龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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一章 龍王は王配と出会う

30.赤栄殿での昼餉

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 龍王とヨシュアの熱が下がったのは二日後で、三日目にはすっかりと体調もよくなって床から起き上がれるようになっていた。
 体の細胞が隅々まで置き換わったようで、目に見える世界が全く違うものになっている。ヨシュアの周囲には水の精霊が無数に集まってきているのが分かるし、水の精霊を魔術なくしても操れる感覚が沸き起こっていた。

 変化が起きたのはヨシュアだけではない。
 龍王は魔術師として精霊を感じ取れるようになったようだった。

「この世界にはこんなにも力が満ち溢れていたのですか。ヨシュア、あなたはこんな世界に暮らしていたのですね」

 感動している龍王の目の色がよく見ると変わっていることにヨシュアは気付いていた。
 一見黒に見えるが、よくよく確かめると黒に近い濃い紫であることが分かる。紫色というのはヨシュアにとって覚えのある色だった。

「星宇、わたしの耳飾りピアスを片方付けてください。どうしよう、穴が空いてないな……」
「ヨシュアの耳飾りをくれるのですか?」
「あなたの目、恐らく、わたしと同じ魅了の力を持つようになっていると思われます」

 このままでは龍王の目を見たものを魅了してしまうので、素早く龍王の右耳に穴を開けて、ヨシュアは自分の耳飾りの片方を着けさせた。小さな魔力石がはまっているだけの素朴な耳飾りだが、それがあるとないとでは全く違う。
 耳飾りを着けると龍王の目は以前と同じ黒に戻った。

 黒曜石に似た艶のある黒い目がヨシュアは気に入っていたので、内心ほっと胸を撫で下ろす。
 龍王は龍王で、ヨシュアとお揃いの耳飾りになったことを無邪気に喜んでいた。

 龍王とヨシュアの体調が回復したことを知らされると、四日目には、前王妃と梓晴と浩然が龍王とヨシュアを赤栄殿に招いた。
 梓晴とは食事をしたことがあるが、前王妃や浩然とはまだ交流が浅かったので、ヨシュアは喜んで招かれることにした。

 赤栄殿の広間の円卓でヨシュアと龍王と前王妃と梓晴と浩然で昼餉を食べる。
 運ばれてくる料理に、手を翳す龍王にヨシュアが魔術を教える。

「手を翳したときに色が変わって見えるもの、とげが刺さったような感覚があるものは、何かが混入しています」
「これらは全部温かいだけですね」
「それでは、大丈夫だということです」

 興味津々で魔術を扱う龍王に前王妃も梓晴も驚いていた。

「王配陛下と魂を共有したのですものね。王配陛下の魔力が使えるようになっても不思議ではありませんね」
「兄上が魔術師となられたことは驚きですが、身を守る術を得たのですから、心強く思います」

 前王妃も梓晴も龍王の変化に好意的だった。

「わたくし、兄上が王配陛下に玉を捧げたのを見て感動いたしました。兄上と王配陛下は言葉通り生死を共にするのだと感じたのです」
「わたしはヨシュア殿だけを生涯愛すると心に誓ったのだ」
「初めは酷かったと聞いています。王配陛下に失礼なことを口走ったとか」
「それは、反省している。あのときのわたしには、愛とは何なのか全く分かっていなかったのだ」

 愛を知らなかった。
 愛することもなく、愛されることもなく龍王は生きてきた。
 ずっとそのままに生きていくのだと思っていた。
 それを変えたのはヨシュアの存在だった。

 熱く語る龍王に、ヨシュアは料理を食べながら頬が熱くなるのを感じていた。
 情熱的なのはいいが、龍王は浮かれすぎている気がする。

「わたくし、兄上と王配陛下を見て、浩然殿と玉を交換する決意をしました」
「玉を交換、ですか?」
「王配陛下は龍族ではないのでご存じないのですね。龍族同士では玉を捧げ合って、お互いに生きる時間も死ぬときも同じにすることがあるのです」

 そうなると子どもが生まれたときに両親を一度に亡くすようなことになるので、気軽に行われることではないが、龍族の王族である梓晴は浩然よりも寿命は長いだろう。それを思えば、浩然と同じ時間を生きて死ぬために、玉を交換するというのもありなのだろうとヨシュアにも理解できた。

「梓晴にそれだけの覚悟があるのならば、そうするといい。浩然、梓晴を頼む」
「わたしも龍王陛下と王配陛下のお二人のお姿を見て、梓晴様に玉を交換したいと相談を受け、お受けすることに致しました。わたしなどが本当にいいのかとは思いますが、梓晴様を生涯唯一の伴侶として死する瞬間まで愛し続けることを誓います」

