龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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二章 龍王と王配の二年目

30.ラバン王国式の結婚式

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 春が来てヨシュアと龍王は結婚して丸二年が経った。
 龍王の誕生日には国で式典が行われて、ヨシュアが祝うまでもなかったが、式典の後で青陵殿で寝台の上で「誕生日おめでとう」と伝えると、龍王はとても嬉しそうにしていた。

 最近はマンドラゴラは自発的に土に埋まることが多くなった。
 春になったからかもしれないし、まだ全快していない前王妃のために時々葉っぱを分けてくれているからかもしれない。
 ふさふさとしていた緑の葉っぱが、僅かに少なくなってきているように見えるのは、気のせいではない。
 弱ったときには自分で土に埋まりに行くとロトも言っていたが、抜いた葉っぱの分を取り戻すようにマンドラゴラたちは土に埋まっていた。

 龍王との生活は順調で、変わらず仲良くしている。
 夜の営みなど、龍王が少しずつ体力をつけてきて、多くなったような気すらする。
 二十七歳になった龍王はまだ幼さの残る顔立ちで、若々しかった。

 結婚記念日には龍王の望み通り、ラバン王国式の結婚式を行った。
 赤栄殿で、前王妃と梓晴と浩然と子睿だけ招いて行うはずだったが、話を聞きつけた魔術騎士たちが、自分たちも招いてほしいと言い出したので、場所を王宮の儀式の間に移すと、ラバン王国からはレイチェルとレベッカが参列すると言い出した。
 衣装をラバン王国に注文していたので、レイチェルとレベッカを断るわけにはいかず、結局大勢の前で結婚式を挙げることになってしまった。

 結婚して丸二年も経っているのに、また結婚式を挙げるのかと呆れられそうだが、それが龍王の望みなのだから仕方がない。

 白いタキシードを着て、二人で誓いの言葉を述べる。

「わたしは、健やかなるときも病めるときも、王配を愛し、生涯を共に生きることを誓います」
「わたしは、健やかなるときも病めるときも、龍王陛下を愛し、生涯を共に生きることを誓います」

 普段付けている金の指輪を外しておいて、箱に入れて用意したものをレベッカに持って来てもらって、お互いにつける。
 誓いの口付けをすると、魔術騎士団の魔術騎士たちが花びらを撒き散らしてお祝いしてくれた。

 そのまま龍王を姫抱きにして青陵殿まで帰ったヨシュアに、龍王はうっとりとヨシュアの首に腕を回して抱き上げられていた。

 青陵殿でタキシードを着替えようとしたが、龍王に止められた。

「梓晴と浩然と母上に夕餉を共にしようと誘われているのです。この白い衣装で行きたいのですが、いけませんか?」

 お願いされてヨシュアがいけないというはずがなかった。

 夕餉は赤栄殿で前王妃と梓晴と浩然と共に食べた。食後の甘味はケーキを出してもらった。初めて食べるケーキに梓晴も浩然も前王妃も興味津々だった。
 真っ白なタキシードを汚さないように注意しながら食べるヨシュアと龍王に、前王妃が涙ぐんで二人を見ている。

「結婚式を二度も挙げるとは聞いたこともありませんでしたが、悪くないものですね。ラバン王国風の結婚式も素晴らしかったです。二人の幸せな姿が見られてわたくしは思い残すことはもうないです」
「そう言わないでください。母上はまだ孫の顔を見ていないではないですか」
「そうでした。思い残すことがありました」

 即座に訂正する前王妃に梓晴と浩然から笑い声が上がる。梓晴の悪阻は幸いあまり酷いものではなくて、普通に食事が食べられるようだった。

「お腹が張る感じがして、妙にお腹が減るのですよね」
「赤ん坊が欲しがっているのかもしれません。王宮医とも相談して、無理のない程度に食べてもらっています」

 父親になる浩然もしっかりと梓晴のことを思いやっているようだ。

「ヨシュアが志龍王国に来て二年も経ったのですね。あっという間だった気がします」

 最初の最悪の出会いから考えたら、今の仲睦まじさは信じられないくらいだろう。
 龍王の言葉にヨシュアは初対面を思い出していた。

――わたしは、あなたを愛するつもりはない。褥も共にするつもりはない先に言っておいた通りだ。

 冷たく言い捨てた龍王に、ヨシュアも言い返した。

――王族で国で五指に入る魔術師を手に入れる、この結婚にそれ以外の意味はないでしょう。それを愛するだのなんだの、あなたはアクセサリーに愛を囁く変態なのですか?

