龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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二章 龍王と王配の二年目

8.二回目

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 龍王に抱かれた翌日も、ヨシュアにはそれほど負担はなかった。
 男性同士で性行為をする場合には、抱かれる方に負担がかかるというが、ヨシュアは鍛えていたのでそんなことはなかったようだ。
 それにしても龍王が「ヨシュアに任せた」などと言うから、侍従長は龍王の方が抱かれたと誤解したようだし、龍王の侍従もそれを聞いて龍王の方が抱かれたと誤解しただろう。
 ネイサンはヨシュアが歩くたびに足を伝う龍王の欲望の跡を知っているので誤解のしようがないが、それ以外には龍王が抱かれたのだと知れ渡ってしまうだろう。

 当の龍王は誤解を招いたことなど気付いていないようで、不思議そうな顔をしている。
 龍王が気にしないのならばヨシュアも気にしないが、後で発覚したら大変な騒ぎになりそうな予感もしていた。

 とりあえず、出された茶を喫するのに集中する。
 季節は秋も深まって、かなり涼しくなっていたので、温かい茉莉花茶が出されていた。
 爽やかな茉莉花の香りのするすっきりとした味わいの茶を飲みながら、出された果物を口にする。早生の林檎と柿と葡萄が芸術的に切られて盛り合わせられている。

「ヨシュアは林檎を剥くのも上手でした。また剥いてほしいです」
「林檎だけでなく、果物は大抵剥けるよ」
「果物皿に入れられた果物は観賞用かと思っていましたが、食べるためにあったのですね」

 魔術騎士団で野営をすることもあるし、遠征では食料調達も自分たちですることがあるので、ヨシュアは果物用の包丁や簡単な刃物は使えたし、料理もできた。
 龍王がもっと魔力を使いこなして、自分の身を守れるくらいになったら、龍王を連れて最低限の人数で国内を旅するのも悪くないだろう。
 新婚旅行は百数十人規模の護衛が付いていたし、魔術騎士団も全員付いてきていたので、物凄い大所帯だった。龍王が身を守る術を身に着ければ、護衛はイザークとシオン二人だけくらいで、侍従もネイサンと龍王の侍従一人くらい連れて気軽に国内ならば出歩けるようになるかもしれない。
 そうなったらもっと龍王ものびのびと自由に過ごせるだろう。

「魔術を覚えてもらわないといけないな」
「何か楽しいことを考えていますね?」
「あなたとおれと、護衛にはイザークとシオン、侍従はネイサンともう一人くらい連れて、気軽にお忍びの旅ができたらと考えていたところだよ」
「それは楽しそうです。そのときには、ヨシュアは髪の色を変えてもらわないといけませんね」
「そうだな。この国でこの色は目立ちすぎる」

 自分の派手な顔面もヨシュアはそれほど好きではなかったが、何よりもきらきらと光る金色の髪が邪魔で仕方がなかった。この髪でいる限りは、自分がラバン王国の王弟であると示しているようなものだし、志龍王国に来れば約九割の国民が黒髪に黒い目なので、ますます目立ってしまう。
 髪の色を変える魔術もあるのだが、常に使っているのは疲れるので、龍王とお忍びで出かけることがあれば、姿を変える魔術のかかった魔術具を身に着けた方がよさそうだ。

 そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、ネイサンがヨシュアに話しかけてきた。

「我が主、移転の箱に何か届いたようです」
「兄上からかな? 取ってきてくれるか」
「すぐに」

 移転の箱に届いたものをネイサンがヨシュアに渡すと、それは小さな箱と手紙だった。
 手紙にはラバン王国国王の字で書かれている。

『ヨシュアへ
 龍王陛下との閨ごと、つつがなく終わったことを願っている。注文を受けていた魅了の魔術を封じる耳飾りピアスが出来上がったので、送る。龍王陛下によろしくお伝え申し上げてくれ。
 マシュー』

 これは閨ごとは問題なく終わったと報告しなければいけない流れなのだろうか。
 弟の閨ごとについて把握している兄というのもどういうものなのだろう。
 国の一大事であることは確かなので、兄を安心させてやらねばならない王弟としての義務と、兄に自分の性事情を知られたくないただの弟としての羞恥心が複雑に胸の中で絡み合う。
 手紙を横から覗き込んでいた龍王が、袖を捲った。