 浩然の返事に龍王も満足している様子だった。

「龍王陛下は変わられましたね」

 しみじみと前王妃が呟く。

「母上、この場では星宇と呼んでください」
「いえ、そう呼べるほどの人物ではなくなりました。王配陛下、龍王陛下をよろしくお願いします。あなたのことを心より愛しているのが伝わってきます」
「わたしも龍王陛下のことをお慕いしております」

 言葉に出すのは初めてだったが、自分の気持ちを口にするヨシュアに、龍王が口を開閉させて驚いているのが分かる。
 油断したところで、龍王に隣りの席から抱き着かれて、体勢を崩して椅子から転げ落ちそうになるのを何とか踏みとどまる。

「わたしも、愛しています。お慕いしています、ヨシュア!」
「だから、落ち着いてください!」
「これが落ち着けますか! ヨシュアが初めてわたしへの気持ちを口にしてくれたのです。今日という日をこの国の記念日にしないと」
「大袈裟です!」
「大袈裟ではありません。数百年ぶりの玉を捧げる儀式に国は沸いています。今こそ、わたしとヨシュアの愛を国中に見せつけるときではないのでしょうか!?」

 本当に龍王でよかったのだろうか。
 一瞬眩暈がしたヨシュアだが、そういうところも可愛いと思えてきてしまうのだからどうしようもない。

 ただ、まだ閨ごとは先かと思っていた。

 ヨシュアの心の準備ができていないし、男性なのだから受け入れるためには体の方も準備しなければいけない。
 夢精をしたときに侍従に拭かれていた龍王の中心を見るともなく目に入れてしまったのだが、あの大きさだと楽には受け入れられないだろう。
 何より、自分の世話をされることに慣れ切っている龍王が、ヨシュアの体を傷付けないように慣らすということができるのかが信用できなかった。

「龍王陛下、落ち着いてください」
「王配陛下、あなた様は龍王陛下と同等の力を持ち、同じ地位にあらせられます。家族といるときくらいは寛いで龍王陛下の名前を呼んで差し上げてよろしいのですよ」

 前王妃に促されるが、二人きりのとき……侍従は空気のようなものなのでいないこととして、そういうとき以外に龍王の名前を呼ぶのはヨシュアには躊躇われた。

「わたくしのことも、梓晴と呼んでくださると嬉しいです」
「わたしは、浩然と」
「王女殿下、浩然殿……」
「呼び捨てで構いませんと言ったら、兄上が嫉妬するかもしれませんね」
「嫉妬する」
「わたくしは兄上の妹なのに」
「妹でわたしに似ているからこそ、嫉妬する。ヨシュアはわたしのものだ!」

 妹に対しても嫉妬するという龍王は、体を許してしまえばますますヨシュアに執着してきそうな気もしていた。それもまた心配である。
 魔術騎士団を率いるのを辞めろと言われたら、ヨシュアも困ってしまう。

「龍王陛下、魔術騎士団を辞めろとは仰いませんよね?」
「言いたいところですが、それを言ってしまってはあなたはわたしを嫌うでしょう? できる限りそばにいてほしいので、遠征にはわたしの方がついて行くことにします」
「龍王陛下が付いてくるのですか!?」
「わたしが出向けばどの町、どの村、どの集落も喜んで迎えてくれます。王配のあなたが一緒ならばなおさらでしょう。今後この国はわたしとあなた、二人分の水の加護を得られるようになるのですよ」

 玉を捧げられることに付随して、ヨシュアは龍王の水の加護の力を得た。龍王はヨシュアの魔力を得た。長すぎる寿命の対価として、互いに利益を得たのは間違いない。

「梓晴殿下と浩然殿、前王妃殿下には聞いてもらわなければならないことがあります」

 ヨシュアは龍王をこの運命に引きずり込んだのだから、龍王の家族ともいえる梓晴と前王妃と浩然にははっきりと自分たちのことを告げておかなければいけないと思っていた。

 自分が先祖返りの妖精であること。
 龍王がヨシュアと魂を共有して、妖精の寿命を持ってしまったこと。

 伝えると梓晴と前王妃と浩然は真剣に聞いてくれて、全てを聞き終わった後で前王妃がヨシュアの手を握った。

「それだけの時間を、我が息子と共に生きる覚悟をしてくださったのですね」
「わたしの運命に龍王陛下を巻き込んだだけかもしれません」
「これは龍王陛下が選んだことでもあります。わたくしはそれを尊重したいと思います。改めて、王配陛下、龍王陛下をよろしくお願いします」

 何ということをしたのだと罵られ、軽蔑されてもおかしくはないことだった。
 それでも前王妃も梓晴もそれを受け入れてくれた。

「兄上と王配陛下がこの国を去るまでに、何度でもわたくしたちと食事を致しましょう。わたくしと浩然殿の子どもが生まれれば、その子とも一緒に」

 そうして、幸せに暮らしていこうと梓晴が言う。
 志龍王国に来るまでは想像もしていなかった温かなひとたちに囲まれて、ヨシュアは目の奥が熱く視界が滲むのを感じていた。
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