龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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一章 龍王は王配と出会う

5.龍王と王配の食事

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 翌日の朝食から龍王は青陵殿に渡ることにした。
 食事を共にしていいというヨシュアの言葉があっただけではない。顔合わせが最悪だったので周囲から龍王はちくちくと言われていたのだ。

「王配殿下と少しは良好な関係を築いてくださいませ」
「努力はしているつもりだ」
「王配殿下はこの国のために命を懸けて戦ってくださっているのですよ。労いの言葉くらいあってもよろしいのでは?」

 長命の龍族においては二十五歳という若さの龍王に対して、年上の宰相は遠慮会釈なく言って来る。宰相は貴族なので平民よりも龍の血が濃くて長命で、見た目は五十代ほどだが、もう七十を超えるので、二十五歳の龍王は孫のような感覚なのかもしれない。
 実際に宰相には生まれたときから知られているし、父の前龍王が亡くなった二十歳のときからずっと支えてもらっている。
 龍族として長命で百五十年は生きそうなので、まだまだ現役は退かないと言っている宰相に龍王は頼っている自覚があった。

「労うと言っても、何をすればいいのか分からない。何か与えればいいのか?」
「王配殿下はラバン王国でも王弟殿下でした。何不自由なくお暮しになっていたはずです」
「それならば、労いの言葉をかけるとか?」
「恐れながら、王配殿下は陛下のたった一人の伴侶であらせられます。言葉をおかけになるのならば、青陵殿まで出向いてがよろしいかと」

 龍王が直々に部屋まで足を運ぶというのは、臣下にとってはとても光栄なことであるし、結婚してから一度も渡っていない青陵殿に足を運ぶというのは王配としてもヨシュアを認めたということになる。
 褥を共にするつもりはないが、言葉をかけねばならないのであれば、時間を選んで青陵殿に向かうことを決めた龍王にヨシュアは文句も言わず龍王を迎えてくれた。

 茶が苦くて飲めないといえば、ラバン王国の茶の飲み方を教えてくれて、食事や睡眠がとれていないということに気付いてくれて、共に食事を摂ることと、睡眠がとりやすくなる茶や香を届けてくれた。

 配偶者として愛せるかといわれればまだ分からないが、龍王はヨシュアに対して頼もしい兄のような好意を抱き始めていた。

 ヨシュアの部屋で食べる朝食は龍王に普段出されるものと少し違っていた。
 朝食はいつも粥なのだが、ヨシュアに出されているのはパリパリに揚げた小麦粉を練ったものや、搾菜ザーサイが刻まれたものが添えられていて、粥の味も貝柱の出汁がしっかりと出ている。
 湯気の上がる粥を吹き冷ましながら食べるのは初めてだった。

 料理に毒が入っていないかはヨシュアが手を翳して調べてくれた。
 その手際もよく、粥が冷めることはなかった。

「この味付けはわたしが普段食べているものと違う」
「これは遠征に行ったときに宿で出されたものが美味しかったので、厨房に言って作ってくれるように頼んだのです」
「遠征で宿で食事をしたのか」
「魔術騎士たちも食事をせねば動けません。幸い、わたしが毒を見分ける魔術が使えますので、安心して食べることができます」

 上に立つものとして仕える魔術騎士のことまで考えている。
 ヨシュアは生まれながらの王族なのだと感じてから、自分も同じはずなのにその域に達せていないことに気付く。

「毒を見分ける術は誰でも使えるのか?」
「いいえ、使えるものは少数です。ラバン王国の王族には叩き込まれますが、普段の暮らしをしている平民には必要のないものですし」

 普通の暮らしをしている平民は毒殺の危険に晒されることがない。
 それは感覚として理解していたが、龍王は言われるまではっきりと意識したことがなかった。

「わたしが龍王でなければ……」

 思わず零れた言葉を、ヨシュアは聞かないことにしてくれたようだった。

 食後に出された茶がどろりとした緑色のもので、龍王は顔を顰めてしまった。その茶はとても苦くえぐみもあって、龍王は苦手であまり飲みたくないものだったのだ。
 飲みたくないと正直に言ってしまえば、茶を入れたものが罰せられる可能性がある。
 表情を硬くして飲もうと薄い美しい白磁の茶碗を持ち上げたら、ヨシュアが侍従に伝えた。

「龍王陛下のお飲みになっている茶と同じものをおれももらえるか?」
「これは龍王陛下のために煎じられている薬草茶です。王配殿下には効果はないと思われますよ」
「味を確かめてみたい。お願いできるか?」
「それでは、ご用意いたします」