「ラバン王国の国王陛下にはお世話になりましたね。文献もお返ししなければいけないし、返事はわたしに書かせてください」
「え!? 星宇が!?」

 龍王が書くとなると、ますます詳細に書かれないかが心配になってくるが、龍王はやる気である。

「それなら、お願いしようかな」

 自分が書くよりも礼の気持ちが伝わるし、龍王が書きたいと言っているのだからそれに任せようとヨシュアは腹をくくった。
 小箱の方は龍王に開けてもらう。
 艶のある紐で結ばれた箱を、龍王が開けると、黒い小さな石がはまっただけの簡素な耳飾りが入っていた。

「これは、わたしの色ですね」
「今着けている耳飾りがおれの目の色だから、今度のは星宇の目の色にしてみた」
「わたしの髪色だと埋もれてしまいそうですが、ヨシュアの白い肌に金色の髪だと映えそうですね」

 侍従たちを下がらせて、龍王と二人きりになってヨシュアは左耳に付けていた青い石の耳飾りを外して、龍王の左耳に付けてやる。自分の両耳には黒い石の耳飾りを付けた。

「耳飾りを外したヨシュアの目を見てしまったのですが、なんともなかったです。青紫色で、とても美しかった」
「魅了の能力を持つもの同士では打ち消し合うので、作用しないよ」
「そうなのですね。それなら、二人きりのときは青紫色のヨシュアの目も見られるわけですね」

 無邪気に喜んでいる龍王にヨシュアは腰を抱き寄せて耳打ちする。

「星宇、今夜も一緒に湯あみするか?」

 湯あみの後のことも想像したのか龍王は耳まで赤くなって、小刻みにこくこくと頷いている。

 休養期間はまだ三日ある。
 その間に少し怠惰に過ごしたとしても、悪くはないとヨシュアは思っていた。

 その夜も寝台に結界を張ってヨシュアと龍王は体を交わした。
 天蓋の幕を閉じた時点で待ちきれないように押し倒されて、口付けされながら、ヨシュアは素早く結界を張っていた。
 舌を絡める口付けも、龍王もヨシュアも慣れてきて、長く深く続けられるようになった。

 後ろを慣らすのは龍王が口付けだけで兆してしまって、待ちきれない様子だったのでその日もヨシュアがした。
 昨日も龍王を受け入れたそこは、香油を馴染ませると柔らかく拓いて、それほど手間をかけずに龍王を受け入れる準備ができた。

 寝台の上で足を開いて横渡るヨシュアに、龍王が覆い被さってくる。

「ヨシュア、抱きたいです」
「いいよ、おいで?」

 手招きして龍王の背中に手を回すと、龍王がヨシュアの中に中心を埋めてくる。指とは比べ物にならない質量と圧迫感に、息を詰めながらも、ヨシュアは龍王を受け入れた。
 全部ヨシュアの中に納めてから、龍王が息を整えている。

「どうしたの?」
「で、出そうだから……」
「出していいよ? 何度でも出していいよ」

 おれはあなたのものだから。

 囁くと耐えきれなくなった龍王が激しく腰を打ち付けてくる。内壁をこすられて快感の波に身を任せながら、ヨシュアは龍王の背中に回した手で龍王をずっと抱き締めていた。

 行為が終わると龍王は疲れ切ってヨシュアと龍王のお互いの体液でどろどろになったままで、ヨシュアの胸に倒れ込んできて眠ってしまっていた。
 結界を解いて天蓋の中からイザークとシオンに下がるように伝え、ネイサンに濡れた布を持ってきてもらって簡単に体を拭いてから、新しい寝間着を着てヨシュアは龍王を抱き上げて湯殿まで歩いて行った。
 魔術で清めてもよかったのだが魔術の場合には表面上しか清められないので、ヨシュアの中に放たれた白濁がそのままになってしまう。
 湯殿で龍王の体を流し湯船に座らせてから、自分の後ろに指を這わせて白濁を掻き出していると、龍王の黒い目がうっすらと開いていた。

「こんな煽情的な光景……抱きたいのに、もう出ない……」

 寝ぼけているのかものすごく悔しそうに呟く龍王に、白濁を掻き出し終えてからヨシュアは湯船に浸かって龍王の体を抱き締めた。

「また明日もあるよ。明日も、明後日も、その次も、ずっとずっと、おれと星宇は一緒なんだから」

 千年を超えるときを共に過ごす。
 龍王とヨシュアには時間だけは有り余るほどあった。
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