 結果として、ヨシュアは龍王のアクセサリーなどではなかった。ただの政略結婚の相手で、愛のないまま過ごしていくのだろうと思っていたのに、龍王はヨシュアのことを愛した。愛されてヨシュアも自分の秘密を明かそうと思えた。

「そういえば、ラバン王国で流行っているものがあると、レイチェル殿下とレベッカ殿下に教えていただきました」
「レイチェルとレベッカが、梓晴殿下に?」
「はい。これです」

 梓晴が取り出したのは小さな壺のようなものだった。蓋を開けるときらきらと輝くインクが入っている。
 どんなものかと思っていると、梓晴がインクを指で掬って龍王とヨシュアの背中に模様を描いた。すると、それが展開して光の薄翅になる。

「魔術師の祖先はみな妖精だという話を聞いていました。これはその妖精の薄翅を再現する魔術具なのだそうです。飛ぶことはできないけれど、光の翅が生えているのはとても素敵ですよ」

 驚いたことにそのインクで再現された薄翅は、ヨシュアの背中に生えているものにそっくりだった。

 これがラバン王国で流行っているのだとしたら、ヨシュアが普段羽を広げても、ラバン王国のインクだと言えば誤魔化せる。それを考えてマシューが開発させたのかもしれない。

「わたしが、自由に翅を広げられる日が来たというわけですか」
「よかったですね、ヨシュア。これからは翅を広げても、ヨシュアの正体を探られたりしません」

 喜んでいるヨシュアと龍王に、梓晴が黒い目を煌めかせる。

「王配陛下には本物の妖精の翅がおありなのですね。ぜひ見てみたいです」
「それは……」
「梓晴、ヨシュアの上半身裸を見たいのか?」
「え!? 裸にならないと見られないのですか?」
「基本的に背中についているので、大昔にラバン王国にいたという妖精たちは、みな、服の背中に穴を開けていたか、背中が出る服を着ていたそうです」

 インクが服の上から使えるので、服を着たままでも妖精の薄翅が出せると梓晴は勘違いしてしまったようだが、ヨシュアはその勘違いを正す。
 自分の言ったことに気付いた梓晴は顔を赤くしている。

「裸を見るわけにはいきませんものね。失礼を致しました」
「いえ、翅を出せると分かったら、服に改良を加えるかもしれません。そのときにはお見せできると思います」

 龍王もヨシュアの正体が妖精と知っている梓晴や浩然に薄翅を見せるのまでは禁止しないだろうと、龍王の顔を見ていると、微妙な表情をしていて、もしかすると気にするのかとヨシュアは心配になる。

「星宇も構いませんよね?」
「背中に穴を開けるのであれば、あまり肌が見えないようにしてくださいよ」
「それは気を付けます」

 若干面白くなさそうにしているが、何とか許可はもらえたので、ヨシュアは薄翅を隠さずに出すことができそうだ。
 薄翅の存在を隠さずに済むようになれば、ヨシュアもかなり生きやすくなる。
 ネイサンとデボラしか龍王とヨシュアの湯殿の手伝いが今はできないが、妖精の薄翅を疑似的に作るインクが広まれば、ヨシュアの薄翅の模様もそれほど目立たなくなるだろう。
 そうなればネイサンとデボラにも休みを増やせる。

 そのうちにラバン王国は尖った耳も疑似的に作るような魔術具を開発するのではないだろうか。そうなるとヨシュアの自由度はますます上がる。

 偽物の妖精の扮装が流行れば、ヨシュアが本物だということを見抜けるものもいないだろう。

 自由にありのままの姿で生きられる未来はすぐ近くに見えている気がしていた。
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