龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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三章 甥の誕生と六年目まで

9.獣人の子どもとドラゴンの卵

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 春の龍王の誕生日に獣人の国から一人の獣人が贈られてきた。
 その獣人はきれいに着飾らされていたが、物凄く怯えて龍王とヨシュアの前で震えていた。
 獣人の国は人身売買まがいのことが横行しているらしい。

「獣人の奴隷は必要ない。国に戻してやってくれ」
「この者は龍王陛下と王配陛下に必ず役に立ちます。どうか受け入れてやってくださいませ。どうせ、戻るところのない哀れな孤児です」

 そう言われてもいらないものはいらないし、獣人を奴隷として龍王が愛でているなどという噂が立ったらたまったものではない。
 断ったが獣人の国の使者はにやにやしながらその獣人を置いて行ってしまった。
 行く場所のない獣人をどうするか龍王とヨシュアが考えていると、ラバン王国からの使者が龍王とヨシュアの前に出てきた。

「我が国に太古から生きていたドラゴンが亡くなりました。亡くなる前に卵を産んだのですが、ドラゴンは同種がいなければ健やかに育ちません。龍族の方の中でならば育つのではないかと思い、卵を持って来させてもらいました」

 幻想的な真珠色に輝く一抱えはありそうな卵は確かにドラゴンのものだと分かった。
 この世界では龍とドラゴンは別の種類ではあるが、本性になると近しいものはある。
 龍は人間になることができて、子どもを増やし、血を薄めて、現在では血の濃い王族だけしか本性の龍の姿には慣れないが、ドラゴンは生まれたときから死ぬまでドラゴンの姿で人間になることはない。
 大人になれば人間の言葉を解するようになるものもいるが、ほとんどが人間の言葉を解さず、それぞれ自由に生きている。
 番がいれば確実に卵を残して血を残すのだが、番がいない場合も一匹でも卵を残せるという不思議な生態をしていた。自分が死ぬときに自分の分身となる卵を残すのだ。
 しかし、同族がいなければ健やかに育たないので、この卵の運命は絶望的かと思われた。

「龍族の中でなら……つまり王族が面倒を見れば育つかもしれないということか」
「その通りでございます。龍族の王族の方々は龍の本性をお持ちです。龍とドラゴンは元々非常に近しい種類だったと言われています。龍の方が人間の姿になって他の人間と血を混ぜることになって、本性に戻れぬようになった代わりに繫栄しておりますが、王族の方々は本性にもなれるとのこと。きっとドラゴンを育てることができると思います」

 育ったドラゴンについても話し合わなければいけない気がするが、ドラゴンが成体になるまでどれくらいの年月がかかるのだろう。
 まずはそこからだった。

「ドラゴンが成体になるまでどれくらいかかるのだ?」
「三百年から五百年と言われております」
「このドラゴンは育った後にはラバン王国に返した方がいいのではないか?」
「そうしてくださると大変助かりますが、龍王陛下と王配陛下がお気に召したのでしたら、そのまま王宮で飼うこともできます」

 ドラゴンが成体になるころには龍王はヨシュアと一緒に旅立っている。それまでの間預かると思えば、ラバン王国にも守りの聖獣としてドラゴンは必要だろうし、ドラゴンの寿命が龍王とヨシュアよりも長いかもしれないので別れる悲しみはないかもしれない。
 そう思うと龍王はドラゴンを飼ってみてもいい気分になっていた。

 ドラゴンの卵を青陵殿の庭の厩舎に置かせて、ヨシュアの部屋に戻ってくるとヨシュアがひと払いをして龍王に伝える。

「ドラゴンを育てていたのは、妖精だとされている。妖精にはよく懐いて、一匹でも健康に育っていたと記録に残っているから、兄上はおれにドラゴンを育てさせたくて預けたのだろう」
「意外でしたが、なかなかいい贈り物と思いました。ドラゴンは乗れるのでしょう? 育ったら乗ってみたいです」
「成体にならなくても、乗れる大きさになったら星宇とドラゴンに乗ってみようか」

 楽しいことを話しているが、楽しいことだけでは話は済まなかった。
 獣人の国が無理やり置いて行った獣人の奴隷がいるのだ。
 性別も分からないその獣人は、尖った耳と長い尻尾を持っていた。
 恐らくは猫科の獣人だ。
 青陵殿に入れるのは龍王とその伴侶、それにその世話をするものと警護だけなので、青陵殿には連れて来なかったが、あの獣人にもどこか暮らす場所を用意しなければいけない。

