式に、出席させてもらおうかな。それで、最後にする」
「ありがとう、アタシと理人さんのことも、エルドレッドのことも」
本当に別れを告げるために、ジェイムズはラクランと理人の結婚式への出席を決めた。
最初は自分にそう言い聞かせていたが、エルドレッドと話をすればするほど、自分たちのすれ違いに気付かされて、ジェイムズは頭を抱えていた。デートも盛り上がらず、結局カフェで口論じみたことになってしまう。
「エルドレッド、君は僕が好きじゃないの? 譲歩して一回抱かれてみようって気もないわけ?」
「それは、僕の台詞じゃない? あなたこそ、譲歩という言葉を知らないの?」
お互いに思い合って愛し合っているはずなのに、話を重ねる度に言葉が刺々しくなって、口付けを交わすこともなくなった。
「僕には君をどうにでもしてしまえる腕力があると分かって欲しい。それでも、君と話し合いの場を持っている。それは譲歩じゃないの?」
「ジェイムズ、レイプは犯罪だよ」
例え恋人同士でも同意のない性行為は犯罪である。夫婦であってもそれは変わりない。
「抱く、抱かないの話じゃなくて、ジェイムズは僕と結婚したくないの?」
はっきりと物を言うエルドレッドの姿勢が、最初からジェイムズには好ましかった。しかし、問い詰められる立場になってみると、逃げ場がなくなってしまう。
「結婚したいと思ってた」
細い眉を吊り上げて厳しい表情だったエルドレッドが、ふとその青い瞳を潤ませる。過去形にしてしまったことが彼を傷付けたのだと分かったが、今更嘘はつけなかった。
罪悪感でチクチクと胸が痛むと同時に、きゅっとお腹の奥が疼くような気配に、ジェイムズは戸惑いながらも言葉を続ける。
「抱きたい、抱かれたいという性嗜好は、同性愛者、異性愛者のように生まれながらに決まっていることで、変えられるものじゃない。だから……」
「別れるんだね」
「もう会わない方が良いよ」
愛しくて可愛いエルドレッドといがみ合いたくはない。ましてや、自分が無理矢理にエルドレッドをねじ伏せることなど、あってはならない。
別れを告げてエルドレッドを家まで送っていく間、車の中でエルドレッドは窓の外を眺めて一言も言葉を発しなかった。もしかすると、泣いていたのかもしれない。せっかく出会えた運命を手放さなければならないジェイムズも、泣きたい気持ちだった。
「君に良い出会いがあるように」
もうこんな恋は二度としないだろうと、最後に贈る言葉に、エルドレッドが顔を上げてジェイムズの顎を掴んだ。強引に引き寄せられて、口付けられ、驚いている間に、ジェイムズの唇にエルドレッドの舌が差し込まれる。
経験などない15歳のはずなのに、口腔を舌で貪られて、じくじくと下半身に熱が集まってしまうのは、エルドレッドがジェイムズの運命だからなのだろう。運命の相手との行為は忘れられないほどに悦いと言う。
くちゅりと舌を引き抜いたエルドレッドが、赤く濡れた唇を舐めた。
「僕を忘れるなんて、許さない」
息を飲むほどに美しい青い瞳に見入っている間に、かぷりとエルドレッドの歯がジェイムズの首筋に立てられた。赤く痕を残して、エルドレッドは車から出て行く。
振り返らずに屋敷に向かうエルドレッドに、ジェイムズは車の中から動けずにいた。身体中が火照ったように熱く、心臓が高鳴っている。
愛している。
無邪気に微笑んで話しかける姿も、どきりとするくらい大人っぽく妖艶に見える瞬間も、ジェイムズに閃きを与えるような鋭い質問を繰り出す様子も、全て、愛しくてたまらない。手放すのがこんなにも苦しいだなんて、運命に出会うまでは知りもしなかった。
それでも、エルドレッドのためにも、ジェイムズのためにも、ずるずると関係を続けるわけにはいかなかった。
共同研究者のラクランと弟のエルドレッドの間には、秘密はないようだった。運命の相手だということも、エルドレッドとジェイムズが別れたということも、知られていた。
婚約者の理人の行方が分からなくなったということで、大学院を休んで実家に帰っていたラクランが、無事に理人が保護されて大学に戻ってきて、言いにくそうに切り出す。
「アタシと理人さんの結婚式、多分来年の五月の理人さんの誕生日にすると思うわ。来てくれるかしら?」
兄のラクランの結婚式にエルドレッドが出席しないわけがない。会わないと言った手前、のこのこと出ていけるはずもなかった。
「それは、申し訳ないけど無理かな。エルドレッドともう二度と会わない約束をしている」
「会いたくはないの?」
「会いたいけど、会ったら間違ってしまうかもしれない」
愛しているからこそ、気持ちが変わらないからこそ、ジェイムズは自分がエルドレッドを傷付ける可能性を恐れていた。会えばあのほの赤い唇に口付けたくなる。ほっそりとした体を抱き締めたくなる。
最後の口付けと噛まれた首筋は、まだ甘く感覚が残っていて、思い出すたびに体が熱くなる気がする。
「エルドレッドを愛しているのね」
「愛していたよ」
まだ気持ちは少しも薄れていない。それなのに過去形にしなければいけないことが、ジェイムズにはただただつらかった。
失恋の痛手を癒すには新しい恋をするのが一番だという。
これまでならば、前向きに次の相手を考えられたのだろうが、エルドレッドは他の相手とは全く違う、唯一無二の運命の相手だった。女々しいが諦めきれず、ジェイムズは研究に没頭することでエルドレッドを忘れようとした。
それはある意味成功して、論文の進みは早くなったし、研究も深まった。規則正しい方だったのに、寝食をおざなりにしてひたすら論文と向き合うジェイムズを、ラクランは心配して、食事に連れ出してくれた。
「アタシがいない間も資料あさってたんでしょ? ちゃんと寝た? ご飯は?」
「君は僕の奥方でもないんだから、世話を焼くことはないんだよ。君には大事な旦那様がいるだろう」
「皮肉を言う元気はあるのね。髭を剃ってらっしゃい、食事に出かけるわよ」
女の子が欲しかったという両親のためにフェミニンな格好と喋り方をするヘイミッシュ。その息子のラクランは、筋肉質な体を包む服は三つ揃いのかっちりとしたスーツだったが、喋り方は父親のヘイミッシュ似でフェミニンだった。
喋り方や体の大きさをからかわれたり、ジェイムズとの仲を疑われたりしているが、ラクランは理人だけを運命の相手として、堂々と婚約者として紹介してくれた。ラクランの潔さと躊躇いのなさが、ジェイムズには眩しく、羨ましい。
「共同研究者に死なれると困るのだけれど」
「僕には辛辣だな。他の相手には当たり障りなく、お上品なのに」
「長い付き合いでしょ、今更遠慮する仲でもないし」
ダイナーでコーヒーとサンドイッチのセットを頼んで食べている間、やはりラクランはエルドレッドとのことを話題にしたいようで、どう切り出すか考えあぐねているようだった。
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「野心のある目をしてる。いいね。今度、アメリカの学会に誘われてるんだけど、行くだろう?」
「売り込むチャンスってことね」
結婚の話をされた後で、アメリカに行くこと迷っていると話せば、エルドレッドとのことを考え直せないかと問われる。もう終わったことだと自分に言い聞かせて、論文のことだけを考えようとして、ジェイムズはずっとエルドレッドのことが頭を離れていないことを自覚していた。
これ以上はお互いのためにもならない。
「……結婚式に、出席させてもらおうかな。それで、最後にする」
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