龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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一章 龍王は王配と出会う

29.玉を捧げる

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 龍王とヨシュアの新婚旅行はひと月に渡って行われた。
 秋になりかけていた出発の日から、王都に帰るころにはすっかりと季節は秋になっていた。
 ハタッカ王国との国境の町を巡り、ラバン王国との国境の町ではラバン王国の国王のマシューと王女のレイチェルとも話をした。バリエンダール共和国との国境の町では、バリエンダール共和国の議長と会談をして、バリエンダール共和国に食糧支援を続けていくことにした。
 予測していた通り、旅の途中にバリエンダール共和国から妃を送りたいという申し出があったが、龍王はそれを断った。その代わりにバリエンダール共和国の鉱山から発掘される金剛石ダイアモンド蒼玉サファイア翠玉エメラルドを献上されることには納得した。

「ヨシュアの瞳に似た色の蒼玉に金剛石を飾って冠を作らせましょうか? ヨシュアの髪の色は美しい金色なので、地金は金にして」
「重くて首が凝りそうなので遠慮します」
「それでは、何ならば受け取ってくれますか? 腕輪? 耳飾りは特別なものを着けていますよね。首飾り? 指輪?」
「宝石に魔術は相性がいいので、星宇が身に着ける装飾品に魔術をかけて、常に身に着けていてもらいましょうか」
「それではわたしがヨシュアに贈れないではないですか。わたしにも贈らせてください」

 甘えるように言う龍王にヨシュアはどうしても頷いてくれなかった。
 剣を持ち、魔術で戦うヨシュアにとっては装飾品は魔術でもかかっていなければ、邪魔なものでしかないのだろう。
 ただでさえ龍王の宝石と刺繍で飾られた衣装を「重くないのですか?」と言って、自分は装飾の全くない鮮やかな青の長衣と下衣を着ているのである。

「わたしの玉を受け取ったら、あなたの地位も陛下となりますので、相応の衣装は着ていただかなければ困りますよ」
「戦うのに支障が出そうです」
「遠征も、他の魔術騎士に任せて、できる限りわたしの隣りにいてくれなければ困ります」
「どうしてもですか?」
「どうしてもです」

 不満そうなヨシュアに言えば、柳眉を潜めている。美しい顔は複雑な表情をしても美しいのだと思いながら、龍王は隣りに座るヨシュアの腰に手を回した。
 新婚旅行を終えてからは龍王とヨシュアは同じ寝台で眠っていたし、ヨシュアは龍王が口付けても、抱き締めても、龍王を蹴り飛ばすようなこともなかった。

 穏やかに日々は過ぎていく。

 玉をヨシュアに捧げることを明かしたときには、宰相はものすごく驚いていた。

「王配殿下に龍王陛下の玉を捧げられるのですか?」
「あの方と共に生き、共に死ぬと決めたのだ。あの方以外をわたしが愛することはない」

 そう告げると、宰相は苦い顔をしている。

「初めての顔合わせで『あなたを愛するつもりはない』と仰った龍王陛下が、同じ口でそんなことを仰られるだなんて」
「あのときのわたしは愚かで何も知らなかったのだ。愛することを知らなかった」
「本当に王配殿下でよろしいのですね?」

 何度も意思を確認されるのは、ヨシュアの秘密を宰相が知っているからではない。ヨシュアの秘密はいずれ知られることになるかもしれないが、今は宰相にも告げてはいない。
 宰相が気にしているのはヨシュアが皇后と同じ扱いになることだった。

「男性は前例がないので皇后陛下と同じ身分になられても、王配陛下とお呼びするしかないのですが、龍王陛下と同じ能力を持つようになって、龍王陛下の命の続く限り共に生きることになるのですよ」
「それを願って玉を捧げるのだ」

 龍王の意思が固いと知ると、宰相の行動は早かった。
 宮殿に龍王と梓晴の母親である前王妃と、梓晴と婚約者の浩然を呼び、龍王とヨシュアの二人を大広間に立たせて玉を捧げる儀式を行う。
 見届けるのは前王妃と梓晴と浩然と宰相のみだった。