「獣人の国の強引さには困る」
「送り返しても酷く扱われるだけのような気がするのです。それならば、この国で平和に暮らせる場所を探してやるのも王としての役目ではないかと思います」

 龍王の言葉にヨシュアが考える。

「子睿殿下は離れの棟を出ていたよな。子睿殿下の御両親にお願いできないだろうか」

 子睿の両親はハタッカ王国の平民で働き者で、毎日庭の菜園を管理しているという。子睿が結婚で出て行ったので子どもがいなくなって寂しくなっていることだろう。あの獣人は痩せて小さく、まだ子どものようだった。

「ある程度教養を身に着けさせて、一人でも暮らせるようにしてから獣人の国に戻すというのはありですね」
「今のままでは酷い扱いを受けるだけかもしれない。それは避けたい」

 自分たちの子どもではない子睿を我が子のように育てた養父母ならば、獣人の子どもも育ててくれるだろう。
 そう思って青陵殿を出て子睿の両親のところに行くと、二人とも菜園に出て元気に働いていた。年齢は五十代くらいになるはずだが、二人ともとても元気そうだ。
 龍王とヨシュアに気付くと子睿の養父母は膝を突いて頭を下げる。

「龍王陛下、王配陛下、ようこそいらっしゃいました」
「わたしたちに何か御用でしょうか?」

 連れていた白くてふわふわの猫の獣人の子どもを前に押し出すと、水色と金色の目をくりくりさせて周囲を見回している。
 色の違う目の猫は珍しくないが、獣人でも色の違う目の猫科がいるのだと龍王は思った。

「子睿が無事に麗夏と婚約したこと、とてもめでたいと思っている。そなたたちからは子睿を取り上げるような形になってすまない」
「いいえ、子睿殿下はわたしたちがお預かりしていただけで、本当は王族なのです。赤栄殿で婚約者様とご一緒に過ごすことが幸せでしょう」
「わたしたちも子睿殿下が婚約者を得てとても嬉しいのです」

 我が子のように思っている子睿の婚約の儀に養父母を招かなかったのは、龍王も気になっていた。一応招くかと子睿に問いかけたのだが、「そんな場所に両親を連れ出すことはできません。お許しください」と言われたのだ。
 子睿の両親は王宮の離れの棟で静かに暮らしていることが似合っているのかもしれない。

「すまないが、この子の面倒を見てくれないか?」
「この獣人の子どもさんのですか?」
「そうだ。これまで酷い扱いを受けていたかもしれないのだ。子睿を我が子同然に愛してくれたそなたたちなら、安心して任せられると思って頼む」
「もったいないお言葉にございます」
「わたしたちでよければ、お世話いたします」
「普通の子どもと思って育ててくれればいい」

 龍王の言葉に子睿の養父母が深く頭を下げる。
 そのまま預けて立ち去ろうとしたところで、獣人の子どもが声を出した。

「血をお求めではなかったのですか?」
「血?」
「龍王陛下と王配陛下は、血をお求めだから、差し上げるのだと言われてまいりました」
「なぜ血が……?」
「わたしの血を飲むと、元気になるのだそうです」

 元気になる?
 獣人の血にそんな力があるのかと龍王もヨシュアも懐疑的だが、獣人の子どもが尖った犬歯で指先を噛んで切ったのに、龍王もヨシュアも慌てて血を止めようとした。そのときに血に手を翳してヨシュアが鮮やかな青い目を見開く。

「この血、媚薬のような効果がある……」
「媚薬のような効果!?」

 よく見れば血を搾取されたのか、獣人の子どもの手にはいくつも小さな傷が付いていた。

「飲むと、元気になって、夫夫ふうふ仲がよくなるのです。わたしの血をお使いください」
「そういうものはいらないのだよ。君は何も心配せずにここで大事にされて暮らすといい。誰も君を傷つけたりしないからね」

 優しい声で言って、ヨシュアが獣人の子どもの指の傷を魔術で治療する。指の傷がなくなった獣人の子どもは色違いの目を丸くしていた。

「君の名前は?」
「ナイ、です」
「ない?」
「はい、名前はない、といつも言われていました」

 名前がない。
 そんなものが名前のはずがない。
 名前すら付いていない小さな猫科の獣人にヨシュアは深く同情した様子だった。

「これからはジャックと名乗るといい。この国の王配からの贈り物だ」
「わたしはジャック……。嬉しいです。素敵な名前です」

 ヨシュアに名付けられて獣人の子どもはとても嬉しそうに胸を押さえていた。
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