龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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二章 龍王と王配の二年目

13.新年の祝賀の行事

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 新年の祝賀の行事よりも、龍王の頭にあったのは数日後のヨシュアの誕生日だった。
 新年の祝賀の行事にはヨシュアと二人で出席した。
 ラバン王国からはヨシュアの誕生日祝いを携えた使者が挨拶に来ていた。使者となった王族とはヨシュアは知り合いのようで親し気に話しかけていた。

「デーヴィッド、あなたが来てくれるとは嬉しいな。龍王陛下、彼はわたしの従兄弟なのです。わたしの姪のレイチェルの婚約者です」
「我が愛しい王配の姪御殿の婚約者殿か。国王陛下から王配への贈り物を持たされていると聞いた」
「デーヴィッドと申します、龍王陛下。拝謁できて誠に光栄です。王配陛下には幼いころから遊んでもらっていました。王配陛下への贈り物は、魔力石にございます」

 恭しく差し出された箱を、ヨシュアが龍王の顔を見て了承を得てからネイサンに受け取られる。ネイサンがヨシュアの手に箱を置いた。
 箱の中には濡れたように輝く黒い宝石が入っている。

「黒曜石に魔力を込めたものにございます。王配陛下は龍王陛下のお色である黒がお好きと聞いたので、国王陛下がそれを選ばれました」
「これは見事な魔力石だ。何かに加工してもよさそうだな。デービッド、兄上にお礼を申し上げておいてくれ」
「心得ました、王配陛下」
「素晴らしい贈り物をありがとうとわたしからも伝えてほしい」
「龍王陛下もお喜びだったとお伝えします」

 ラバン王国の使者、デービッドとはもう少し話をしたかったが、ハタッカ王国の使者も待たせている。バリエンダール共和国からの使者も待っている。他の国からも使者が絶え間なく訪れていた。

「龍王陛下、後でデービッドを招いてお茶をしてもいいですか?」
「わたしも同席させてもらいたいです。あなたが祖国でどのように暮らしていたか話が聞きたい」
「もちろん、龍王陛下も一緒です」

 小声でヨシュアと囁き合ってから、龍王はデービッドに伝えた。

「後で呼ぶので、別室で待っているように」
「はい、龍王陛下」

 頭を下げて一旦下がるデービッドに、続くハタッカ王国の使者は国王の息子だった。王太子ではない第二王子だという。

「子睿殿下が志龍王国の王宮にお戻りになり、無事に新年を迎えられたことをお慶び申し上げます」
「その件に関しては、ハタッカ王国に世話になった」

 世話になったどころか、ハタッカ王国の下心を見せつけられただけの気がするが、舌に棘をまぶしながら嫌味のように言えば、第二王子は深く頭を下げる。

「王配陛下はラバン王国では葡萄酒を召し上がっていたとお聞きしております。最高の葡萄酒をお祝いにお持ちしました」
「あなたは葡萄酒が好きだったのですか?」
「ラバン王国の水は志龍王国のように澄んでおらず、美味しくありません。水が日常的に飲めないので葡萄酒を飲んでいました」
「そうだったのですか。葡萄酒はありがたく受け取ろう。子睿の両親はこの国に戸籍を移した。今後介入してくることのないように」

 ヨシュアと話しつつ、ハタッカ王国の使者には威厳を見せる龍王に、使者は深く頭を下げて下がっていった。
 葡萄酒は四大臣家のどこかに下げ渡せばいいだろう。

「バリエンダール共和国から参りました、議員の一人にございます。志龍王国からの食糧支援のおかげでバリエンダールの民は無事に冬を越すことができそうです。国民の皆が龍王陛下に大変感謝しております」
「食糧は民に行き渡ったのだな。それならばよかった」
「ご注文にありました、蒼玉サファイア金剛石ダイアモンド、どうか、お納めください」

 箱に入った蒼玉と金剛石を龍王の侍従が受け取って、龍王に箱を渡す。箱を開ければ大粒の蒼玉と金剛石の原石が入っていた。
 これでヨシュアの髪飾りを作るのもいいかもしれない。冠は嫌がるが、髪飾りなら付けてくれるかもしれないと龍王は微笑む。