 宝石で飾られた小さな箱に入った親指の爪ほどの赤い血を固めたような玉を、前王妃が龍王に差し出す。玉は基本的に本人か母親しか触れることはできず、玉を捧げられるのは本人のみだ。
 箱の中から玉を摘まみだし、龍王はヨシュアに歩み寄った。

「わたしはたった一人の王配であるヨシュアを今後とも人生をかけて愛することを誓う。その誓いの証として、ヨシュアにわたしの魂の一部である玉を捧げる。受け取ってくださいますか、ヨシュア?」
「謹んでお受けいたします」

 頭を下げたヨシュアの方からさらさらと絹糸のような美しい金髪が流れる。
 龍王がヨシュアの手の上に玉を置くと、溶けるようにして玉がヨシュアの手の平の中に吸い込まれていった。

 くらりと眩暈がしてよろけた龍王をヨシュアが支えてくれる。

「これより王配殿下は王配陛下となられました。龍王陛下と並ぶ地位をお持ちになります。龍王陛下と王配陛下にあらせられましては、互いに命を分け合う儀式として、体に変化が起こりますので、十日間は安静にされるようにお願いいたします」

 見上げるとヨシュアの方も額に汗を滲ませて何かに耐えるような顔をしている。

 儀式の後で青陵殿に引き上げると、ヨシュアと龍王は寝台の上に倒れ込んだ。
 これ以上立っていることができなかったのだ。
 ヨシュアも発熱していたし、龍王も同じく発熱していた。

 玉を捧げ、魂の一部を交換したことで、ヨシュアの魂が書き換わり、肉体が変化するように、龍王も魂が書き換わり、肉体が変化しているようだった。

「玉を捧げたら、あなたを抱きたかったのに」
「安静にしていてください。それに、わたしも安静にさせてください」
「分かっていますが、隣りでヨシュアが寝ているのに、何もできないというのはつらい」
「つらいのなら、別の寝台に移りますが?」
「それはやめてください。せっかく魂で結ばれたのです。離れたくない」

 我が儘を言いつつヨシュアの体に抱き着くと、存外優しく髪を撫でられる。
 少し横になっていると落ち着いてきて、ネイサンと龍王の侍従が持ってきた楽な格好に着替えて、龍王とヨシュアは椅子に座って香茶を飲んで水分補給をしていた。
 龍王の香茶には牛乳と蜂蜜が加えてあって、ヨシュアの香茶は何も入っていなかった。

「魔術が使えるようになったら、魔術を教えましょう」
「水の加護が使えるようになったら、わたしも教えます」

 卓の上に乗せたヨシュアの手を握ると、熱く、発熱しているのが分かる。
 龍王も頭がくらくらして、自分が平熱でないのは理解していた。

「この状態はどれくらい続くのでしょう? 宰相は十日間安静にと言っていましたが」
「記録によれば個人差はありますが二、三日のようです。その後は、気持ちを確かめるための休暇と思っていいのではないでしょうか」

 できればヨシュアを抱きたい。
 下心が満載の龍王に、ヨシュアは龍王の鼻をつまんでくる。

「寝台から蹴り落とされたくはないですよね?」
「まだ駄目なのですか!? いつになったら、わたしは愛を信じてもらえるのですか?」
「星宇の愛情は感じています。でも、もう少し時間をください。わたしだって、四十六年男として生きてきて、初めてこういう事態になるわけですからね?」
「いつならばいいのですか?」
「もう少し、落ち着けないのですか?」
「落ち着けないですよ! 愛するひとが手の届く場所にいて、魂も結ばれた! それなのに、まだわたしに耐えろと言うのですか!?」
「その勢いが怖いと言っているんですよ!」

 大声を上げてしまう龍王に、ヨシュアも負けじと声を張り上げている。
 確かに初めてなのにこんな風に求められたら、暴走されそうで怖くもなるだろう。

 落ち着いてとは思うのだが、龍王も二十五歳の健全な男性である。
 どうしても落ち着くことができない。

 龍王の本懐が遂げられるのはまだ先になりそうだ。
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