 すぐにヨシュアの元にも龍王と同じ茶が運ばれてきた。どろりと濃い緑色で、青臭い匂いを放っている。
 嗅いで、一口飲んでヨシュアが苦笑する。

「これはなかなか飲めたものではないですね」
「わたしはこれをずっと飲んでいる」

 飲まされているなどと口にしたら、誰かが罰せられる可能性もあるので言葉は選んだつもりだったが、一口飲んだ茶のえぐみに龍王は噎せそうになっていた。

「香茶に牛乳と蜂蜜を入れたものをお持ちしろ」
「すぐに用意してまいります」

 侍従に命じたヨシュアに、すぐに侍従が用意して持ってくる。ヨシュアの分は牛乳と蜂蜜が入っていない赤い水色のものだった。

「よろしければ、飲み終わった後に口直しにこちらの茶をどうぞ。遠征先で美味しかった花茶も持ち帰ってきています。それもお茶の時間に飲みましょう」
「……ありがとう」

 えぐく苦い薬草茶を飲み干してから飲む牛乳と蜂蜜の入った香茶は、いい香りがして甘くとても美味しかった。

「あなたは、普段は『おれ』と自分のことを言うのだな」
「あぁ、そうですね。行儀がいい呼び方ではないと自覚はしているのですが、魔術騎士団の者たちが自分のことを『おれ』と呼ぶので、それに合わせていたら癖になってしまいました。龍王陛下の前で失礼をいたしました」
「いや、新鮮でよかった。よければ、これからもわたしと二人きりのときには『おれ』といってくれないか」
「それは恐れ多いので遠慮させていただきます。今後は気を付けて龍王陛下の前では使わないようにいたします」

 断られたことに龍王は衝撃を受けていた。
 少し親しくなれたつもりだったのに、はっきりと拒絶された気がする。
 それも、龍王が初めの顔合わせのときに妙なことを言ってしまったからなのだろうか。

「わたしは魔術騎士団の詰め所に行ってきます。龍王陛下も政務、しっかりとお勤めください」

 一礼して青い長衣を翻して立ち去っていくヨシュアに、龍王は取り残された子どものような気分になっていた。

 広がる国土を留めるべく他国が領土を勝手に譲ることを諫めて、国境をはっきりと定めるために測量の一団を手配し、国の水が今日も満ちているように祈り、午前中の政務を終えると龍王は昼食のためにいそいそと青陵殿に向かった。
 青陵殿のヨシュアの部屋にはまだヨシュアはいなかった。

「訓練で汗をかかれたので、体を流して着替えをしてから戻って参ります」

 侍従に告げられて待っていると、ヨシュアが長い濡れた金髪を手拭いで拭いながら部屋に入ってくる。
 ぽたぽたと垂れる雫に、思わず立ち上がり、龍王はヨシュアの長い金髪に触れた。
 水が一瞬で蒸発して、ヨシュアの髪が乾く。

「ありがとうございます。龍王陛下は水の精霊を巧みにお使いになられますね」
「これは魔術的に見たらそうなのか? ただ、乾けと念じただけなのだが」
「龍族は水の精霊に好かれているのでしょうね」

 長い真っすぐな金髪を一部だけ三つ編みにして、ヨシュアは昼食の席に着いた。
 昼食も龍王が普段食べているものとは全く違った。
 豪華な海鮮を使ったあんかけや、出汁の味の効いた汁物、あつものに蒸し物など、大量に出てくる食事はいつも冷めていて、龍王の食欲をそそらない。そのために日に日に食事の量が減っていく龍王に厨房はますます豪華な料理を出そうと品数だけ増えていく。
 それらを一口、二口味わっただけで、後は果物を口にするだけの龍王を侍従たちも心配していた。
 青陵殿で王配のヨシュアと食事を摂ると伝えれば、龍王の変化に喜ばれたくらいだ。

 茸と卵の入っている汁物に、木の葉に包んだ野菜と魚を蒸したもの、もち米を豚肉や筍と混ぜて大きな木の葉に包んで蒸したものなどが出されて、どれもほかほかと湯気を上げていて龍王の食欲をそそる。

「これはあなたの故郷の料理か?」
「いえ、町の露店で売っていたものが美味しかったので、厨房に言って再現させたものです」

 汁物は吹き冷まさねばならないほど熱かったが、飲むと出汁の味が強く、塩味はあっさりとしていて、腹の中から温まる気がする。木の葉に包んだ野菜と魚は簡単に塩だけで味付けされていて、その素朴な味わいが素材を引き立てている。もち米を蒸したものは米が茶色くなるまで味が付けてあって、しっかりと噛み締めるとうまみが滲み出る。

 龍王が食べるのを見ながら、ヨシュアも食欲旺盛に食べていた。
 食後の薬草茶は、ヨシュアの計らいで口直しに牛乳と蜂蜜を入れた香茶が出され、何とか飲むことができた。

 ヨシュアとの食事が楽しくなっている自分に、龍王は気付き始めていた。
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