「バリエンダール共和国の感謝の気持ちは受け取った。国が落ち着くまでは食糧支援を続けることとする」
「誠にありがとうございます」

 バリエンダール共和国からの使者とも挨拶をして、その他の国の使者とも挨拶を交わし、解放されたのは昼過ぎになってからだった。
 昼餉を食べていなかったのでお腹を空かせている龍王は、王宮の王の間の近くの別室で待っていたデービッドと合流して、王族が食事をする間にデービッドを招いた。デービッドもラバン王国の王族であるし、ヨシュアの姪の婚約者なのだから、龍王にとっても家族のようなものだった。

 一緒に昼餉を食べながらデービッドにヨシュアの話を聞く。

「我が王配はラバン王国ではどのような方だったのだ?」
「わたしが物心ついたときには魔術騎士団の団長を務めておられました。真っ青な王族にしか許されない色のサーコートを纏って、颯爽と出陣していく様子に憧れたものです」

 よく見るとデービッドは茶色の髪をしているが目はヨシュアに似た鮮やかな青だった。その色を見ていると龍王も親しみがわいてくる。

「デービッドは我が王配に可愛がってもらっていたのか?」
「小さいころはオムツを替えてくれて、少し大きくなってからは馬にも乗せてもらいました。王配陛下と一緒に馬に乗ったのはいい思い出です」
「馬に……。よ……あなたは馬に乗れるのですか?」
「一応乗馬はできますよ。龍王陛下もご一緒に乗られますか?」
「わたしと一緒に乗ってくれるのですか? 男二人が乗って馬は重くないのでしょうか」
「馬は訓練されていますし、頑丈だから大丈夫ですよ」

 ヨシュアと一緒に馬に乗るのを想像するだけで楽しくなる。
 デービッドからよいことを聞いたと龍王はほくほくしていた。

 夕餉は赤栄殿で、龍王とヨシュアと梓晴と浩然と前王妃と子睿と一緒に食べた。
 王族が全員集まるのは初めてのことだった。

「子睿、親に罪があったとはいえ、幼いあなたが毒殺未遂に関与していたわけがなかった。それなのに、前龍王陛下はあなたを国外追放にしてしまって、つらい思いをさせましたね」

 前王妃の言葉に、子睿は恐れ入ったように頭を振る。

「いえ、記憶にないとはいえ実の両親のしたことは許されることではありませんでした。そんな中でもわたしをお許しくださり、大切な今の両親の元に導いてくださった前龍王陛下に感謝しかありません」

 子睿はハタッカ王国で自分を引き取ってくれた両親のことを本当の両親だと思っていたようだ。

「髪の色も目の色も同じだったので、わたしは両親の子どもなのだと信じて生きてきました。両親も我が子としてわたしを愛してくれました。今は王宮の離れで王族としての振る舞いを学んでいますが、両親にはこれ以上苦労させることなく幸せに暮らさせてもらっているので、感謝しかありません」

 最初は傅かれることに怯えていた子睿とその養父母だったが、今は侍従にも慣れて自分たちで食事を作ることもあれば、王宮の料理人に作ってもらった食事を食べることもしたりして、庭の菜園を世話しつつ平和に暮らしているようだ。
 龍王も養父母が平民で貧しい出身だということで、子睿には最低限の侍従しかつけず、護衛は遠くから見張らせて守るようにさせている。

「そのうち子睿のご両親とも食事をしましょうね」
「多分、恐れ多くてできないと思います。わたしだけでお許しください、梓晴殿下」
「従兄弟同士なのですよ。殿下などと呼ばなくて構いません」
「そういうわけにはまいりません」

 人懐っこく微笑む梓晴に、子睿は恐縮しているようだった。

 夕餉が終わると、龍王とヨシュアは青陵殿に戻った。
 ヨシュアの部屋は龍王の私物も置かれていて、すっかりと二人の部屋になっている。

「ヨシュア、わたしは今日は王宮に戻って眠ろうと思います」
「何か用事があるのか?」
「用事はありませんが、ヨシュアの誕生日の準備もしたいし、誕生日までは……その、控えようかと」

 顔を赤くして言う龍王に、ヨシュアが鮮やかな青い目を一瞬丸くした後、細める。

「それでは、誕生日を楽しみにしている」
「は、はい」

 素直に青陵殿の部屋から送り出されて、少しの寂しさと心細さがあったが、龍王はヨシュアの誕生日のために我慢することにした。
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